映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

もう一つのブログとともに主に映画の感想を書いています。

『ダーティハリー』


ドン・シーゲル監督、クリント・イーストウッド、アンディ・ロビンソン、レニ・サントーニ(チコ)、ハリー・ガーディノ(ブレスラー警部補)、ルース・コバート(スクールバス運転手)、ジョン・ミッチャム(フランク)、ジョン・ヴァーノン(市長)ほか出演の『ダーティハリー』。1971年作品。日本公開72年。PG12。

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サンフランシスコで無差別狙撃事件が発生。犯人は警察に対し、10万ドルを支払わなければ、次の犠牲者を狙うと通告してきた。殺人課の刑事ハリー・キャラハン(クリント・イーストウッド)は必死の捜査の果てにサソリと名乗る犯人(アンディ・ロビンソン)を追い詰め、ついに逮捕する。しかしハリーの暴力行為が原因で、犯人は釈放されることに。(映画.comより転載)


ワーナー・ブラザース創立100周年記念として去年開催された「ワーナー・ブラザース 35ミリ・フィルム・セッションズ」のラインナップの中から6本が35mmフィルムで上映されていて、すでに去年にリチャード・リンクレイター監督の『ビフォア・サンセット』が上映済み、そしてこの『ダーティハリー』も今月の25日で終了、続いて4本の作品が順次上映されています。チケット料金は一律1100円。

できれば4月5日(金) から上映されるスティーヴ・マックィーン主演の『ブリット』(1968) も観たいんですが。

ei-gataro.hatenablog.jp


35mmフィルムでの上映って、僕は一昨年観た『帝都物語』(感想はこちら)以来なんですが、あちらは小さなミニシアターでの上映だったこともあって映写機の光量が弱めだったのか薄暗くて正直画質的にはかなり観づらかったんで、そういうのを想像していたんだけど、こちらは大きなシネコンのスクリーンだったし、さすがワーナーが手掛けていることもあって映像は綺麗でした。

ところどころ明るい場面で画面がチラチラしてるような気はしたけれど、不自然な感じはしなかったし、「午前十時の映画祭」などでデジタルで上映されている作品などと比べても遜色なくて、これで1100円ならお得だったな、と。

ダーティハリー」シリーズは、僕はこれまでリアルタイムで1本も映画館で観たことはないし、3作目以降も観たことはあるけどほとんど内容を覚えていないんですが、1作目と2作目、特にドン・シーゲル監督による最初の1作目はTV放送で何度か観ています。

BSあたりで字幕版も観たかもしれないけれど、やはり山田康雄イーストウッドの声をアテている吹替版の方が圧倒的に馴染みがある。


この場面は全部オープンセットなんですね。

以前はイーストウッドの声と山田康雄さんの声はだいぶ違うという印象があったんだけど、年を取ってからはともかく、今回の『ダーティハリー』1作目のイーストウッドはまだそんな声がしゃがれていないし張りがあって意外と山田さんの声と違和感なかった。そりゃまぁ、若い頃から今のようなおじいちゃんの声だったわけではないだろうけど。

もう何度も観ている作品だから、それについて今さら語るのもなんだけど、ともかく面白い映画ですよね。100分ちょっとの上映時間の中に、娯楽作品の要素が詰まっている。

僕はあの時代の刑事アクションに詳しいわけでもないし、だからこの映画がハリウッドのアクション映画の歴史の中でどのような位置付けなのかとか、あまりよくはわからないんですが、でも現代の刑事モノに西部劇のガンマンの要素を持たせた、というのは(この作品以前に先例もあるけれど)ほんとに巧いですよね。

一方で、この映画が初公開時にはアメリカで警官の横暴を肯定するような内容として批判された、というのも無理はないかな、とも。

映画評論家のポーリン・ケイルにぶっ叩かれたのは有名ですもんね。「主人公はファシスト」と。

ハリー・キャラハンがファシストかどうかは知らないが、今観るといろいろハラハラさせられる場面や台詞はある。

映画の序盤でハリーが血祭りにあげるのは黒人の銀行強盗団で、そこで彼に腕を撃たれて倒れこんだ犯人の男にハリーはあの有名な台詞を投げかける。

同僚のフランク(ジョン・ミッチャム)が「ハリーはみんなを憎んでいる」と言って、上司から新しい相棒としてあてがわれたチコ・ゴンザレス刑事(レニ・サントーニ)がハリーに「僕のようなメキシコ人は?」と問うと、確か吹替版ではハリーは「特に嫌いだね」と言っていたと思うんだけど(記憶違いだったらごめんなさい)、今回の字幕版では「半黒だね」という台詞になっていた。

意味はよくわからんが、なんか人種差別的な匂いはする。いいのかこの日本語訳で。

もっとも、ここでハリーはフランクに軽くウインクしていて、それが冗談であることを観客に伝えている。また、銀行強盗との撃ち合いのあとには黒人の医師に傷を診てもらっていて冗談を交わしているし、続篇の『ダーティハリー2』で彼の相棒になるのはアフリカ系の男性だ(演じているのは「ロボコップ」シリーズでオムニ社の役員を演じていたフェルトン・ペリー)。3作目では女性刑事、5作目は中国系の男性刑事が相棒と、ハリーは人種的偏見や差別意識などを持ってはいないことになっている。

連続殺人犯のスコルピオ(字幕では「さそり」)が自作自演で自らの顔をボコボコにするのに使うのが黒人の“殴り屋”(そんな商売ほんとにあるのか?)で、彼はわざとその殴り屋に差別的な言葉を吐いて怒らせる。

