映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

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『空の大怪獣ラドン』4Kデジタルリマスター版


本多猪四郎監督、佐原健二白川由美、小堀明男、平田昭彦ほか出演の『空の大怪獣ラドン』4Kデジタルリマスター版。オリジナル版1956年作品。

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阿蘇付近の炭鉱で次々と炭鉱夫が犠牲になるが、それは太古の巨大ヤゴ・メガヌロンの仕業だった。やがてメガヌロンを餌にする大怪獣ラドンが出現、超音速で飛び回り博多の街を破壊する。


「午前十時の映画祭12」で鑑賞。

僕はラドンってゴジラと初共演した『三大怪獣 地球最大の決戦からしか観たことがなくて、単体での初登場作品を観るのはこれが初めて。


『三大怪獣』とそれ以降に登場するのは一応この第1作目とは別の個体ということだろうし(それ言ったらゴジラだってそうだけど)、ラドンのデザインも“初代”とそれ以降とでは異なるので(初代は黒目がちで獰猛そうな面構え。ゴジラの仲間になってからのラドンはどこか親しみやすいユーモラスな顔になっている)、最初のラドンの雄姿を見られるのが楽しみだったし、事前に怪獣映画ファンでおなじみの笠井信輔アナウンサーが熱く語る動画も観て、期待していました。

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びっくりしたのが、上映会場がほぼ満席だったこと。おかげで最前列で観ることに。僕が観たのは土曜日でしたが子どもは一人もおらず、客席は見事なまでに白髪やハゲた爺さんばかりで、たまに二人組の特撮ファンと思しき若い男性たちやほんのわずかに女性が混じってた程度。近くの席に座ってたジジイは上映中にスクリーンに向かって何か独り言呟いてるし、まるで老人ホーム。60代以上、明らかに70代ぐらいの人たちが多かった。僕の親か、もうちょっと上の世代。

彼らは暇を持て余してたまたま来てたんじゃなくて、明らかにラドンを観にやってきていた。祭りに集まってくるみたいに。

子どもの頃にリアルタイムで映画館で観てた人たちだろうか。1956年といえば、初代ゴジラのわずか2年後だもんね。昭和31年。その頃子どもだった人たちは今じゃ70代でしょう。

このお年寄りたちの中で、自分もおそらく見かけはそんなに違和感がないのだろうと思うと落ち込みそうになった。

「怪獣映画」を、子どもじゃなくて老人たちばかりが観ている。

昭和の怪獣映画に今の子どもたちが興味を持つことはないんだろうか。ちょっと前に映画館でやってた『ウルトラセブン』には親子連れが来てたけど。

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気を取り直して、同じ列の端の席に座ってる爺さんがたまにわけのわからんこと言ってるのも我慢しながら観ていましたが、確かに1954年(昭和29年)の『ゴジラ』のあとにこの映画を観ると、その映像の違いに圧倒される。

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ゴジラの方は1作目の半年後に公開された『ゴジラの逆襲』でもまだモノクロだったのが、『ラドン』は最初から鮮やかな色彩が目に飛び込んできて、僕はあの時代の映画をこれまでそんなに観ていませんが、一気にあの当時にタイムスリップしたような気分。当時を知ってる人たち、あの当時の映画もリアルタイムで観ていた人たちにとっては本当に懐かしい風景と色なんでしょうね。

ゴジラ』の1作目はぎりぎり昭和20年代の映画で、ゴジラの存在自体に戦争の影があったし、61年の『モスラ』でさえも当時の大国による核実験のことに触れられていたのに、ラドンには直接的には戦争を思わせるような要素はなくて(劇中の台詞の中で核実験についての言及があったそうだけど、聞き逃した)、ラドンは自然界の脅威のような描き方をされている。

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「地球の温暖化」について語られているのを聞いて、66年前の怪獣映画の中で描かれていることが急に現在と繋がったようにも感じたし。結局、怪獣が出現するのは人間が原因である、ということ。

しかも、ラドンのことを最初は「空飛ぶ円盤」だったか「未確認飛行物体」だったか、UFOのようなものとして捉えていて、1956年の時点でそういう話題が世の中で流通していたんだなぁ、と。金星人や宇宙怪獣キングギドラが出てくる『三大怪獣』の公開は8年後の1964年ですからね。

冒頭からしばらくは炭鉱で起こる謎の連続殺人をめぐる暗くて恐ろしげな展開が続くんだけど(笠井アナの『畳の上に怪獣がバァ~ンと出てくるなんて、メトロン星人とメガヌロンぐらい』というツッコミに笑うが)、特にラドンが出現してからは映像から昭和30年代の明るさが感じられるんですね。

