ブライアン・デ・パルマ監督、マーゴット・キダー、ジェニファー・ソルト、チャールズ・ダーニング、ウィリアム・フィンレイ、ライスル・ウィルソン、オリンピア・デュカキス、ドルフ・スウィート、バーナード・ヒューズほか出演の『悪魔のシスター デジタルリマスター版』。1973年作品。日本公開74年。
音楽はバーナード・ハーマン。
モデルの女性ダニエルは、テレビ番組のエキストラ役をきっかけに知り合った青年と一夜をともにする。翌日、向かいのアパートに住む女性記者グレースは、ダニエルの部屋で青年が惨殺される場面を目撃。探偵ジョセフの協力を得て調査に乗り出したグレースは、ダニエルがかつて結合双生児であったことを知る。(映画.comより転載)
ネタバレがありますのでご注意ください。
去年、この映画がリヴァイヴァル上映されると知って、地味に楽しみにしていたんですよね。
僕はこれまでデ・パルマ監督の映画ってそんなに観ていなくて、特に初期の作品は大好きな『ファントム・オブ・パラダイス』、それから『キャリー』以外はノーチェックだった。
『フューリー』や『ミッドナイトクロス』はDVDを持っていたにもかかわらず未視聴のまま紛失。
この『悪魔のシスター』もタイトルだけ知ってて観たことがなかったけれど、主人公を演じているのが「スーパーマン」シリーズのヒロイン、ロイス・レイン役で有名なマーゴット・キダーということで気になっていた。
彼女が主演する映画どころか、そもそも「スーパーマン」シリーズ以外でもメインキャストとして出ている映画を観たことがなかった。
『スーパーマン』(感想はこちら)の1作目のあとに出た『悪魔の棲む家』(1979年作品。日本公開80年)もタイトルを知ってるだけ。オリヴァー・リード主演の『家』(1976年作品。日本公開77年)とごっちゃになってるし。
『悪魔のシスター』とか『悪魔の棲む家』とか、“悪魔”づいてますが。
ちょうどオカルト映画全盛期だったんだな。とにかく邦題にやたらと“悪魔”がついていた。
まぁ、『悪魔の棲む家』はともかく、この『悪魔のシスター』は悪魔全然関係ないですから。
シャム双生児(結合双生児)の話なんだけど、別に医学的にどうとかいうもんじゃなくて、かつて腰のあたりで結合していた双子の姉妹・ダニエルとドミニクをマーゴット・キダーが演じていて、彼女たちが分離手術を受けたことで起こる事件を描いた、スリラーというかホラー仕立ての要するに非常に軽薄な見世物的作品。
ヒッチコックの『サイコ』をまんまやってる感じで、さらには事件の真相を探るジャーナリストが精神病院の患者だった、と思い込まされる、という『カリガリ博士』もやってて、それを「面白い」と感じるか「くだらない」と感じるかは観る人の好みにもよるでしょう。お話自体は実にお粗末で、死んだはずの双子の妹が姉に乗り移るようにして殺人を行なっていた、というオチも腑に落ちない。
ドルフ・スウィートが演じる刑事が全然役に立たないところは、『エクソシスト』(感想はこちら)っぽくもある。こちらは超常現象は起きませんが。
劇中での結合双生児や精神病患者の扱いは現在では偏見を助長する差別的な表現と見做されるだろうし、だからいかにも70年代的なゲテモノ映画だと思って観てればいい。
偉そうなこと言えるほど「70年代の映画」を観てるわけじゃないですが、なんていうのかな、独特の気持ち悪さに溢れていて、画面のチープさとも相まって逆にそれが妙な魅力になっているんですね。
ブライアン・デ・パルマ監督は、初期にはヒッチコックの亜流、というか彼自身がモノマネ監督みたいに言われたようだし、高く評価する人たちもいる一方でバカにする人たちもいたんでしょう。
悪いけど、それはこの映画を観てよく理解できた。安っぽいもの。昔の映画の真似っこが目立つし。
