スティーヴン・スピルバーグ監督、ハリソン・フォード主演の『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』。
「インディ・ジョーンズ」シリーズ第1弾。1981年作品。製作総指揮はジョージ・ルーカス。
第54回アカデミー賞視覚効果賞、編集賞、美術賞、音響効果賞受賞。
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1936年。考古学者にして冒険家のインディアナ・ジョーンズ(ハリソン・フォード)は、モーゼの十戒が書かれた石板をおさめた“アーク (聖櫃)”を探し出すためにネパールを経てカイロへと向かう。一方、ヒトラーの率いるナチスもまた、絶大な力を秘めるというアークを手に入れるために大がかりな発掘作業をすすめていた。
1970年代後期、『スターウォーズ』をヒットさせたジョージ・ルーカスは旅行先のハワイでスピルバーグと合流、「古きよき時代の連続冒険活劇」を現代によみがえらせるアイディアについて話し合った。
主役には『スターウォーズ』のハン・ソロ役のハリソン・フォードを起用。
しかし当初スピルバーグが希望したのはトム・セレックだったというのは有名な話。彼がTVドラマ「私立探偵マグナム」の撮影のためオファーを断わったので、フォードの登板となった。
以後、インディ・ジョーンズはハリソン・フォードの代表作、代名詞となったことはいうまでもない。
そして無数の模倣作品を生んだ。
僕がこの映画をはじめて観たのはテレビ(映画館で観たのは3作目の『最後の聖戦』から)。
日テレ版で、インディの声は村井国夫(ハン・ソロの声も彼が担当)、ヒロインのマリオン(カレン・アレン)を戸田恵子がアテていた。
そのほかにも仲間のサラーや敵のナチス側のキャラクターたちなど声優のキャスティングはベストといえるものだったけど、残念ながらソフト版では村井さんとサラー役の故・小林修さん以外は別の声優に替わっている。
以前、DVD-BOXが発売されたときにはコンビニで予約して買いました。
どの作品もそれぞれ好きだけど(その後公開された4作目にはかなりガッカリしたんですが)、一番好きなのはこの『レイダース』。
以下、ネタバレあり。
インディ・ジョーンズというと「派手な特撮アクション」というイメージが強いけど、この1作目は特撮(合成やミニチュアワークなど)はひかえめで、映画の中盤までに使われている合成は大型の飛行艇(この映像は別の映画からの流用)やネパールの酒場の外観、崖から落ちていくナチスのジープぐらい。
ちょうど『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(感想はこちら)の1作目がそうだったように、主役はあくまで俳優たちの演技。
この映画のなかに、インディが馬からアークを乗せたトラックに飛び移って兵士たちをひとりずつ振り落としていくスタントシーンがある。
この場面では、先ほどの谷に落ちていくミニチュア製のジープ以外は合成を使っていない。
これとシリーズ4作目の『クリスタル・スカルの王国』の同様のシーンを観くらべてみる。
合成が多用された『クリスタル〜』の頃になると、CGでなんでもできる、これは俳優が本当にやっているのではない、という認識が観客の方にもあって、映像も派手ではあるものの観客の予想を超えるものではないので、どうしても緊迫感がない。
アクションを“安心して”観れてしまうのだ。
『レイダース』のチェイスシーンでは、走るトラックから転がり落ちた兵士役のスタントマンが車のタイヤに巻き込まれないかハラハラした。
神の力が宿る「アーク」がその威力を発揮するのは映画が終わる直前で、それまではスピルバーグのサスペンスフルな演出とジョン・ウィリアムズのワクワクするスコアによってアークのおそろしさを観客に想像させている。
蝋で作ったダミーの頭部を溶かして撮影した、インディのライヴァルのベロックやナチスの将校たちの顔面が崩壊するシーンはいま観てもショッキングで、CGによってよりいっそうリアルに描くことができるようになった現在でも、これを超えるインパクトのあるゴアシーンはなかなかお目にかかれない。
【グロ注意】
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作り物とわかっていても、やっぱりCGによる「絵」ではなくてほんとにそこにあるダミーヘッドが破壊されると妙なリアリティがあるのだ。
またこの作品は、映画の「恐怖」や「興奮」がただ残酷だったり刺激的な映像を見せるというだけではなくて、用意周到な「演出」によって生み出されることを証明してもいる。
よくいわれるように、スピルバーグは「タメの演出」がとても巧い。
観客をジラし期待させて、バァァ~ン!!!と見せる。
ショックは何倍にも感じられる。
この映画には、『激突!』や『ジョーズ』のフィジカルな映画的興奮とその後の“SFX & VFX”満載になるスピルバーグ作品の両方の特徴が見られて、それがとても楽しい。
さっきから気持ち悪いぐらいベタ褒めしてますが、「インディ」シリーズにはツッコミどころも大量にあって、たとえば公開当時から指摘されてる有名な“潜水艦のシーン”。
味方のカタンガ船長の船からナチスのUボートに泳ぎ着いたインディ。
そのまま潜水艦はドイツ領のドックへ移動する。
そのあいだにインディはどうやって潜水艦に入ったのか。
まさか潜水艦の潜望鏡にしがみついたまま海を潜っていったのか?
