映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

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「21人いる!」


放送からだいぶ経ってしまいましたが、9月30日(土) 15:00-17:00にNHKEテレでやっていた「青春舞台 2023」を観ました。

高校演劇の全国大会「全国高等学校演劇大会」。 地区予選に全国約2000校もの演劇部が参加し、都道府県大会・ブロックの大会を勝ち抜いた12校が7月30日から8月1日に鹿児島県で行われた大会に出場しました。「青春舞台2023」では、第1部では、各校の活動や大会の様子をご紹介するとともに、高校生たちが演劇に力を込める姿をお届けします。第2部は日本一へ輝いた最優秀賞受賞作品をノーカットでお送りします。


去年もこの時期に「青春舞台 2022」をやってて、番組内で上位何校かの作品紹介と最優秀賞受賞校の上演作品がノーカットで放送されていました。

ei-gataro.hatenablog.jp


毎年特にいつどの時間帯で放送するか定まっていないようで、去年は木曜の深夜だったのが今年は土曜の夕方と、前もって知らないと気づかずに観逃しちゃいそうな扱い。

僕は運よくたまたま2年連続で観られましたが、NHKさんは告知の方をもうちょっとしっかりやってくれるとありがたいんですけどねぇ。

今のところ、地上波での番組の再放送の予定はないようですし(NHKプラスでの配信はすでに10/7で終了)。う~ん。いい番組だったから大勢の人に観てもらいたいんだけどなぁ。もったいない。

ともかく、今年も高校演劇の全国大会の最優秀作品が観られてよかった。


最優秀賞
徳島県立城東高等学校21人いる!」(作:吉田晃弘)。


「演劇部」の部員たちの地下室での活動の8月1日から8日まで。

「ボランティア」に選ばれた3年生“アオ先輩”と、20人の部員たち。彼らは全員「色」で呼び合っている。

地下室には水や食料などが備蓄されている。

部員たちの何気ない日常でのやりとりを描きながら、しかしやがて不穏な空気を感じさせ始める。「ボランティア」と呼ばれる活動の意味するものとは。彼ら演劇部の活動場所は、なぜ地下室なのか。

“ビリジアン”と呼ばれる男子部員は、自分がその呼び名のせいで「普通じゃない」とされて他の生徒たちと同じように扱われないことへの憤りを吐露する。

そして、日が経つにつれて一人、また一人と減っていく部員たち。

警報と爆撃音が鳴り響く中で音楽は高鳴り、踊ることは切迫感を帯びてくる。

演劇をすること、部活動をすること、ダンスして冗談言い合って恋をする──が青春そのものと重なり、人生と重なり、それが奪われていくことを描くことで、学校が、私たちのこの日常が、戦火の中のウクライナと重なる。

これまで「色」で呼ばれていた部員たちが、最後に一人ひとり本名で呼ばれていく。

みんながそれぞれの色のTシャツを着て部活動をすることのかけがえのなさ。

「21人いる!」という叫びは、私たちはここにいる、という彼ら若者たちの、すべての人々の強い叫びだ。誰一人欠けても失われてよい存在でもない。

去年観た愛媛県松山東高校の「きょうは塾に行くふりをして」も3年間の高校生活という限られた期間、そしてそこでの「演劇部」の活動を描いている、ということで共通しているんですが、「コロナ禍」にさらに「戦争」という要素が加わったことで、本当に何か絶望的な思いを見るようです。

ウクライナで、それからイスラエルパレスチナガザ地区で、激しい攻撃の応酬があり、一般市民が多数殺されている。

この「21人いる!」も「きょうは塾に行くふりをして」がそうだったように顧問の先生が台本を書かれたようだけど、僕たちが住むこの国もまた、けっして戦争とは無縁ではない、という意識はおそらく学生の人たちにもあると思う。

「戦争」はどこか遠いところでの出来事ではなくて、僕たちの「普通の生活」と直結する。ある日いきなり空からミサイルが降ってくる。そして破壊され殺される。…でも、注意深く見ていれば、それ以前から予兆はいくつもある。

ボランティア?なんの?どうしてそれで命を失うの?

