ウー・シーユエン監督、ブルース・リャン、倉田保昭、マン・ホイ(リトル・マウス ヅラ坊主)、ハン・クォツァイ(ブラック・キャット)、ウォン・ワンシー(イーグル)、ディーン・セキ(宿の使用人)、チャン・ナン(イム・クンホー)ほか出演の『帰って来たドラゴン』《2Kリマスター完全版》。1973年作品。日本公開1974年。
清朝末期。麻薬や人身売買など、あらゆる犯罪と暴力が渦巻く悪の魔窟、金沙村(ゴールド・サンド・シティ)。悪辣なボス、イム・クンホー(チャン・ナン)が支配するその街にやってきた1人の男。巷にはびこる悪を懲らしめながら流浪の旅を続ける正義の好漢、その名もドラゴン(ブルース・リャン)。彼にはある目的があった。旅の途中、ドラゴンは2人組の盗賊リトル・マウス(マン・ホイ)とブラック・キャット(ハン・クォツァイ)に襲われるが、鮮やかな機転と華麗なクンフー技でそれを退け、逆に2人の盗賊はドラゴンに弟子入りして旅を共にしていた。ドラゴンと2人の弟子が金沙村に到着した頃、イーグルと呼ばれる伝説の女格闘家(ウォン・ワンシー)もその街にやってきた。彼ら全員の狙いは“シルバー・パール”というチベットの寺院から盗まれた秘宝にあった。そして、もう1人、金沙村のイムを訪ねてやってきた謎の男、ブラック・ジャガー(倉田保昭)。彼こそ非情な殺人空手の使い手として恐れられる格闘家で、彼が肩に背負い、運んできたものこそ秘宝“シルバー・パール”だった。やがて、“シルバー・パール”を巡り、ドラゴン、ブラック・ジャガー、イーグル、リトル・マウス、ブラック・キャットら最強の強者たちが腕を競い、壮絶な激闘と騙し合いを繰り広げながら、果てしない争奪戦が続いていく…。(公式サイトより引用)
7月26日(金) より東京をはじめ全国順次公開されていて僕が住んでるところでは10/11(金) からの上映で、2日目の12日には倉田保昭さんが舞台挨拶をされるということなので観にいってきました。
…と言っても、僕は倉田さんの出演された1970年代頃のクンフー(功夫)映画をリアルタイムで観た世代ではないし、倉田さんが出演されていた「Gメン’75」のドラマ本篇をちゃんと視聴したことすらなくて、出演者たちが並んで歩くあのオープニングを観たことがあっただけで(ドリフの「8時だョ!全員集合」のあとにやってたから)、つい最近になってからYouTubeで配信されていたのを観たぐらい。そして恥ずかしながら、実はこれまで彼の主演映画を1本も観ていないのですが。
僕が初めて倉田さんの出演作品を観たのは、多分、サモ・ハン・キンポー監督の『七福星』(1985年作品。日本公開1987年)で、あとは『ぼくらの七日間戦争』(1988) の体育教師役の頃にはすでに彼のことを認識していた。
いずれもTV放送での視聴だったし、90年代になってからようやく千葉真一主演や志穂美悦子主演作品に助っ人役で特別出演していた70年代の空手映画や、ジェット・リーと共演した『フィスト・オブ・レジェンド/怒りの鉄拳』をレンタルヴィデオで観たぐらい。倉田さんが自ら企画してアクション監督も務めた主演映画『ファイナルファイト 最後の一撃』も、タイトルは知っていたけれど未鑑賞。これまでに劇場で唯一観た出演作品は『クローサー』(2002年作品。日本公開2003年)のみでした。
だからファンどころかろくに出演作品を観ていないわけで、そもそも倉田保昭さんの出演作品だけではなくてクンフー映画自体をそんなに観てはいないんですよね。
この『帰って来たドラゴン』もこれまでヴィデオやDVDなどでも未視聴だったんですが、90年代に映画秘宝のブルース・リー関連のムック本の中でこの作品について書かれていてその存在を知ったのでした。
それ以来、作品にまったく触れることがなかったのが、日本公開から50年目の今年に2Kリマスター完全版が上映されるという予告を観たので、興味が湧いた。
日本公開から50周年だけど、今回の上映は倉田さんがこの映画が74年に日本で公開されるので凱旋帰国してから50周年を記念して、ということのようで。
