「ジャッキー・チェン〈4K〉映画祭」で『ポリス・ストーリー/香港国際警察』と『サイクロンZ』を鑑賞。
5/31(金) の最新作『ライド・オン』の公開を記念して、ジャッキー・チェンの80年代の作品3本が4K版で公開されていて、そのうち『奇蹟/ミラクル』を除く2作品を観てきました。
ポリス・ストーリー/香港国際警察
監督・主演:ジャッキー・チェン、出演:ブリジット・リン、マギー・チャン、トン・ピョウ、ラム・コーホン、マース、フォン・ハックオン、ラウ・チーウィン、ケン・トン、チャーリー・チョウ、チュウ・ヤンほか。
麻薬密売組織を摘発するべく、大掛かりな張り込み捜査に乗り出した香港警察。刑事チェン(ジャッキー・チェン)は逃走を図った組織の首領チュウ(チュウ・ヤン)を執拗な追跡の末に何とか逮捕する。裁判の証人であるチュウの秘書サリナ(ブリジット・リン)の身辺警護を命じられたチェンは、出廷を妨害しようとするチュウの手下たちと激しい戦いを繰り広げるが──。(映画.comより転載)
僕がこの作品を初めて観たのはジャッキーの声をおなじみ石丸博也さんがアテたTVでの放映(フジテレビ版)で、映画館で観るのはこれが初めて。
どうやら日本での初公開時のヴァージョンは現在ソフト化されて出回っているものとは異なっているようですが、僕はTV放送の吹替版(香港公開版に準拠しているらしい)に馴染みがあるから今回4Kで上映されたものを観ても違和感はなかったです。
ただし、吹替版だと主人公の名前は「ケヴィン」だったんですよね。今回はそれが「チェン」になっていた。
日本公開版では冒頭に登場人物たちを紹介しがてら、いろいろとエピソードがあるようなんだけど、TV放映版や今回の4K版はいきなり麻薬の取引現場から始まる。
余計な場面を入れずに、あの自動車がバラックを次々と破壊していく見せ場のシーンになだれ込んでいく。
そこでチョウ警部や署長、チェンやマース演じる同僚刑事のキム、そして犯罪組織側のチュウやその秘書のサリナなど、主要登場人物たちがしっかり紹介されていて、これで充分物語は理解できるんですよね。
もっとも、今回あらためて劇場で観てみて感じたのは、かつて少年時代にその多くをTV放映で観たジャッキー・チェンの映画は、僕はそのほとんどを断片的なアクションシーンでしか覚えていなくて、ストーリーはほぼ忘れていたことでした。
麻薬組織の秘書だった女性が命を狙われて、それをジャッキー演じる主人公の刑事が守る、という大枠ぐらいしか理解していなくて、先ほどの冒頭のカーアクション、それからジャッキーが二階建てのバスの後ろに傘を引っかけて振り落とされそうになりながら乗り込んでいくところ、最後のデパートでの電飾のついたポールをつたって落下するところなど、名場面が目に浮かぶけれど、そしてそれで充分な気もしますが^_^; どうやらジャッキーが思いついたアクション場面を繋げてあとからお話を作っていったようなので、ストーリーをあまり覚えていないのもしょうがないか、と。
トム・クルーズが今「ミッション:インポッシブル」シリーズでやってることを80年代にジャッキーはやってたわけですね。
チャップリンのサイレント時代の喜劇と同じ手法。
マギー・チャン演じるチェンの恋人のメイが初登場するのも、チェンがブリジット・リン演じるチュウの秘書サリナを自分の家に連れてきたところ、そうとは知らないメイが友人たちと一緒にサプライズで彼氏の誕生日をお祝いしようとする場面だった。
で、サリナを浮気相手だと勘違いしたメイが怒って…という、あぁそういう展開だったなぁ、と。
ちなみに、この時代はまだジャッキーの映画は本人じゃなくてあちらの声優さんが声をアフレコしていたので、字幕版だけどジャッキー本人の声じゃないんですよね。ジャッキー本人が声を入れている『ポリス・ストーリー』第1作目というのは存在しないのだとか。
だから、ご本人よりもちょっと高めの声のような気がしたし、マギー・チャンの声は明らかに別人なんですよね。彼女自身はもっと低めの声だから。ウォン・カーウァイ監督作品での彼女の声と比べるとよくわかるんだけど、それじゃあ、同じ時期でもウォン監督の映画の彼女は本人が声を入れていたんだろうか。
