映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

もう一つのブログとともに主に映画の感想を書いています。

『王立宇宙軍 オネアミスの翼』


監督:山賀博之、声の出演:森本レオ弥生みつき、村田彩、曽我部和恭、平野正人、鈴置洋孝、伊沢弘、戸谷公次安原義人島田敏安西正弘内田稔飯塚昭三大塚周夫槐柳二寺島幹夫納谷悟朗ほかのGAINAXによるアニメーション映画『王立宇宙軍 オネアミスの翼』。1987年作品。4Kリマスター。

音楽は、坂本龍一、野見祐二、窪田晴男上野耕路

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“もう1つの地球”にあるオネアミス王国。落ちこぼれの軍隊として世間から見下されている王立宇宙軍の士官シロツグ・ラーダット(森本レオ)は、やる気のない同僚たちと張り合いのない日々を送っていた。そんなある日、街で神の教えを説いていた不思議な少女リイクニ(弥生みつき)との出会いをきっかけに、シロツグは王立宇宙軍の存亡をかけた人類初の有人宇宙飛行計画のパイロットに志願する。(映画.comより転載)


5月17日(金) ~19(日) の三日間に名古屋で開催された「どまんなかアニメ映画祭」で上映されていて観てきました。

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開催期間中に、

機動戦士ガンダムI
機動警察パトレイバー2 the Movie
機動戦士ガンダムII 哀・戦士編
ルパン三世 カリオストロの城
超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか
幻魔大戦
王立宇宙軍 オネアミスの翼 4Kリマスター
AKIRA
ヴイナス戦記
機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編

全10作品が上映されましたが、僕が観られたのはこの1本だけ。

1本でチケット料金が2800円なので、これはどうしても観たい、というものだけに絞りました。

上映ごとに、その作品の監督やスタッフのかたをゲストに迎えてのトークイヴェントがあって、料金がお高めなのはそういう理由もあるし、YouTubeの動画安彦良和監督*1が仰っていたように上映作品の選定にもいろいろ事情があって上映ができなかったものもあるようで(なんだろう、『逆襲のシャア』かなぁ?『パトレイバー』の1作目?それとも松本零士関連作品?…は他の企画でやってるか)、そういうご苦労“込み”でということでしょうか。

僕が観た『オネアミスの翼』の上映後には、監督の山賀博之さんがゲストでいらっしゃって、アニメ・特撮研究家の氷川竜介さんがインタヴュアーを務められていました。


オネアミスの翼』には1分のカット場面があって、監督としては諸事情から削らざるを得なかった、みたいなこれまでの話について、山賀監督ご自身が「現在のヴァージョンが最初から望んだもの」というようなことを仰っていました。

オネアミスの翼』は2年前にも4K版が劇場公開されていて、その時にどうしても都合がつかなくて観られなかったので、今回は少々値が張っても観ておきたかった。

実は、僕はこの映画を1987年の初公開時には観ていないんですよね。

当時、この作品のことをリアルタイムで知っていたかどうかは覚えていないけど、この映画がとても好きな後輩がいたし、80年代の終わり頃には作品の存在自体は知ってたと思う。

80年代にアニメ雑誌かなんかで民田直さんが描いていたパロディ漫画を見たなぁ。

映画そのものは90年代にTV放送された時に初めて観たのかもしれない。それともレンタルヴィデオでだったか。

覚えていたのは、「そこから何が見える」と聞かれた主人公のシロツグが森本レオの声で「女のケツ」と答えるところぐらい。

あとは、ヒロインのリイクニがシロツグにレイプされかかるところ。

またのちほど触れますが、主人公が女性をレイプ未遂、という場面は非常に後味が悪くて抵抗感があった。


よくこの作品は「お話がない」みたいに言われるそうだし、確かにストーリーテリングでグイグイ見せていく映画じゃないから、正直なところ、僕も今回初めて映画館のスクリーンで観たにもかかわらず、ちょっと退屈に感じる場面も少なくなかった。

