映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

もう一つのブログとともに主に映画の感想を書いています。

『テルマ&ルイーズ』 最高のヴァカンス


「午前十時の映画祭10」でリドリー・スコット監督、スーザン・サランドンジーナ・デイヴィスハーヴェイ・カイテル、クリストファー・マクドナルド、ブラッド・ピットマイケル・マドセン、ティモシー・カーハートほか出演の『テルマ&ルイーズ』を鑑賞。1991年作品。

音楽は前作『ブラック・レイン』(感想はこちら)に続いてハンス・ジマー

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アーカンソー州に住むウェイトレスのルイーズと主婦のテルマは2日間の「最高のヴァカンス」を楽しむために車で出発するが、立ち寄った酒場で泥酔したテルマが男にレイプされて、銃を向けたルイーズは男の侮辱的な発言に思わず引き金を引いて撃ち殺してしまう。テルマは警察に正直に話すべきだと主張するが、状況から信用されないだろうことを知っているルイーズはそのまま逃亡することにする。

ネタバレがあります。

この映画は劇場公開時には僕は観ていなくて、BSでやってたのを観た記憶が。

今でも人気が高い作品だし、ぜひ映画館で観たいと思っていました。

いやぁ、爽快でしたねぇ。スーザン・サランドンジーナ・デイヴィスのふたりが実に清々しかった。なるほど、「90年代のアメリカン・ニュー・シネマ」と言われるのもよくわかる。

90年代の映画ではとにかく顔をよく見たハーヴェイ・カイテル、まだあまり声がしゃがれてないマイケル・マドセン、そしてピッチピチの20代の頃のブラピも出演。

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カイテルとマドセンは、翌年の『レザボア・ドッグス』(日本では93年公開)でも共演。

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亀腹ブラピ 『テルマ&ルイーズ』→『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』 変わってねぇ!Σ(゚д゚;)

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主演のスーザン・サランドンは前年の『ぼくの美しい人だから』ではまだ頭の毛がフサフサしてた頃のジェームズ・スペイダー演じる青年と恋に落ちる女性を演じていて、当時は結構イイ歳のおばさんだと思ってたけど、あの頃まだ40代半ばだったんだよね。

この『テルマ&ルイーズ』ではマイケル・マドセン演じるジミーと付き合っていて、彼からプロポーズされる。イイ女ポジション(^o^)

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昔と今。あまり変わってないような。

なんか目玉オバケっぽい大きな目が特徴的な女優さんだけど、彼女の誰にも物怖じしない態度──でもそれは作り物めいた「強い女」ではなくて、脆さや怯えも持ちながらそれを隠して凛とした姿勢で生きる女性のリアリティがある──に惚れぼれするし、美しいんですよね(笑った時の表情がマリオン・コティヤールにちょっと似てる気が)。

スーザン・サランドンは僕が意識して映画を観だした90年代に、「自立した女性像」をさまざまな映画の中で体現してみせていた。ティム・ロビンスとの関係も大人な感じがした。

のちにヴィデオで観た『ロッキー・ホラー・ショー』(1975年作品。日本公開76年)の時には甲高い声のカワイイ女の子役だったのが、ずいぶん雰囲気が変わったんだなぁ、と思いましたが。

もうひとりの主人公テルマ役のジーナ・デイヴィスは、僕は彼女を初めて見たのは『ザ・フライ』のハエ男の恋人役だったんですが、この人も90年代に多くの映画に出ていて『テルマ&ルイーズ』では夫に抑えつけられて欲求不満が溜まっている男にだらしのない女性役だったのが、翌年の『プリティ・リーグ』では真面目でめっちゃハンサムな女子野球選手を演じていて、その役柄のギャップに驚かされる。どちらの役もハマってるのが凄いんですよね。

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だから、この演技派の2人がコンビを組んでのロードムーヴィーは、彼女たちのやりとりを見ているだけで楽しいし、このヒロインたちを好きにならずにはいられない。

ただ、最初は夫に内緒でたった2日間旅行にいくだけだったはずが、テルマが酒場の駐車場でレイプに遭ってから雪だるま式に問題が重なっていって、やがて暴走していく彼女たちを痛快に感じたり、最後のふたりの“選択”に切なさを感じてしまうのは、やはり女性が男性や社会から受ける理不尽な仕打ちがあの当時から変わっていないからでもあるでしょう。昔話ではないんですね。