後年になるとジャッキーの肉声による字幕版も劇場で観ているからそちらにも馴染みはありますが(でも作品によって本人だったり別人だったりするらしいからややこしい)、石丸博也さんの声のジャッキーの方が僕は昔から聴き慣れていたから、せっかくならTVの吹替版を上映してほしかったなぁ。石丸さんの声で「ター!!」とか「この野郎!!」とか、また聴きたかった。贅沢言ってすみません。
やはり、『ポリス・ストーリー』はジャッキーの代表作の1本なのは間違いないと思いましたね。もう1本は『プロジェクトA』だろうけど。この映画が初公開当時は日本では意外と当たらなかったというのが信じられない。
僕は続篇の『九龍の眼/クーロンズ・アイ(ポリス・ストーリー2)』は劇場公開時に観ているんですよね。で、結構好きだった。
あの続篇で足技がスゴい強敵「アパアパおじさん」として出ていたベニー・ライがこの1作目でも冒頭でサリナに異変を伝える組織側の男の役で出てました。
『ポリス・ストーリー2』もまた劇場で観たかったなぁ。
あの映画は直接的な続篇としてしっかり繋がってるし、登場人物たちも共通していて(ミシェル・ヨーが共演した3作目になると、確か署長が替わっていたよーな)、続けて観るとそれぞれの面白さが倍増するだろうから。
そして、なんと言ってもジャッキー映画ではおなじみのマース(^o^)
なんで彼が強盗のふりをしてサリナを襲う必要があるのか全然わかりませんが、お話の整合性よりも面白いアクションやコメディ場面を入れるためにやってるんだから、まぁそこんとこは適当に流して観ればよいかとw
子どもの時にはそういうこと、ほんとに気にしてなかったなぁ。迫力あるアクションとかコミカルなシーンが面白ければそれでよかった。幸福な少年期でしたな。
80年代のジャッキー映画には想い出が詰まっているし、だから今回も観てよかったですが、でもまたこういうことを書くと不快な気分になられるかたもいらっしゃるかもしれませんが、やはり今観ると「これはどうだろう」という描写や展開もわりとある。
警察署長を人質にとって逃げるとか、アウトじゃん。ブタ箱入りで二度と現場に復帰できないだろ。まぁ、そこんとこも勢いで見ちゃうんだけど。
チョウ警部役のトン・ピョウさんって、90年代ぐらいまでジャッキー映画じゃおなじみだったし、出てくるだけで説得力がある俳優さんでしたね。優しいおじいちゃんっぽくて。署長役のラム・コーホンは森田健作に似てるなー、っていつも思う。
まずちょっとヒくのが、チェンがたくさんの電話で複数の相手と順番にやりとりしていくうちにどんどん混線していくコメディシーンで、「レイプ事件」がギャグみたいに扱われていること。避妊用のピルの話題まで出てくる。「なんで2年も経って通報したの?」みたいなやりとりが。急に笑えなくなるんですよね。
そこだけじゃなくて、性的な台詞や場面が想像してた以上に多くて。
チェンがサリナを自分の家に泊めるくだりとかも、刑事のくせにあからさまに彼女を性的な対象として見ている。で、キムに彼女を襲わせたり、勘違いして嫉妬するメイについても非常に男尊女卑的な発言をする。
これもコメディ場面だから、結局はサリナとメイが結託してチェンを懲らしめるんだけど、彼は自分自身のマチズモ的な考えを最後まで改めないし反省もしないんだよね。
それは、ジャッキー映画だけじゃなくて当時の香港映画全体がそういうことに無自覚だったのかもしれないし、香港映画に限らず邦画だって、欧米の映画だってまだまだ女性の描き方、劇中での扱い方は粗雑で性的な要素に関してはかなり甘かった。女性のおっぱいとかお尻とか、平気で映してたもんね。
だから、ジャッキー・チェンの映画だけを責めるのは酷かもしれませんが、だけど、昔の映画を観るたびに感じる違和や嫌悪ははっきりと言葉にしておいた方がいいと思うんです。それで作品全体を否定してるわけじゃ、けっしてないですから。
それでも、このあと感想を書く『サイクロンZ』もそうだったけど、「レイプ」をネタにし過ぎなんだよ。あまりにも。
そりゃ、刑事モノとかアクション映画だから、そういう要素も含まれるのは致し方ないとしても、それをギャグめかして描いちゃいかんだろ。
