映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

もう一つのブログとともに主に映画の感想を書いています。

『ファントム・オブ・パラダイス』


ブライアン・デ・パルマ監督、ウィリアム・フィンレイジェシカ・ハーパーゲリット・グレアムポール・ウィリアムズ出演の『ファントム・オブ・パラダイス』。1974年作品(日本公開1975年)。

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Faust
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無名の作曲家ウィンスロウ・リーチ(ウィリアム・フィンレイ)は、カリスマ音楽プロデューサーにしてレコード会社「デス・レコード」の社長スワン(ポール・ウィリアムズ)に騙されて曲を奪われる。ウィンスロウが才能を強く感じた歌手のフェニックス(ジェシカ・ハーパー)はスワンに見いだされて新しくオープンする大劇場「パラダイス」で唄うことになるが、スワンには恐ろしい秘密があった。


僕がこの映画を初めて観たのは1990年代で、深夜にTVでやってたのを録画したものでした。以来お気に入りの1本に。

デ・パルマの作品の中では一番好き。

僕はこの映画を映画館では観たことはないけれど、劇場公開当時に何度も映画館に足を運んで繰り返しこの映画を観たという人たちの気持ちはわかる気がする。

映画館で観たらDVD以上に入り込んでしまいそうだ。

なんでも、いわゆる「カルトムーヴィー」と呼ばれる映画では『ロッキー・ホラー・ショー』とこの『ファントム・オブ・パラダイス』とで人によって好みがハッキリ分かれるんだそうで。

僕は断然この『ファン・パラ』ですね。

というか、『ロッキー・ホラー・ショー』はやはり同じ頃にヴィデオで1度観たきりだけど、内容をまったく覚えていない。多分面白さがわからなかったんだと思う。

『ファン・パラ』の方はといえば、マントを翻し総銀歯に血走った目をカッと見開いたファントムのヴィジュアルが目に焼きついて、その音楽と悲劇的なストーリーにいっぺんに魅了されてしまった。

70年代特有の衣裳や美術、音楽。

僕はあの時代をリアルタイムで知っているわけではありませんが、でも当時でなければ作れない、間違いなくあの時代だけに存在しえた映画の1本だと思う。

物語は「オペラ座の怪人」に着想を得て、そこにダンテの「ファウスト」やオスカー・ワイルドの「ドリアン・グレイの肖像」などを加え、クラシックとあの当時の音楽を組み合わせたロック・オペラ。

僕は音楽のことがまったくわからないんですが、この映画で流れる曲にはとても惹かれる。

小柄で年齢不詳の音楽界のカリスマ、スワンを演じるポール・ウィリアムズが作曲し唄う曲、ファントムことウィリアム・フィンレイやフェニックスことジェシカ・ハーパーたちがそれぞれ唄う曲にもいつも聴き入ってしまう。

そしてクライマックスの「パラダイス」での鳥の衣裳を着たおねえさんたちのダンスにチャカポコ鳴る音楽、ラストのカタストロフへと続く流れにはエクスタシー。あのくだりはいつ観てもほんとにキモチイイ。

物語自体は非常に単純で、音楽だけが人生のすべてである冴えない風貌の主人公と美声の持ち主である歌姫、そして主人公を騙す悪魔が登場する、さながら19世紀の幻想小説のようなお話。

「ドリアン・グレイ」の「若さを保った本人の代わりに絵が年を取っていく」というのをアレンジして「ヴィデオに映った姿が年を取っていく」というふうに変えてあるわけだけど、このアイディアはいかにも映画らしくていい。同じようなオチで今でも短篇が撮れそうな気がする(「世にも奇妙な物語」の一篇みたいな)。

「パラダイス」のこけら落としでマッチョな“おねぇ”シンガーのビーフ(ゲリット・グレアム)が唄う直前の、サイレント映画カリガリ博士』をモティーフにした美術や衣裳、メイクなども映画を通して趣味が一貫していて実にいい。


ビーフはコミカルなキャラで個人的にはわりとお気に入りなんだけど、なぜか主人公のウィンスロウには毛嫌いされていて、彼が作曲した歌を唄ったためにステージで無残に焼き殺されてしまう。

昔、この映画を観た友人が、映画は面白かったけどビーフのキャラはあるミュージシャンを揶揄しているので嫌だった、と言ってました。誰だったか失念してしまいましたが。

Life at Last
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僕は最近のデ・パルマの映画を観ていないし『ミッション:インポッシブル』の1作目をはじめ2000年代の作品群にもちょっとピンときていないので、やはり彼の最盛期は1970~80年前半だと思っています。

