映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

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『エレファント・マン 4K修復版』

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デヴィッド・リンチ監督、ジョン・ハートアンソニー・ホプキンスアン・バンクロフト、ジョン・ギールグッド、フレディ・ジョーンズ、ウェンディ・ヒラー、マイケル・エルフィック、デクスター・フレッチャー、ケニー・ベイカーほか出演の『エレファント・マン 4K修復版』を劇場鑑賞。1980年作品(日本公開81年)。

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19世紀のロンドン。外科医のフレデリック・トリーヴス(アンソニー・ホプキンス)は、見世物小屋で「象男」として見世物になっていた青年ジョン・メリック(ジョン・ハート)を医学的な興味から引き取り病院に入院させようとする。ジョンは生来身体に障碍があったが本や芸術的なものへの関心があり、やがて彼を訪ねる者たちとの交流も生まれる。しかし、ジョンを見世物にしていた興行師のバイツ(フレディ・ジョーンズ)は唯一の収入源である彼を取り戻そうとする。 


内容について書きますので、まだご覧になっていないかたはご注意ください。

19世紀の実在の人物を描いた物語。

デヴィッド・リンチのメジャーでの長篇デビュー作(初の長篇作品は前作『イレイザーヘッド』)が公開40周年を記念して「4K修復版」として上映されることを知って、僕はこの映画を80年代にTV放送された吹替版で観たんですが、今回はその時以来で、もう細かい部分は覚えていなかったので結構前から楽しみにしていました。

ただ、あいにく僕が住んでいるところではわずか一週間ちょっとの期間、単館で一日1回、それもかなり中途半端な時間帯での上映(僕が観た日は終映が23時でした)で、他にも観たい映画もあるのでなかなかスケジュールが合わず苦労したんですが、なんとか鑑賞。

劇場パンフレットを買いそびれてしまって、もうすでに公開も終わってしまったので残念。

僕が観たのは2K版だし(どうやら僕の在住地では4Kで上映できる映画館がないようで)、修復版といっても元の状態がどんな感じだったのか覚えてないからどれだけ画質が向上したのかそのありがたみもわからないんですが、劇場で初めて観たことでそのモノクロームの映像の美しさと、あと特に音響効果が印象に残りました。

バックでほとんど常に鳴っている環境音。水の音、機械の駆動音。靴音などさまざまな音が聴こえて、19世紀のロンドンの様子を画面に映っていないところまで想像させる。

劇中で「機械は恐ろしい」という台詞があったけれど、でもリンチ自身は機械やそれらが発する“音”に魅せられているのは明らかで、この「インダストリアル・ノイズ」は前作『イレイザーヘッド』でもリンチはこだわっていた。僕は『イレイザーヘッド』はDVDでしか観ていないのであまり注意して聴いていなかったんですが、確かにあの映画も全篇「ノイズ」に溢れていました。“音”が映画の重要な要素でもあった。

それから、この『エレファント・マン』のあとにリンチが撮ったSF超大作『デューン/砂の惑星』(感想はこちら)でも面白い音がいっぱいあったし(皇帝の玉座の間に鳴り響くサイレンのような音や“ナヴィゲイター”が収容されている巨大な容器の作動音など)、悪役ハルコーネン男爵の星ギエディ・プライムとその居城の内部が、奇妙な機械音と、これまたリンチが好物の蒸気と湿気に満ちていた。

なるほど、彼の映画は音響のいい劇場で観ないとその真価がわからないんですね。

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若き日のリンチとジョン・メリック役のジョン・ハート

さて、この映画については、その後、リンチの「畸形趣味」に絡めて批判的な批評も読んだ。あざとくて「偽善的」ではないか。これを「感動映画」扱いしていいのか?と。

デヴィッド・リンチがグロテスクなものに魅了されているクリエイターであることはそのフィルモグラフィと『イレイザーヘッド』や『デューン/砂の惑星』の“クリーチャー”たちを見れば一目瞭然だし、リンチがこの『エレファント・マン』の企画の何に惹かれて監督を引き受けたのかは知りませんが、ではこの映画は「感動映画」のフリをした「畸形趣味」の映画なのかといったら、僕は半分はその通りだと思うけど、もう半分はとても真摯なものを感じたんですよね。

これはデヴィッド・リンチが主人公のジョン・メリック=エレファント・マンに自分を重ねた作品なんじゃないか、と。

リンチ自身、自分を世の中から疎外された者と感じていたのではないか。

まわりから理解されず、「怪物」扱いされる孤独と恐怖。

映画の終盤で、バイツから逃れたジョンがあの有名な袋のようなマスクをかぶって街を歩いていると、少年が寄ってきて「どうして頭が大きいの?」「ねぇ、なんで何も言わないの?」としつこく付きまとってくる。

