同時期にリヴァイヴァル上映していたアル・パチーノ主演映画を劇場鑑賞。『スカーフェイス』と『クルージング』。同じ記事に2本続けてで失礼します。
スカーフェイス
ブライアン・デ・パルマ監督、アル・パチーノ、スティーヴン・バウアー、メアリー・エリザベス・マストラントニオ、ロバート・ロッジア、ミシェル・ファイファー、アルナルド・サンタナ、アンヘル・サラザール、F・マーレイ・エイブラハム、ポール・シェナー、マーク・マーゴリス、ハリス・ユーリン、ミリアム・コロンほか出演。1983年作品。日本公開1984年。R15+。
脚本はオリヴァー・ストーン。音楽はジョルジオ・モロダー。
1980年、キューバ人の前科者トニー・モンタナ(アル・パチーノ)は、反カストロ主義者として国から追放され、フロリダ州マイアミへ流れてきた。トニーは弟分のマニー(スティーヴン・バウアー)と共に、マイアミの麻薬王フランク・ロペス(ロバート・ロッジア)から暗殺や麻薬取引などの仕事を請負い、その度胸を見込まれ部下となる。裏社会でのし上がっていくトニーはしかし、フランクの情婦エルヴィラ(ミシェル・ファイファー)に魅かれていく。(「午前十時の映画祭14」のあらすじより)
今年は2月に「午前十時の映画祭13」でジーン・ハックマンとの共演映画『スケアクロウ』も観たし、なんでしょうか、あえてタイミングを合わせているのかな?パチーノ祭り?(笑)
ハーヴェイ・カイテルやロバート・デ・ニーロの過去作も上映されていたし、あのあたりの名優たちの昔の作品を劇場で観られて嬉しい。僕は恥ずかしながら、観ていない往年の名作がかなりあるので。
この『スカーフェイス』もハワード・ホークス監督、ポール・ムニ主演の『暗黒街の顔役』(1932年作品。日本公開1933年)のリメイク、ということは知っていたけど、ちゃんと最初から最後まで観るのはこれが初めて。
台詞の中で「FUCK」という言葉がめっちゃ使われてるので有名、みたいなこともいつ頃だったかに知ったけど、今ではもっと多くのFワードが使われている作品がいっぱいあるからか、さほど気にならず(終盤はさすがに連呼しまくってたが)。
ブライアン・デ・パルマ監督作品の中でも人気作だし、公開当時はいろいろ批判もあったそうだけど、今では黒人に人気とか、そういうふんわりした知識だけあった。
で、何週間か前に観たスコセッシ監督の『カジノ』(感想はこちら)もそうだったけど、こちらも上映時間が長くて170分あるのでこれまで気軽に観ることもできずにいて、ようやく劇場で鑑賞する機会を得られました。
しかし、あの当時によくこんな長い映画撮ったよなぁ。
音楽が流れると、あ、ジョルジオ・モロダーだ、と(^o^) あの当時はよく映画音楽を手掛けていたもんなぁ。『ネバーエンディング・ストーリー』(感想はこちら)とか大好きなんですよね。あと、フリッツ・ラング監督のサイレント映画『メトロポリス』(感想はこちら)をミュージックヴィデオみたいに仕上げたヴァージョンも(笑) 『トップガン』(感想はこちら)の1作目だって劇中曲は彼だったし。
この『スカーフェイス』でもなんか『フラッシュダンス』みたいな曲がかかってたし、あのシンセのメロディって時代が変わるとダサくなったのが、何周かしてまた耳に心地よくなってきた。独特ですよね、あの当時の映画音楽って。
舞台は1980年。キューバ移民のヤクザが暗黒街で成り上がっていく話。
ロバート・ロッジアが主人公トニー・モンタナのボスを演じていたけど、『ビッグ』(感想はこちら)ではトム・ハンクス演じる主人公と意気投合する玩具会社の社長役、『インデペンデンス・デイ』では頼りになるヴェテラン軍人、『ロスト・ハイウェイ』ではおっかないギャングのボス、とひと頃映画館でよく顔を見た人だった。2015年に亡くなったんだなぁ。
ロバート・ロッジア演じるフランクがパチーノ演じるトニーに撃ち殺されそうになって、急に命乞いをしだす滑稽さ。
結局は銃を持ってる奴が強いってことか。この辺の、今まで余裕かましてた人間が銃を突きつけられると急に弱々しくなる姿って、北野武の「アウトレイジ」シリーズも思い出したり。銃を男根のメタファーだと考えれば、滑稽さはさらに増す。デカくて強い“コック”に男どもはひれ伏す。
