映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

もう一つのブログとともに主に映画の感想を書いています。

火星にようこそ 『トータル・リコール 4Kデジタルリマスター』

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ポール・ヴァーホーヴェン監督、アーノルド・シュワルツェネッガー、レイチェル・ティコティン、ロニー・コックス、シャロン・ストーンマイケル・アイアンサイドほか出演の『トータル・リコール 4Kデジタルリマスター』(僕が観たのは2K版)を劇場鑑賞。1990年作品。R15+。

原作はフィリップ・K・ディックの短篇小説「追憶売ります」。

音楽はジェリー・ゴールドスミス

第63回アカデミー賞特別業績賞(視覚効果賞)受賞。

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土木作業員として地球で暮らすダグラス・クエイド(アーノルド・シュワルツェネッガー)は、結婚8年目となる妻ローリー(シャロン・ストーン)との生活にどこか満たされないものを感じていた。なぜか心惹かれる火星への思いから、記憶を移植する「リコール社」を訪れて火星旅行を疑似体験しようとするが、トラブルに見舞われ追われる身となる。


ヴァーホーヴェン監督、シュワルツェネッガー主演のアクション映画の公開30周年記念でTVの「日曜洋画劇場」でおなじみだった日本語吹替版での上映。

劇場公開時にクラスメイトと観にいって、ラストをどう解釈するか語り合ったっけ。

吹替版の声のキャスト:
玄田哲章弥永和子小山茉美羽佐間道夫樋浦勉、中村正ほか

ここしばらく旧作の劇場再上映が続いてますが、日本語吹替版、それもヴィデオとかDVDなどのソフト版の方ではなくてTV放映版、というところがよくわかってるというか、ツボを押さえてますよね(^o^)

この『トータル・リコール』もシュワちゃんの声を玄田哲章さんがアテたヴァージョンは僕もよく覚えていて、下手するとオリジナルの言語版よりもこちらの方が馴染みがあるぐらい。

悪役のコーヘイゲン役のロニー・コックスの声の中村正さんも同じヴァーホーヴェンの『ロボコップ』に続いての担当なので、もうヴァーホーヴェン組って感じがする。

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シャロン・ストーン本人の声ってもう忘れかけてるけど、小山茉美さんの声の彼女はとてもしっくりくるし。

紫ババアキシリア閣下からニルスやアラレちゃんまで声の演技の幅が物凄い小山さんが演じるシャロン・ストーンって、美しさの中にある冷たさや軽薄さが見事に表現されてると思うんですよね。

小山さんはこれも今年再上映されている『AKIRA』(感想はこちら)では真面目なヒロインの声を演じていて、あらためてステキな声だなぁ、と思います。

シャロン・ストーンご本人の方は、やはりヴァーホーヴェンが監督した『氷の微笑』で大ブレイクしたものの、そのキャラクターのイメージから完全に抜け切ることができなくてある時期から活動が目立たなくなってしまいましたが。

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トータル・リコール』ではまるでダンスのステップみたいにリズムを取りながらシュワちゃん相手にキックする姿がエアロビ感満載。何かといえば股間を蹴られて嬉しそうに苦悶の表情を浮かべるシュワちゃんが可笑しい。

そして、玄田哲章さんはTVでシュワルツェネッガーの映画に馴染んできた者にとってはシュワちゃんの吹き替えはこの人以外あり得ないんだけど、長らくソフト版ではシュワルツェネッガーの声は屋良有作さんが担当していた。 

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僕はDVDでシュワちゃんの映画を観ること自体ほとんどないので(観ても基本、原語版での視聴)違和感を持ったことはないんだけど、さすがにもしも今回の吹き替えが屋良さんのヴァージョンだったら「待て待て~」ってなっただろうな^_^; まぁ、今となっては屋良有作版のシュワちゃんもそれはそれで楽しそうだけど。

現在三部作が同時に上映中の「日曜洋画劇場」版の『バック・トゥ・ザ・フューチャー』もそうだけど、出来のいいTV放映用の吹替版がその後あまり再放送されなくなったりソフトにも収録されていないと、あれだけ馴染み深かった声が聴けなくなってしまって、なかなか深い喪失感を伴うんですよ。

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だから、こうやって懐かしの吹替版が劇場で上映されるのはとても貴重な機会だから今後もぜひ同様の試みをお願いしたいし、お気に入りの映画には今回のようにできるだけ足を運びたい。

