映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

もう一つのブログとともに主に映画の感想を書いています。

『地球防衛軍』


本多猪四郎監督、佐原健二白川由美河内桃子平田昭彦志村喬、藤田進ほか出演の『地球防衛軍』。1957年作品。

原作は丘見丈二郎、潤色を香山滋。音楽は伊福部昭

特技監督円谷英二

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怪遊星人ミステリアンのドームが富士山麓の地下から姿を現わし、半径3km以内での移住や地球人の女性との結婚を要求してくる。各国は結集して地球防衛軍を組織し、ミステリアンに対抗する。


「午前十時の映画祭13」で鑑賞。

去年の『空の大怪獣ラドン』(感想はこちら)に続く東宝の往年の特撮映画の4K化作品。

ラドン』や一昨年の『モスラ』(感想はこちら)は12月の上映でプログラムも終わり頃だったのが、今年は8月で、このあと上映されるレイ・ハリーハウゼンがコマ撮り(ストップモーション・アニメーション)特撮を担当した『アルゴ探検隊の大冒険』(1963年作品。日本公開64年)と併せて「夏休み映画」といった感じで楽しみにしていた。

もっとも、観にきているのは毎度子どもたちではなくて元・子どもだったおっさんばかりですが。

「午前十時の映画祭」の選定委員でもある笠井信輔アナウンサーがこれまでに映画の前説でもお薦めされてましたが、残念ながら今の子どもや若者たちはたとえ夏休みでも昭和の時代の怪獣映画や特撮モノを観るためにわざわざ映画館まで足を運ばないんだよね。まぁ、しょうがないかな。何十年も前の映画を観たいと思う若い人はそんなに多くはないんでしょう。

僕が10代や20代だった頃だって、この手の映画は一部のマニアとかオタクだけが観ていたんだし。

今回は珍しく少し若めのお客さんもちらほら見かけたけれど、どこでこの映画を知ったんでしょうね。僕の隣りの席で足組んで座っていた20代ぐらいの男性は、あまりこういうタイプの映画に興味がありそうな感じの見た目(太ったヲタク)の人じゃないシュッとしたカッコイイ系の外見だったんで、この映画観てどう感じたのか気になった。

さて、ようやく観ることができた本作品ですが、正直なところを申し上げると、観終わったあとにはそんなに大きな満足感はなくて、「う~ん…モゲラは可愛かったけれど」という感想しか浮かばなかった。

いや、1957年といえば最初の『ゴジラ』(1954) からまだわずか3年しか経っていなくて、そんな時代に日本でほとんど初めてこういう大規模な「空想科学特撮映画」が作られたことはとても興味深いし(しかもシネマスコープ)、子どもの頃にSF映画や怪獣映画などを特集した“大百科”で『地球防衛軍』も他の東宝特撮映画とともに採り上げられていて、アルファー号やベーター号、マーカライト・ファープにミステリアン、そしてモゲラなど、写真でしか見たことがなかった作品(その後、YouTubeで予告篇や本篇の映像を断片的に観ましたが)をこうして映画館で観られる幸せを噛みしめはしましたけどね。


前年の『ラドン』のように街なかが描かれず、せいぜい村を襲うモゲラだとか、ミステリアンのドームが出現してからは富士の裾野がずっと舞台なため、地球の存亡をかけた物語としてのスケール感を感じづらかったというのもある。

モスラ』や『ラドン』の場合、人間のドラマ部分でもあの当時の風景がそこかしこに出てくるので昭和30年代の雰囲気が感じられて、それが特撮部分とはまた別の見どころとなっていた。『地球防衛軍』は自衛隊とかミステリアンのドーム内以外は各国の代表が集う会場だとか山間部の村か小さな町ぐらいしか映されないので、あまり時代を感じさせるものもなくて、基本、光線を撃ち合ってるだけの戦闘場面も画面が単調に思えてしまった。

パースの効いたアルファー号のミニチュアの巨大感は素晴らしかったし、合成も自然で見応えあって、メーサー車の元祖であるパラボラ式の兵器もなごむ。

スクリーンの大画面で往年の東宝特撮を観られるありがたみは大いに感じましたが。

映画を観たあとで笠井アナや今回の4Kでの修復作業にたずさわられたかたたちの対談を聴いて、この作品を今劇場で観られることがどれだけ貴重な体験なのかあらためて解説されて、ようやく面白さを少し実感できた、といった具合。