だけど、この予告篇の画質がまた凄まじくて、まさかこのVHSの3倍速録画かコピーを重ねた大昔の裏ヴィデオ並みの画質(40代以上でないとわからない会話)で上映されるわけじゃないだろうな、と思っていたら、まぁなんということでしょう、ほんとにそのまんまな画質だった。
こんな粗い画質で劇場のスクリーンで映画観るのって昔行った自主映画の上映会以来じゃないだろうか。だって「2Kリマスター」だというのに画質が悪過ぎてところどころ登場人物の顔がボヤケていてよく見えなかったり、変なトリミングをされたように人物の顔が妙なところで切れていて真ん中に不要な空間があったりと大変居心地悪い映像で、とても映画館での鑑賞に耐え得る代物ではなかったので。
映画の冒頭で、すでにマスターネガが存在しないために監督が保有している映像を2K化しました、と字幕が入るんだけど、2K化した結果がこれなんだったら、残っていた素材自体が相当劣悪なものだったんだな、と想像できる。「劣悪」などというあんまりな評価が嘘でないことは、実際に劇場のスクリーンで確認してみればわかります。
…と、しょっぱなから毒を吐いてしまいましたが、このように今回は絶賛ではなくてどこか小バカにしたような表現が続きますので、おそらくはこの映画のタイトルを検索してこのブログを訪れてくださったファンのかたはとても気分を害されるでしょうから、お読みにならない方がいいかもしれません(もう遅いか…)。
僕は少し前に観た、世界的にも評価が高いジョン・ウー監督の『男たちの挽歌』(感想はこちら)さえも酷評してるぐらいなので、何もわかってない奴がなんかテキトーに言ってる程度に受け取っていただければ。この『帰って来たドラゴン』が世間的にどれほどの評価をされているのか僕は存じ上げませんが、でもお客さんたちはほんとに好きだから観にきているのがわかったし、だからこの映画を本気で愛している人たちもいらっしゃるんだな。
リアルタイムで「Gメン’75」(ブルース・リャンも出演)を観ていたり、この『帰って来たドラゴン』を劇場で鑑賞して燃えた人たちが来ていた。
そういう観客の熱気みたいなものはとても好ましかったし、結果的にはお客さんたちの反応込みで楽しめたんですが。
上映会場は見事なまでに初老のかたたちで占められていて、当日券を買おうとしてすでに売り切れで受付でゴネてるおじいさんとか、友だち同士で来たけどやはり席を予約していなかったために入れなかったおじさんたちなどが入口付近でたむろしてたり、予想通りの混雑ぶりでした。僕は同じ劇場で『マルホランド・ドライブ』(感想はこちら)を観たあとでチケットを購入しておいたおかげで大丈夫でしたが、その時点でもすでにほとんど埋まっていて一番後ろの席をなんとかゲット。
監督のウー・シーユエンさんって、プロフィール見ると結構スゴい作品にかかわられているかたで(ジャッキー・チェンやジェット・リーの主演作品やジャン=クロード・ヴァン・ダム出演の『シンデレラ・ボーイ』、真田広之主演の『龍の忍者』、ウォン・カーウァイ監督の『グランド・マスター』のプロデュースなど。あと『死亡の塔』を監督している)、去年観たドキュメンタリー映画『カンフースタントマン 龍虎武師』(感想はこちら)にも出演されていたようです(すみません、観たけど覚えてない)。
とても影響力があって尊敬もされている巨匠なんですね。
なのに…これは(;^_^A
物語は↑のあらすじ通りなんだけど、なんていうんだろう、まるで学生が撮った自主映画みたいな内容だった。
主人公が旅をしていて出会った奴らと仲間になったり闘ったりする、まるでロール・プレイング・ゲームみたいな展開で、伏線がどうとかそういうの別にない(後述する「蹴りんちょ」が一応、最後のオチにはなっているが)。
チベットの寺院の秘宝、というのも台詞でそう説明されるだけで、「インディ・ジョーンズ」みたいにそれを手に入れるために秘境で冒険するとか、そういう展開はなくて田舎でただデカい真珠を奪い合うだけ。
