映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

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『レザボア・ドッグス デジタルリマスター版』


クエンティン・タランティーノ監督、ハーヴェイ・カイテルティム・ロスマイケル・マドセンスティーヴ・ブシェミクリス・ペン、カーク・バルツ、エディ・バンカー、ローレンス・ティアニーほか出演の『レザボア・ドッグス デジタルリマスター版』。1992年作品。日本公開93年。

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宝石店を襲撃するため寄せ集められた黒スーツ姿の6人の男たち。彼らは互いの素性を知らず、それぞれ「色」をコードネームにして呼び合う。計画は完璧なはずだったが、現場には何故か大勢の警官が待ち伏せており、激しい銃撃戦となってしまう。命からがら集合場所の倉庫にたどり着いた男たちは、メンバーの中に裏切り者がいると考え、互いへの不信感を募らせていく。(映画.comより転載)


ネタバレがありますのでご注意を。

去年、タランティーノ監督作品についてのドキュメンタリー映画クエンティン・タランティーノ 映画に愛された男』が公開されて、その上映前にすでにこの映画の予告が流れていました。

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僕はタランティーノ監督の映画は『パルプ・フィクション』(感想はこちら)以降はすべて劇場公開時に映画館で観ていますが、このデビュー作だけはレンタルヴィデオだとかTV放映でしか観ていなくて、だから30年ぶりの劇場公開を楽しみにしていた。

ところが、どこでもそうなのかわかんないけど、僕が住んでるところでは一日1回の上映。その時間帯も夜なのでなかなか都合がつかず、ようやく観られると思って事前にいろいろスケジュールを合わせておいたら、なんとその日に限って朝の7時35分からの上映。なんの嫌がらせ!?おまけに雨まで降ってたし。

それでも、その日しか空けられないし、25日には終わっちゃうので意地で行きましたよ、まだ陽も昇ってなくて街灯が点いてる時間帯に電車に乗って。朝飯も食わずに。

朝早くの上映にもかかわらず、結構お客さん入ってましたね。やはり人気があるんだなぁ。若い人から僕のようなおっさんまで、皆さん“タランティーノ”と聞いてピンとくる人たちなんでしょうね。

監督2作目の『パルプ~』は、大好きなこともあってこれまでDVDやTV放送、「午前十時の映画祭」などで何度か観ているけれど、こちらの『レザボア・ドッグス』はおそらく90年代頃に観たきりなので細かい部分は忘れてて、観てるうちに「あぁ、うん、こういう話だった」と思い出してくる感じだった。

冒頭での、マドンナの“Like a Virgin”の歌詞の意味について熱弁を振るうバカ(タランティーノ)や、チップをめぐるしょーもない口論、車内でのアニメ「宇宙忍者ゴームズ*1ファンタスティック・フォー)」についての薀蓄など。

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車の中で「しくじっちまった!」と叫び、血だらけになって痛がり続けるティム・ロス演じる“ミスター・オレンジ”。マイケル・マドセン演じる“ミスター・ブロンド”の耳切りシーン(先ほどのドキュメンタリー映画で、あの場面でブロンドが切り取った警官の耳に喋りかけるのはマイケル・マドセンのアドリブだった、と本人がインタヴューで語っていた)、ハーヴェイ・カイテルスティーヴ・ブシェミが銃を向け合うあの格好、クライマックスの三すくみ状態。


あの当時、この映画の黒ずくめの裏社会の男たちの銃を向け合っての言い争いの場面を真似た邦画がありましたよね。観てないけど、なんかやっすいな、と思っていた。いくらなんでも猿真似過ぎるでしょ、と。

ギャングたちの無駄口、倫理観が麻痺しているような彼らが見せるユーモア、茶目っ気、でもそのあとに凄惨な場面があったりして、あれ観てみんな夢中になったんだよな。

宝石店強盗の話だけど、店内の場面は直接見せない。

また、会話の中だけに出てくるが、姿を見せることはない人物も。

ミスター・ブロンドの本名は「ヴィック・ヴェガ」で、その名前は『パルプ~』でトラヴォルタが演じたヴィンセント・ヴェガを思わせるけど、タランティーノの中では彼らは兄弟という設定らしい(この兄弟を主人公にした映画の企画もあったそうだけど、実現しなかった)。

ミスター・ブロンドことヴィック・ヴェガとナイスガイ・エディ(クリス・ペン)の父親で犯罪計画の立案者でもあるジョー(ローレンス・ティアニー)の会話の中には、『トゥルー・ロマンス』のヒロイン、アラバマの名前も出てくる。

正直、その辺の作り手の自己満足なシェアワールド・ネタは個人的にはどうでもいいんだけど、タランティーノの映画には、姿を見せずに登場人物たちの話の中だけに出てくる人物にも興味を持たせるようなマジックがあって、そここそが彼の作品の魅力なんだと思う。

この映画はいわゆる「アクション映画」じゃないし、銃撃は描かれるけど、作品の本質は会話劇なんだよね。

くだらない下ネタから、やがては捕まったギャングがムショでけっして仲間のことについて口を割らずに4年経ってようやく放免されて、さて、どうやってまた「復帰」するか、という話になる。