トニーの妹のジーナ役でメアリー・エリザベス・マストラントニオが出ていて、この人も80~90年代に『アビス』やケヴィン・コスナー主演版の『ロビン・フッド』のマリアン役とかで見た。最後に彼女をスクリーンで見たのは2000年の『パーフェクト ストーム』か。そんな前だったんだ。懐かしいなぁ。
出番は短いけど、『アマデウス』のサリエリ役で有名になる直前のF・マーレイ・エイブラハムが、フランクの部下オマール役でイイ味出してます。
仲間に引き入れてやったトニーがどんどん増長しだしてムカついてたら、ヤクの取引先の麻薬王ソーサ(ポール・シェナー)に警察のタレコミ屋として粛清されてしまう。
ソーサ役のポール・シェナーのイイ声とイケオジぶりが素敵。
オマールが本当に裏切り者だったのか、それともソーサの言いがかりだったのか、フランクと互いに主張してることが違うので、この辺のどっちつかずなところもモヤモヤ。
監督が同じイタリア系でもマーティン・スコセッシとの作品の違いが面白いな、と。
『カジノ』でデ・ニーロが演じていたサムも野心家のヤクザ者ということでは同じだし、妻との間がうまくいかなくなってストレスを溜めていくところなんかも似ているんだけど、2本の映画は見事なまでに作りが異なっていて、おそらくはスコセッシ作品の方が今っぽい、というか現在でも通用する作風なんですよね。
主人公は最後に殺されはしないし(ペシは思いっきり殺られてましたが)、最後もカタルシスある終わり方じゃなくて、なんかしょぼくれた感じでバタバタと物語がたたまれる。
『タクシードライバー』のように最後に主人公が暴発して終わる映画の方がスコセッシとしては珍しいのかもしれない。
一方、こちらのデ・パルマ作品は80年代的な要素がオンパレードのイケイケな主人公がコカインでキメまくって最後は銃撃でもなかなか死なず、ショットガンを背中に食らって2階から室内プールにダイヴ、プカプカ浮いてるトニーの背中からキャメラが上がっていくと地球の模型に書かれた「The World is Yours」の文字で終わる。
ここに落ちます。
これ、よーするにマシンガンをペニスに見立てた、最後の最後に主人公が突きまくって果てるお話でしょ。わかりやすいよね(笑)
僕はこの映画を観る前は、麻薬でハイになった主人公がどんどん暴走していくお話だと思っていたんだけど、そして確かに主人公のトニーは最初から熱しやすい男で、ボスの女に手を出したり“商売”の手をどんどん広げていってのし上がろうとするんだけど、ただ身勝手で凶暴な狂った男ではなくて、彼は金勘定もできるし母親や妹は大事にしようとするし、一応、はじめのうちはボスのフランクに忠誠を誓っていたり、ソーサとの取引も裏表なしに行なおうとする。
何よりも、彼自身を追い込むことになるきっかけは「ガキは殺さない」という信条だった。常識はあるんだよね。麻薬を扱う仕事になんの躊躇も良心の呵責もないところは最初からクズいんだけど、そのことを母親から責められても言い返したり暴力を振るったりはしない。
ユーモアを見せる時もある。結構真面目でもあるし。
妹だったか、それとも妻との言い争いのあとだったか忘れたけど、行きつけの店でぼんやりと宙を見つめている表情なんかは、ちょっと可愛くさえあった。
ストーリーはほとんどオリジナル版の『暗黒街の顔役』通りらしいから、ボスの女を盗っちゃって殺されそうになる、という展開もそのまま同じように描いたんだろうけど、ティム・バートンの『バットマン』でもジャック・ニコルソン演じるギャングが同じことをやってボスに陥れられるくだりがあったし、このジャンルのお約束なのかな。
トニーの妹のジーナがあまりに頭が悪過ぎて観ていてイラッとしたんだけど、これもオリジナル版通りのようで。母親からも「あの子はお前にそっくりだ!」と言われてたし、この兄にしてこの妹、ということか。
そりゃ、持ち慣れない大金を急に渡されたらおかしくなっちゃうかもね。
このジーナとトニーの弟分だったマニー(スティーヴン・バウアー)がサプライズのためにふたりの結婚を内緒にしていたら、いろいろ追い詰められていっぱいいっぱいのトニーには冗談が通じなくて撃ち殺されてしまうという、あまりに間抜け過ぎる展開もまたオリジナル版通りだそうだから、ほんとに愚か者たちの饗宴、といった感じ。