妻を家政婦のように使って自分の意見を言うことを許さず好きなことをする自由も与えない夫や、女性に卑猥な言葉を投げかけて下品な仕草を見せつけてくるトラックの運転手など、クズな男はそこかしこにいる。

そして、酒に酔って具合が悪くなった女性が嫌がるのも無視して強姦する男。テルマをレイプしたハーランのような男は存在する。 いますよね、この国でもそうやって起訴されなかった奴が(そいつはデートレイプドラッグ使ってたんだから、もっと極悪だが)。ルイーズが「警察はこちらの主張を信じてくれない」というのは事実だったってことだ。

だからこそ、銃を向けられても反省する様子もなく、悪態をついて彼女たちを侮辱し続けるレイプ男をルイーズが撃ち殺す場面では大いに溜飲が下がる。ざまぁっ!!と。

レイプ犯などその場で問答無用で射殺してオッケーだろ、とさえ思えてくる。

まぁ、妻に護身用に銃を持たせる夫も夫なら、旅行するのに銃を携帯する妻も妻だが。

そんで、しっかりその銃が必要になる状況に巻き込まれるアメリカの田舎怖ぇ!と。

でも、今なら特にテルマの迂闊な行動を咎める観客もいるんだろうなぁ。彼女が酒に酔って隙を見せたのが悪い、と。

確かにテルマは軽率な行動が目につくし、男を見る目もない。結果的にテルマやルイーズがやったことは「正しくない」。

だけど、拒絶している女性に無理やり「突っ込もうと」するのは犯罪だし、そんな犯罪者が正しく裁かれないのなら、ぶっ殺したらいいじゃないか。電話口で偉そうに命令してくる夫には「FUCK YOU.」と言ってやればいい。「女が喜ぶ」と思って調子コイて下ネタで挑発してくる運ちゃんのトラックなど爆破してやればいい。

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テルマは自分がこのように羽目を外す原因が世の中の男たちにあるようなことも言うが、それはただの責任転嫁ではなくて、幾分事実だ。なぜなら女性たちがつらい経験を強いられる世の中のシステムを作ってきたのは男たちなのだから。加害者が裁かれず、被害者が罵られ排除される世界。テルマとルイーズはそのような場所で生きてきた。

テルマが男を見る目がないのは、おそらく彼女のまわりには昔からピザを食らいアメフトの試合を観ながら女性に偉そうな口を利く夫のダリルのような男しかいなかったからだろう。本当に「いい男」を知らないのだ(結婚する前に4年間も付き合ってたんなら、いいかげん相手の本性に気づけよ、と思うが^_^;)。だからブラピ演じるイケメンにもコロッとイッてしまう。

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言動がいちいちアホっぽいダリル。


J.D.とのセックスで「初めてセックスのよさを知った」と嬉しがるテルマが可笑しいが、つまりそういうこと。結婚していてもセックスの喜びを経験したこともなく、男もこれまでに夫しか知らない。

J.D.がダリルに「奥さん最高だったぜ」と言って、それを聞いたダリルがブチギレるシーンに笑うけど、大金を盗まれながらもテルマはその時に性的な自由を得たんだよね。

男に犯されるのではなく、自分の意思で寝たい相手と寝る。

レイプされた直後に別の若い男とイチャコラしてベッドインしようとする神経が僕にはまったく理解できないんですが^_^; ハーランとのあの事件とJ.D.とのひとときを対比すれば、この映画が語っていることがわかる。「私たちは自分がやりたいようにやるんだ」と。

もっともJ.D.はそのあとすぐテルマがルイーズから預かっていた大金を持ち逃げするんで、こいつはこいつでクズ野郎なのだが。

あっけなく捕まってハーヴェイ・カイテル演じる警部に帽子ではたかれまくってお仕置きされるのが、これまた、ざまぁっ!なんですがw

ルイーズはかつてテキサスにいた頃、レイプに遭っている。その件についてテルマが尋ねると険しい表情で「その話は二度としないで」と言って、それ以上語らない。おそらく加害者はろくに罰せられなかったのだろう。その時の怒りが蘇って、ハーランの殺害に繋がったんだろうと思う。

