セルジオ・レオーネ監督、チャールズ・ブロンソン、ヘンリー・フォンダ、クラウディア・カルディナーレ、ジェイソン・ロバーズ、フランク・ウルフ、ウディ・ストロード、ジャック・イーラム、ガブリエル・フェルゼッティほか出演の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』を劇場鑑賞。1968年作品。
西部開拓時代の末期。ブレット・マクベイン(フランク・ウルフ)と結婚してともに暮らすためにニューオーリンズから西部にやってきたジル(クラウディア・カルディナーレ)は、夫となるはずだったマクベインとその子どもたちが何者かに殺されたことを知る。お尋ね者のシャイアン(ジェイソン・ロバーズ)とその仲間の仕業かと思われたが、マクベインの土地を狙う鉄道王モートン(ガブリエル・フェルゼッティ)がならず者のフランク一味にやらせたことだった。フランク(ヘンリー・フォンダ)と因縁があるらしい流れ者のガンマン“ハーモニカ”(チャールズ・ブロンソン)はジルを守り、シャイアンとともにモートンに雇われた殺し屋たちを片付けていく。
一応、ラストにも触れますので、ネタバレが嫌なかたは読まれない方がいいでしょう。
日本では『ウエスタン』という邦題で69年に劇場公開されたセルジオ・レオーネの西部劇が、カットされていた分の25分長くなった165分ヴァージョンで上映されるということで楽しみにしていました。タイトルも原題に近いものに。
タランティーノの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』にあやかって(もちろん、レオーネ作品の方が元祖なわけだけど)、というのもあるのかもしれませんが、ほとんど宣伝らしいこともされていなくて、たまたまいつも利用する映画館でポスターを見て劇場公開されることを知ったのでした。
今回は運よくポスターに気づけたけど、今後も映画館の上映作品をマメにチェックしていないとせっかくの貴重な作品の鑑賞の機会を逃してしまいそう。
僕は『ウエスタン』の初公開版は、昔DVDだったかヴィデオだったかで初めて観て以来、TVでも何度か観た記憶があります。最近もBSプレミアムでやってたようですね。
以前のヴァージョンをちゃんと確認していないので、フランクとジルのベッドシーン以外でどこが付け加えられた部分だったのかわかりませんでしたが。
9月頃にタランティーノの映画の公開に合わせて上映されていたけど、わずか二週間ほどであっという間に終わってしまい、尺が長くて一日の上映回数が限られるためその時は都合がつかずに観られなくてTwitterでボヤいてたら、公式アカウントさんに「再上映される劇場もあるのでご確認を」とご親切にリプライを頂いたので調べたら近くの別の映画館で10/19(土)から再上映されることがわかってホッとした。おかげで無事鑑賞することができました。感謝。
ラストの対決シーン以外ほとんど内容を忘れてたけど、実にシンプルなお話。
結婚相手を殺された若い女性が鉄道王に土地を奪われそうになるが、二人のガンマンの協力で敵を退け、やがて亡き夫の念願だった鉄道の駅と町を作る。
今年は春に同じレオーネ監督の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』も長尺版が劇場で上映されてそちらも観ることができたんですが、僕は『~アメリカ』の方は結構厳しめの感想を書いてしまって、自分でもちょっとショックではあったんですよね。それまでレオーネ作品は僕はどれも楽しんで観てきたので。
で、この『~ザ・ウェスト』の方はもともと好きだったんで不安はなかったし、日本ではソフト化されていないオリジナル版(さらに175分版もあるんだそうだが)とあって、どうしても観逃すわけにはいかなかった。
会場はこの映画のファンと思しき年配のかたたちが多かったけど、初めて観るらしいカップルのお客さんもいたりして、やっぱりタランティーノ経由かな、なんて思ったり。
相変わらずバックのエキストラの数やセットの作り込みがスゴくて、CGなどない時代のすべてがキャメラの前に用意されていて本当に写ってることの贅沢さを実感。
クラウディア・カルディナーレのマカロニ感溢れる顔
だって、遠景で映ってるだけなのにほんとに町一つ作っちゃってるんだもんな。まぁ、マカロニウエスタンの時代だからちょうど日本の往年の時代劇のオープンセットみたいに他の作品と共有していたのかもしれないけど、それでも荒野にあの時代の鉄道が通ってたり、まるでほんとに西部開拓時代にタイムスリップしたような錯覚さえする。
荒野にポツンと建てられた酒場なんかも、当然この映画のために作られたセットなのはわかるんだけど、ほんとにこういう建物がありそうに思えてくる。
鉄道が発達してきて次第にならず者たちが駆逐されていこうとしている時代。そこには過ぎ去っていくもの、消えていくものへのノスタルジーがあって、ちょっと『続・夕陽のガンマン』とも通じるものがある。