焦ったジョンは逃げようとして傍らの幼い少女とぶつかってしまい、彼女は倒れて泣く。

その様子を見ていた街の人間たちがジョンを怪しんで大挙して押し寄せて、彼は追いつめられる。

マスクを剥ぎ取られて素顔を晒され、驚愕する民衆の前でジョンは「僕は象じゃない!動物でもない!人間なんだ!」と叫ぶ。 

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主人公が民衆に追われるこの場面はフランケンシュタインの怪物や、それにインスパイアされたティム・バートン監督、ジョニー・デップ主演の『シザーハンズ』のある場面を思い出させる。 

彼の初登場シーンもそうだったように「怪奇映画」「ホラー映画」の一種のような撮り方をしているわけで、だからあの場面に何か嫌ァなものを感じる人がいるのも頷ける。

そういえば、“エレファント・マン”はこれもジョニー・デップ主演の『フロム・ヘル』にもワンシーンだけ姿を見せていた。『フロム・ヘル』は「切り裂きジャック」事件を描いたもので、同時代の実在の人物としてジョン・メリックを登場させたのだろうけど、映画のストーリーには直接絡まない。猟奇殺人事件を扱った物語にあえて彼を登場させるあたり、“エレファント・マン”が世紀末ロンドンの殺人鬼・切り裂きジャックや吸血鬼ドラキュラなどと同じような存在として見做されていることがわかる。完全にモンスター扱い。

この映画『エレファント・マン』もまた、ジョン・メリックというひとりの人間を怪物扱いするような視線が描かれるのだけれど、それでも僕には民衆に追われるジョン・メリックが感じた恐怖はとてもリアルに思えるんですよね。人々が彼に感じる恐怖や嫌悪よりも、映画の後半ではむしろ彼とかかわる他の“健常者”たちに対する恐怖や嫌悪を描いている。

ああやって人々は、弱い立場だったり抵抗ができないようなハンデを負った人をしばしば笑い者にしたり嫌がらせをしたりするじゃないか。

“健常者”などと呼ばれる者たちが、実はちっとも「健常」などではなく「異常」ですらあることを暴いている。このあたりは、バートンの先ほどの『シザーハンズ』や『バットマン リターンズ』(感想はこちら)などを連想する。

余談ですが、先日、僕は道端で見知らぬ幼児に「ヘンなおじいさん」と呼ばれて笑われてショックを受けました。僕は白髪頭で髪も薄いので小さな子どもには「おじいさん」に見えたんだろうけど(以前、友人の幼い娘さんにも同様に「おじいちゃん」と言われたことがある)、僕はまだ40代だし、未婚で“孫”もいないから「おじいさん」じゃない。それに「ヘンなおじいさん」ってなんだ?俺のどこを指して「ヘン」だと言ってるのか。

まだ幼稚園児ぐらいの女の子でさえも人を勝手に「おじいさん」と決めつけるような偏見がある。そして人のことを「ヘン」だと笑う。

そのこともショックだったけど、そばにいた彼女の若い母親が娘をたしなめることもなく一緒にこちらを見て笑っていたことが何よりもショックだった。

「僕は“おじいさん”じゃないし、ヘンでもない。そんなこと言わないでね」と言ってあげられればよかったんだけど、動揺した僕は彼女たち親子と目も合わせずにそそくさとその場を立ち去ったのでした。何も悪いことしてないのに。ヒドいこと言われたのはこちらなのに。

その時の僕は、ちょうど子どもから「ねぇねぇ、なんで頭が大きいの?」と無神経に問われたジョン・メリックのような気持ちだった。子どもって残酷だよな。

そういえば、昔、さっきとは別の友人のお宅にお邪魔した時には、そこの4歳の息子さんに「おじさんは男なのにどうして背が小さいの?」と尋ねられたっけ。ほっとけ。男だって小さい人もいるんだよ。 

ジョンが子どもの意地悪で執拗な質問をきっかけに人々から追われるあの場面は、子どもでさえも弱者を痛めつけるんだという事実を突きつけてくる。人は相手が弱そうだったり抵抗してこないと判断すると平気で攻撃してくる。憂さ晴らしのためだったり無知や思いやりが欠けてるせいだったり理由はいろいろだろうけど、残念ながらそういうことはしょっちゅうある。