ただ、スコルピオにしても、標的には黒人を選ぶが、他にも白人女性や神父などもいて、殺人の目的がまったくわからない。単純な人種差別主義者とも違うようだ。

スコルピオは1966年に起こった「テキサスタワー乱射事件」と68~74年に続いた「ゾディアック事件」の犯人をモデルにしていて、また彼はピースマークのバックルを付けたベルトをしている。ヒッピーのイメージもあるんでしょう。

69年にはチャールズ・マンソン・ファミリーによる「シャロン・テイト殺害事件」が起きているから、そのあたりも重ねているんだな。

マンソン・ファミリーのせいで(他にも狂信的なカルト集団はいっぱいあっただろうけど)ラヴ&ピースな若者たちだったはずのヒッピーにイカレた凶悪犯罪者というイメージがついて、それを映画の中で形にしてみせたのが犯行の動機が皆目不明なスコルピオだったんですね。

それは現在の犯罪者にも通じるところのあるキャラクターではある。

本物のヒッピーたちにとっては迷惑この上ないことだっただろうけど。

この映画は、ミランダ警告について語られているし、要するに被疑者の権利に対して、じゃあ、被害者の権利はどうなるんだ、という異議申し立てみたいな形で描いているんだけど、そして映画自体はとてもよくできていて面白いから、凶悪犯であるスコルピオの異常さに戦慄したり、彼を追い、ついに仕留めるハリーに喝采を浴びせたくなるのはよくわかる。

ただ、これは主人公ハリー・キャラハン刑事や被害者の側から観ているから僕たちはそう感じるのであって、もしも自分がまったく身に覚えのない事件の犯人として充分な証拠もないまま逮捕されたり警官から暴行を受けたらどうだろうか。

犯人と疑われた時点で社会的に抹殺されるだろう。たとえ無実でも。恐ろしい話だ。

だから、これはフィクションとして楽しむのは結構だけど、いたずらに「悪人は問答無用で退治しろ」みたいなことを言うべきじゃないんだよな。

僕は『ダーティハリー』は映画としてとても好きだけど、でもこの映画を批判する声も完全に無視すべきではないと思う。

今、某お笑い芸人が性加害疑惑でニュースになっているけれど、もちろん、法的にきちんと調査して真相を究明すべきだし、そのうえで法律に則ってしかるべき措置をとらなければ。法がないがしろにされてはならない。

それから検察官が被疑者を拷問めいた尋問で長時間苦しめている動画が公開されて物議を醸していますが、とんでもないことだ。

犯罪などに関してフィクションと現実を混同している人がたまにいるけれど、そこは勘違いしちゃいけないと思う。

そもそも、劇中でスコルピオは正体やその経歴が謎のままで(本名すら不明のまま)、でもそんなことってあるんだろうか。だってあんな事件にかかわっていて(証拠不充分とはいえ、きわめて疑わしいことに変わりはないのに)、自分で大怪我を負ってハリーを陥れようとまでしていたんだから、本名や家族関係などが調べ上げられても不思議じゃないのに、なぜかほっとかれてる。

だから、モデルがいるものの架空の凶悪犯罪者に現実のそれを重ねても無意味なんだよね。

ちなみに、スコルピオを演じたアンディ・ロビンソンはのちに「スタートレック:ディープ・スペース・ナイン」でカーデシア人のガラックを演じてました。

「ディープ・スペース・ナイン」はTVで観ていて『ダーティハリー』の犯罪者役の人があの役をやってることも知っていたし、ガラックはスコルピオとは正反対のキャラクターだったから、そのギャップも楽しかった。俳優さんは自由自在に役を演じるよなぁ。


スコルピオの声は日本語吹替版では堀勝之祐が演じてたけど、堀さんのスクールバスでの「〽漕げ漕げ漕げよー、ボート漕げよー、ランランランラン、川下り~」の歌は今も耳について離れない。「お前たちが唄わないとママは死んでしまうぞ!」って。

ハリーに足をナイフで刺された時の叫び声やスタジアムで助けを乞う時の泣き叫ぶ声など堀さんは熱演だったけど、字幕版で観たアンディ・ロビンソンさんの演技もさすがでしたね。彼の笑顔と笑い声はほんとにヤバい。

ラロ・シフリンの曲がいいんだよなぁ。

燃えよドラゴン』(感想はこちら)でも使われていた女性のコーラスが不気味。

「スコルピオのテーマ」はレッド・ツェッペリンの「移民の歌」っぽいリズム。

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スパイ大作戦 (Mission: Impossible) のテーマ」もそうだけど、なんかあの時代の曲って独特ですよね。アダルトな雰囲気で、ちょっと怖くもある。

今、新曲でああいうメロディってないもんなぁ。

ダーティハリー2』でもシフリンさんが音楽を担当しているけれど、あのテーマ曲もやっぱり妖しくて好きだ。

ダーティハリー』も『燃えよドラゴン』も、ラロ・シフリンの音楽がなければこれほどの名作にはなりえなかった。

ハリーは3作目ではバズーカを撃ってたし、次第に80年代の『リーサル・ウェポン』や『ダイ・ハード』のように派手なアクション物になっていってハリー自身も不死身になっていくんだけど、1作目での彼はまだ等身大の人間っぽいところがあって、けっしてスーパー刑事じゃない。スコルピオを捜していてアパートの中を覗いていたら通行人たちに寄ってたかって「ヘンタイめ!」とシバかれそうになるし、覆面したスコルピオに殴りつけられて怪我も負う。

そんな生身の刑事だからこそ、その活躍に胸が躍るんだよね。

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いやぁ、初めて劇場で観た『ダーティハリー』、最高でした。

そういえば、イーストウッド主演、セルジオ・レオーネ監督による「ドル3部作」(『荒野の用心棒』『夕陽のガンマン』『続・夕陽のガンマン』)が4K版で3月に上映されるんですよね。楽しみだなぁ(^o^)


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