映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

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『ドラゴン怒りの鉄拳』


ブルース・リー生誕80周年を記念する「4Kリマスター復活祭2020」で、ロー・ウェイ監督、ブルース・リー、ノラ・ミャオ、橋本力、ロバート・ベイカー、ウェイ・ピンアオ、ワン・チュンシン、ジェームズ・ティエン、フォン・イ、ティエン・ホンほか出演の『ドラゴン怒りの鉄拳』を劇場鑑賞。1972年作品。日本公開75年。

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20世紀初頭の上海租界中国武術の大家・フォ・ユァンジャ(霍元甲)の急死の知らせを受けて、弟子のチェン・チェン(ブルース・リー)は師が作った武術学校「精武館」にやってくる。そこには恩師の愛娘でチェンが結婚を約束していたユアン(ノラ・ミャオ)がいた。師父の死因は病気だと言われていたが、チェンには信じられなかった。租界では西洋人たちとともに日本人が幅を利かせて中国人を差別しており、日本人の道場主・鈴木(橋本力)の使いの者たちが挑発にやってくる。


ネタバレがありますので、ご注意ください。 

ドラゴンへの道』(感想はこちら)に続いて観てきました。

作品の制作順や初公開された順序は逆ですが、ブルース・リーの映画の中ではこの『怒りの鉄拳』のクライマックスのアクション場面が一番好きなので(ヌンチャクvs日本刀の闘いがカッコイイ。リーに蹴られて吹っ飛ぶ鈴木のスタントをやっているのはジャッキー・チェン)、今回この映画で〆ることができてよかった。

さて、あらすじにも少し書いているように舞台となる時代は1910年代。日本では明治の終わり頃で、日清戦争の勝利後、日本は中国大陸に進出してきていて、租界に住む日本人たちはあからさまに中国人を見下している。

この映画でブルース・リーが闘うのは、そんな日本人たち。

ブルース・リー演じる主人公・陳真(チェン・チェン)は架空のキャラクターだが、その師で映画の中では毒殺されたことになっている霍元甲は実在の人物。

ただし、史実では日本人に毒殺されたのではなくて、肝硬変で亡くなったのだとか。だから映画で描かれていることはすべてフィクション。

この映画については、「反日映画で残念」とか言ってる人たちがいますが、いや、それを言うなら「差別はダメ」っていう「反差別映画」でしょ。頼むから軽々しく「反日」なんて言葉を使わないでくれ。

物語自体はフィクションだし、たとえば劇中でチェンが門を通ろうとすると頭にターバンを巻いたインド人らしい門番*1が彼を制して「犬と中国人は入るべからず」という表札を指差す場面があるんだけど、そういうことが実際にあったのかどうか僕は知りません(ちなみに、その場面で「這いつくばって犬の真似をしたら一緒に連れてってやる」と言ってチェンにぶっ飛ばされる日本人を、リーのスタントダブルを務めていたユン・ワーが演じている)。

でも、当時、日本人が中国人を自分たちよりも下の存在としてしばしば差別していたのは確かだし(今だってヘイトを撒き散らしてる輩もいるし)、日本は中国を侵略した。これは否定できない歴史的事実。

日本軍は彼ら中国の人々にとっては侵略者であり「悪」だったんだし、自分たちの国で好き勝手している連中を敵として描くのは当たり前でしょ。

じゃあ聞くけど、「インディ・ジョーンズ」の映画でナチスが悪役として出てくることにドイツの人たちがいちいち「反独映画だ」と腹を立てますかね? 

ドラゴン/ブルース・リー物語』(感想はこちら)の感想にも書いたけど、ブルース・リーは別に日本や日本人を嫌ってなどいなかったし(日本人のスタッフや俳優とも一緒に仕事をしている)、この映画ではたまたま敵役が日本人やロシア人だった、というだけのこと。 

『ドラゴンへの道』でも日本人や西洋人の武道家と闘っていたから、単純にクンフー映画の対戦相手として登場させただけで、多分それ以上深い意味はないんだと思う。

この『怒りの鉄拳』自体はロー・ウェイ監督の企画なんだし(ロー・ウェイは日中戦争を経験している世代。彼はこの映画の中で役者として、中国人と日本人との間で板ばさみになる警察署長も演じている)。

だけど、差別に対するブルース・リーの怒りは本物なのでしょう。彼は夢を抱いて渡ったアメリカで差別を味わった。実力はあるのにアジア系であることを理由に思うように映画が撮れず、活躍の場も限られていた。その時の強い憤りを香港に帰ってから映画の中で表現した。それが伝わるから、たとえ仇役が日本人でも彼が演じる主人公に感情移入できる。

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『ドラゴンへの道』でもギャングの大ボスにへつらいながら偉そうな口を叩く男を演じていたウェイ・ピンアオが、ここでも日本人に媚びを売る通訳役で出ていて、彼が調子に乗ってチェンの頬をピシャピシャと叩く場面のリーの目を見開き怒りを押し殺した表情の凄味。