その吹替版なんですが、もともとTV放映用に制作されたということもあるだろうし、30年近く前(TV初放映は92年)のものだから、音質が特にいいわけではなくてバックに「スー」っというノイズが常に入っているんだけど、芸達者たちが聴かせるその声の演技はオリジナル言語版とはまた違った楽しさがありました。

何よりも字幕を読むわずらわしさがない!w 映像と声がマッチしてて物語がよりダイレクトに頭に入ってくる。良い吹き替えはそれが吹き替えであることさえ忘れさせて作品に没入させてくれるんですよね。

昔から話題作りのために流行りの芸能人とかお笑い芸人を起用した吹替版は存在したけれど、多くは忘れられていったし(むしろ、今のように出来の悪い吹替版がソフト化されて残ることがなかっただけマシだったかも)、だから記憶に残るのはその多くが優れた吹替版なわけですが。

さて、『トータル・リコール』という映画のことは、2012年に公開されたレン・ワイズマン監督、コリン・ファレル主演のリメイク(リブート?)版の感想の中でヴァーホーヴェン版については吹替版も含めて結構書いちゃってるので、もはやそれほど語ることもないんですが、あらためてよく出来た「面白い」映画だったなぁ、と思いましたね。

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比べたら悪いけど、やっぱりリメイク版よりもはるかに映画として優れている。

今の生活にどこか違和感があって、その理由を追っていくうちに本当の自分が何者なのか知っていく、という展開は99年公開の『マトリックス』(感想はこちら)を先取りしていたとも言えるし、アーノルド・シュワルツェネッガーという筋肉もりもりマッチョマンのヘンタイ…もとい、アクションスターを主演に迎えたこの映画自体がまるで「リコール社」が提供する“夢”のような仕様になっている。

またそれは当然「ハリウッドのアクション映画」の“メタファー”でもある。

ダイ・ハード』のジョン・マクティアナン監督がシュワルツェネッガー主演で撮った『ラスト・アクション・ヒーロー』ではイマイチ上手くいってなかった(憎めない映画ではあるんですが。シャロン・ストーンも『氷の微笑』のキャラで一瞬だけ出演してたし)メタ的な手法を、ヴァーホーヴェンは巧みに組み上げてみせる。

近未来を舞台に、劇中で架空のCMやドキュメント映像が流れる『ロボコップ』、また作品そのものが「地球連邦軍」の右翼的なプロパガンダのような作りになっていた『スターシップ・トゥルーパーズ』など、ヴァーホーヴェンの映画には皮肉や批判精神があって、それが他の同種のアクション映画と彼の映画とを分かち、どこか孤高なものにしてもいる。

それでいて下品でグロテスクな要素もあるから娯楽要素はバッチリ。

エスカレーターでは無関係な男性を盾にして敵の銃撃を防いだり(そのあと死体を投げ捨てる)、逃げる時もいちいち通行人を突き飛ばしたり、主人公にもかかわらずやりたい放題^_^;

クエイドをずっと追ってきたリクター(マイケル・アイアンサイド)の千切れた両腕を捨てながら「パーティで会おう!」と捨て台詞も。

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未来を舞台にしたSFっぽさと派手なバカバカしさは『バトルランナー』(87)を思わせる。

80~90年代のハリウッドのアクション映画は本当に狂っていた(褒め言葉)。

同じくフィリップ・K・ディックの小説を原作にしていても、リドリー・スコット監督の『ブレードランナー』(感想はこちら)とのこの違いw

ヴァーホーヴェンの『ロボコップ』は公開当時しばしば『ターミネーター』と比較されたけど、その“ターミネーター”その人であるシュワルツェネッガーがこの『トータル・リコール』の監督にヴァーホーヴェンを望んだ、というエピソードが面白い。シュワちゃんの監督を見極める目は確かだったわけだ。

特殊造形を担当するのは、『遊星からの物体X』や『ロボコップ』でも腕を振るったロブ・ボッティン

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顔割れおばさんとかミュータントたち、鼻からデカ過ぎるGPS取り出したり、火星の地表に転がり出てまるで水揚げされた深海魚のように目ん玉が飛び出て舌を出しながら苦しむクエイドとメリッサ(レイチェル・ティコティン)、そしてコーヘイゲンの断末魔のあの悪ふざけのような醜悪な顔など、彼のやり過ぎぶりがこれまで以上に振り切ってて最高。*1