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自衛隊の超兵器“マーカライト・ファープ”を搭載した全長1km(!)のマーカライト・ジャイロのことを笠井さんが「けん玉」呼ばわりしてたのが可笑しい。ちょっと「チビ太のおでん」っぽくもあるよなw この配色がまたオモチャっぽくて郷愁を誘う。


ミステリアンの宇宙ステーションといい、いかにも昭和のあの頃的なデザインがレトロでいいですよね。ミステリアンのカラフルなコスチュームもまるでのちの東映スーパー戦隊モノを先取りしてるようだし。小型のドライヤーみたいな銃もファンタスティック。

僕が子どもの時分には、まだこういう未来観って特撮番組や図鑑などの中に残っていたなぁ。やがて『2001年宇宙の旅』(感想はこちら)、『スター・ウォーズ』(感想はこちら)、そして『ブレードランナー』(感想はこちら)でこういう昔ながらのデザインは一新されるんですが。


この映画が公開された1957年といえばソ連スプートニク1号が打ち上げられた年だし、『アイアン・ジャイアント』(感想はこちら)の舞台となった年でもある。宇宙時代の幕開けとともに、米ソの冷戦は本格的になってきていた。

そういう歴史も重ねると、映画をより楽しめるかもしれませんね。

宇宙人クラートゥが地球に警告しにやってくる『地球の静止する日』が作られたのは1951年、H・G・ウェルズSF小説を映画化した『宇宙戦争』は1953年。

そのあたりの影響は大きいだろうし(ミステリアン・ドーム内の通路を歩く俯瞰のショットなどは1956年の『禁断の惑星』を思わせたし)、東西冷戦の時代だったからこそ、宇宙からの侵略者と戦うために人類が一致団結する、という物語が必要だったのかもしれない。

まぁ、そのわりには自衛隊地球防衛軍もミステリアンと粘り強く話し合いをして問題を解決しようなどとはせず、ガンガン攻撃し始めるんですが。いや、人質取られとるやないかい、と。

そのへんのノーテンキなノリもあの時代っぽいなぁ。

大勢が避難する中で、列車に乗り込む女の子たちがめっちゃ笑顔なのも昭和の怪獣映画あるあるw

住民はみんな避難したはずなのに、なぜかそのあとで呑気にそのあたりを人々が普通に歩いてて慌てて逃げたりしていて、描写がところどころポンコツだし。ミステリアンが女性たちを一人ずつロープでさらっていくのもねぇ^_^;

宇宙戦争』みたいに無敵を誇った宇宙人がウイルスで全滅、といった意外性はなくて、東宝が世界に誇る超兵器で退治、ってのがわかりやすい。笠井さんもツッコんでたけど、一体いつの間に作ったんだと。あんなデカくて強力なヤツを(笑)

自衛隊が撮影に全面協力していて、本物の機関銃を撃ちまくったりロケット砲みたいなのも撃ってたりして、自衛隊マニアの人たちは嬉しいかもしれませんが、さすがに戦車の砲撃はミニチュアで撮っていた。ハッチから人(人形)が出たままで撃ってたけど、そういうものなんですね。

ラドン』に続いて佐原健二白川由美が出演しているけれど、白川さんは入浴シーンがあったりして(窓の外をモゲラが通る)ここでも佐原さん演じる主人公・渥美の恋人としての役回りで、河内桃子さん演じる広子とともにミステリアンに拉致される。

河内桃子さんは、『ゴジラ』でも共演していた平田昭彦さんの恋人役。

意外と河内桃子さんは東宝の特撮映画にはそんなに出演されてなくて、『ゴジラ』と『獣人雪男』(1955) 『地球防衛軍』、それから『ゴジラvsデストロイア』(95) だけなんですね。貴重な1本だったんだな。

ミステリアン側についた天体物理学者・白石役の平田昭彦さんを見てたら、今、もしもこの役を演じるなら高橋一生さんだなぁ、などと思ったりした。


ミステリアンの統領(このネーミングも時代を感じさせますが)役は土屋嘉男さんだったんですね。素顔が一切見えないのに会社の反対を押し切って監督に直談判してまで出演を希望したというのがスゴい。