そのあたりの事情を会話だけで説明する。

でも、それはただの「説明」ではなくて、彼らのバックグラウンドや性格などを観客が知る手掛かりになって、連中の会話に聞き耳を立てている時点ですでに僕たちはタランティーノの術中にはまっている。

ミスター・ブロンドとエディの“レスリング”は、やんちゃな男子たちのふざけ合いのようにも見えるし、刑務所での男同士の下半身ネタを下品極まりない言葉で表現していたように、男たちの同性愛行為を強調していて、それはちょうど北野武のヤクザ映画のようなところもある。

一方で、実は刑事で潜入捜査をすることになったミスター・オレンジは、仲間の指導を受けてギャングたちの前で披露する「小咄」の練習をする。


細かいディテールを頭に叩き込んで、作り話をもっともらしく語って信用させる。

…それって、タランティーノが観客に対してやってることなんだよね。

シナリオライターはどうやって脚本に「リアリティ」を出すか。俳優も同様。

ハーヴェイ・カイテル演じる“ミスター・ホワイト”は経験豊かなヴェテランで、狂犬キャラのミスター・ブロンドに対しても物怖じしないが、ミスター・オレンジには気を許す。そこにつけこまれてしまう。

ホワイトとオレンジの友情の間に割って入るのがブシェミ演じる“ミスター・ピンク”で、その細かいところに気がつく神経質な性格がオレンジに対する警戒となって、結局は銃撃戦から再び彼を救うことになる。

もっとも、集合場所の建物の外にピンクが逃げていったあと、警察官たちの声が聴こえていたので、おそらくは捕まったか撃ち殺されたんだろう。

最後は全員死亡、みたいな展開。

ハーヴェイ・カイテルといえば、彼の主演作『バッド・ルーテナント/刑事とドラッグとキリスト』(1993年作品。日本公開94年)も一部の地域でリヴァイヴァル公開されてるんですよね(残念ながら、僕が住んでるところではやってないようですが。そのうちやらないかな*2)。あちらは僕は劇場公開時に観ているんだけど、『レザボア・ドッグス』以上に内容を覚えていない。でも、カイテルが唸りながら泣いてたっけ。あの当時、ハーヴェイ・カイテルは映画の中でよくああやって「唸り泣き」してたよなぁ。亀の甲羅みたいな腹筋見せながら。

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ホワイトがオレンジを信用した理由がよくわかんなくて、他のみんなが彼を疑っても最後までホワイトはオレンジをかばい続ける。

オレンジが車を奪おうとした女性からの銃撃を受けて出血多量で死にそうだから、ってだけでは説明できない何か絆のようなものが二人の間にはできていて(ブロンドとエディの間にあったものと同様の男同士の絆)、そこんところはこの手のノワール物、あるいはタランティーノが好きらしい「香港ノワール」っぽさもあったり(って、僕はそのジャンルをほとんど観たことがないから、勝手な想像だけで言ってますが)。

ハーヴェイ・カイテルの演技には、男同士の信義だとか友情というものを観る者に信じさせる説得力があるんだよな。男たちの間だけで心が通じ合う、みたいな。

僕はそういうヤクザ者同士の女性を排除した(あるいは下品で乱暴な自分たちに付き合ってくれる“アラバマ”みたいな女だけは仲間に入れる)ホモソーシャルな友情、というのにはあまり興味がないんで、この手の犯罪モノを観ることはあまりないんですが、でも繰り返すように、かつてのタランティーノの映画にはギャングたちのお喋り、ほとんど中身のないやりとりを交えながら、そこに悪徳への憧れを喚起するものがあって、彼の映画が一世を風靡したのは、そういう「自分たちが知らない裏側の世界」を覗く楽しさだったんでしょう。裏側の人間たちも、どこかで俺たちと同じようなところもあるんだろう、と思わせてくれる。

かっこいい、と思えたんだよね、タランティーノが創り上げたスクリーンの中のそういう世界が。

劇中で使用される音楽はすべて既成曲で、そのチョイスのしかたもまた、そちらの方面に聡い人たちにはたまらなかったんだろうなぁ。

僕は音楽はさっぱりなので、聴き慣れない曲調の歌が流れるたびに不思議な感覚に襲われてましたが。

ブルー・スウェードの“ウガ・チャカ (Hooked on a Feeling)”は、その後『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(感想はこちら)でも使われてたけど、あぁ、この映画ですでに流れてたのね。

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エンドクレジットで流れるハリー・ニルソンの“Coconut”の〽ココナチュ、って繰り返しと裏返る歌声が癖になるねw

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タランティーノ監督の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(感想はこちら)や先ほどのドキュメンタリー映画の感想で僕はタランティーノ本人のことをかなり辛辣に述べたし、一度彼が失った信用を取り戻すことはなかなか難しいと思いますが、それでも『レザボア・ドッグス』や『パルプ・フィクション』が面白い映画であることは疑いようがないので、それはそれでここにこうして記しておきます。

さて、最後の監督作という10本目はいつ完成するのかな(※追記:2025年公開予定とのこと。主演はブラッド・ピット。またお前か!^_^;)。


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*1:ダチョウ倶楽部の掛け声「ムッシュムラムラ!」のネタ元でもある。

*2:その後、3月に公開。