映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

もう一つのブログとともに主に映画の感想を書いています。

『ラスト・ドラゴン』


マイケル・シュルツ監督、タイマック主演『ラスト・ドラゴン』。1985年作品。

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The Last Dragon Theme by Dwight David
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ブルース・リーにあこがれる黒人青年リーロイ。クンフー(空手?)のインストラクターをしながら修行を続ける彼だったが、自称「ハーレムの将軍」ショーナフに狙われ、またひょんなことから知り合った人気歌手のローラのために彼女を取り込もうと企むギャングたちとたたかうことに。


モータウンレコードの社長が作ったブラック・アクション・ムーヴィー。

映画は主人公と悪党がたたかうまぎれもないアクション物なんだけど、作品の規模はなんだかハーレムを舞台にした「あばれはっちゃく」のような話。

残念ながらこの『ラスト・ドラゴン』は日本ではいまだにDVD化されていないようだけど、ストーリーや展開に対する楽しいツッコミは洋泉社映画秘宝ムック「ブルース・リーと101匹ドラゴン大行進!」の中に詳しく書かれてます。

すでにあの本から15年以上経ったのかと思うと、いろいろと複雑な心境だが…。


僕はあるかたのご厚意で、昔出ていた日本語字幕のついたVHS版を観ることができました。

以下、ネタバレあり。


ともかく観終わって一言。


ショーナフ!!

聞こえんぞ!

ショーナフ!!!

たまらん。


これ観てよくわかるのは、こいつらみんなブルース・リーが大好きなんだな、ってこと。

ドラゴン、といえばブルース・リー

門下生たちの前で、当たり前のように黄色いトラックスーツを着てるリーロイの姿にはクラクラする。

いうまでもなくこれは『死亡遊戯』のブルース・リーを真似したものだけど、そもそもオリジナルであるリー師父のトラックスーツ姿でさえ正直「なんでその格好?」と笑いがこみ上げてくる一歩手前なのに(もちろんそれを通り越してカッコイイんですが)、リーになりたくてしょうがないボンクラたちが身にまとった瞬間に、全員お茶目かつ「バカ」に見えるのは如何ともしがたい。

死亡遊戯』のブルース・リー

死亡遊戯』(1978) テーマ曲 追悼ジョン・バリー
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NHKブルース・リーの特集番組で中川しょこたんがこれを着てピンクのフェイク・ファー製ヌンチャクを振り回していた時も、やはり壮絶に「バカ」に見えたのだった。

しょこたんキル・ビル姐さんもトラックスーツ。


まず最初に。

…勝手に「最後のドラゴン」を名乗るんじゃない!!

まぁ、「最後のドラゴン」というのはリーロイの練習着についていたステッカーのことでもあるんだが。これを屏風に貼って円を作り、その大きな円でさらにあらたな円を描くために彼は修行に励むのだ(意味不明だが師匠にそう説明される)。

師匠から「ブルース・リーメダリオン」を託されたリーロイは、「宇宙一賢い男サム・ダム・ゴイ」に弟子入りするためにニューヨークへ。

ニューヨークのハーレムの映画館ではリーの『燃えよドラゴン』が上映されていて、黒人や東洋系の若者たちがスクリーンの中でオハラを叩きのめすリーに「ブルース、やっちまえ!」とか声援を送っている。

その熱狂ぶりがもう、いかにもバカっぽくて親近感がわく。多分、ブルース・リー映画のもっとも正しい鑑賞方法(^o^)


それにしてもこの映画、『燃えよドラゴン』をはじめ『危機一発』や『怒りの鉄拳』など、ブルース・リーの映画の映像を使いまくり。それがかなり長い。

映画の上映時間の1/3はリーの映像じゃないのかと思えるほど。

いいのか?いいけど。


それだけブルース・リーをリスペクトしておきながら、彼がその普及にこだわった中国文化と日本文化をおもいっきり混同してるのはご愛嬌だが、残念ながらアチラの人々の「東洋文化」についてのイイカゲンな知識はあれから25年以上経った今でもおそらくほとんど変わってはいない。

リーロイからして、自分の両親を日本語で「パパさん、ママさん」と呼んでたりニンジャに変装してたたかったりといろいろ間違っていて、もう「カッコ良けりゃなんでもいーんだよ」的スピリットに溢れているのだった。


リーロイを演じるタイマックはイケメンでたしか空手の有段者なんでところどころ気持ちのいい動きを見せてくれるんだけど、当時のハリウッド映画の常として肉体アクションそのもののクオリティは高いとはいえないし、同時代の香港映画のような超絶的なクンフーバトルは皆無。

