映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

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「虎に翼」


4月1日(月) から始まった連続テレビ小説虎に翼」を毎朝観ています。

主演は伊藤沙莉。脚本は吉田恵里香。ナレーターは尾野真千子

日本で女性として初の弁護士、そして判事、家庭裁判所長などを務めた三淵嘉子さんをモデルにした猪爪寅子(ともこ)を主人公に、戦前、戦中、戦後を通して男女平等や人権について描いていく。

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昭和7 (1932) 年、東京。明律大学女子法科に進学した猪爪寅子は女子部の仲間たちと友情を深め、「法律は人を守るもの」という思いを強くする。
昭和10 (1935) 年、共学の本科へ進んだ寅子は、ともに学ぶ関係である男子学生たちの中に表面的な愛想の良さとは裏腹に根深い女性差別の意識があることを痛感する。


すでに放送開始からひと月が経とうとしてますが、実在の人物をモデルにした主人公でありながら子役が子ども時代を演じることがなくて、いきなり伊藤沙莉さんのパートから始まるのは珍しいですよね。

それから、主要登場人物のほとんどが女性、というのも。


もちろん男性も何人も出てくるし、女性たちがメインのようにして描かれる作品は、これまでにも「花子とアン」や「べっぴんさん」などいくつもあるけれど、物語の中心に「女性」の存在があって、世の中の女性を取り巻く多くの問題を題材として扱っている、ということでは、このドラマは「こういう方向で進めます」と最初から宣言しているような作りで、そこんところで人によっては反発や危惧を覚える向きもあるようで。説教くさい、と。

でも、それ以上に「こういうドラマが観たかった」という肯定的な反響が大きいですね。各方面の人たちが注目しているのがわかる。

少し前に民放で放送された宮藤官九郎さん脚本によるドラマ「不適切にもほどがある!」も賛否が分かれていろいろと議論を呼びましたが、なんていうんでしょうかね、僕にはこれはあのドラマに対するアンサー的な作品に思えるのです。

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当然ながら、この「虎に翼」は「ふてほど」の放送よりもはるか以前に企画された作品だから、両ドラマがこの時期に続けて放送されたのは偶然でしょうが、「ふてほど」以上にタイムリーな題材だと言われるだけに、これは作り手のかたたちも意識せざるを得ない現実の社会の諸問題、あるいは「今、何が問題とされているのか」について意見を言わずにはいられない現状があるということでしょう。何が問題なのかもわかっていない人も大勢いるから。特に男性に。

現政権が強引に進めている「共同親権」についても、そもそもなぜ妻が子どもを連れて家を出ていかなければならないのか、その原因について深く議論もされないまま、そして弱い立場にいる人たちを法律で守る体制がちゃんと取られないままで、ほとんど加害者を守るような「家族制度」を堅持しようとしている姿勢には疑問を抱かざるを得ない。何をそんなに焦っているのか。

朝ドラ「虎に翼」は、そんな現実社会への疑問に対して一つひとつ「はて?」と寅子に言わせる。おかしくないか?と。

寅子をはじめ登場する女性たちも個性豊かで、それぞれの立場やこれまでの人生において抱えてきた問題も異なる。当然、価値観や意見がぶつかり合うことも。

それでも女性たちが手を取り合い、「シスターフッド」によって支え合う姿からは大いなる可能性が感じられる。

一方で、女性を見下す男たちに時に暴力を振るってしまう寅子や山田よね(土居志央梨)にも問題はないか?とドラマは問いかける。


家庭内で同じ女性同士でも生まれてしまう格差が提示されたり、ともに学ぶメンバーの中に朝鮮半島からの留学生がいることなどからも、これは男女の間の問題だけに限らず、また日本人の間だけの問題でもなくて、すべての人々にかかわる「人権」について物語ろうとしているんだろうと思います。


だって、今この国でもっとも軽んじられているのが「人権」ですから。

生まれながらにして誰もが平等に持っているはずの「基本的人権」。それがないがしろにされている。法律が弱者を守っていない。それは寅子が信じる「法」の理念から大きく外れた状態だ。だからこそ、今このドラマは作られる必要があった。

去年公開されたハリウッド映画『バービー』(感想はこちら)も、一見「男女間の対立」を描いているようでありながら、「有害な男らしさ」に支配されている男性たちの問題を炙り出していたけれど、「虎に翼」はもっと広い射程を狙っているんだと思う。よりリアリティを感じられる「平等」についての物語を。


僕はこれは、前作「ブギウギ」がちょっとやりかけて、でもやり通せなかったことを引き継いでいるようにも思えるんですよね。

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主人公・スズ子を応援する夜の街の女たちの存在──社会で無視され、一方ではアメリカの占領下で都合よく利用もされてきた女性たちの声がブギの女王を支えた、という史実からいろいろと汲み取れるものもあったんだけれど、エンタメの明るさとその力が社会に及ぼす素晴らしい効果を描いたあのドラマで、女性たちが自己主張する姿はまだ控えめだった。

スズ子のモデルである笠置シヅ子さんって、三淵嘉子さんと同い年なんですよね。亡くなったのも80年代の近い時期。

それは偶然だけど、このほぼ同時代に生きたふたりの女性がそれぞれモデルになったドラマが続けて作られることには、僕は必然性があったんだと思います。

時代が彼女たちを招聘したのだ、と。

ちなみに笠置シヅ子さんは映画『のんき裁判』(1955) で弁護士を演じてもいました。「虎に翼」のOPで寅子が着ている法服を思わせますね。


伊藤沙莉さんは笑顔が可愛いし、そのユーモアと愛嬌のある演技はさすがですが、でもけっして「女は愛嬌」ではない、ということを「よね」という登場人物でドラマは示しているし、これから寅子は愛嬌ではなくて論理で法の世界を渡っていくのだろうと期待しています。


それにしても、まだ始まってひと月、いやもうひと月と言うべきか、でも凄い疾走感で進んでますよね、このドラマ。こんなハイペースで半年間もつんだろうか。

描くべきことは、まだまだいっぱいあるということでしょうね。

4週目が終わって、男子生徒たちとのわだかまりも本音で語り合ったことで溶解しつつあったところに、寅子の父・直言(岡部たかし)が贈賄の容疑で逮捕されるという寝耳に水な大事件が勃発。これも史実をもとにしているんですね。

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史実では三淵嘉子さんの父親と帝人事件は無関係だろうけど(ただし、父親は帝人事件にかかわりのあった台湾銀行に勤めていた)、それをあえて絡めたというのは、ドラマの中で司法について語るべきことがあるからでしょう。

日本は今、三権分立すら守られていないようなデタラメな国になってしまっている。

このドラマは、登場人物たちが、それからナレーションが饒舌だと言われますが、「言葉」ではっきりと物申すこと、疑問を呈し反論すること、その大切さを訴えていると思いますね。

その作劇にはいろいろご意見もあるでしょうが、僕は毎朝この刺激的なドラマを楽しみにしています。まずは脚本の吉田恵里香さんはじめ作り手の皆さんの挑戦に拍手を送りたい。


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