※以下は、2011年に書いた感想に一部加筆したものです。
ウォルフガング・ペーターゼン監督、バレット・オリヴァー主演『ネバーエンディング・ストーリー』。1984年作品(日本公開は85年)。
リマールの「ねばえんでぃんぐすと~ぉりぃ~~♪」の歌でおなじみのあの犬みたいな顔したドラゴンが出てくるファンタジー映画。
いじめっ子に追われて逃げ込んだ書店から不思議な本を持ち出したバスチアン少年は、学校の物置でその本「はてしない物語」を読みはじめる。
本の中の世界“ファンタージェン”は、すべてを飲み込んでしまう“虚無”によって滅びようとしていた。破滅からファンタージェンを救うために勇者アトレーユは旅立つ。
僕のフェイヴァリット・ムーヴィーで、とても大きな影響を受けた作品。
劇場公開時に映画館で観て感動して、さっそくおこづかいをはたいて原作の「はてしない物語」を買いました。立派な装丁の分厚い本でけっこういい値段だった。繰り返し読んで、今でも実家にしまってあります。
DVDも持ってたけど、人に貸したら借りパクされてしまった(ノДT)
で、ひさしぶりに観たくなって。
以下、映画と原作「はてしない物語」のネタバレがあります。
何年かぶりに観て、あらためてシンプルな映画だったんだなぁ、と思った。
上映時間は約1時間半。
多分、今これを原作に忠実に撮ったら軽く3時間を超えると思う。
たしかに長大な原作を強引に90分程度におさめようとしたために、これから主人公の冒険と本当の試練がはじまる、というところで映画は終わってしまうし、後述するようにラストシーンが原作の精神を踏みにじる結果となってしまっているのが実に残念。
それでも、今現在、もっとも原作に近いテイストの映像化作品だと思う。
続篇も作られたし、それ以外にもドイツでTVドラマ化されたのも観たけど、完全なキッズ・ムーヴィーで原作とは別物になっていた。
この映画は30年近く前の作品で、今のVFXを駆使した映画に比べると特に特撮部分がちょっと苦しい、というような感想を目にするけど、僕はいまだに象牙の塔(エルフェンバイン塔)がはじめて映る場面のあの美しさに勝る特撮美術を見たことがない。
その後、『ハリー・ポッター』『ロード・オブ・ザ・リング』『ナルニア国物語』などがシリーズで映画化されて僕も観たけど、ヴィジュアルでこの『ネバーエンディング・ストーリー』を超える感動を得ることはなかった。
もちろんそれは記憶のカラクリで、多感な少年時代に観た映画が僕の中ですでに思い出の一部となって過度に美化されている可能性はおおいにある。
だから最近のファンタジー映画をこの作品と比べてどうのこうのというつもりはないですが。
ただひとついいたいのは、ファンタジーにかぎらないけど、映画の出来の良し悪しは技術力だけではない、ということ。
映画に技術は不可欠だけど、それがすべてじゃない。
なにかというと「昔の映画は特撮がショボいからつまらない」というアホ(あえてアホよばわりさせてもらう)がいるけど、そういう輩は想像力が欠けてるんだと思う。
モノクロ映画は色がないからつまらない、サイレント映画は声が入ってないからつまらない、といってるのと同じで。
その時代その時代に可能な技術を総動員してスタッフの知恵と工夫によって作られた映画には、技術の限界を超えた素晴らしさがある。
もうひとつ、この『ネバーエンディング・ストーリー』にはどこかヨーロッパの香りがする。どこがどうとはうまく説明できないけど、特に特撮美術に。
この映画はアメリカと当時の西ドイツの合作でキャストはアメリカ人だけど、音楽を担当したクラウス・ドルディンガーはドイツ人(もうひとりはイタリア人のジョルジオ・モロダー)。
撮影にドイツのスタジオを使ったかどうかは確認してないけど、たしか美術にはドイツ人スタッフがいたはず。
だからデザインの雰囲気が他のハリウッド製ファンタジー映画とちょっと違う気がする。
続篇ではこのヨーロッパ色が薄らいで、よりアメリカナイズされた普通のハリウッド映画っぽくなっていた。
ところで、この映画で一躍有名になって、現在でも「懐かしの名子役」みたいな特集ではかならずといっていいほどとりあげられる3人の子役たちがいる。
主人公バスチアン役のバレット・オリヴァー。
ファンタージェンを“虚無”の脅威から救うために遣わされた勇者アトレーユを演じたノア・ハザウェイ。
そしてファンタージェンを統べる女王“幼ごころの君”役のタミー・ストロナッハ。
『ネバーエンディング・ストーリー』といえば即座にこの3人の顔が思い浮かぶほど彼らの印象が強かったために、その後それぞれ別のキャストで作られた続篇2本には「1作目とイメージが違う」と不満を述べるファンも多かった。
また2作目と3作目は原作を大幅に改変しているので(特に3作目はほぼオリジナルのストーリー)、現在までのところ原作にもっとも近いのはこの1作目である。
