ロマン・ポランスキー監督、ジャック・ニコルソン、フェイ・ダナウェイ、ジョン・ヒューストン、ペリー・ロペス、リチャード・バカリアン、ロイ・ジェンソン、ダレル・ツワーリング、ナンドゥ・ハインズ、ダイアン・ラッド、ジョン・ヒラーマン、ジョー・マンテル、ブルース・グローヴァー、ベリンダ・パーマー、ジェリー・フジカワ、ジェームズ・ホン、バート・ヤングほか出演の『チャイナタウン』。1974年作品。日本公開1975年。PG12。
第二次大戦前の南カリフォルニア。私立探偵ジェイク・ギテス(ジャック・ニコルソン)は、モウレー夫人と名乗る女性から市の水道局に勤める夫の浮気調査を依頼される。だがその夫は貯水池で溺死体として発見される。後日、ギテスは再び夫人の訪問を受けるが、その女性こそが真のモウレー夫人、イヴリン(フェイ・ダナウェイ)だった。あらためてイヴリンに雇われたギテスは、事件の背後にロサンゼルスの水道利権を巡る陰謀を嗅ぎつける。(「午前十時の映画祭14」公式サイトのあらすじより)
「午前十時の映画祭14」で鑑賞。
実は以前クライマックスだけBSか何かでやってるのを観た記憶があるんですが、作品自体はちゃんと観たことがなかった。
そもそも、僕はロマン・ポランスキー監督の映画ってほとんど観たことがなくて、『戦場のピアニスト』と『おとなのけんか』を劇場公開時に観たぐらい。
『赤い航路』(1992年作品。日本公開1993年)はヴィデオで観たんだったか観ていないのか記憶が曖昧。
有名な『ローズマリーの赤ちゃん』もちゃんと観ていない。
優れたフィルムメーカーであることはこれまでの作品からうかがえる一方で、未成年の女性への性暴力、それ以外にも複数の女性たちからも告発されていて、そこのところでこの映画監督を手放しで称賛できないところがある。
以上の行為について擁護する気はまったくないことをお断わりしたうえで、ともかく『チャイナタウン』はとても評価の高い作品だからなんとか観たいと思っていたので劇場に足を運びました。
夫の浮気調査から水道利権を巡る陰謀劇へと次第に話の規模がデカくなっていく、というのが意外ではあるのだけれど、舞台となる時代は1930年代で、ジャック・ニコルソン演じる私立探偵は張り込みでもスーツでキメていて、ハードボイルドな世界。
探偵事務所には女性の秘書がいて、部屋には棚の中に酒がいっぱい入ってて昼間からグラスに注いで飲んでる。
1974年の作品だからニコルソンもさすがに若いし、髪もある。
でも、歯を見せて笑うと『バットマン』(1989) のジョーカーを思い出す。まぁ、『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』の頃からあの笑顔はトレードマークでしたし(笑)
恥ずかしながら僕はジャック・ニコルソンの有名な主演映画をほとんど観ていないんですが、脚本のロバート・タウンは『さらば冬のかもめ』(1973年作品。日本公開1976年)も書いているんですね。
そのロバート・タウンが再び脚本を手掛けて、いろいろ紆余曲折あってニコルソン御本人がメガフォンを取った続篇の『黄昏のチャイナタウン』(1990年作品。日本公開1991年)は劇場公開時にタイトルは知っていたけど、1作目を観てなかったからスルーしました。どうも評判はよろしくないようで。
そもそもシリーズ物にするようなタイプの作品じゃないですしね(続篇との間があまりに空きすぎた、というのもあると思うが)。
フェイ・ダナウェイって、僕が初めて彼女を見たのは『スーパーガール』(1984) の悪役だったんで、おっかなそうなおばさん、というイメージが先にあったんですが、『俺たちに明日はない』(1967作品。日本公開1968年)以降、特に70年代は大活躍でしたね。例のごとく、僕は彼女の出演作品をほとんど観ていないんですが。何気に脱ぎっぷりがいいよね。あの当時の女優さんたちって、さりげなくトップレス見せたりしていたよなぁ。
演出中の監督。
今回の「午前十時の映画祭14」ではダナウェイさんが主演した『ネットワーク』(監督:シドニー・ルメット 1976年作品。日本公開1977年)も上映されていたんだけど、あいにくそちらは観られず。
そういえば、『チャイナタウン』は『タワーリング・インフェルノ』と同じ年だったんですね。
『チャイナタウン』の劇中でダナウェイ演じるイヴリンがニコルソン演じるジェイクに何度も何度もひっぱたかれるシーンがあって、どう見てもほんとにほっぺたにヒットしてるので痛々しくてたまらなかった。ああいう暴力、昔はよく描かれてましたね。
あと、これは実際にやってたんじゃなくてもちろん特殊効果だろうけど、ジェイクがチンピラにナイフで鼻を切られるシーンがワンショットで映されていてほんとにやってるようにしか見えなくて、思わず自分の鼻を押さえそうになった。チンピラ役を監督が自ら嬉々として演じてる。『タクシードライバー』のマーティン・スコセッシもそうだけど、監督さんたち演技が達者だよね(ロマン・ポランスキーはもともと役者だったそうだから、巧いのは当然なのかもしれないが)。
ジェイクはその後しばらく鼻に包帯を貼ってるけど(外すと裂けた傷が縫ってある)、探偵が痛い目に遭う、というのもこの手のジャンルではお約束なのかな。
僕はこの映画を観ていて、リドリー・スコット監督、ハリソン・フォード主演の『ブレードランナー』を思い浮かべたんですよね。
