映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

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『燃えよドラゴン ディレクターズ・カット』

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ロバート・クローズ監督、ブルース・リージョン・サクソンジム・ケリー、ボブ・ウォール、ヤン・スエ、アーナ・カプリ、アンジェラ・マオ、ベティ・チュン、ジェフリー・ウィークス、ロイ・チャオ、シー・キエンほか出演の『燃えよドラゴン ディレクターズ・カット』を劇場鑑賞。1973年作品。

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少林寺の武術の達人リー(ブルース・リー)は国際情報部のブレイスウェイト(ジェフリー・ウィークス)からの依頼で、かつて少林寺を破門となったハン(シー・キエン)が自身が所有する要塞島を拠点にして麻薬の製造・密売をしている証拠をつきとめるため、その島で三年ごとに行なわれる武術トーナメントに出場する。そこには、ローパー(ジョン・サクソン)やウィリアムズ(ジム・ケリー)など、それぞれ事情を抱えた腕に覚えのある者たちが集っていた。 


ブルース・リー生誕80周年記念ということで、彼の誕生日である11月27日から上映されている代表作『燃えよドラゴン』を、夏に観た『ドラゴンへの道』『ドラゴン怒りの鉄拳』に続いて観てきました。

これまでにも「午前十時の映画祭」でも上映されたらしいですが、僕はあいにくそちらでは観ていなくて、TV放映だとかDVDでは何度も観てますが、この前の劇場での鑑賞は20年以上前の90年代の終わり頃のリヴァイヴァル上映で。

僕がブルース・リーの映画を初めて観たのは90年代の初め頃で、多分VHSヴィデオをレンタルしたと思うんですが(吹替版のTV放送が先だったかも)、その時は今回上映された『ディレクターズ・カット』ではなくて、ロイ・チャオ演じる少林寺の高僧がリーに偽りの“像”に惑わされないように忠告する場面と、クライマックスの「鏡の間」のシーンでのこの高僧の声がまるで『スター・ウォーズ 新たなる希望』のクライマックスのオビ=ワンの声のようにリーの脳裏に蘇ってくる部分はなかった。

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『ディレクターズ・カット』というのは、要するに初公開時のものにその二箇所が加えられたヴァージョンのことで、DVDなど現在流通しているソフトは全部こちら。劇場で上映されているのもそうなんでしょうね(「午前十時~」ではどちらだったのか知りませんが)。

ディレクターズ・カット、といいつつも、これは監督のロバート・クローズが意図したヴァージョンというよりも主演と武術指導を務めたブルース・リーが望んだもののようで、だから劇中で少林寺の高僧とリーが語り合う武術の真髄についての問答はどこか哲学っぽくもあって、ぶっちゃけよくわからない^_^;

でも、自ら「ジークンドー」を創始した武術家でもあるブルース・リーは、この作品に彼の武術に関する思想も込めたかったのでしょう。

ただ、オリジナル版(もしくはインターナショナル版)に付け加えられたこの場面は、ちょうど先ほどの『SW 新たなる希望』のオリジナル版に『特別篇』で付け加えられたジャバ・ザ・ハットの登場シーン同様に、僕には蛇足に感じられる。

高僧はハンが犯罪に走って少林寺の名誉を汚したことをリーに説明して、それが最後にリーがハンを殺す理由となっているわけだけど、冒頭でのサモ・ハン・キンポーとの試合のあとにこの高僧や国際情報部のブレイスウェイトとの会話が個別に連続して続くので、悪役であるハンについての説明が重複するんですよね。

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ブルース・リーのファンにとっては少しでも多くリーの映像と声(あの付け加えられた場面でのリーの声が彼本人のものなのか、それとも別人が吹き替えたものなのかも、以前どっかで解説を読んだような記憶があるけど失念)が作品の中に残されれば嬉しいだろうこともわかるんだけど、でも1本の映画としては僕はオリジナル版の方がすっきりしていて好きです。まぁ、わずか3分かそこらの違いなんですが。

作品としてのまとまりから言っても、主人公リーのキャラクターがブルース・リーというアクションスターのイメージを決定づけたことからも、紛れもなくこれまでのブルース・リーの主演映画としての決定打である一方で、正直なところアクションについては前出の『ドラゴンへの道』や『怒りの鉄拳』のような強敵が出てこないので物足りなさはある。ラスボスがおじいちゃんだし^_^;

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本人も空手家だったジム・ケリーが演じてあれほど強かったウィリアムズが、あんなおじいちゃんにあっちゃりやられちゃうなんてまったく説得力がない。

妹スー・リン(アンジェラ・マオ)の仇であるボブ・ウォール演じるオハラは真っ先にリーに殺されて退場するし、ヤン・スエ演じるコワモテの筋肉男ボロもリーと対決することもなく、あっけなくローパーに倒されちゃうし。 

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人を持ち上げるヤン・スエを口を空けて見てるブルース・リーがカワイイ(^o^)