これについては、かつて宮崎駿も批判している。
面白いので長いけど引用してみます。
約束事のない映画なんてないですよ。ね?「これは深刻な映画です」とかね、「これはちょっとアバンギャルドですよ」っていうね。それは必ず、どっかで提示されますよ。
たとえば「ドラえもん」の絵を見た瞬間にね、これはリラックスして観ましょう、そのレベルで観ましょうっていうふうにね。
あらゆる作品が全部始まった途端、あるいは始まる前から暗黙の約束事を要求するんです。当然のことですね。で、それを僕は否定する気は全然無いんです。
ただ、自分が「このレベルで嘘をつきます」って決めたときに、そのレベルの嘘を守ることですよね。それをしょっちゅう変えちゃう奴がいるんです。それは最低なんですよ!
話に行き詰ったから変えちゃうとかね。インディ・ジョーンズなんて最低ですよ。
どうやって潜水艦に乗っていったんですか?ああいうところが一番ね、冒険活劇を作る人間は、一番気を遣わなきゃいけないとこなんですよ。
だから、あの途端にね、トマトをぶつけてもいいんですよ。
で、そういうことを許しあうっていうのは、やっぱり観客の質が低いからだと思いますよ。
それで『2』も『3』も観にいくっていうのはね、それは甘いもんですよ!
で、そういう仕事もあるだろうけど、僕はああいうことを続けていくとやっぱり駄目だろうと思いますね。作ってる奴も。
あれは恥ずかしくて、うつむいて歩くべきような失敗ですよ。
失敗というよりも、名案がなかったわけでしょう。
だから、普通は潜水艦にへばりついて敵の本拠地に行くなんて出来ない!
それをちゃんともっともらしく見せるのに手技を使うんでね。
で、それは『ジョーズ』でやってたはずなんです、彼は。何ですか、あれは?
最低ですね。僕はもうムカムカしました。あれを観て……いや、そんなこと言って、似たようなことこっちもやってるから(笑)
ロッキング・オン刊「黒澤明 宮崎駿 北野武 日本の三人の演出家」より
この本はいまは手元にないんでその前後にどういう会話をしていたのかもうおぼえてないけど、読んだときは「もっともだなぁ」と思った。
宮崎さんだったらまさにそここそを描くだろう、と(あの潜水艦については「海のなかに潜らずに浮上航行だった」という説もあるが)。
あともうひとつ、マリオンがカゴのなかに入ったまま敵のトラックもろとも爆発炎上してしまい、インディは彼女が死んだと思い込むけどじつは生きていた、というくだり。
あとで別のところに移されてて助かった、と説明されるけど、敵があのわずかな時間になんでそんなめんどくさいことしたのかわからない。
話に行き詰まったから、どうやったのかはわかんないけどとにかく無事でした、というのはたしかにシラケる。
まぁ、いきおいで観ちゃうけど。
『レイダース』の脚本を書いたローレンス・カスダンは『スターウォーズ ジェダイの帰還』(感想はこちら)も書いていて、僕はこの映画もよく出来てると思うんだけど、特に『レイダース』の脚本上の粗はちょっと看過できないものがあるかもしれない。
ただ、インディも回をかさねるごとに超人的になっていって、いまじゃ核兵器で吹っ飛ばされても平気(ダジャレではない)という、もはや真面目に怒っても仕方ない状態になってますが。
どうしたってアクション物がシリーズ化されるとそういうふうになっちゃうんだけどね。
『ラピュタ』(感想はこちら)を観て宮崎さんのいってることがハリウッドの大ヒットメーカーに対するただのやっかみでないことはよくわかってるだけに、じつに説得力がある。
そういう宮崎監督は押井守監督に「未来少年コナン」で、コナンが高所から飛び降りても死ななくて傷も負わないことについてツッコまれてるけど。
このへんの「リアリティ」の線引きは微妙だけど、ただ、コナンはああいう超人的なアクションをしても違和感がないキャラクターとしてすでに何度も作中で「このレベルで嘘をつきます」という描写がされていたわけだから、宮崎さんは自分がいってることを裏切ってはいないと思う。
面白いことに、怪力と物凄いジャンプ力をもっていて、しかも高い塔の上から飛び降りても死なないコナンは、後頭部を殴られるといとも簡単に気絶するのだ。
撃たれたり殴られれば傷つく身体をもっている。
これはインディも同じで、彼は『ダイ・ハード』のブルース・ウィリスと同様“絶対死なない身体”を手に入れてしまっているけれど、身体がペチャンコになったり撃たれて穴だらけになっても一瞬でもとにもどる「ルーニー・テューンズ」や「トムとジェリー」のような“カートゥーン”の世界の住人とまではいってなくて、血を流し傷ついて痛みに顔を歪める身体をかろうじて残している。
船のなかでのマリオンとのやりとりはなかなか可笑しい。
マリオン「もう、痛くないのはどこなのよ」
インディ「(ひじを指差して)ここだ!」
マリオンがそこにキスすると、次はおでこ、まぶた、そして最後に「ここは?」と唇を指差す。
洒落てるね(^ε^)
たしかに『レイダース』では「失われた連続冒険活劇」が復活していた。
そこには「ロマン」がある。
もちろん、それは「現実」のあの時代ではなく、映画のなかだけに存在する「古きよき時代」である。
最後に悪を滅ぼしたアークは(ダジャレではない)封印されて、巨大な倉庫に保管される。
アメリカ政府の役人はインディに「トップメンバーが調査する」といっていたが、彼らの手には負えなかったということか。
この巨大倉庫がどこにあったのかは4作目であきらかになる。
インディのシリーズにはたして第5弾があるのかどうかはわからないけれど、今度はいったいなにを探すんだろうなぁ。
チャールトン・ヘストン主演の『失われた聖櫃の探索者』(1951)
いろんな映画から映像をもってきて、もう『インディ』にしか見えなくなってます(^o^)
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