あの映画はハードボイルドのパロディみたいな内容だったし(やたらとグラスに酒を注いで飲むとか)、ハリソン・フォードも殴られてボロボロになってましたし。
イヴリンの執事役のジェームズ・ホンは『ブレードランナー』でレプリカントの“目”を作る技師役でした。リドリー・スコットは意識してキャスティングしたんだろうか(ジャック・ニコルソンが主演したスタンリー・キューブリック監督の『シャイニング』でバーテンダー役だったジョー・ターケルも『ブレードランナー』にタイレル博士役で起用していたし)。
ジェームズ・ホンさんは、最近でも『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(感想はこちら)に祖父役で出てましたよね。現在95歳。お元気だなぁ。
ジェイクの探偵仲間の一人でブルース・グローヴァーが出てたけど、この人は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(感想はこちら)の主人公マーティの父親ジョージ役のクリスピン・グローヴァーのお父さんで(確かに息子さんと顔がよく似ている)、『007/ダイヤモンドは永遠に』(1971) に特徴のあり過ぎる二人組の殺し屋役で出てました。
この『チャイナタウン』でもニヤついてることが多いんだけど、後半はあまり出番がなくなる。
こちらも出番はそんなにないけれど、映画の冒頭で“モウレー夫人”と偽ってジェイクに夫の浮気調査の依頼に来る女性役でダイアン・ラッドが出てました。こちらはローラ・ダーンのお母さん。この人もよくよく見ると娘さんに似ている。
そして、彼女の前に登場するのが「ロッキー」シリーズのエイドリアンのダメな兄貴ポーリー役でおなじみのバート・ヤング。
女房に浮気されてブチギレるおっさんの役で、その後ずっと出てこないので出番はここだけかと思ってたら、ラスト近くにちゃんと再登場していた。
ジェイクが車を借りて追っ手から逃げようとしてると、やたらと飯食ってけと勧めるとことか、浮気した妻がおそらく彼に殴られたのだろう青タン作ってたり、安定のイタリア系の親父ぶり。
ずっとおっさん役のイメージがあるけど(アニキでもジイさんでもなく、おっさん)、さすがにこの頃はまだ若い。でもすでに薄毛のおっさん。味があるよなぁ。
イヴリンの父親で街の有力者ノア・クロス役は、映画監督のジョン・ヒューストン。
口を尖らせて喋るのが特徴的で、一見そこまで恐ろしげな人物っぽくないんだけど、腹に一物ある感じが滲み出ていて、そこはかとない異物感がある。
何しろ演じているジョン・ヒューストン監督はクリント・イーストウッドが『ホワイトハンター ブラックハート』でモデルにしたぐらいだし、なかなかぶっとんだお人だったよーで。娘はアンジェリカ・ヒューストン。
『チャイナタウン』の劇中では、彼が演じるクロスはジェイクに「娘と寝たのか?」と尋ねる。その言葉が終盤に恐ろしい意味を持ってくる。
なぜ彼は執拗に娘イヴリンの夫の浮気相手の女性を捜せとジェイクに言っていたのか。
ジョン・ヒューストン監督ってミュージカル映画の『アニー』撮ってるんですよね。
ラジー賞とか獲ってますが、僕は好きな映画です(^-^)
あんなほのぼのした映画撮ってたおじいちゃんが、この映画ではとてもおっかない(;^_^A
当初、ジェイクは浮気した夫ホリス(ダレル・ツワーリング)をイヴリンが殺したのだと考えていたが、そうではなかったことがわかってくるに従って、事件の真相は大変後味の悪いものへと向かっていく。
自分の家に殺した夫の浮気相手を監禁している、とジェイクに迫られたイヴリンは、最初は「夫の浮気相手は自分の妹だ」と言っていたのに、やがて「あれは私の娘だ」と告白する。ジェイクに何度もぶたれながら、イヴリンは「妹で娘なの」と言う。
なかなかにしておぞましい話である。ホリスの浮気相手だと思われていた若い女性(ベリンダ・パーマー)は、あのノア・クロスが自分の娘に産ませた彼の子どもだった。だからイヴリンにとっては「妹で娘」。
水道利権の話がどっかへ吹っ飛んでしまいそうなグロテスクな結末。
娘のキャサリンとともに車で逃亡しようとしたイヴリンを警官たちが銃で撃ち、それが命中したイヴリンはハンドルに突っ伏したまま起き上がることはなかった。
その前に、車内でジェイクに問い詰められたイヴリンがハンドルに顔を埋めてクラクションが鳴り響く場面があったけど、それと同じ状態で絶命しているイヴリンの片目を銃弾が貫通していた。
顔が大変なことになっているのにメイクに余念がないフェイ・ダナウェイのプロ根性。
フェイ・ダナウェイさんは『俺たちに明日はない』でも車の中で銃撃で蜂の巣にされていたけど、つくづく車とは相性が悪いようで。
キャサリンの悲鳴を背に仲間たちと立ち去るジェイクの後ろ姿を映して映画は終わる。
…いやぁ、面白かったです。
悪人が裁かれることなく、最後にヒロインは無惨に死ぬ。
悲惨なラストではあるんだけど、監督が脚本家と対立しながらこの結末を推した判断は正しかったと思う。
関連記事
『シャイニング』
『ロッキー4/炎の友情』
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』
『ワイルド・アット・ハート』