それでも、ジョン・サクソン演じるローパーをストイックなリーとは正反対の性格のキャラクターにすることでストーリーに起伏ができて、これまでのリーの主演作品とは異なる面白さがあるし、白い猫を抱いていて片手が義手のハンは007映画の悪役であるブロフェルドとドクター・ノオを足したようなキャラクターでオリジナリティはそんなにないんだけど、演じるシー・キエンの好演でアクション映画史に残る名悪役となった。

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シー・キエンのスタントダブルを務めているラム・チェンインはのちの『霊幻道士』の道士様役でおなじみだけど、ユン・ワーとともにリーのお気に入りのスタントマンだったのだそうで。若くして亡くなったのが残念です。

またユン・ワーは、冒頭のサモハン戦のあとのリーの空中回転やオハラに足を掴まれたリーがやはり宙返りしながらキックする場面を吹き替えていて、ハンが出場者をもてなす宴でハンのお付きの女性がナイフを投げる場面でそれをキャッチする男として顔を見せている。『怒りの鉄拳』にも出てましたね。

僕は彼のことはジャッキー・チェン主演の『サイクロンZ』の麻薬組織のボス役やチャウ・シンチー主演の『カンフーハッスル』のクンフー夫婦の夫役が印象に残ってます。 

ジャッキーといえば、この映画でハンの手下のその他大勢の一人として出演してリーに首を「ポキッ」と折られてました。みんなどこかでブルース・リーと繋がってる。

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ラロ・シフリンの音楽がまたいいんだよね。彼の音楽もこの映画にかなりの貢献をしてると思う。

ハンがウィリアムズを叩きのめす場面の曲とか、『ダーティハリー』の“さそり”の曲っぽくて好きなんですよね。

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ハンがウィリアムズのことは気にするのにリーのことはまったくノーマークだったり(しかも、一度忍び込まれてる入り口に見張りも立てず放置したまま、また忍び込まれる)、せっかく捕らえたリーをその場で殺さずにわざわざ生かしておいたために、結局自分が殺される羽目に。

もう、昔ながらのアクション映画の悪役の「お約束」の連発。これも007映画に倣ったのかな。

ある種の典型でもあるからこそ、いつ観てももはや古びることもなく楽しいし、定期的に観たくなる。手首を押さえながら呆然とするハンの手下の前でリーが披露するヌンチャク廻しは、なんべん観てもカッコイイ。

これからも彼は新しいファンを獲得していくのでしょう。

ブルース・リーはスクリーンの中で僕たちがその姿を観る前にこの世を去っていたし、ハン役のシー・キエンも、ハンの秘書タニア役でお色気シーンも担当して『燃えドラ』ファンの目にそのおっぱいを焼き付けたアーナ・カプリも、長身でアフロも立派な不敵な空手家ウィリアムズ役のジム・ケリー*1も天に召された。

今年の7月にはローパー役のジョン・サクソンも亡くなった。

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僕はジョン・サクソンが悪役を演じた『宇宙の7人』を昔ヴィデオで、またBSだったかでやはり彼が出演したイーストウッド主演の『シノーラ』を観てますが、ちょっとザック・エフロンを思わせる男前なマスクとマイケル・アイアンサイドのようなコワモテなところとが混在した魅力的な俳優さんだったと思います。あらためてご冥福をお祈りいたします。 

燃えよドラゴン』って、エンターテインメント映画なんだけど、僕が「映画」というものに興味を持ち出した頃にはすでに映画史についての本でもこの作品は採り上げられていたし、どこか「アートフィルム」的なイメージもあるんですよね。

それは主演のブルース・リーがわずかな主演映画を遺して32歳の若さで早世したことももちろんだけれど、彼が『燃えよドラゴン』の中に残したあの姿、動き、顔の表情…それらがとても「映画的」であるからだろうとも思うのです。彼は映画スターであるとともに“マーシャルアーティスト”でもあった。そして死してなお多くの人々に影響を与え続けている。

今年もあとわずかなこの時期に久しぶりにスクリーンで観た『燃えよドラゴン』は、劇場で上映されているというただそれだけで何かを強く訴えかけているように僕には感じられたのでした。 

悲しい別れがたくさんあったこの年、生きていたら80歳だったブルース・リーは、もう何十年も前から僕たち観客にスクリーンの中からその輝きでもって「映画」という“まぼろし”の持つ力を見せつけてくれている。 

彼の存在によって励まされた時期があったことを僕はこの先も絶対に忘れまい。 

80歳おめでとうございます、リー師父。これから生誕90周年、100周年となってもあなたの映画は観続けられていくことでしょう。 


※ボブ・ウォールさんのご冥福をお祈りいたします。22.1.30


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燃えよドラゴン

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  • アーティスト:サントラ
  • 発売日: 1995/11/10
  • メディア: CD
 
燃えよドラゴン(ニューマスター版) [VHS]

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  • 発売日: 1992/09/25
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*1:ウィリアムズがただ歩いてただけで白人の警官にカラまれる場面など、あれから50年近く経っても何も変わってないんだなぁ、と溜め息が出るが。