…いや、法廷の場面での、テープの音声を使った下ネタは可笑しかったし(石丸博也さんの声で「折れちゃったよ」という台詞が浮かぶw)、下ネタやエロを絶対入れるな!と言いたいわけじゃないんですが、でも子どもも観る映画だからな。そこは最低限の配慮をしないと。
特にエンタメ作品で今現在いろんな表現に制約が入るのを煙たがる人たちもいるし、作り手側にとっては悩めるところではあるでしょうが、女性をまるでオモチャのように扱うのはもうやめるべきですね。そんなことしなくたってコメディは作れるし、女性の登場人物を活躍させることだってできるはずだ。
マギー・チャンはこのシリーズではいつも損な役回りばかりさせられて(スクーターに乗ってて服を引っ張られて痛い目に遭ったり、敵に捕まったり)泣き顔を見せてるんだけど、彼女がチェンに怒って泣く表情は確かにたまらなくキュートではある。
この1作目では思ってたほど出番は多くなかったけど(ヒロインはサリナなので)、でも存在感はしっかりあるから忘れられないんですよね。
そのサリナ役のケツアゴが麗しいブリジット・リンは、劇中でなんで彼女があそこまで警察を避けるのかよくわかんなかったし、結局はチェンに助けられるお姫様なんだけど、マギー・チャン同様に敵にぶん投げられたり身体を張って頑張っている。
さすがに建物の上からプールに飛び込むのはスタントマンが代わりに演じているけれど、彼女が劇中で中盤以降は常にパンツスタイルなのは(終盤でもなぜかオーヴァーオールだし)、男性のスタントダブルが演じられるように、ということだろうか。
プールへのダイヴについてはドキュメンタリー映画『カンフースタントマン 龍虎武師』で解説されていました。結構危険なスタントだったんですね。だって、あの高さからああいう形で飛び込んだら、プールの水はコンクリートみたいに固い反発があるはずでしょ。
二階建てバスが急停車して2階のフロントガラスを突き破って男たちが道路に落ちてくるショットはコミカルなシーンだけど、かなり危険を伴う撮影だったらしくて、観客が気づかないところで皆さん命を懸けているんですね。
クライマックスの落下シーンは言わずもがな。素手であんなふうに直接大量の電球を巻き込みながら落ちていくんだから、感電、火傷しまくりだよなぁ。
いやぁ、80年代のジャッキーのアクションを堪能しました。
サイクロンZ
監督:サモ・ハン・キンポー、出演:ジャッキー・チェン、サモ・ハン・キンポー、ユン・ピョウ、ディニー・イップ、ポーリン・ヤン、ユン・ワー、ディック・ウェイ、ベニー・ユキーデ、ロイ・チャオほか。
弁護士のジャッキー(ジャッキー・チェン)は、水質汚染で訴えられた悪徳化学工場から弁護を依頼される。しかし、彼は原告側の証人メイリン(ポーリン・ヤン)に一目惚れしてしまう。そこで、恋と仕事の両方を成就させたい彼は、極秘ミッションを開始!ところが、友人のウォン(サモ・ハン・キンポー)とトン(ユン・ピョウ)の大ゲンカに巻き込まれたり、工場に恨みを持つ連中から襲撃を受けたりでジャッキーの計画はうまくいかず…。(株式会社ツインのカタログより転載)
こちらは初公開時には僕は友だちと映画館で観たんですが、冒頭のレイプ事件の裁判で被害者の女性として登場するウォン・ヨォクワンは1986年公開の『霊幻道士2 キョンシーの息子たち!』で女キョンシーを演じてた人で、なぜかすぐに彼女だとわかったんだよね。
ギャングに脅されて殴られて鼻血出したり、ジャッキーのことも組織の人間だと思って彼をぶったら逆にぶち返されたりと(そして、ジャッキーが弁護した加害者は無罪になる)、損な役回りだったけど妙に記憶に残っている。
「霊幻道士」シリーズはサモ・ハンが製作を務めているし、同時期の映画だから出演者もちょっとカブってたりしますね(『ポリス・ストーリー』『サイクロンZ』両方に脇役で出ていたウー・フォンも『霊幻道士2』に出てたし、ユン・ピョウもユン・ワーも同シリーズに出演している)。
