ペニー・マーシャル監督、ジーナ・デイヴィス、ロリ・ペティ、トム・ハンクス、マドンナ、ロージー・オドネル、ビル・プルマン、デヴィッド・ストラザーンほか出演の『プリティ・リーグ』。1992年作品。
音楽はハンス・ジマー。
第二次世界大戦中、選手たちが出征してメジャーリーグが人員不足に陥り、その代わりとして女子野球が始まる。オレゴン州に住むソフトボール選手のドティ(ジーナ・デイヴィス)とキット(ロリ・ペティ)の姉妹はスカウトされてピーチズに所属するが、女性が野球の試合をすることに偏見もあり前途多難だった。 メジャーリーグの選手だったが怪我のために引退を余儀なくされたジミー・ドゥーガン(トム・ハンクス)は、女子野球の創設者のウォルター・ハーヴィー(ゲイリー・マーシャル)にピーチズの監督を命じられる。
劇場公開当時に観て、大好きな映画でした。
主人公たちのチームメイト役で出演もしているマドンナが唄う主題歌「This Used To Be My Playground」も好きになってシングルCD買ったっけ。
劇中でマドンナが演じるメイとロージー・オドネル演じるドリスのやりとりで、「もしもユニフォームがはだけておっぱいが丸出しになったら?」と言うメイにドリスが「あんたのは珍しくないでしょ」とツッコむ楽屋オチがある(当時、マドンナはヌード写真集を出版していた)。
この映画へのマドンナの出演について揶揄気味に書いているレヴューも散見するけど、マドンナはこの元踊り子の女性を好演していて、もともとお笑い畑出身のロージー・オドネルとのコンビぶりもバッチリなので、彼女のことを鼻で笑ってるような輩は映画をまともに観ていないんだと思う。
以前はVHSでヴィデオレンタルもされてたけど、その後DVD化もされたにもかかわらず近所のレンタル店には置いてなくて長らく観られずにいました。
90年代ぐらいには普通に目にしていた映画が今では意外と観るのが難しくなってることも多くて(DVD化されていないものもあるし)、新作がどんどんリリースされてるから物理的なスペースの問題もあってしょうがないとは思うんだけど、レンタル店やDVDを販売してる店でももうちょっとあの当時の映画を扱ってほしい。
結構良作が埋もれてるんですよね。それはもったいない。
この映画もなかなかDVDが見つからなくて、最近になってようやく入手。
で、かなり久しぶりに観たんですが、いやぁ、やっぱり泣いてしまった。
これは僕はお薦めですねぇ。まだご覧になったことがないかたはぜひ手にとっていただきたい。
では、これ以降はストーリーについて書いていきますので、未見のかたはご注意ください。
この映画は、作品が作られた90年代当時に主人公のドティがかつての女子野球選手たちのメジャーリーグの殿堂入りのセレモニーに出かけるところから始まって、そこから数十年の時を遡り戦時中の若かりし頃の彼女たちの活躍が描かれる。
主人公のドティや妹のキットの若い頃と年を取った彼女たちを演じるのはそれぞれ別の女優で、老ドティ役はリン・カートライト、老キット役はキャスリーン・バトラー。
彼女たちは、若い頃を演じる二人の女優たち(ジーナ・デイヴィス、ロリ・ペティ)と絶妙に似てるんですね。
意識的に顔が似ている人を使っているのがわかるし、老いたドティもジーナ・デイヴィスが声を吹き替えている凝りよう。
だから、回想が終わって最後にまた現在の彼女たちに時代が戻ると、あぁ、あの若い女性たちが今は年取ってこうなったんだ、と自然に思えるんです。
こういう丁寧な演出をしている映画ってハリウッドでもそんなにない。
映画が公開されてからもすでに26年経っているので、彼女たちのこの数十年の時間の重みがよりいっそうひしひしと感じられる。
老ドティ役のリン・カートライトはすでに亡くなっているし、当時30代だったジーナ・デイヴィスやマドンナも今では60代になっている。選手役の女優たちの中には、その後のフィルモグラフィが90年代半ばで止まったままの人もいる。彼女たちの芸能人生さえも映画と重なるんですよね。
頼れる姉さんを演じたジーナ・デイヴィスはその後『カット・スロート・アイランド』『ロング・キス・グッドナイト』などでヒロインを演じたけどどちらも当たらず、おきゃんな感じが魅力だったロリ・ペティも『タンク・ガール』で主演して(相棒の“ジェット・ガール”役で無名時代のナオミ・ワッツも出演)僕も劇場で観ましたが、その後は目立った作品が見当たらない(ロリ・ペティは自らの経験を基にジェニファー・ローレンスやクロエ・グレース・モレッツが出演した『早熟のアイオワ』を監督しているが、あいにく僕は未見)。