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ブルース・リーの演技、特に顔の表情の演技ってかなり誇張されたものだけど(だからパロディにもしやすいのだが)、サイレント映画の時代の役者の演技に通じるものがあって、彼の映画が世界中の人々に熱狂的に受け入れられたのも喜怒哀楽のハッキリした(それまで「東洋人は無表情」というステレオタイプで見られていたこともあるし)わかりやすさのおかげもあるでしょう。

通訳のウーが酒の席を中座しようとすると、橋本力(大魔神スーツアクターとして知られる。ご冥福をお祈りいたします。17.10.11)が演じる鈴木に「途中で帰るなら四つんばいになって犬の真似をしろ」と言われて愛想笑いをしながら言われた通りにする。

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鈴木のような居丈高で傍若無人なならず者は現実にもいるし、ウェイが演じたあの通訳のような男もいる。そういう奴らをブルース・リーがぶちのめす(とゆーか、ぶっ殺す)痛快さ。

通訳が鈴木たちと一緒にお座敷ストリップを見る場面は最初の日本公開版ではカットされてたようだけど、今回は入ってました。僕が観たヴィデオでは通訳のウーは「結構ですなぁ」と言ってたと思うんだけど、今回の上映版では翻訳が異なっていましたね。

精武館の創設者のフォ・ユァンジャを毒殺した張本人で実は日本人だった料理人(腹巻をしてるから日本人、というのがなんだか可笑しい)役のワン・チュンシンは『ドラ道』でも裏切り者の料理人の役をやってて、ウェイ・ピンアオ同様2本の映画でほぼ同一人物w

このあたりの昔のプログラム・ピクチャー感がいいね。

鈴木の客分としてチェンと対決するロシア人のペトロフを演じるロバート・ベイカーはもともとリーの友人だし、鈴木役の橋本さんや、チェンに急所を一突きされて昇天する鈴木の用心棒役の勝村淳氏(※追記:ご冥福をお祈りいたします。24.7.19)は勝新太郎を介してキャスティングされている。リーが勝新座頭市のファンだったのは有名な話。「中の人」たちは、みんな仲良し(^o^)

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そういえば、90年代に『怒りの鉄拳』のリメイク的な作品であるリー・リンチェイジェット・リー)主演の『フィスト・オブ・レジェンド』(1994)が作られて、当時レンタルで借りてきてVHSヴィデオで観ました。 

もう内容は覚えてないけど、倉田保昭が出演して闘っていた。ヒロイン役は中山忍

ジェットはベルトをヌンチャク代わりにしていた。武術指導はユエン・ウーピン。 

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インディ・ジョーンズの敵がナチスだったように、戦時中が舞台の映画では日本軍や日本人が悪役、というのはわりとあちらの映画の定番だったりもするんでしょう。

だから、そのことにいちいち目くじら立ててもしょうがないんだよね。

僕は最近はそういうタイプの映画を観ることはほとんどありませんが(香港映画自体、ここ何年もずっと観ていない)、『怒りの鉄拳』は反日感情を煽るというよりも、横暴な権力に対する反抗を描いたものとして僕は観ました。

ブルース・リーは、威張りくさって数の力で弱い立場の人々を傷つける者たちに単身戦いを挑む。そこに胸が熱くなる。 

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ノラ・ミャオ演じるユアンとのロマンスも、悲劇的ではあるんだけれど、なんだか可愛らしくてよかったなぁ。ブルース・リーが女性とキスをするのって、この映画だけじゃなかったっけ(その直前に犬の丸焼き食ってるんですがw)。

ノラ・ミャオがほんとにカワイイ。日本の映画雑誌で人気投票の上位だったというのもわかる。闘ってても武術の心得があるようにはまったく見えないのもご愛嬌(^o^)

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ところで、この作品も『ドラ道』同様にマイク・レメディオスの主題歌が入ってますが、僕が昔ヴィデオで観たのは、冒頭の歌は「ボンッ、ボンボンッ♪」と合いの手が入る歌詞のない男女混声コーラスでした。

バックで叫んでるのはブルース・リーではありません。
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『ドラ道』ではレメディオスのヴォーカル入りの主題歌と、僕が聴き覚えのあった「ウッ!ウッ!」と掛け声の入るヴァージョンが続けて流れていたので今回もそのパターンかと思っていたら、流れたのは英語の歌入りの方だけでした(劇中、一瞬だけ「ボンッ、ボンボンッ♪」が流れる)。

マイク・レメディオスさんの歌声はちょうどマカロニウエスタンっぽくて悪くはないんですが、勇壮で哀愁を帯びたメロディに時々挟まれる「ボンッ、ボンボンッ♪」という合いの手が微笑ましい広東語ヴァージョン*2の方も聴きたかったなぁ。

久しぶりに観たブルース・リーの映画は、チープに見えるところさえも愛すべき映画でした。

ドラゴン is フォーエヴァー!


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*1:明らかにアジア系の俳優が顔を塗って演じている。これはこれで現在では許されない差別的な表現。ジェット・リー主演の『少林寺2』でもそういうキャラクターがいたし、80年代頃まで、あるいはごく最近まで、顔を塗って外国人を演じることはあまり深く考えずに行なわれていた。

*2:中国語の歌詞の入ったヴァージョンも聴いた記憶があるんだけど、もうサントラCDが手許にないので確認できないし広東語だったか北京語だったのかもわかりませんが。