この『サイクロンZ』は、僕が劇場で初めて観たジャッキー映画なんですが、ジャッキー、サモ・ハン・キンポー、ユン・ピョウという『プロジェクトA』『スパルタンX』(“スパルタンX”という邦題もたいがいだったけど、サイクロンZに至ってはもはや意味不明^_^;)に続く三人組の共演作で、だからそれだけでもお得感があるし、クライマックスでのベニー・ユキーデとのバトルも名場面だから、すっごく面白かった、という記憶があったんですが、『ポリス・ストーリー』以上にストーリーの内容は覚えてなくて、今回ほんとに久しぶりに観返して、ラブコメじみた展開にかなり呆気に取られてしまった。
これは覚えていないわけだ、と。
『ポリス・ストーリー』に続いて裁判の場面があって、というか、今回はジャッキーは弁護士役なんだけど、被告側の弁護士にもかかわらず原告側の女性とイイ仲になってしまい、さらに彼女の姉とサモ・ハン演じる仲間のウォンもデキちゃって…そこにさらにユン・ピョウ演じるちょっとおつむがアレな仲間も加わって、というお話。
ユン・ワー演じる麻薬組織のボスの出番は意外と多くないんだけど、後半で一気にもっていく。『スパルタンX』でも素晴らしいバトルを見せてくれたベニー・ユキーデが登場するのも終盤になってから。
サモ・ハンが監督も務めているからということもあるんでしょうが、彼が演じるウォンはもう一人の主人公のようでもあって、かなりおいしい役だし、ディニー・イップ演じるイップは、ジャッキーのお相手役のポーリン・ヤンとダブルヒロインといった扱い。
メイリン役のポーリン・ヤンはいかにも80年代的な濃いめのメイクで、僕は姉の役のディニー・イップの方が好みだったな。でも、彼女も途中でいきなり髪型がバブル期の人みたいなソバージュになって、いや、最初のヘアスタイルの方が可愛かったなー、と。
もう、彼女たちとの恋のやりとりみたいなのが、嘘つかれた!と怒ったイップはウォンをスパナで殴って流血させるし、やたらとプレゼントを欲しがるメイリンなど、別にキュンともこないし特別笑えもしないので、ちょっと見てらんなくて(;^_^A
昔はこういう部分はすっ飛ばして観ていたんだろうか。全然記憶にない。
早くアクションシーンになんないかなー、と思ってしまった。
まぁ、だからこれはチャップリンがサイレント時代に作ってたような喜劇なんだと思って観るしかないよね。たわいないにもほどがある。
懐かしいテイストではありましたが。
クライマックスのユキーデとのバトルで、ユキーデに回転キックを食らわせるのはジャッキー本人じゃなくてスタントマンだった、というのは先ほどのドキュメンタリー映画で解説されていて、最後にキックでユキーデが吹っ飛ばされてガラスのショーケースに激突する場面でも、ジャッキーとユキーデ、両者ともスタントマン。
それを知っててめっちゃ注目していたら、最後にキックをキメたジャッキーの顔がマースになっていた!(笑) この映画では顔出しで出演はしていなかったと思うけど、しっかりスタントは務めていたんですね。あの場面を見られただけでもこの映画を観た甲斐があった。笑わせてもらいました。そして感動した。
ちょっと『ポリス・ストーリー』と比べてもバトルシーンの早廻しが激し過ぎな気はしたけど。でも昔はあれはほんとにあのスピードでやってるんだと思っていた。
昔の映画を観ると、時代を超えて面白さが続く作品もある一方で、どうしてもいろいろ引っかかってしまうものも中にはあって、ジャッキーの映画にそういうものを感じ取ってしまうのは心苦しくもあるのだけれど、それでも彼の作品の超絶的なスタントアクションはCGが駆使されるのが普通になってしまった現在だからこそ、もはや二度と作ることができない貴重な財産のようなものになっているし、その輝きは今後ますます強くなっていくんじゃないかと思います。
人間があんな動きができるんだ、という驚き。人の身体の動きだけで魅せる原初的なジャンル。
香港アクションに明日はあるのかどうか僕にはわからないけれど、子どもの頃にTVで観て、酔拳や蛇拳なんかの真似事をして遊んだ楽しい想い出とともに、僕らを興奮させてくれたジャッキー・チェンのアクション映画を時々こうやってスクリーンで観られたら嬉しいな。
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