もっともっとあの時代に彼女たちの主演作品を観たかった。それぐらいの実力と魅力を持ち合わせた女優さんたちだったから。
ピーチズのライヴァル球団ラシーンの選手の一人に見覚えのある綺麗な女優さんがいるなぁ、と思ってたら、その後『ディープ・インパクト』や『ジュラシック・パークIII』(感想はこちら)などでヒロインを演じたティア・レオーニだった。
また、まだ戦闘機で宇宙人と戦う大統領になる前のビル・プルマンがドティの夫役で出演している。
女子選手役の女優さんたちの現在の画像も検索すれば出てきますが、あぁ、26年経つと皆さんこういう感じになるのね、という^_^; いや、ジーナ・デイヴィスは今もお綺麗ですが。
トム・ハンクスは出演作品をずっと観ているからあまり変化を感じなかったけど、彼だってそれなりに年を重ねてる。
ハンクスは本作品で体重を増やして中年太り気味の元メジャーリーガーを演じたあとに翌年の『フィラデルフィア』では逆に病気の設定のためにかなり体重を落としたんだけど、この頃から役柄に合わせた体重の増減量が始まっていたんですね。 おかげで糖尿病になったんだとか。俳優も大変な仕事だな。
トム・ハンクスは『プライベート・ライアン』や『ハドソン川の奇跡』(感想はこちら)などのおふざけなしのシリアスな作品にも出てるけど、やっぱり僕にはこの人は80~90年代ぐらいのユーモラスなキャラクターのイメージがいまだにあって、『プリティ・リーグ』でもたびたび笑わせてくれる。
監督のペニー・マーシャルはハンクスが少年が外見だけ大人になった「こどもおとな」を演じる『ビッグ』も撮っていて、あの映画もそうだったけど、かつては笑わせてくれる俳優さんでしたよね。
『プリティ・リーグ』で彼が演じるジミーは「女の中に男が一人」状態で、野球選手の若い女性たちの真ん前で小便するし暴言は吐くは引率の年配の女性にキスして「オズの魔法使」の魔女呼ばわりするはとほんとにやりたい放題なんだけど、でもけっして憎めない人物で、やがて最初はバカにしていた女子選手たちと心を通わせてともに戦う。
「野球に泣くなんてない!」
これは、それまで「男のもの」とされていたベースボールの選手になった女性たちが初めは笑われたり見下されていたのを彼女たち自身の力で見返していく物語でもあって、今日でも充分通用するテーマだと思います。
大戦の戦況が好転していくと、女子野球は早速お払い箱にされそうになる。
女子野球の存続に尽力してきたローウェンスタイン(デヴィッド・ストラザーン)は、女子野球を見限ろうとするハーヴィーに「男たちの代わりに職場で働いてきた女性たちは、彼らが戦場から帰るとまた台所に戻される」と食い下がる。
ハーヴィーは、「じゃあ、どうすればいいんだ。男たちを台所に送るのか?」と答える。『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』にも通じる女性差別問題。
男たちの代わりに彼女たちがメジャーリーグで活躍したのはわずか12年間ほどで、やがて女子野球は消えていくのだけれど、ある時代に観客を湧かせて野球の存続に尽くしてきた人々のことを思うとスポーツに興味のない僕でも涙がこぼれてくる。
女子野球を生んだのが「戦争」だったというのも実に皮肉だが、それでも彼女たちの戦いはけっして時代のあだ花などではないし、だからこそその貢献は野球の殿堂入りという形で今も記憶され続けている。
この映画の魅力はなんといっても出演している女子選手たちに尽きますね。
ジーナ・デイヴィスはほんとにかっこよくて、でも好きだった野球よりも夫をとる潔さなど、自分の意志を貫く強さに溢れた、最近でもそんなに見ることのないたくましいヒロインを好演。
ロリ・ペティやロージー・オドネルは球技の経験者で、それは彼女たちが劇中で披露するピッチングや走塁フォームなどからうかがえる。
戦時中の女性たちだから夫に気を遣ったり外聞を気にしたりもするけれど、でもひとたび試合が始まれば、か弱さなど微塵も見せない。
素足を出したユニフォームなのでスライディングすれば思いっきり足を擦り剥くし、時には掴み合いの喧嘩もする。
スポーツ選手って、いくつになってもやっぱりその面影を残しているんですよね。身体張って競い合ってた人たちだから。
現在の場面で年老いてからもソフトボールに興じる女性たちは、とてもパワフルでちょっとおっかなかったりもする。男性の審判に食ってかかる背の高いおばあちゃんもいたりしてw