スティーヴン・バウアー演じるマニーの薄っぺらさ(若い頃のトラヴォルタをもっと軽薄にしたよーなw)。でも一方では彼は彼なりに役立とうとしているし(しかしコロンビア人たちとの取引の最中に車で女の子にちょっかい出してて部屋に踏み込むのが遅れたために仲間が一人犠牲になるところなんかでも、すでに彼の浅はかさが示唆されていた)、憎めないんですよね。イジリー岡田みたいな“高速ベロ”で女の子をクドこうとしてひっぱたかれたり、ヤリチンキャラっぽいのに妙に童貞臭いというか(^_^;)
トニーだってボスからミシェル・ファイファー演じる愛人のエルヴィラを奪っていながら、劇中でふたりのラヴシーンはないし、ヤクザ者にしては女性に対して及び腰に見える。
まぁ、『カジノ』のサムもそうだったように女性をトロフィーのような“モノ”として見ているところは大いにあって、プロポーズと同時にさっそく子どもの話をするところも共通しているけど、なんでしょうか、それはヤクザ者だからなのか、それともイタリア(『カジノ』のデ・ニーロはユダヤ系という設定だが)とかキューバとかラテン系の男たちはもともとそういうものの考え方なのか。
トニーからは「顔や髪をいじってるかヤってるか、寝てるだけ」と言われるように、エルヴィラはいつも死んだような目をしていて出てくるとだいたいコカイン吸ってるか不機嫌そうに仏頂面してるだけなんだけど、トニーから「ヤクのヤリ過ぎで子宮がボロボロで子どもができない」と罵られてさすがにブチギレる。
『テッド2』で同じことをテディベアのテッドが恋人に言ってましたよね。この映画のパロディだったんだなw
エルヴィラはフランクの愛人だったのが、彼が殺されるとほとんど自動的にトニーの妻になってて、自分がないというか、金と力がある者についていく─そういう女性は実際いるんだろうけど、ほんとに何か空虚そのものなんですよね。
でも、そんな彼女をトニーは実はほんとに必要としていて、なのに愛をちゃんと彼女に伝えず与えもせず、ひたすらモノ扱いし続けたために「私たちは負けたのよ」と言われて去られてしまう。
何に負けたのだろう?金もいっぱい稼いでいるのに。
それは、金を稼いだあとに本当に何をやりたいのかトニーにもエルヴィラにもそのヴィジョンがなかったから。だから彼らはヒマを持て余して白い粉を吸って虚しさに耐えなければならなかった。結婚してから先のことが想像できなかったんだよね。
フランクはトニーに「人生を楽しめ」と言っていたが、トニーには楽しみ方がわからなかった。だから、成功したはずなのにすぐに行き詰まる。
で、警察から目をつけられて、その焦りや苛立ちをぶつけたエルヴィラやマニーにも愛想を尽かされ、妹を失い、ついにコカインの山の中に顔をうずめて吸引→超人になって「俺とやり合おうってのか?」とソーサが差し向けた殺し屋たちと1対多数で撃ち合う。
『カジノ』を観て疲れたように、僕はこの手の映画がめちゃくちゃ好きなわけじゃないし、170分ある映画だからそれなりに体力を使いましたが、それでもこの映画は意外と楽しめました。
やっぱり娯楽映画として最後にちゃんとカタルシスがあるからね(^o^)
ギャングと癒着しててたかってくる警官もぶっ殺すし。
ケヴィン・コスナー主演の『アンタッチャブル』(感想はこちら)はもっとメジャーなエンタメ寄りだったけど、この『スカーフェイス』はもうちょっと登場人物たちに寄り添いつつ娯楽性も忘れない、というところでデ・パルマ作品としては僕は結構好きです。コッポラの重厚さともスコセッシの少々アート系入ったギャング物とも異なる、デ・パルマ節炸裂な一品でした。
今年は同じデ・パルマ監督の『悪魔のシスター』(感想はこちら)も観られたし、1本、また1本とこれまで未鑑賞だった巨匠や名優の作品が映画館で観られるというのはいいものだなぁ。
クルージング
ウィリアム・フリードキン監督、アル・パチーノ、ポール・ソルヴィーノ、カレン・アレン、リチャード・コックス、ドン・スカーディノ、ジョー・スピネル、ジェイ・アコヴォーン、ランディ・ジャーゲンセン、ジーン・デイヴィス、ラリー・アトラスほか出演。1980年作品。日本公開1981年。PG12。
夜のニューヨーク。ゲイ男性ばかりが狙われる連続殺人事件が発生。 密命を受けた市警のスティーヴ・バーンズ( アル・パチーノ)は、同性愛者を装い、“ストレート”立入禁止のSM クラブへの潜入捜査を開始する。 毎夜、男たちの性の深淵を彷徨い、身も心も擦り減らすバーンズは、遂に犯人の手がかりをつかむが─。(公式サイトより)