それでも、ここ何年かの間にリヴァイヴァル上映された80年代頃のアニメ映画の中では受けつけないような作品もあったのが、この『オネアミスの翼』はそこまでではなくて、いろいろと気になる部分はあるものの、結果的に観てよかった、と思えました。

80年代とか90年代あたりの日本のアニメって、止め絵で見せたり極端にデフォルメしたキャラクターをいきなり登場させるとか、従来の正統派の(?)アニメーションじゃない手法やテクニックを乱用したり、キャラクターデザイン自体が崩れているようなものも増えていて、その辺で個人的に興味を失ったんですよね。

ジブリ、というよりも宮崎駿高畑勲大友克洋作品など例外を除いて、90年代の終わり頃には日本のTVアニメや劇場アニメをほとんど観ることがなくなっていた。

ちなみに、この映画の翌年の88年といえば『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』や『AKIRA』(感想はこちら)が公開されてますが、どちらも友人と観にいきました。『AKIRA』は今でも好きだし、『逆シャア』も満席の映画館で観たよい想い出がありますが、多分、今あの作品を最初から終わりまで通して観るのはキツい。

アニメファン、おたくに向けて作られたアニメが苦手なんですよね。

オネアミスの翼』は『AKIRA』と同様、ちゃんとアニメとして動くべきところをしっかり動かしていたし、アニメーションとして見応えがあったから今観ても楽しめる。

動画も背景の美術も丁寧に描かれていて美しい。

メカがCGじゃなくて手描きというのがやっぱりイイんだよなぁ。


また、先ほどは「少々退屈」などと言ったけど、細かいところまで作り込まれた異世界*2を舞台にしながら、これといった大事件が起こらない日常が淡々と過ぎていくことには物語的な必然性があって、だからこそ、クライマックスのロケットの打ち上げがより感動的に映る。

ライトスタッフ』(感想はこちら)や『トップガン』(感想はこちら)を思わせる内容ながら、それらから「熱さ」を抜いて主人公を普段は脱力系の男にした、というところがいかにもあの頃の日本の作品っぽいし、主人公の声をあの飄々とした口跡の森本レオさんに振る、というのも、なかなか意表を突いているけれどスゴく効果的。

ラストでのシロツグの地上の人々に向けた通信は、森本レオのあの声、口調だからこそ胸に響く。

…であるからなおさらに、あのレイプシーンはショッキングだし、あとを引く。

80年代、あるいは90年代あたりでも、日本のアニメってああいう女性の登場人物が性暴力に遭う場面をごく普通に入れ込んでいた。

今回、客席で観ていた女性のお客さんたちはあの場面をどう感じただろうか。初公開当時は?

今回の「どまんなかアニメ映画祭」は、まぁ、ある程度予想はしていたけれど、お客さんはほぼ中年以上の人たちで占められていて、若者の姿はほとんど見かけませんでした。

80年代当時にリアルタイムでこれらの作品を観ていた人たちが集っているんだな。

トークイヴェントでインタヴュアーの氷川竜介さんは、このアニメ映画を「特別な作品」と称賛されていたし、実際、その通りだとは思うんですが、氷川さんが若い人から「この作品にはコンプライアンスはなかったんですか」と問われたことを苦笑い気味に話されていたけれど、それは当然じゃないでしょうか。

そのことにあまりに無自覚だから、今の60代ぐらいのおたく第1世代の人たちって顰蹙を買ってるんだから。観る側も、作る側も変わらないと。

ロケットの打ち上げに反対する人たちのことを、シロツグと一緒にロケット打ち上げのために尽力している宇宙軍のマティが「お上に歯向かってばかりいる」みたいに吐き捨てる場面は、彼らは軍人だし打ち上げの当事者なんだからその反応もわからなくはないが、でもそれがこの映画の作り手たちの視点でもあるように思われて、あぁ、こういう人たちが年取ってネトウヨになっていったんだな、とか思った。

