映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

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『バベットの晩餐会』


ガブリエル・アクセル監督、ステファーヌ・オードラン(バベット)、ビルギッテ・フェダースピール(マーチーネ)、ヴィーベケ・ハストルプ(若い頃のマーチーネ)、ボディル・キュア(フィリパ)、ハンネ・ステンスゴー(若い頃のフィリパ)、ポウエル・ケアン(父・牧師)、ヤール・キューレ(ローレンス・レーヴェンイェルム将軍)、グドマール・ヴィーヴェソン(若い頃のローレンス)、ジャン=フィリップ・ラフォン(歌手アシール・パパン)、Erik Petersén(少年)、Cay Kristiansen(ポール)、リスベット・モーヴィン(未亡人)、ビビ・アンデショーン、ギタ・ナービュ(ナレーター)ほか出演の『バベットの晩餐会』。1987年作品。日本公開89年。

第60回アカデミー賞外国語映画賞受賞。

原作はカレン・ブリクセンの同名小説。

www.youtube.com

19世紀後半、デンマーク辺境の小さな漁村に質素な生活を送る初老を迎えたプロテスタントの姉妹(ビルギッテ・フェダースピール、ボディル・キュア)がいた。そこにパリ・コミューンで家族を失ったフランス人女性バベット(ステファーヌ・オードラン)がやってくる。(映画.comより転載)


「午前十時の映画祭13」で鑑賞。

映画のタイトルや主人公の女性が料理を作る話、というざっくりした内容は知っていましたが、ずっと観る機会がなかった。

で、今年の「午前十時の映画祭」で上映されることを知ってから楽しみにしていました。

といっても、どういう作品なのかわからないから、老人たちが料理を囲む地味で退屈な映画かも、とも思っていたんですが、そして確かにド派手な展開など微塵もないアートシアター系の作品ではあったんですが、でも観終わって静かな感動が湧いてきて、早くも今年観た旧作の中では(って、まだ2本目ですがw)個人的にお気に入りの10本に入るかも、と。

舞台はユトランドの片田舎なんだけど、映画の初めの方ではパリも少しだけ描かれて、時代背景が明らかになる。

時は1871年パリ・コミューンによって国を追われたフランス人女性、バベットとかつては父親が牧師を務めていた老姉妹との出会い。

この姉妹がバベットと同等に、この映画で重要な登場人物ということが冒頭から解説される。

彼女たちは今は老いているが、若い頃は美人姉妹として知られていて、しかし教会以外の公けの場には姿を現わさないために、彼女たちを一目見ようと若い男たちが礼拝にやってきたりする。


結婚を申し込む者もいたが、父親の牧師(ポウエル・ケアン)は「私の務めに必要な娘たちを奪うのか」と言って断わる。

娘たちも父親には従順で、敬虔でつましい生活を続けている。

謹慎で伯母の家に滞在していた軍人のローレンス(グドマール・ヴィーヴェソン)は、姉妹の姉・マーチーネに恋するが、自分の想いは届かないと悟って、軍務に邁進して出世するためにユトランドを去る。

また、パリの有名な歌手アシール・パパン(ジャン=フィリップ・ラフォン)がこの地を訪れて、教会で唄う姉妹の妹・フィリパのその歌声に魅了される。

パリで唄うことも夢ではない、と彼女に歌のレッスンを申し出るパパン。彼女の父親も承諾して、レッスンが始まる。

素晴らしい歌声でパパンと唄うフィリパだったが、突然「もう歌の練習はしたくない」と言い出して、父はその旨を手紙にしたためてパパンの泊まっている宿に届ける。

傷心のパパンはパリに帰った。

マーチーネもフィリパも、父に気兼ねしたのか、それとも“神”の前でそれぞれの欲望を露わにすることを恐れたのか、自らの可能性や欲求を抑え込んでいるようにも思える。

それから時は経ち、父なきあともかつて父を慕っていた者たちとともに信仰生活を続けていた姉妹のもとに、パリから逃げ延びてきたバベットが転がり込む。

家政婦として置いてほしい、と言うバベットだったが、姉妹には彼女を雇う金はない。ただ居場所を求めていたバベットは、無給で姉妹のために働くことに。


限られたお金の中で巧みにやりくりしていくバベット。老いた人々のために毎日奉仕活動をしていた姉妹には、料理や掃除など家のことを任せられるバベットがありがたい存在となる。おかげで奉仕のための貯えも増えていく。そして14年の年月が経った。

変わらずバベットは真面目に働き続けていたが、一方で彼女はパリの知り合いに頼んで宝くじを買っていた。

やがてその宝くじが当たり、1万フランの大金がバベットのもとへ。

ついに別れの時が来たか、と覚悟する姉妹だったが、バベットは姉妹やいつも彼女たちの家にやってきて、なき牧師を偲びキリストの教えを守り続ける村の老人たちのためにフランス式の晩餐会をしたい、と申し出る。