YouTubeで予告を観てリヴァイヴァル上映されることを知って観ようと思ったんだけど、僕が住んでる地域では「ナゴヤキネマ・ノイ」というミニシアターでやっていて、そこは以前は「名古屋シネマテーク」という名前だったのが去年の7月に閉館して、今年の3月に新しい名前でオープン、それから何ヵ月も経ってるけどなかなか足を運べなかったのが今回ようやく行くことができました。
場所も同じで内装が多少変わったぐらいで名古屋シネマテークの時とそんなに違わないんだけど、前はトイレの外に洗面台があったのがなくなっていて、用を足したあとに難儀しました。不便だから手を洗うところを作ってほしい。
あと、室内の明かりをつけずに電気代を節約するためか窓のカーテンが開けっ放しで、夕方だったから西日が入ってきて暑かった。別にカーテン閉めても暗くはならないと思いますが。
まぁ、久しぶりだし伺えて嬉しかったですけどね。席が予約できるようになっていたり、他の劇場と同じように座席指定になってたりと便利になっていたし。また観たい作品があれば行きたいです。
で、観ました『クルージング』。週末だったこともあってかわりと混んでいた。
この劇場では僕は名古屋シネマテーク時代にウィリアム・フリードキン監督の『恐怖の報酬』を観ていますが、あの映画が70年代後期の時代の雰囲気(ってよく知らんが)を濃厚に漂わせていたように、この『クルージング』もなかなかアングラな感じの、僕なんかが観慣れてきたハリウッドの明るいエンタメ作品とはまったく異なる作風で、知らない裏の世界を覗き見る怖さとスリルがありました。
劇場パンフレットは1300円したのでちょっと買えなかったけど、入場特典で缶バッヂもらいました。
クルージング、というタイトルから、以前は海が舞台の映画なのかと思っていたんだけど(冒頭で警察の船は出てくるが)、どうやら「男漁り」という意味のスラングらしくて、だからまぁ、その手の描写が山のようにある。
人が殺される瞬間の映像処理など、ダリオ・アルジェント監督作品などの「ジャッロ」または「ジャーロ」と呼ばれるホラー映画の影響があるようなことを語られてますが、確かに今観るとそういう陳腐にも見えかねない撮影や編集が古臭さを通り越して逆に新鮮でもあって、それこそブライアン・デ・パルマ監督の作品に通じるものも感じる。
…残酷描写もだけど、やはり男性同性愛者たちのSMの世界がなかなか衝撃的でした。フレディ・マーキュリーみたいな口ヒゲの裸のアニキたちがてんこ盛り。
実際のレザー・バーで撮影されたという男たちの狂乱がどこまでリアルなものなのかは僕にはわかりませんが、拳や腕にクリーム塗ってたり、あぁこれが「アナ○フィストファッ○」というものなのか、と思わず肛門にギュッと力が入ったり(リラックス♪)、とにかく男の尻が映りまくるし、ウットリとはしませんでしたがかなり強烈なものがあった。
公開当時はゲイへの偏見を助長するとして抗議されたりもしたそうだし、現在でも問題視されるところはあるかもしれませんが、当事者じゃない人間としてはほんとにこういう世界があるのかな、と思わせられて正直恐怖を感じる部分もあった。なんか出てる人たちが全員ホンモノに見えて。実際に当事者も大勢参加してたのかもしれないが。
前に観た、これも80年代の映画であるジャン=ポール・ベルモンド主演の『パリ警視J』(感想はこちら)で似たような店が出てきたから、ああいう世界は実際にあるんだろうと思いますが。
世の中の男性同性愛者が皆あのようなことをするわけではないのは無論わかるし、これは殺人事件にまつわるサスペンス映画なので、社会派の映画じゃなくて一種の見世物で、そこが批判されるところでもあるんだな。
それにしても、アル・パチーノさんの演技の振り幅は広いなー(^o^)
主人公スティーヴの上司を演じているのはポール・ソルヴィーノ。ミラ・ソルヴィーノのお父さんですね。ミラ・ソルヴィーノはタランティーノと付き合ってましたが、この『クルージング』はタラのお気に入りの映画でもあるそうで。彼以外でも『燃ゆる女の肖像』(感想はこちら)などのセリーヌ・シアマ監督もこの映画のファンなのだとか。