時代的に女子野球の選手たちは白人だけだったようだけど(男子の野球でさえも有色人種の選手がメジャーに登場するのは1947年頃)、劇中のあるシーンで足許に飛んできたボールを選手たちに投げ返す凄い強肩の黒人女性の描写がある。
たとえ実力があっても、チャンスを与えられなかった人たちもいたのだということ。
これは女性監督のペニー・マーシャルによる、同じ女性たちに対する応援歌でもある。
かつて女子野球が存在したことは事実だけど、この映画で描かれた物語自体はフィクションで、ドティやキットのような姉妹の選手が活躍したという記録もないそうだけど、ドティは複数の選手がモデルになっているみたいだし(同じ呼び名の選手もいた)、またトム・ハンクスが演じたジミー・ドゥーガンにもモデルとなった実在の野球選手がいる。
一応、スポーツ映画だし、アメリカ版の予告篇だとまるでコメディ映画のように描かれてもいるけれど(そういう要素ももちろんありますが)*1、一方でこれは戦争の時代を描いた話でもあって、劇中で躍進するピーチズの選手の一人、“ベティ・スパゲティ”(トレイシー・ライナー)が仲間たちの前で夫が戦死したことを伝える電報を受け取って泣き崩れる場面がある。
選手がヒトラーや東条英機(らしき人物)の絵にボールを当てて倒す場面もあったけど、彼女たちが、彼女たちの国が、戦場で彼女たちの夫や恋人たちが戦っていたのは僕たちが住むこの日本だったんだよね。
また、ジミーはドティに怪我でひざの軟骨を失って兵役に就くこともない自分のことを「若いのに役立たずに…」と自嘲気味に語る。
現在放送中の朝ドラ「まんぷく」でも、ヒロインの夫が憲兵に負わされた傷のために徴兵されず、そのことを悔やんで絶叫する場面があったけど、そのおかげで彼は死なずに済んだ。
ドティの夫ボブ(ビル・プルマン)は戦地で足に怪我をして復員する。彼の片足はもしかしたら一生自由が利かないかもしれない。しかし、やはりそのおかげでボブは妻と生きて再会を果たす。
野球と違って戦争は勝っても負けても国と人々に多くの傷跡を残す。ベティの夫のように、戦争で奪われたものは戻ってはこない。
戦争ではなく野球の試合をやっていた方がいい。野球には彼女たちが残したように素晴らしい友情や、彼女たちに励まされた者たちの物語があるから。
キャッチャーのドティとピッチャーのキットは、「ガンコ!」「お節介!」と言い合いながら仲のいい姉妹だったが、野球に対する思い入れの違いや互いに妥協しない性格からすれ違いもする。ちょうど『ダンガル きっと、つよくなる』(こちらは実話が基になっているが)のような偏見の中で戦う女性たちの姿や姉妹愛が描かれて、ここでは優秀な姉に劣等感を持つ妹が違うチームにトレードされて最後は姉妹対決になる、というエンタメ要素の大盤振る舞いも。
最後に勝利した敵のラシーンの選手たちに肩車されている妹キットを晴れやかな表情で見つめるドティ。
そこから再び現在のシーンへ。
「野球場こそ君の居場所だろう」とジミーに引き止められたにもかかわらず、わずか1年ほどで野球を引退して家庭に入ったドティが何十年ぶりかにチームメイトたちと再会するシーンでは、ドティに話しかけてきた中年男性(マーク・ホルトン)がすでに一年前に亡くなったチームメイトのエヴリン(ビティ・シュラム)が当時連れてきていた息子でチームの選手たちの間で暴れ回っていたあのヤンチャ坊主のスティルウェルだったとわかると、ドティと同様に映画を観ていた観客からちょっとした驚きのリアクションと笑い声が上がったのを覚えています。90年代頃って、心なしか今よりも映画館の観客の反応が率直だった気がする。
エンドクレジットに流れるマドンナの歌の「ここは私のプレイグラウンドだった」という歌詞に心地よい涙が流れる。playgroundとは文字通りの運動場や球場のことでもあり、彼女たち自身の青春時代の遊び場だったということも意味しているんでしょう。
あの時、あのグラウンドは彼女たちのものだった。
それはもう失われてしまったけれど、でもそこでの想い出と野球にかける熱い気持ちは今も残っている。
またこの映画を劇場のスクリーンで観たいなぁ。
最近、昔の映画がデジタル・リマスター版で再上映される機会が増えているから、この作品もぜひやってもらえませんかねぇ。
※ペニー・マーシャル監督のご冥福をお祈りいたします。18.12.17
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