ルイーズとテルマがどこでどうやって知り合ったのかは語られないけれど、最初はウェイトレスと客という関係から始まったのかもしれない。

たがいに性格は異なるが、彼女たちはそれぞれ痛みやトラウマを抱えている。

だから追いつめられながらも、次第に彼女たちは何かを決意したような凛々しい表情になっていく。それが見ていてよくわかるんですね。

一見すると姐御肌でしっかり者のルイーズがテルマを引っ張っているように見えるんだけど(旅行の車もルイーズのものだし、当面の金も彼女がジミーに頼んで手配する)、せっかく手許にあったお金を盗まれてついに万策尽きて座り込んで泣くルイーズを、今度はテルマが引っ張っていく。この変化がとてもエキサイティングなんですよね。

その後、テルマは強盗をやったりパトカーで追ってきた警官に銃を突きつけてトランクに閉じ込めたり、何かに目覚めたように行動的になっていく。

正直なところ、トラックの爆破あたりでさすがに「それはねぇだろ」と若干我に返ってしまったんですが。もう後半はほとんど「アクション映画」だもんな。

それまで等身大の女性たちの人間ドラマとして観ていたのに、急に見事な銃の腕前を見せるルイーズとテルマの姿に、作品のジャンルがいきなり変わってしまったような唐突感を覚えたのだった。

まぁ、その前にテルマはブラピ演じるコソ泥のJ.D.から強盗のやり方を教わって、彼に金を盗まれたあとはそのやり方でコンビニからまんまと金を手に入れるのだが。

テルマを演じるジーナ・デイヴィスは90年代の後半にレニー・ハーリンが監督した2本のアクション映画で主役を張っているので、そこに繋がっていくのだということで。

無数のパトカーに追われる展開なんか、やってることはほとんど『ブルース・ブラザース』だもんな。

まるで「ナチみたい」な格好の警官に銃を突きつけると彼が急に怯えて泣きだすところなんて、完全にコメディ。

銃や制服を身につけて威張ってる男たちのしょーもなさを茶化しまくっている。

けれど、『ブルース・ブラザース』のジェイクとエルウッドのことをとやかく言う観客はいないのに、『テルマ&ルイーズ』のふたりの女性たちの責任を云々する者がいるとしたら、実に奇妙な話だ。

ろくでなしどもを蹴散らして最後まで降参せずに、66年型サンダーバードごと崖の上からダイヴする彼女たちは最高にかっこいいじゃないか。

この映画は、後年シャーリーズ・セロン主演で映画化もされた(『モンスター』)女性シリアル・キラー、アイリーン・ウォーノスの実話(ウォーノスが起こした連続殺人事件は『テルマ&ルイーズ』公開のわずか2~3年前のこと)から発想したようだけど、大幅に脚色されていて登場人物も内容もほぼフィクション。

現実のアイリーン・ウォーノスの犯罪や彼女の実人生の陰惨さと比べると映画『テルマ&ルイーズ』はまさしく“ファンタジー”だが、アイリーン・ウォーノスの家庭環境が彼女に及ぼした影響を考えた時、テルマとルイーズのとった行動が「正しくない」のも頷けてしまう。これまで彼女たちに「正しいこと」を教えてくれる人などいなかったのだ。だから自己流で正しさを判断していくしかなかった。

どうやら他に深い付き合いのある者もいないらしいふたりが、より絆を深めていく様子は純粋に美しく尊い。男どもに邪魔されない関係。

彼女たちを追う警部は、電話でルイーズに「昔からの知り合いのようだ」と話す。それは本音だったのだろう。男性である警部がルイーズとテルマに心から共感を覚えている。だから警部は彼女たちから金を盗んだJ.D.を本気で脅して、ふたりをなんとか救おうとする。

あの警部はある意味理想化された男性の姿であり、彼女たちとともに旅をして今や彼女たちに愛おしささえも感じている僕たち観客の視点でもある。

あの警部のように女性たちを見つめ、手を差し伸べようとする者が増えれば、この世界はもっと生きやすくなる。それは男の方もそうだろうと思う。

この人生が「最高のヴァカンス」になる日を追い求めて、テルマとルイーズの乗る車は今も荒野を走り続けている。


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