『クルージング』にも登場して一言も発しない全身レザー男が『パルプ・フィクション』(感想はこちら)ではブルース・ウィリスにシバかれて気絶していたし、『マトリックス レボリューションズ』(感想はこちら)にも敵の一人で似たよーなのがいた(そんでキャリー=アン・モス演じるトリニティに蹴り飛ばされて壁にめり込んでいた)。
あのマスクは言葉を発せないような仕様になってるんだろうか。マスクの中で口を開けられなさそうだもんな。
スティーヴの恋人ナンシー役でカレン・アレンが出ていた。日本ではこの映画は『レイダース/失われたアーク』(感想はこちら)と同じ年に公開されたんだな。
この映画での出番はけっして多くはないけれど、彼女はスティーヴが帰るべき場所を象徴するような重要な存在で、異性愛者のスティーヴが潜入捜査のためにゲイのフリをしながら生活する中で、耐えられなくなって彼女のもとへ帰ってベッドをともにする場面が何度も挟まれる。
しかし、捜査が進むにつれてその恋人との夜の営みがご無沙汰になって…というのがわかるようでわからない。
でも、たとえばトランスジェンダー、もしくはトランスヴェスタイト(クロスドレッサー)のダヴィンチ(ジーン・デイヴィス)たちに嫌がらせする警官たちの一人(ジョー・スピネル)がゲイバーに入り浸っていたり、厳格な父に認められることを望んでいた大学生のステュアート(リチャード・コックス)がやはり夜な夜な同じ店にやってくるように、つまり普段は自分の性的指向を隠している者たちは現実にいるのだろうし、また「目覚めていく」者だっているのかもしれない。
この映画は、スティーヴがもしかして新たな殺人を?という、かなり無理やりな結末で物語を破綻させているし、この年のラジー賞にノミネート(最低作品賞、最低監督賞、最低脚本賞)されもしたようで(笑)それもむべなるかな、というところではあるんですが、でも特に前半のあの迫真性のある描写の数々や、パチーノさんの熱演は捨てがたく、僕は『スカーフェイス』とは違う部分で楽しめたし、見応えある作品だったと思います。
人によって評価がかなり変わる作品だとは思いますが。
容疑者の取り調べ中にいきなり部屋に入ってきてスティーヴをひっぱたく黒人マッチョには笑ってしまった。誰!?ってw スティーヴも「なんで殴るんだ!?」って混乱してるし、そのあと別の部屋で裸のままで新聞読んでるし。だから誰なんだよ、あんた^_^;
ガキ使の「笑ってはいけない」かっ、って思った(タイミング的に例えが不適切かもしれないが、例えずにはいられない)。
どういうつもりであんなシーンを撮ったのか生前のフリードキン監督に聞きたかった。
『ゴッドファーザー PART II』でダイアン・キートン演じる妻のケイを助走つけて殴ってたアル・パチーノが、ここでは尻丸出しの黒人マッチョに殴られて壁まで吹っ飛んでる姿は最高だった。あのシーンを見られただけでもこの映画を観た甲斐がありました(^o^)
いやぁ、濃ゆい2本だったな。
アル・パチーノさんは僕は最近観たのは『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』や『アイリッシュマン』、それから『ハウス・オブ・グッチ』などだけど、怒鳴りまくるキレ芸みたいなのが確立されたのは『スカーフェイス』あたりなんだろうか。
パチーノさんって、70年代から80年代ぐらいにかけて劇的に顔つきが変わったと思うんだけど、『スケアクロウ』から『クルージング』を経て『スカーフェイス』と、今年はその顔つきの変化の様子をたどるような面白い鑑賞経験ができました。
彼には80代半ばになってもぜひ新作でそのブチギレ演技を見せ続けていただきたいですが、怒鳴ったり怒ったりしていない時のパチーノさんの演技も僕は好きなんですよね。
若い頃には間違いなく色気があったし、それは今でも消えてはいない。
まだまだ観ていないアル・パチーノの映画は何本もあるから、これからそれらと新たに出会える日を楽しみにしています。
関連記事
「ゴッドファーザー」三部作
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
『アイリッシュマン』
『ハウス・オブ・グッチ』
『バットマン リターンズ』
『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』
『ウルフ・オブ・ウォールストリート』