ありがたくその申し出を受けることにした姉妹だったが、バベットがパリから取り寄せた多くの食材を目にして、禁欲的な生活を旨としていた彼女たちは動揺する。


僕は、最初の方で描かれる姉妹と牧師の父との関係が、家父長制による抑圧や搾取に感じられて、一人の人間としての自由を許さず、ひたすら“神”への奉仕を強要する父親に胡散臭さと腹立たしさすら覚えたのでした。

父/牧師は、娘たちと教会員たちの上に君臨している。そして死してなおその存在は大きい。神にも匹敵するような存在として皆から仰ぎ見られている(姉妹の家には父の肖像画が飾られていて、まるで娘たちを監視しているようだ)。

老いた教会員たちの目が、何かに取り憑かれたかのような狂気を帯びていて恐ろしかった。そういうつもりで演出しているわけではないのだろうけれど、怖いもんは怖い。何かを妄信している者たちの顔は、僕には正気を失っているようにしか見えない。


後半で、年老いた教会員たちが互いに仲違いしだすところで、僕はカルト的な集団の崩壊が描かれるのかと思ってちょっと面白くなってきたんですが、この映画は敬虔なキリスト教徒を批判するものではなかったし、でもそんな彼らにバベットの振る舞う豪華絢爛でおいしい極上の料理が一波乱起こす様子を描いていた。


単にいつも質素な暮らしをしている老人たちが立派な料理を食べられてよかったね、というだけではない、含蓄があって人生について考えさせられるドラマでした。

過去と現在が時々ゆるやかに前後して、姉妹とバベットのそれぞれの物語を綴っていくので退屈しないし(バベットの過去は描かれないが、わずかに彼女の台詞の中で語られる)、宝くじの使い道などについては観ていて予想できるものの、それでも「12人分のフランス料理にかかる費用は1万フランです」というバベットの台詞には心打たれる。

あの姉妹とともに生活できたからこそ、バベットは手に入れた大金をそっくりそのまま晩餐会として老人たちに捧げることができたんだろう。

偽善でもなければ、ただのお涙頂戴でも教訓話でもない。

マーチーネへの愛を諦めて別の女性と結婚し、将軍にまで上り詰めたローレンス(ヤール・キューレ)は、それでも「空しい」と呟く。自分の人生は一体なんだったんだろう。


しかし、牧師の生誕100周年を祝う晩餐会に招かれて再びあの姉妹の家に向かい、愛したあの人とまた逢って、彼はほんの少し、でも大きな喜びを得ただろう。

バベットのあの料理が彼の心をほぐして、離れていてもマーチーネへの愛は永遠に続くのだと確信させた。

仲違いしていた村の老人たちも、料理を味わってはいけない、と頑なに舌の快楽を拒んでいたのが、次第に誰もが我慢できなくなって最後には食べて飲んで大いに楽しむ。おいしい料理にはかなわない。

でも、それこそが彼らに与えられた恵みだったのではないか。1万フランのフランス料理。

12人の客たちは、まるでキリストに従う12使徒のようだ。

魔女の宴のように思えたフランス料理が、人々に喜びをもたらした。それはほんとにささやかな出来事かもしれない。でも、そんなひとときがけっして忘れられない味とともにずっと胸の中に残る。

バベットを彼らのもとに遣わしたのは、かつてこの地を訪れてフィリッパの声と美貌に惹かれたアシール・パパンだった。


こうして、人と人との繋がりが、新たな人を呼んでさらに繋がっていく。

美しい物語と、おいしそうな料理の数々。

ウズラのパイに、ウズラの顔がそのままついてんのが…昔、焼き鳥屋で食べたスズメの丸焼きを思い出させた。さすがに顔がそのまんまはキツかった(ウズラといえば「プロヴァンス物語」の『マルセルの夏』を思い出す)^_^;

ウミガメも食べるんだな!(;^_^A


将軍が、お酒や料理についていちいちみんなの前で解説するのが「美味しんぼ」みありましたな。で、老人たちの反応がないので変な間になったりして(笑)


晩餐会でバベットのお手伝いをする少年(Erik Petersén)がめちゃくちゃ手際が良くて、その見事なギャルソンぶりに見惚れてしまった。あんなふうに給仕してもらいながら優雅にフランス料理を堪能してみたい。

パリ・コミューンってナポレオン3世の時代で、ナポレオン3世ルイ・ナポレオン)といえばナポレオン・ボナパルトの甥なわけで、この映画ではリドリー・スコットの『ナポレオン』のさらに次の時代が舞台なんですよね。時代が繋がってる。

歴史のお勉強とは違う、こういう「人々の繋がり」を映画を通して見つめるのもいいですね。


とても素敵な映画でした。

もしもこれを80年代やあるいは90年代頃に観ていたら、果たしてこれほど胸に沁みただろうか。

今このタイミングで劇場で観られてほんとによかったです。


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バベットの晩餐会(字幕版)

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