あ、言い忘れたけど、この映画の主演はブルース・リャンさんで、倉田保昭さんは彼と闘うライヴァルキャラ、という位置づけ。ドラゴン、というのはブルース・リャンさんのことです。倉田さんの役名は“ジャガー”。
ブルース・リャンといえば、僕はこれまでにリアルタイムで観た彼が出演した劇映画はチャウ・シンチー監督・主演の『カンフーハッスル』(2004年作品。日本公開2005年)だけで、バーコード頭で暴れる最強の殺し屋を演じていた。そもそも悪役ヅラな人なんだよね。
ブルース・リャンさんは『カンフースタントマン』にも出演されていました。
この『帰って来たドラゴン』では、若い頃の大槻ケンヂっぽい顔つきで明るい主人公を好演してましたが。ノリが昔の東映の特撮ヒーロー物っぽいんだよなー。
対する倉田保昭さんが太い眉の端正な顔の持ち主だから、余計に主役と悪役が逆じゃないの?って^_^;
でも、子分になった二人組との珍道中は彼のわかりやすいコメディ演技でうまく成り立っていたし、なんか全体的にのどかで「懐かしい」感覚に包まれたのだった。
さらわれてきて娼婦にされた女性たちを救う場面での「ブスいじり」みたいな古典的なギャグ(物凄いメイクの太った女性、という類いの)とか、もはや死滅しつつある表現だよな。
電動キックボードみたいなのが重要アイテムとして出てくるんだけど、これ、時代は清朝末期なんでしょ?なんで電動の「蹴りんちょ」があるんだよw このへんの時代考証など端から無視した作劇もあの当時の香港映画っぽい。
『燃えよドラゴン』(感想はこちら)で試合前にブルース・リーを「どうして決められたユニフォームを着ないんだ」と問い詰めるも睨まれて黙っちゃう男を演じていた人(湛少雄 Cham Siu-Hung)が、子どもたちを売買していてドラゴンたちに邪魔される男を演じていました。
どうでもいいけど、昔の映画の男優たちはリアルに歯が汚いですよね。全体的にスゲェ不潔そう。だから逆に口を開けて笑う倉田さんの歯の白さ(と整った歯並び)が際立つ。
お話の方はほんとにアレなんだけど、でも実際に動ける人たちが演じているから、アクションはよかった。
建物の壁と壁の間を足だけでどんどん上りながら闘う、ってアクションはよくネタとして笑われてもいるけれど、実際の撮影現場は苛酷だったようで、足を滑らせたら下に何も敷いてない状態で地面に落下して大怪我を負うことになるし(上ることはできても降りられなくなる)、上映後の倉田さんのお話でもこの映画の撮影は大変だったらしい。今みたいに安全対策が充分に取られていない状態でキャメラをかなり引いて撮るから危険を伴うし、カット割りで誤魔化さずにロングでクンフーアクションを見せるのは技術がないと様にならない。
倉田さんも「簡単そうに見えただろうし、きっと中には「こんなの俺でもできる」と思われたかたもいらっしゃるでしょうが」と語られていましたが、いやぁ、無理だな^_^;
途中まで倉田さんがなかなか登場しないのでヤキモキしたんだけど、彼が姿を見せると「待ってました!」って感じで気分が盛り上がった。
正直なところ、闘い以外の場面はユルいし展開がかったるくもある。
でも、終盤の怒涛のクンフーバトルは圧巻で、「ブルース・リーがやらなかったことをやる」というコンセプトはしっかり作品の中で形になっていたと思う。
ド素人の僕にもその凄さは伝わったもの。二人の蹴りの速さ、それからブルース・リャンのあのジャンプ力。少しのちのジャッキー・チェンの『ドランクモンキー 酔拳』などのような「型」っぽくない、それこそ80年代以降の彼の映画でのアクションを先取りしたような手技足技の応酬。トンファーとヌンチャクの夢の闘い。ずっと観てても飽きない。
上映時間も100分足らずだから、最後に最高の場面があると思って観てれば長くはない。
観終わった頃には画質の悪さもそんなに気にはならなくなっていた(^o^)
そして、『帰って来たドラゴン』の上映のあとには、
『夢物語』(2023年作品。15分)
監督:中村浩二、出演:倉田保昭、中村浩二、磯優貴乃ほか。
妻を亡くし、最近は睡眠も浅くなってきたある高齢の男性がいつもの習慣で昼寝していると、竹林の中で忍者たちと闘う夢を見る──。
