映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

※2019年の“はてなダイアリー”終了に伴い、2018年9月にブログを移行しました。

『イップ・マン 葉問』


※以下は、2011年に書いた感想です。


ウィルソン・イップ監督、ドニー・イェン主演の『イップ・マン 葉問』。

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1950年、妻と幼い息子とともに香港に移り住み新聞社の屋上に武館を開いたイップ・マンだが、なかなか弟子がつかず家賃を払うこともままならない毎日。やがて彼の強さに惹かれて入門する若者たちがあらわれるが…。


音楽は押井守作品や最近では『GANTZ』などを手がける川井憲次

詠春拳(えいしゅんけん)の達人にしてブルース・リーの師匠でもあるイップ・マン(葉問)の半生を描くシリーズ第2弾。

第2弾といったって、じつはいまだに第1弾の『イップ・マン 序章』を観ていないんですが。

イップ・マン 序章』(2008) 出演:サイモン・ヤム リン・ホン 池内博之
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以下、ネタバレあり。


ドニー・イェンの作品は10年以上前に『ドラゴン危機一発'97』をDVDで観たのが最初だけど、ヴィデオ撮影でしかも早廻しが激し過ぎて「…なんだかな~」という感想しかもてなかった。映画のストーリーは全然おぼえてない。

その後も劇場で『ブレイド2』に出てたりジェット・リーやジャッキーとたたかってるのを観て凄いクンフーアクション・スターなんだってことはわかってはいたんだけれど、実は映画館で彼の主演映画を観るのはこれが初めて。

これまではいつもクールでやたら早廻しを多用する人、というイメージが強かったんだけど、この『葉問』では温厚で思慮深いキャラクターを演じ、早廻しもそんなに気にならない程度。

観る前は、これは実在の人物の伝記映画なんだからそんなド派手なアクションはなくて比較的地味な内容なんだろうと思ってたんだけど、実際は映画のほとんどがアクションで占められていた。

ワイヤーワークもけっこう使っている。


この映画で武術指導を担当し、劇中でもドニーと拳を交えるのがサモ・ハン・キンポー


今回と同じウィルソン・イップ監督で、以前この二人がたたかった『SPL/狼よ静かに死ね』はDVDで観た。

あの作品でサモ・ハンは悪役だったけど、今回も主人公の前に立ちはだかる強面な役。

燃えよデブゴン』や『五福星』の頃のユーモラスなキャラからずいぶんとイメージが変わって、最近はそういう役も多いようで。


最初に述べたように、これは2部作の2本目なので(※主演俳優が交代した第3弾もあるようだが)お話は途中から始まる。

前作では日本軍が敵だったが、今回の敵はまずはサモ・ハン演じるハンや他の流派の師匠たち。

武館を開くには彼らの許可が必要で、それには試合で彼らに勝たねばならない。

そして、映画の後半には“本当の敵”が現われる。

西洋人である。


ジェット・リー主演の『SPIRIT』でも日本人や西洋人とたたかう武術家が描かれていたが、映画の構造はこの『葉問』もまったく同じ。

『SPIRIT』(2006) 監督:ロニー・ユー
出演:中村獅童 コリン・チョウ ネイサン・ジョーンズ 原田眞人
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また、ブルース・リーの『ドラゴン怒りの鉄拳』ともよく似ている。

出てくる外国人は決まって中国文化を見下し、差別的な暴言を吐く。

そしてかならず主人公の友人やライヴァルを痛めつけるか無残に殺す。

主人公は圧倒的な強さを誇るか卑劣な手を使う敵に正々堂々とたたかいを挑み、見事勝利する。

だいたいこのパターン。

記憶に新しいところでは、トニー・ジャー主演のタイ映画『マッハ!!!!!!!!』でもまったく同様のシーンがあった。


こういうあからさまにナショナリズムを煽るような作劇に鼻白む観客がいても不思議ではないし、正直僕もさすがにこの手の映画はどこか醒めた目で観てしまうところがある。

ただ、たしかにこうした作品を観てストレートに愛国心を喚起されて喜んだり、あるいは逆に反感を抱くような素朴な人も中にはいるかもしれないけれど、戦時中ならばともかく、リアルな撮影現場では“敵”側の国のスタッフやキャストたちも大勢参加してるわけで、つまり乱暴にいい切っちゃうと、映画の中で主人公に倒される「悪役」なんて実は誰だっていいのだ。

その時々で、物語の筋立てに合わせて敵が日本人になったり西洋人になったりしてるだけなので。

『怒りの鉄拳』で日本人とたたかっていたブルース・リーだって、撮影監督に日本人キャメラマンを使ったり勝プロと親交をもったりしてたわけだし。

映画の作り手というのは、観客の想像以上にしたたかなんではないかと思う。


なので、僕はそうやって物語上は敵味方に分かれて憎しみ合ったり殺し合ったりしてるんだけど、舞台裏では協力し合って(そうじゃなかったらアクション映画なんて撮れない)アイディアを出し合いながら和気あいあいと作品を作り上げている作り手のことを考えると、むしろとても和む。

まぁ、アクション監督の谷垣健治さんのレポートなどを読むと、スタント撮影の現場はそんなのどかなもんじゃないようだが。


舞台が1950年なのに服装がやたらと今風な若者たちなど、時代考証がどうなっているのかよくわからないが、史実とフィクショナルな部分とがいい感じで合わさっている。

前半での家主に家賃を催促されて居留守を使ったり、弟子たちに「とりあえず稽古代払ってくれ」といったりするとこなんか、あぁ偉大な武術の達人も「金」の前ではかくも苦戦を強いられるのか、と。

おなかの大きな奥さんが「やめたら?」っていうのもムリはない。

ハンがイップ・マンにいう「お前は自分の心配だけしていればいいが、俺には200人を食わせていく義務がある」という言葉は実にリアル。

ドニーにたたかいを挑む師匠たちの中に、かつてジャッキー・チェンの映画で敵役を演じていた人の顔もうかがえたりして。あれから20数年経って、みなさんもお年を召されたなぁ。


久々に観たクンフー映画は目にとても心地よくて(最近ガチで陰惨なヴァイオレンス映画ばかり観てたから余計そう感じる)、市場での2対多勢の攻防にサモ・ハン率いる師匠たちとの果たし合い、そしてクライマックスのボクサー“ツイスター”との異種格闘技戦と、変化をつけて楽しませてくれる。

最後にツイスターをボッコボコにするドニーの姿に、結末はこうなるとわかっちゃいたけど、やはりググッとキてしまったのだった。


たたかいののちにイップ・マンが皆の前で語る言葉はまったくもってそのとおりで、武術の心得など微塵もない僕にも「互いを尊重する心」の大切さが伝わってきた。

妻は無事出産し、平穏が戻ってくる。


そんなイップ師匠の前に現われる、ひとりの生意気そうな少年。

のちに“ドラゴン”の代名詞となった、まだ年端もいかないその少年が弟子入りを希望すると師匠は優しい眼差しで応える。

「大人になったらまた来なさい」。

このラストは予想してたけど、やっぱり涙ぐんじゃいました。


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