ただし、その1作目もラストを「バスチアンがファンタージェンで得た力でいじめっ子たちに仕返しする」という原作にはない展開にしたために原作者エンデの怒りを買って、のちに訴訟問題にまで発展した。
たしかに、作品の訴えかけるメッセージとはまったく正反対の結末だから原作者が怒るのも無理はないと思うが。
原作でのバスチアンは肥満児だが、映画で彼を演じたバレット・オリヴァーは小柄でかわいい顔の少年。
アトレーユや幼ごころの君も、映画で描かれた彼らの姿は原作者がイメージしていたものとは違うようだが、ハザウェイやストロナッハが演じたキャラクターは多くの観客に記憶されることになった。
主演のバレット・オリヴァーはこの作品の他にも『ダリル』や『コクーン』、そしてティム・バートンの短篇『フランケンウィニー』などに出演。俳優業をしていたのはだいたい80年代ぐらいまでで、その後は裏方の仕事をしたり写真家として活躍している模様。
ノア・ハザウェイはCMやTVドラマ『宇宙空母ギャラクティカ』に出演したのち、この『ネバーエンディング・ストーリー』でその美少年ぶりが人気を呼び、86年の『トロル』では主演を務めた。
日本版Wikipediaには94年に出演した映画を最後にフィルモグラフィの記載がないが、*12012年末に銀座シネパトスで公開された『SUSHI GIRL』に『スターウォーズ』のルーク・スカイウォーカー役のマーク・ハミルとともに(あとダニー・トレホや千葉ちゃんも)出演している。
現在の彼は美少年時代に比べるとずいぶんとやつれ気味なのが気にかかるものの、ちょっとブラッドリー・クーパーをおもわせる精悍な顔つきのお兄さんになっていた。
そしてタミー・ストロナッハ。彼女は『ネバーエンディング~』に出演したのち映画界を引退、現在はダンサーとして活動している。YouTubeでも現在の彼女の姿が観られます。
その後のタミー・ストロナッハの写真を見たとき、なんだかもう、昔あこがれた同じ学校の女の子の近況を何十年かぶりに知ったような感激に胸が熱くなったのだった。“幼ごころの君”はステキな女性に成長していた。
と、おもわずテンションが上がってしまうほど、少年の日の僕にはあの“幼ごころの君”のインパクトは強かったんである。
当時この映画を観て、この世にはこんな妖精のような女の子がいるんだ、と思った。
その後出演作品をまったく見ないと思ったら、この映画1本に出たきり映画界を引退していた。
タミー・ストロナッハの“幼ごころの君”を忘れられない人は僕以外にもけっこういるようで、定期的に「彼女は今どうしていますか?」という質問がネットにあがったりする。
実は映画の中で“幼ごころの君”が登場するのはエンディング間際で、出演時間は8分ほど。
象牙の塔の中でベッドみたいな玉座に座ってアトレーユと話すシーンと、暗闇の中でバスチアンにファンタージェンの砂の粒を手渡すシーンのみである。
そのわずかな出演時間で、彼女は当時のあの姿のままずっと世界中の人々の心の中に棲み続けることになった。
とりわけ記憶に残っているのが(たしか日本版の予告篇でも流れてたような気がする)バスチアンにむかって「バスチアン、プリ~ズ!!」と涙を流す場面。
ところがこの有名なシーンは原作にはない。
原作の幼ごころの君は、いつまでたっても自分に新しい名前をつけてくれないバスチアンに業を煮やして“さすらい山の古老”のところへ赴く。彼は「はてしない物語」という本を書いている。
古老が最初からこの“物語”を書きはじめて、女王がやってくるまでを書き終わり、その物語の中でさらに古老が物語を書きはじめて…と永遠に続きそうになる。
さすがのバスチアンもその“永久ループ”に耐えられなくなって、ファンタージェンへ旅立つのである。
原作の幼ごころの君は、見かけは少女だがつねに落ち着き払っていてけっしてとり乱したり泣くことはない。
映画の中でタミー・ストロナッハが演じた可憐ではかなげな女王に原作者は不満だったのかもしれないが、たった1本の映画でファンタジー映画史に残る存在感を残した彼女の姿はいつまでも色褪せることはない。
懐かしの元子役御三方の最近の写真もあるけど、それぞれなかなかショッキングだったりもするんで、夢を壊さないためにここにはあえて貼りません。
かつてファンタージェンの住人だった彼らも、今は“人間”として普通に歳をとっていってるということですね。
ちなみに大きなカタツムリに乗った小人さんを演じているのは大塚範一アナ…ではなくて、のちの『チャーリーとチョコレート工場』のウンパルンパの人でした。
さて、子役といえば、これまたかつて1本の映画で「天才子役」として世界的に有名になったひとりの女優がいる。
僕は彼女が演じた黒髪ボブのあの少女のことも忘れられないが、それはまた別の話。別の機会に話すことにしよう。
※ウォルフガング・ペーターゼン監督のご冥福をお祈りいたします。22.8.12
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『E.T.』
*1:その後、加筆された模様。