エレファント・マン』でジョン・メリックはその外見からの印象とは異なり、知的で優しい性格の青年だったことがわかると、彼を見世物小屋から連れ出したトリーヴス医師や病院のカー・ゴム院長(ジョン・ギールグッド)、看護婦長(ウェンディ・ヒラー)ら(ジョン・ギールグッドとウェンディ・ヒラーは74年版の『オリエント急行殺人事件』→感想はこちら にも出演している)の彼を見る目も変わっていって、高名な女優ケンドール夫人(アン・バンクロフト)と親しくなったり、上流階級の者たちが会いにきたり、果てはアレクサンドラ妃(ヘレン・ライアン)がヴィクトリア女王の命を受けてジョンの今後の病院での生活を保障することを伝えにやってきたりする。

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すっかり有名人になったジョンは、自分の部屋で彼の体型に合わせた特注のスーツを着て紳士気取りで挨拶の真似事をして悦に入ったりもする。このあたりの描写はちょっとユーモラスでもあるが、一方でグロテスクなものを感じさせもする。まるでジョンがサーカスの出し物そのものに見えるから。

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そして、トリーヴス医師は看護婦長からジョンを興行師同様に「見世物にしている」とたしなめられる。トリーヴス自身も妻の前で自分の「偽善」に悩んだりもする。

この映画を観て僕たち観客が微妙な気持ちになるのは、僕たちもまたトリーヴスの偽善を共有しているからでしょう。ジョン・メリック=エレファント・マンを感動の道具として利用している後ろめたさを感じるのだ。

ジョンが住んでいる病室を見回る夜警のジム(マイケル・エルフィック)が泥酔した男女から金を取ってジョンを見世物にする様子は醜悪で彼のあくどさには怒りと嫌悪をもよおすが、しかし、そのジムと、この映画を観ている僕たちとでは何が違うのか、とリンチは意地悪く問うてくる。

ジョンを檻から出してバイツから救う小人の男性を演じているケニー・ベイカーは「スター・ウォーズ」シリーズのR2-D2役で有名な人だけど、彼は『スター・ウォーズ』が小人症の俳優を使うことを批判された時にはジョージ・ルーカスを擁護して、「じゃあ、文句言ってる奴らは俺を雇ってくれるのか?」と語っていた。

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ジョンに同情的な少年役は『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』や『キック・アス』などの俳優で『ボヘミアン・ラプソディ』『ロケットマン』などの監督デクスター・フレッチャー。

ジョン・メリックも生きていくために見世物小屋で見世物になっていたが、彼の場合は全身が変形して杖がなければ歩行も困難なほど重度の障碍を負っていたし、見世物小屋での仕事は苛酷極まりないものだっただろうから、病院で生活できるようになったのは必然だった。

映画で描かれたような、興行師に病院から連れ出されて再び見世物にされるようなことが実際にあったのか、それとも映画のためのフィクションなのかは知りませんが(いくらなんでも夜警が好き勝手でき過ぎだろ、とも思うし)、あれらの展開はジョンが得られた安心と安全がいかに危ういものなのかを語っていたように思います。 

史実では、ジョンが亡くなったのは事故によるものらしいですが、映画では「幸せ」を手に入れた彼がそれを永遠のものとするために自らの意志でベッドで「仰向け」になって眠った、というふうに描いています。

僕はこの映画の前にたまたまヒュー・ジャックマン主演のミュージカル映画グレイテスト・ショーマン』(感想はこちら)を観たんですが、この2本の映画は舞台になっている時代が近いし、サーカスの「見世物」についての物語という共通点もある。

グレイテスト・ショーマン』は大好きな映画なんだけど、この作品は「見世物」や興行師の主人公の描き方を批判されてもいて、確かに『エレファント・マン』を観ると、「あんな甘いものではなかったのではないか」と思える。

少なくともジョン・メリックにとっては見世物小屋はけっして居心地のいい場所でも自分の本当の居場所だと思えるところでもなかったでしょう。

ただ、それでも僕は『グレイテスト・ショーマン』も『エレファント・マン』も根っこの部分では同じことを訴えていたのではないかと思うんですよね。

私は人間だ。人間として扱われる権利がある。

ジョン・メリックは聡明な人で晩年はまわりから敬意を払われていたが、仮に彼のような人格者でなくても誰もが人の尊厳を守られるべきだ。

人は皆と違う外見だったり他の人々の中でうまく生きていけない者を排除しようとするし、最近でも「命の選別」を許したり、それを勧めるような主張をしている者たちが出てきているけれど、それはすべて人を「役に立つ者」とそうでない者とに分けて優劣をつけ「人の命」をぞんざいに扱う、差別的で思い上がった考えだ。障碍者を“断種”したり殺害したナチスと同じ発想。

医療や科学技術は進歩したが、ジョン・メリックが生きた時代から僕たちの人権意識はどれだけ進歩しただろうか。 


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