84年の『ベスト・キッド』からいただいた師匠と弟子の関係みたいなものも描かれるけど、あいかわらずヨーダみたいにわかったようなわからないような東洋“的”哲学を語るこの師匠は途中で「おふくろさんに会いに行く」といって退場したきりそのまま出てこなくなる。

また“なんちゃってシンディ・ローパー”みたいな微妙なルックスの歌手が出てきて(シンディ・ローパーが主題歌を歌ってた『グーニーズ』はやはり85年作品)甘えたような甲高い声で歌ったりしている。


そしてこれまたいかにも80年代的な髪型と服装のヒロイン、ローラ役のヴァニティはなかなか綺麗な人で当時プリンスのヴィデオにも出演した人気の歌手だったけど、最近はキリスト教の伝道活動をしてるんだそうな。

ベルルスコーニみたいなチビでハゲのギャングの親分が女性シンガーのヴィデオに陶酔し、自分の顔をスクリーンに映してリーロイを翻弄するあたりから映画はまるで作り手がラリっているかのような様相を呈してくる。


クライマックス直前の門下生殴りこみシーンは『燃えドラ』のそれをなぞっているけど、なかなかカオス。

ここぞとばかりにブルース・リーになりきったバカたちが鼻をこすり怪鳥音を発しながら暴れまくる。

中でもこの作品を一種のカルト映画たらしめているのは、自称「1番の悪党で最強の男、ハーレムの将軍」ショーナフ(ジュリアス・J・キャリー3世)の存在にほかならない。


ショーナフ!!!
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とりあえず最強の「バカ」であることはたしかだ。

それにしてもこのショーナフ軍団の登場シーンは最高。


ジョン・ベルーシのサムライ・コントみたい。
  


ただ、髪が伸びたエディ・マーフィみたいな顔したこの人、「最強」と名乗ってるわりには背がデカいという以外、たとえば『燃えドラ』のヤン・スエのように筋肉ムキムキなわけでもちゃんとクンフーを見せてくれるわけでもないので(かかってきた奴らが勝手にあっけなくやられてくれる)、どこまで強いんだか皆目わからない。


この映画のクライマックスはもはや伝説といっていい。

映画の冒頭で師匠がリーロイに「極意を極めた(ファイナル・レヴェル)時、体中が光り輝いてその時がきたとわかる」と語るんだけど、それが何かのたとえではなくてそのまま視覚化されるんである。


映画というのは何でもそのままダイレクトに映像化できる表現媒体であり(そこをあえて映像で見せない、という選択肢もあるのだが)、だからこれは別に間違ったやり方というわけではないんだけど、しかし両手から赤い光を放つショーナフといい、全身が金色に輝くリーロイといい、『マトリックス』(感想はこちら)に先駆けること10数年前にこの衝撃^_^;

バック・トゥ・ザ・フューチャー』(感想はこちら)と同じ年に封切られた映画とはとても思えないが、実に天真爛漫な時代だったともいえる。


さらにこの映画の特徴のひとつとして、出演者のほとんどが黒人であるものの、かつての70年代ブラックスプロイテーション映画や、あるいは東映のカラテ映画のようなエロやヴァイオレンスがないことがあげられる。

何しろアクション物にもかかわらず誰ひとりとして死なないし、女の人の裸も一切出ない。

そういう意味では実に「健全な」キッズ・ムーヴィーといえる。

「エロもヴァイオレンスもない映画なんて興味ねぇ!!」という人もいるだろうけど、そこはショーナフのキャラに免じて許していただきたい。


あと、『ドラゴンへの道』でブルース・リーも女性の裸を見て驚いて逃げるキャラを演じていたように、「ドラゴンは女性に対して奥手」という伝統は時代を越えて受け継がれているようで。

『ラスト・ドラゴン』ではブルース・リーに入れこむリーロイが、ローラが自分に会話を合わせてくれたことに気を良くして延々リーについて語ってしまったり、「友達の話なんだけど」と前置きして“メイク・ラヴのテクニック”に自信がないことを彼女に相談したりといった見事なまでの童貞描写は微笑ましいやら、こそばゆいやら。

実際には演じてたブルース・リーもタイマックも正反対のタイプのプレイボーイだったんだろうけど。

はたしてリーロイは無事ローラに「筆おろし」してもらえたのだろうか。


リメイクの話も出てたそうだが、どーなったんだか(誰が演じるんだショーナフを)、この『ラスト・ドラゴン』からはまだまだ目が離せないのである。
 
最近のリーロイとショーナフ

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