作品の中で、演劇をすることと生きることが結びついている。

取り戻すことができない時間を失うということは、人生の中の本当に大切な何かを失うことでもある。

「きょうは塾に行くふりをして」の感想でも書いたけど、現役の高校生たちが演じる芝居だからこその切実さがここにはあって、そしてこれは「演劇」じゃないと成り立たないんですよね。

たとえばシナリオをまったく変えずにこれを映画で撮ったらどうなるかというと、おそらくあまり面白くないだろう。

演劇には演劇じゃないと成立しない作品というものがある。

「セーフ!」と言いながら毎度滑り込んでくるキャップをかぶった女子部員のルーティーンギャグも、映画でこれをやったらシラケるだけだ。でも舞台上のお芝居だとこのリズムが心地いい。

お約束ギャグ担当だった彼女が発したあの台詞に、冗談を言い合って笑い合っている日常の中で、でもほんとはみんないろんなことを考えているし、そして悲しんでもいるのだ、ということがわかる。そんな当たり前のようだった毎日が奪われる。

観客は芝居の進行中に舞台上の何を見ていてもいい。舞台では時にいくつものことが同時に起こりもする。

録画された映像よりも、上演会場で生で観るのが望ましい。

それでも、こうやって映像ででも観られることのありがたさ。

僕が高校生の頃には地上波で高校演劇の全国大会最優秀賞受賞校の作品が放送されることなんてなかったから、観たくても観られなかったんだよね。

実際に全国大会に足を運ばなければならなかった。それは僕にとってはかなりハードルが高かったから、観にいきたい、とさえ思わなかった。

僕自身は高校時代に全国大会どころか県大会に行くことすらなかったし、不真面目な部員で部活をサボるために講評委員になった時(これは多分、2年生の春の合同発表会の時だったと思うが)には他校の作品を観ながらよく居眠りしていた。

ほんとに一所懸命やってたのは1年の時の夏だけだったかも。

全国大会レヴェルがどんなものかさえ知らなかった。だからそれらを観て圧倒されたり感激して自分も芝居に打ち込む、ということもなかった。

演劇が特に好きではなかったんだよな。その後、興味は映画に移っていったし。

だから本気で芝居に入れ込んでいる人たちの姿を見て、本当に自分を恥ずかしく思ったし、申し訳なくも感じた。

去年と今年に(それ以前にも「アルプススタンドのはしの方」も観てますが)久しぶりに高校演劇を、それも全国大会最優秀賞受賞作品を観て、自分が高校時代に取りこぼしていたもの、観ておくべきだった作品を30何年かぶりに観させてもらっているような、そんな気持ちがしたのです。

↓こちらは映画版の感想
ameblo.jp


自分が作れなかったもの、自分が観られなかったもの、置いてきてしまったもの、忘れてきてしまったものが目の前にあった。

だから、このお芝居に出演された、スタッフとしてかかわられた高校演劇部の皆さんに心からお礼が言いたいです。顧問の先生方にも。

「21人いる!」はYouTubeで期間限定配信されていますから、まだ観ていないかたがたもぜひご覧になってみてください。

2023年12月28日 午後4時まで期間限定配信
https://www.youtube.com/watch?v=CUl-Y-10DKA


番組の紹介の中で、他に個人的に面白そうだなぁと思った上演作品は──

「ヒッキー・カンクーントルネード」大同大学大同高等学校
プロレスラーを目指す25歳の引きこもりの青年のもとへ、どこででも誰とでもすぐに馴染んでしまう「飛びこもり」の男性がやってくる。

「ローカル線に乗って」島根県三刀屋高等学校
ローカル線がめぐった数々の時代を振り返りながら、「乗らなければ見えない風景」についての物語が描かれる。

大同高校さんは同郷なので懐かしいです。講評委員の時に大同高校の同学年の子と仲良くなったなぁ。


優秀賞(上演順)
北海道網走南ケ丘高等学校「スパイス・カレー」

島根県三刀屋高等学校「ローカル線に乗って」

東京都立千早高等学校「フワフワに未熟」

優良賞(上演順)
立川女子高等学校「あのこをさがして」

鹿児島高等学校「本当の朝」

岩手県立水沢高等学校「空に響け!」

大同大学大同高等学校「ヒッキー・カンクーントルネード」

香川県立観音寺第一高等学校「事情を知らない風間さんがぐいぐいくる」


音楽などの権利の問題もあって、今のところ配信で観られるのは城東高等学校の「21人いる!」と東京都立千早高等学校の「フワフワに未熟」(期間限定配信  https://www.youtube.com/watch?v=l8HLkCxGYlA)だけのようですが、それだけでも貴重な機会ですよね。

来年も、青春舞台、楽しみにしています(^o^) 観逃さないように気をつけなきゃ。


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