だけど、その安っぽさがひと廻り、ふた廻り以上して、その怪しさ、ペンキをそのまま垂らしたような血糊の表現とか、毒々しさ(ライスル・ウィルソン演じるフィリップが買ってくる身体に悪そうな色のケーキも)は、今の映画にはない、あの時代ならではの作品になっているんですよね。
マーゴット・キダーさんって、ロイス・レインの「おきゃん」なイメージがあったけど、あれは演技というよりも幾分彼女自身の性格を反映していたんじゃないかなぁ。
ロイス・レインは一応「自立したヒロイン」という設定なんだろうけど、あのシリーズでの彼女はドジっ娘だし、クラークの前では偉そうに小言言ってるくせにスーパーマンの前ではデレる、みたいな、ずいぶんとわかりやすいキャラクターで、それは今観るとキュートなのと同時にどこか不憫でもある。キャリアウーマンとしての彼女が揶揄気味に描かれているんだよな。
この『悪魔のシスター』でも、なんていうか、男への甘え方とか、凛とした女性像とは違ってやたらと隙がある。
キダー演じるダニエルは、同じアパートに住むジェニファー・ソルト演じる記者のグレースと対比するためにああいうキャラクターにしてあるんだと思いますが。
顔立ちや醸し出してる雰囲気なんかも、実に70年代的な美女ですよね、マーゴット・キダーさんって。ちょっとうまく説明できないんだけれど、どこかフリーキーなところがあって。
80年代以降も映画には出ていたけれど、ロイス・レイン以上の役を得ることはできなかったし(メル・ギブソン主演の1994年の映画『マーヴェリック』に信じられないほど小さな役で出ていたっけ。監督が『スーパーマン』のリチャード・ドナーだったから、その縁で起用されたんだろうけど)、2018年に亡くなった時も自殺だということで、ある時期からうまく生き損ねてしまったところはあるんだろうと思う。
僕は個人的には彼女の代表作は『スーパーマンII』だと思ってますが。コメディエンヌとしても素晴らしかったし、どんなに新しいスーパーマンの映画が作られても、僕にとって最高のロイス・レインはマーゴット・キダーです。
彼女が夜をともにするのがアフリカ系の男性であることも、時代を感じさせますね。あえてそうしているわけだから。で、アフリカをモチーフにした店に行ったり。
物語で重要な役割を果たすと思っていたこのフィリップがあっけなく殺される展開は、『サイコ』でのジャネット・リーの役を男女を反転させたものだし、その後、ノーマン・ベイツのもとを訪れる探偵もちょっと入ってるような。
最初、ダニエルの元夫で離婚後もずっと彼女に付きまとっているブルトンの振る舞いに、今ちょうど日本でいろいろと議論もされている共同親権の件でしばしば問題にされるDV夫のことが頭の中で重なって、結構今っぽい映画なのかな、と思ったんだけど、このブルトンがフィリップが殺されて以降、急に存在感を増してきて、ほとんどダニエル/ドミニクの共犯者のような感じになっていくんですね。
あ、想像してたのと全然違うな、と。
演じているのは『ファンパラ』のファントム役でおなじみのウィリアム・フィンレイ(この映画ではビル・フィンレイ名義)。
相変わらず「目」が特徴的なんだけど、でもああやって髪をきっちり撫でつけてかっこいい服に身を包むと、フィンレイさんって結構男前なんだな、って思った。
いや、この映画でもどんどん気持ち悪くなっていきますけどね。
実は彼は精神病院の院長で、患者であるダニエルを守っていた、みたいな結末。
で、グレースの方は彼の催眠術のせいで事件の真相を刑事たちに話さなくなってしまう。
ブルトンの企みは露見することなく、物語は終わる。
安い、安いなぁ(;^_^A
でも、なんだかんだ言いつつも、僕はこの安さと怪しさ満載の映画を楽しめました。
あぁ、『ファントム・オブ・パラダイス』もいつか映画館で観たいなぁ。
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