ファントム・オブ・パラダイス』に『キャリー』(感想はこちら)、『ミッドナイトクロス』に『殺しのドレス』など、妖しくも変態チックでB級魂炸裂なそのラインナップ。それらに描かれているのは独りで薄暗い映画館に映画を観にきている孤独な観客が共感しまくりなシチュエーションやキャラクターたちばかり。

ウィンスロウを演じるウィリアム・フィンレイはこの映画が代表作で、他には同じくブライアン・デ・パルマ作品やトビー・フーパーのホラー映画などに出演。デ・パルマの2006年の『ブラック・ダリア』にも姿を見せていた。

彼が演じたファントムは一度見たら忘れられない風貌*1で、僕はずっとあのファントムの姿はジョージ・ルーカスの『スターウォーズ*2ダース・ベイダーティム・バートンの『バットマン』のデザインに影響を与えていると信じているんだけど、確証はありません。


喉を潰された(って、自分で勝手にプレス機に挟まれたんだが)ファントムの「P-H-E-N-I-X.」というひずんだ声は、スワンの「PARADISE.」という独特の声とともにいつまでも耳に残る。

ウィリアム・フィンレイは2012年に死去。合掌。


フェニックスを演じるジェシカ・ハーパーは、この映画とダリオ・アルジェントの『サスペリア』のヒロイン役であの時代のアイコンの一人になっている。


小柄の童顔に低めの声というミスマッチ感がよくて、その落ち着いた歌声をもっと聴いていたかったほど。

Old Souls
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ジェシカ・ハーパースピルバーグの『マイノリティ・リポート』にサマンサ・モートンの母親役で出演していたけれど、ずいぶんと年を取ったなぁ、という印象でした。ちょっと顔の感じがサリー・フィールドに似てるんだな。

ウィリアム・フィンレイの瓶底眼鏡にポール・ウィリアムズ白木みのるライクな外見、そして頭でっかちで変なダンスを踊るジェシカ・ハーパー、他にもデブやハゲなどの70年代的なフリーキーな要素。

もう70年代を煮しめたような映画。

何度も言うように、僕は70年代をリアルタイムで知らないしあの時代に特に傾倒しているわけでもないんだけど、でも妙な居心地のよさを感じるのも確かで。

現実の「いま」に居場所のない人間は、あの時代に思いを馳せるのだろうか。

多分童貞のウィンスロウと顔はガキンチョみたいだが女ったらしで老獪なスワン。

そして、アルフレッド・ヒッチコックを師と仰ぎ、当時コンプレックスの塊だったブライアン・デ・パルマが、その女性の趣味(ヒッチコック譲りの金髪好き)とはまったくかけ離れているジェシカ・ハーパーをヒロインに起用して生み出した奇跡の一作。

これはやはり大勢でワイワイとお祭り騒ぎをしながら楽しむ『ロッキー・ホラー・ショー』とは対極の映画だ。

映画館に独りでポツンと座っている孤独な魂に寄り添うような映画。

おそらくマーティン・スコセッシの『タクシードライバー』と併せて観ると孤独感倍増。

『タクドラ』のトラヴィスロバート・デ・ニーロ)もファントムも狂っている。二人とも自分のこだわりや怒りのためなら人殺しもなんとも思わない独りよがりな人間である。

だから彼らはけっして愛されない。その一方的な愛は報われない。

「不死鳥(フェニックス)」の名を持つヒロインの魂(声)を求めながら、それは死ぬまで叶わぬ夢だ。

彼女たちが愛するのはいつだってスワンのように金と名声のある男なのだから。

“声”を永遠に失った男ファントムが唄う歌は今夜も暗闇の中に響き続ける。

エンドクレジットに流れるスワンことポール・ウィリアムズの歌“The Hell of It”の歌詞がふるっている。

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自分ひとりだけを愛し誰にも心を開かず
どうせ人間は死ぬ運命
人生はゲームみたいなもの 騙されることもあるさ
生きるなんてどうせくだらない

なんの取り得もなく人にも好かれないなら
死んじまえ 悪いことは言わない
生きたところで負け犬
死ねば音楽ぐらいは残る
お前が死ねばみんな喜ぶ

ダラダラといつまでも生き続けるより
思い切りよく燃え尽きよう


エクセレント!ブラヴォ~。


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*1:あるブロガーさんの「怪しいガッチャマン」という表現に爆笑。

*2:デ・パルマはまだ未完成だった『スターウォーズ』の試写を観て「これまで観た映画の中で一番のクソ」と酷評してルーカスをヘコませたという。