すごく危ういんだよね。貧しい人たちのことを「物乞い」として描いて、シロツグが無造作にばらまいた硬貨(なんか爪楊枝みたいな形をしている)に群がらせたりして、それは冒頭でシロツグにモノローグで「金持ちの苦労も貧乏人の苦労も知らない。知りたいとも思わない」と言わせたように、あれは当時平均24歳だったこのアニメ映画の作り手たち自身の立場でしょう。

90年代頃にはなんとも思わずに流して観ていた細かい部分に、2024年の今いちいち引っかかってしまった。

スタッフとしてこの作品にもかかわっていた庵野秀明さんの『シン・ゴジラ』(感想はこちら)ほど無機質ではないけれど、よく似たものを感じる。

鑑賞中、シロツグによるリイクニのレイプシーンが意味するものをずっと考えていたんですが、ラストで彼が地上の人々にそれぞれの形での「祈り」を捧げることを願ったのは、そして彼自身もまた以前リイクニがマナと食事の前にしていたのと同じようにして手を合わせて祈りを捧げるのは、あれは感謝とともにリイクニへの贖罪だったんじゃないだろうか。


神など信じてはいないだろうシロツグが誰かに向かって祈るとすれば、それはリイクニ以外にいないはずだから。

街頭で神の裁きについて訴え続けるリイクニの姿にはカルトの臭いを感じずにはいられないし、レイプされかけたにもかかわらず、反撃してシロツグに怪我を負わせたことを詫びる彼女には苛立ちを覚えもした。

でも、どう考えたって自分が被害者なのに、その事実には目をつぶって自分が「人を傷つけたこと」を罪だと思い込もうとしている彼女に、痛々しさと同情を感じずにはいられなかった。「シロツグさんは何もしませんでした」って、してるじゃないか。こんな奴、キンタマ潰れるまで股間を強打してやればいいんだ。

しかし、親から譲り受けた家を取り壊された時にシロツグに助けを呼ぶ電話をしたリイクニには、頼れる人が彼以外にいなかったのだ。

リイクニの信頼をシロツグは裏切り、裸のままの無防備な彼女に襲いかかった。その罪はけっして許されることはない。たとえ彼女がそれを「なかったこと」にしようとしても。

ロケットを打ち上げる国家的事業は、多くの人々の生活を犠牲にすることでもある。

この作品の作り手たちが、そのことをどこまで自覚していたかはわからない。

でも、自分に希望や力を与えてくれた女性に性暴力を振るった男が宇宙に行く、というこの物語は、イケイケドンドンだったバブル期に作られた映画の中で異彩を放っているようにも思える。

いや、いろんな人たちがすでに気づいていたのかもしれない。なんで我々はこんなにがむしゃらに頑張っているのだろう、と。何が“24時間働けますか”だ、と。


山賀監督だったか、それともプロデューサーの岡田斗司夫さんが話されていたんだったか失念しましたが、エンディングはシロツグが地上に戻ってきてみんなと祝杯を挙げる絵を入れる案もあったのをやめたそうですが、それはそうだよな、と思った。

これは男たちが苦労の末に成功した、という「プロジェクトX」じゃないんだよね。

宇宙に飛び立つということがどういうことなのか、観た者それぞれが考える映画じゃないだろうか。

作曲の坂本龍一さんはこの作品の曲について思うところがあったようで、生前にインタヴューであまり気に入っていないようなことを仰っていたそうですが、でも僕はこの映画のサントラが好きでたまに聴いています。

この映画の魅力の半分は、紛れもなく音楽の力によるものだと思う。

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懐かしい声がいくつも聞こえてきましたね。バカボンのパパやレレレのおじさんの声も(笑)

今はなき名優たちの声の演技が刻み込まれている。

2024年の今だからこそ、再び鑑賞して僕が感じたような疑問や嫌悪感についても思いを巡らせる意義のある作品だと思います。



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*1:安彦さんは、「どまんなかアニメ映画祭」のポスターも描かれています。

*2:作画開始までの準備に一年ぐらい費やしたのだそうで。