それはやはり今回4K化されて復元された色彩による力が大きいわけだけど、僕は復元前の映像の状態を知らないから比較できなくてそのありがたみはわからない。そこはもう、笠井さんの解説を聞きながら、あぁそうなんだ、と感心するしかない。

正直なところ、「戦争映画」「災害映画」的な怖さのあった初ゴジ、あるいは小美人が出てきたりミュージカルっぽい場面があったりといろいろヴァラエティに富んでいた『モスラ』と比べても、『ラドン』は物語としてはオーソドックスでそれほど面白味を感じなかったし、ヒロインを演じる白川由美はただ主人公の佐原健二の恋人というだけで特に見せ場もなくほとんど添え物のような描かれ方だったし(笠井アナも仰ってたように白川さんが着ている浴衣は綺麗でしたが)、笠井さんが大絶賛されている特撮に関しても、あの時代にこういう大掛かりな撮影をやっていた、という「特撮映画のお勉強」をしているような気持ちで観ていました。


どんなに精巧に作られていてもミニチュアはミニチュアにしか見えないし、本物と見間違うことはない。特に、特撮ファン、怪獣ファンには有名なクライマックスの阿蘇山の噴火の場面は、僕はもっと溶岩が広範囲に流れる様子を想像していたので、あ、この程度か、と思ってしまったのでした。


いや、プロの特撮スタッフの人たちほど、あのスゴさはよくわかるんでしょうけど。

あれはわざわざ本物の溶鉄を流さなくても、たとえばゼリーや照明、ドライアイスなどを使って溶岩を表現できなかったのかな、とか。期待してたほど迫力もなかったし、2体のラドンたちが溶岩の炎で焼かれていく姿に胸が苦しくなるようなこともなかった。

それでも、やっぱりミニチュア特撮はいいなぁ、とあらためて実感しましたね。

電車や車、飛行機のミニチュアなど、結構いい年した大人たちが夢中になる気持ちはわかるし、映画館の大画面でリアルなミニチュアが破壊されるのを見るのはやっぱり快感だもんね。子ども時代に味わったこの楽しみはいくつになっても忘れられない。

ミニチュアであることはわかっている。でもよくできているから、リアルな「ごっこ遊び」をしているような、「あちらの世界」に僕らを連れていってくれる喜びがある。

それは着ぐるみ製の怪獣にも言えること。

おそらくは着ぐるみの中で2~3人が数珠繋ぎになってるんだろうメガヌロンの、キュキュキュキュッと鳴りながら動く不気味さを超えた可愛さ、飛行機雲を引きながら大空を飛ぶラドン。「森永ミルクキャラメル」のネオンや、喫茶ナントカの看板とか、おそらく実際の風景に忠実に作られたのであろうミニチュアの街並み。


鑑賞後に若い二人組の男性たちが「翼もワイヤーで吊ってたんだ。今の着ぐるみはワイヤーは使ってないのかな?それともCGで消してるの?」みたいな会話をしていて、キングギドラもそうだったけど、操演ってスゴイなぁ、って思いますね。ワイヤーがモロ見えだから興醒めするんじゃなくて、こうやって吊ってるんだ、という面白さを感じる。

帰巣本能を利用して倒す、というのは科学的にどうなんだろう、というのはありますが。1984年の『ゴジラ』でもやってたけど、いくら生き物に帰巣本能があるからって目の前に火口や溶岩があれば避けるだろうし、わざわざ自ら突っ込んでいかないでしょう。ずいぶんと無理のある退治方法だとは思う。

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ただ、人間の兵器で退治するんじゃないところが重要なのかもしれない。“怪獣”が“自然”の人間に対する怒りであるのなら、それは戦車や戦闘機、ミサイルなどでどうにかなるものではないのだから。

娯楽映画でありつつ、かつての怪獣映画には今に通じるさまざまな事象を映像と物語の中から思い描き、余韻に浸る、そういう「何か」があった。だからこそ、技術的なことだけを云々するんじゃなくて(もちろん、そういう話題も好きだが)、映画の作り手たちが怪獣に込めた想いをすくい取りたくて僕はまた映画館に足を運ぶんだな。

来年には日本製の新しいゴジラが公開されるそうで、1945年を舞台にするようなことを聞いたけど、どうなんでしょうね。今の映画の作り手がゴジラをかつての戦争と絡めるのは大丈夫なんだろうか。結構不安。監督さんは「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズの2作目でCG製の「三丁目のゴジラ」を登場させたかたですが。

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さて、『モスラ』『ラドン』と来たら、来年はキングコングでしょうか。それとも『三大怪獣』かな?(※追記:『地球防衛軍』でした。モゲラ!)これこそ元祖モンスター・ヴァースだよね。楽しみにしています(^o^)


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