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奇面フラッシュの豪くんみたいになってるシュワちゃん

そういえば、レジスタンスのリーダーで人の身体に奇形腫のようにくっついているミュータントの“クアトー”は、ジョセフ・ゴードン=レヴィット主演の『50/50 フィフティ・フィフティ』(感想はこちら)でネタにされてた。

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作り物とはいえ、ミュータントの娼婦のおねえさんが3つのおっぱいをはだける場面とか、今だったら地上波で21時から23時ぐらいの時間帯には絶対やれないだろうな。そういう意味では幸せな時代に少年期を過ごせたと思う。そのような考え自体が今では通用しないことは自覚したうえで言ってますが。

一見、全篇が悪趣味のようにも思えるが、でも久しぶりに観たこの『トータル・リコール』で感じたのは、たとえばミュータントたちの描き方でもわかるようにポール・ヴァーホーヴェンは実際には倫理観のしっかりした人だろうということ。

どこか「マッドマックス」シリーズを撮ったジョージ・ミラーと重なるものがある。

そして、火星の空気を独占して住民たちを苦しめる独裁者コーヘイゲンとレジスタンスの戦いに、現実の今の世の中を重ねて見ることもできる。とても予言的な映画でもあった。

それにしても、この映画の翌年にはジェームズ・キャメロンと再び組んで『ターミネーター2』(感想はこちら)を作り上げてるんだから、この時期がシュワルツェネッガーのまさしく最盛期だったんですね。それも納得のクオリティ。

映画の上映前にヴァーホーヴェン監督による挨拶があって、それはブルーレイか何かの特典映像なのか、それとも今回のためにわざわざ収録したものなのか知りませんが、そこで監督が強調しているように、これはCG以前の作品で劇中の火星の風景はすべてミニチュア製だし、空港でのX線の映像もCGっぽく描かれた手描きによるアニメーション。

前述した通り、ミュータントや人体が破壊される映像は特殊メイクや造形物で、すべて撮影現場で作られてキャメラで撮られたもの。 

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アナログ技術による最後のハリウッド大作だったのかもしれない。

だから今の目で見れば技術的な粗として映る部分もあるのだけれど、ちょうど先日観た『ガメラ 大怪獣空中決戦』(感想はこちら)がそうだったように今では同じような手法で作ることはできないんですよね。

現在でもVFX(視覚効果)ではすべてがCGというわけではなくてミニチュアを使ったり実際に造形物を使用したりもするのだけれども、必ずそのあとに何重にも映像にエフェクトが加えられるので、もはやミニチュアなのかCGで描かれたものなのか区別できなくなっている。

2012年のリメイク版のVFXと観比べてみれば、その違いがよくわかる。

最新技術を駆使したリメイク版の映像もなかなか見応えはあったけれど、ヴァーホーヴェン版『トータル・リコール』はその全体的な「オモチャっぽさ」が良い方向に作用していて、もしかしたらこれは全部主人公の夢なのかも、という疑問を観る者に抱かせる。

だいたい、一度でもあんな目ん玉飛び出た悲惨な姿になってしまったら、たとえ酸素が供給されたって普通は元には戻れないでしょ(;^_^A

映画全体が、まるでトリップして見た奇妙な夢のようになっている。

こういう映画を劇場で思いっきり楽しめる社会は健全だ。

クエイドが火星で体験したものは、果たしてただの“夢”だったのだろうか。彼はやがてリコール社のマシンの中で目覚めるのか。

けれども、圧制を敷いて人々を苦しめていた悪者が倒されるこの“夢=映画”を観て、もしも現実の自分の心になにがしかの変化が訪れたなら、それはもうただの夢ではない。

あなたのハートには、何が残りましたか?今度一緒にお風呂に入りましょうね。そしてパーティで会おう!サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ。


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*1:そういえば、コーヘイゲンに捕まったクエイドが記憶を植え付けるマシンにかけられそうになって男の頭に金属製の棒をぶっ刺す残酷ショットが劇場公開版ではカットされて目立たなかったのが、ソフト版では復活してたんじゃなかったっけ。今回上映されてるヴァージョンは最初のカット版でした。