最初に自転車に乗って登場した倉田さんの姿は髪はフサフサだけど白髪だし年相応に皺もあって、当たり前だけどそれなりにお年を召されたな、というふうに見える。
でも、夢の中で日本刀を手にした彼は…という、お世辞ではなくて世界のアクションスターとしてもほとんど最高齢といっていい倉田さんが見せるソードアクションは最高でした。
中村監督は倉田さんが主宰する倉田プロモーションのメンバーで、「平成ウルトラマン」シリーズのスーツアクターを務められたりもしてきた人。
この短篇映画『夢物語』が初監督作品となるのだそうで、アクションコーディネーターも兼任して忍者の役でお師匠さんと闘っています。忍者役のかたがたは、やはり皆さん倉田プロモーションに所属されている人たちなのでしょうね。
自主制作とのことですが、アクションはとても見応えがありました。78歳にしてこの動き!この蹴り。
今回、中村浩二監督は倉田さんと一緒に舞台挨拶もされていました。映画評論家でこの映画を配給したエデンの代表取締役でもある江戸木純さんが司会をされていました。
最後列の席からの撮影なので、お顔がピンボケ気味で申し訳ありませんが。
監督と主演俳優という立場でありながら、中村さんは挨拶の時も倉田さんのことを「倉田先生」と呼んでいて(いや、お弟子さんなんだからしかたないですけど)、若干体育会系特有のしんどさを感じたんですが、それでも師匠を主演にした愛弟子監督による短篇映画というのはなかなか微笑ましかったし、さすが「アクション」の世界の人たちだからこその作品で迫力あって面白かったです。
ちまたでは時代劇愛を描いたインディーズ映画『侍タイムスリッパー』が話題ですが、あの映画を観て殺陣師の世界に涙したかたがたは、この『夢物語』もぜひご覧になるといいと思います。かっこいいよ!
舞台挨拶で、今度、東京国際映画祭でサモ・ハン・キンポーさんと会うようなことを仰っていたし、ジャッキー・チェンさんに「まだアクションやってるの?」と驚かれたり、また一緒に映画撮ろう、と話し合ったことなどを語られていました。スゴい人だよねぇ。
千葉真一さん亡きあと、ほんと貴重な存在だと思う。
千葉さんや、今「SHOGUN 将軍」が話題の真田広之さんについては今回の舞台挨拶では触れられませんでしたが、倉田さんと真田さんって共演したことあるんだっけ?一応千葉さん主演の『直撃!地獄拳』(1974) には、お二人とも出てらっしゃいますが(真田さんは当時は子役としての出演)。
どちらかといえば、海外での映画出演が多い倉田さんはあちらの俳優さんたちとのエピソードの方がたくさんありそうですよね。
18日から続篇の『夢物語・奪還』が上映されるそうで、短篇なのでこういう機会でもなければなかなか上映できない、と仰ってましたが、江戸木さんが短篇を繋げて公開するのもいいかも、と提案されていて、倉田さんも乗り気のようでした。
鑑賞後にはサイン会があって長蛇の列に並び、購入した劇場パンフレットにサインをいただきました。
僕の前に並んでいたガタイのいいTシャツ姿の男性から「自分のスマホで倉田さんと一緒に撮影してほしい」と頼まれたので、ちょっと直前にワチャワチャしてしまった。でもプロレスのマスクをかぶって倉田さんと握手されていて、あとで「ありがとうございました!」と嬉しそうに挨拶されたので、いいことした、と良い気分に。
僕はただ普通に握手してもらってサインをいただきました。
80~90年代頃の倉田さんは僕にとっては「怖そうなおじさん」というイメージだったんですが、倉田保昭さんってほぼ僕の親と同世代なので、そんな年齢のかたが今もこんなにかくしゃくとしてアクションまでやってらっしゃるんだと思ったら、ウルッときてしまった。優しそうな笑顔で握手してくださって、間近でお会いできてとても嬉しかったです。
どうやら名古屋が最後の舞台挨拶だったようで、会場は盛り上がっていました。
倉田保昭さん、名古屋まで来てくださってありがとうございました。
ぜひ、これからも『夢物語』の続きを撮り続けてくださいね(^o^)