ちょうど『続・夕陽のガンマン』の娯楽性を減らして叙情性を増したような感じ。
そのせいかアメリカや日本ではヒットしなかったそうだけど、時期的にアメリカン・ニュー・シネマと重なるところもあるし、翌年公開のサム・ペキンパーの『ワイルドバンチ』を思わせもする。
実際、この映画を観ると無性に『ワイルドバンチ』が観たくなる。『ワイルドバンチ』も以前最初の公開版より7分長い「特別版」が劇場公開されていたから、ぜひまた再上映してくれないかなぁ。
シャイアン役のジェイソン・ロバーズはペキンパーの『砂漠の流れ者』(1970)に主演していたし。あの映画も時代に取り残されていく西部の開拓者の話だった。
僕は時々レオーネとペキンパーの作品が頭の中でゴッチャになることがあるんですが(ジェームズ・コバーンやヘンリー・フォンダなど出演者が重複しているから、というのもある)、ペキンパーの方はどうだか知らないけれど、レオーネはペキンパーの映画を大いに意識していたらしいですね。
今回久しぶりにこの映画を観て、ジェイソン・ロバーズの出番が思ってたほど多くなかったことが意外でした。もっとブロンソン演じるハーモニカと絡む場面がたくさんあったような気がしていたから。
シャイアンは『続・夕陽のガンマン』のイーライ・ウォラックや『夕陽のギャングたち』のロッド・スタイガーのように出ずっぱりではなくて、列車でのガンファイトのあとはラストのハーモニカとフランクの決闘の直前まで出てこない。
『続・夕陽のガンマン』のイーライ・ウォラックのようなコメディリリーフでもない。
それでもなんとなく彼のことが印象に残っているのは、やっぱり『砂漠の流れ者』の主人公とどこか役柄がダブっているからだろうか。
この作品でブロンソンが演じるハーモニカは、「ドル三部作」のイーストウッド以上に寡黙で何を考えているのかよくわからない男として描かれている。
う~ん、マンダム。
イーストウッドと『夕陽のガンマン』のリー・ヴァン・クリーフを足して2で割ったようなキャラクター。
物語自体、その“ハーモニカ”がかつて彼の兄を殺したフランクに復讐するといった、この手の映画で何度も繰り返されてきたもの。
ハーモニカも、そして鉄道王の下で殺し屋稼業をしながら大物になることを夢見ているフランクも、シャイアンもまた「消えていく者」なのだ、ということを語っている。
ストーリーはありきたりだけれど、レオーネ作品の独特のゆったりとした時間の流れの中で西部開拓時代の雰囲気をじっくりと味わえる。
静けさのあとに響き渡る銃声。モリコーネの音楽。
この時間の引き延ばし方、映画全体を流れる時間感覚は、なるほど、クエンティン・タランティーノがレオーネに多大な影響を受けているというのがよくわかる。
女性の歌声が入ったジルのテーマと、エレキギターの「ビィィィ~ン!」という響きに痺れる闘いの時のメロディ、ハーモニカが馬に乗ってる時にかかるのどかな曲。だいたいこの3曲が順繰りに流れる。
『~アメリカ』の時も思ったけど、長時間に渡るこの同じメロディの使い回しには少々単調さを感じてしまって、もうちょっといろんな種類の曲を作ってほしいなぁ、と思わなくもないんだけど、でもこのいつまでも耳に残る曲を生み出したということは素晴らしいと思いますね。往年の名作はどれもテーマ曲が秀逸。
メキシコの先住民の少年が歳取ったらブロンソンになる、というのはさすがに無理があると思うんだけど(若作りしたフォンダの顔もなかなか凄いが)、でもこの場面の高鳴るモリコーネ節にはいつ観ても胸が熱くなります。
『続・夕陽のガンマン』の感想にも書いたように、「様式美」の世界をざらついた映画的なリアリズムで表現している。
だいたい、銃を使った決闘なんて西部の世界で紳士的にルールを守って行なわれたわけがないもの。なんの前触れもなくいきなり撃って終わりでしょ。だから、そういうお約束をちゃんと守ってる時点でこれは「西部劇」=フィクションであって“本物の”西部の姿ではない。
でも、だからこそ愛おしくもあるんだよね。冒頭に登場する殺し屋たちの顔。ブロンソンやロバーズ、フォンダの顔。そして麗しきカルディナーレ。
僕はこの映画が作られた時代をリアルタイムでは知らないけれど、でもどこか懐かしいのはこれがもはや映画の歴史の一部だからでもある。
クラウディア・カルディナーレはご健在だけど、監督も含めてこの映画の男たちはもうこの世にはいない。みんな銀幕のあちら側へ旅立ってしまった。フィルムに焼き付けられた彼らの姿を僕たち観客が今、下手すれば50年前の初公開時よりもクリアな映像で観ている。この不思議な感覚。
こうなったら、もうレオーネの監督作品を全部スクリーンで観たいなぁ。
※エンニオ・モリコーネさんのご冥福をお祈りいたします。20.7.6
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