のちにX星人も演じる土屋さんが、その後日本中でポピュラーになった「ワレワレハ、宇宙人ダ」みたいな機械的な宇宙人の話し声を「発明」されたんですね。

ミステリアンが喋ると、日本語に翻訳された言葉の奥でゴニョゴニョとミステリアンの言語らしき音声が聴こえるんだけど、僕はちょっとデヴィッド・リンチ監督の『デューン/砂の惑星』(感想はこちら)で航宙士がマイクで喋る時に本来の彼の言語が聴こえていたのを思い出しました。

デヴィッド・リンチが『地球防衛軍』を観ていたとは思えませんが^_^; でも面白い一致だなぁ。


最初に夏祭りから始まるのがなんともイイんですが、それがSF的な展開に繋がっていくというのがユニーク。『ラドン』でもそうだったけど、あえて日本的なものを取り入れたんだろうか。

モゲラは、僕はてっきり鉄橋を渡っている途中で橋が爆破されていたと思い込んでいたんだけど、実際には橋を渡ろうとしたところで爆破されてそのまま川にぶち落ちていた。


もう、このモゲラの絶妙なまでの役立たずっぷりがラヴリーで(笑)

最後にも、地下からモグラみたいに這い出てきて大暴れするのかと思ったら、倒れてきたマーカライト・ファープの下敷きになっておしまい。カワイイ、可愛くて不憫過ぎるw

モゲラのスーツアクター中島春雄と手塚勝巳のゴジラコンビ。お二人とも顔出しでも出てらっしゃいます。

モゲラは平成ゴジラの『ゴジラvsスペースゴジラ』にもデザインを変えて出ていて、そちらは以前「ゴジラ展」で実際に撮影で使用された着ぐるみを見ましたが、できればほんとはオリジナルの『地球防衛軍』版モゲラの着ぐるみが見たかったなぁ。大昔過ぎて残っていないんだろうけど。モグラをモティーフにして戦車のキャタピラを重ねたような身体、ギザギザな背びれ、中途半端な長さの尻尾、まんまなネーミング…すべてが愛おしい。

宇宙から地球に“移民”しにやってきた、というのは今なんとなくリアリティがある設定にも思えるんだけど、*1さっき述べたようにミステリアンはただ地球を乗っ盗りにきた奴らとしてしか描かれてはおらず、たとえば『エイリアン・ネイション』(1988年作品。日本公開89年)や『第9地区』(感想はこちら)のような現実社会をSF的な世界で描いた作品とは違ってただ力任せに敵をやっつけるだけの映画なんで、まぁそういうもんだと思って観ていればいいのでしょうが、もうちょっと捻ってほしかったなぁ。ミステリアンと地球人の恋物語とかさ。

戦車が砲撃してロボット怪獣が暴れ、ミニチュアが破壊されまくる映画を観たい人たちにはそんなのどーでもいいだろうけど。

この映画の続篇的な『宇宙大戦争』(1959) も子どもの頃に同じ“大百科”で「ナタール人」とか「スピップ号」などが載ってて、いつか観たいなぁ、と思っていたんですが、そちらはまだ4K化されてないから綺麗な画質では観られないんですね。

地球防衛軍』も当たり前みたいに観ていたけど、あのクリアな画質になるまでに多くのお金と技術が使われたんだよなぁ。

以前は、内容にツッコミを入れるどころか画質そのものが厳しかったわけで。おかげさまで、ようやく内容のことをあれこれ言えるようになったということ。

お話は単純過ぎて物足りなかったし、さすがに昭和30年代的なアバウトさが溢れた作品でもあったけど、日本で最初に実写で巨大ロボットが登場した映画でもあるし、いろいろと新しいことをやってたパイオニア的な作品だったのだな。

笠井さんや「午前十時の映画祭」関係者のかたがたのトーク込みで楽しい映画体験でした。

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東宝さん、いつか『宇宙大戦争』もぜひ4K化して上映してください。


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*1:時節柄、ロシアによるウクライナ侵略を連想しなくもないが。