映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

もう一つのブログとともに主に映画の感想を書いています。

『裸のランチ 4Kレストア版』


デヴィッド・クローネンバーグ監督、ピーター・ウェラージュディ・デイヴィスイアン・ホルムジュリアン・サンズロイ・シャイダー、ロバート・A・シルヴァーマン(ハンス)、ジョセフ・スコーシアニー(キキ)、モニーク・メルキューレ(ファデラ)、ピーター・ボレツキー(マグワンプの声)ほか出演の『裸のランチ 4Kレストア版』。1992年作品。PG12。

原作はウィリアム・S・バロウズの同名小説。

www.youtube.com

www.youtube.com

1950年代、ニューヨーク。害虫駆除員のウィリアム・リー(ピーター・ウェラー)は、仕事用の駆除薬を妻ジョーン(ジュディ・デイヴィス)がドラッグ代わりに使っていることに気づく。自身も駆除薬に溺れるようになったウィリアムは、誤ってジョーンを射殺してしまう。インターゾーンと呼ばれる謎の街に身を隠したウィリアムは、奇怪な生物マグワンプに命じられて活動報告書を書くことになるが──。(映画.comより転載)


12ヶ月のシネマリレー」今回最後の鑑賞作品。

この『裸のランチ』は4K化が遅れて当初の上映のスケジュールが変更になったんだけど、やはりコロナ禍のせいで作業が予定通りに進まなかったんでしょうかね。

ともかく無事劇場で観られてよかったよかった。

92年の初公開時に映画館で観たんだったか、それともレンタルヴィデオで観たのか覚えていないんですが、でもこの映画の存在はずっと記憶にあった。


主演のピーター・ウェラーが『ロボコップ3』(1993) を降板して臨んだというこの作品は、僕はもしかしたらあれ以来一度も観返してなかったかもしれませんが、ウィリアム・テルごっこをやってて誤って妻を射殺してしまうくだりや、デカいゴキブリ型のタイプライター、気味の悪いクリーチャーなど強烈なインパクトがあったから印象に残っていた。

害虫駆除剤を麻薬代わりに使ってもう一つの世界「インターゾーン」へ旅する──デヴィッド・リンチ監督、カイル・マクラクラン主演の『デューン/砂の惑星』(感想はこちら)の“スパイス”もそうだったけど、なんか謎の粉がドラッグとして効いて別の世界へトベる、というのは面白いなぁと思っていたし、ポール・ヴァーホーヴェン監督がアーノルド・シュワルツェネッガー主演で撮った『トータル・リコール』(感想はこちら)なんかも彷彿とさせる(現実の世界から友人たちが訪ねてくる、というあたりも似ている)。「裸のランチ」の原作の出版は1959年だし、「デューン」も「トータル・リコール」も、いずれも原作は60年代の近い時期に書かれている。

主人公がスパイになったり、お話が繋がってるようでどこか判然としない、夢の中での出来事のようなストーリーなのも、いかにも麻薬中毒患者の妄想っぽくて。

旅をしているはずなのに移動するところが描かれなくて、いきなり別の土地に来ていたり、トリップしているような描写もないから、どこまでが現実でどこからが妄想なのかもよくわからない。でも、だからこそ、この映画自体が主人公の妄想だ、とも言える。

いや、僕は違法なドラッグを試したことは一度もないし(※試してはダメです^_^;)、試したいとも思いませんが、薬物だとかそれに代わるものでもたらされる「意識の変容」を映像の中で表現してみたものとして興味が湧いたので。ちょっとメタフィクション的な要素があるから。

まぁ、何よりもちょっと前に観た同じクローネンバーグ監督の『ビデオドローム』が一番近い雰囲気の作品だと思うけど、こちらの『裸のランチ』は1950年代を舞台にしていてなんとなく文学作品っぽいところが好きだったんですよね。

ei-gataro.hatenablog.jp


あの当時読んでた中島らものエッセイでも、しばしばウィリアム・バロウズの名前が出てきていたし。ちょっとアートっぽい映画に憧れてたところもあって。

これが“アート”なのかどうかは、映画を観てみてもよくわかりませんでしたが。

そもそも「裸のランチ」というタイトルの意味もわからないし。

この作品が世間でどのような評価を得ているのかも僕は知りませんが、たとえば男性の同性愛行為を「変態行為」のように描いているところなんか、どうなんだろう。

原作者のバロウズ自身が同性愛者、もしくはバイセクシュアルだったようだけど。

クリーチャーを用いて「尻」や「肛門」を強調してるのもなかなか(;^_^A

ウィリアムが、喋る肛門がだんだん自己主張してきてやがて口にとって代わろうとする、という話をするんだけど、一体何が言いたかったんだか…^_^;


肛門で喋るマグワンプ


クローネンバーグ監督


ウィリアムとジョーンの上に覆いかぶさるようにして「ケツだけ星人」みたいなのが腰振ったりしてて笑ってしまった。なんだそりゃ、とw

なんか、イイおとなたちがどこか間が抜けたグロテスクなおとぎ話を大真面目に作ってる、といった感じ。まぁクローネンバーグの映画はそんなんばっかですが。


ビデオドローム』もそうだったけど、もう見るからに作り物なクリーチャーがウニョウニョと蠢いてたり(一方ではどう見ても本物のゴキブリやムカデも登場)、何体も天井から吊るされてたり、牛みたいに管から液体(おそらくは麻薬物質なんだろうけど)垂らして、それをおっさんやババアが子牛が母牛の乳を吸うように飲んでたりする。

原作者のバロウズ

小説を書くための(インターゾーンでは“活動報告書”を書くため、ということになっている)タイプライターについて機種に妙にこだわったり、人に貸したり、いろんなメタファーとして読み取れるようになっている。


同じ年に日本で公開されたコーエン兄弟の『バートン・フィンク』(1991年作品) は脚本家の話だったけど、作家が追い詰められてだんだんおかしな世界に入り込んでいく、というところはなんとなく似てるし、物書きの人には結構身につまされる話だったりするんだろうか。

ウィリアム・リーの友人たちがいかにもなユダヤ系なのは、なんか意味があるのか。確か劇中にはカフカについての言及もあった気がするし(虫=バグが出てきますからね)。もちろん、クローネンバーグもユダヤ系なわけだけど。コーエン兄弟もそう。

意味がよくわからないまま観ていたし、『ビデオドローム』の感想の中でも述べたように僕はけっしてクローネンバーグ作品のファンじゃなくて、この『裸のランチ』だって大のお気に入りの映画というわけではないですが、でもこれに限っては何か気になる作品なのは確かで。

不思議な魅力がある映画ですね。映画を意識して観るようになった頃にたまたま目にしたから、というのもあるかもしれませんが。

インターゾーンでウィリアムが出会うクローケ役のジュリアン・サンズさんが、残念ながら今年の6月にハイキング中に亡くなってしまいましたね。心からご冥福をお祈りいたします。


80年代頃には美青年俳優としてよく知られていたけれど、僕は彼の出演した映画をほとんど観ていないんですよ。

ドラゴン・タトゥーの女』(2011年作品。日本公開2012年。→感想はこちら)でクリストファー・プラマーの若い頃を演じていたんだなぁ。もうまったく覚えていないんだけど。

インターゾーンに棲むフロスト役のイアン・ホルムは、もう何もしてなくても出てくるだけで怪しさ満点で最高ですね。素晴らしいバイプレイヤーでした。

ウィリアムの妻・ジョーン役のジュディ・デイヴィスのヤク中っぽい三白眼、その存在自体があちらにイッちゃってる雰囲気が素晴らしい。当時彼女はまだ30代の終わり頃だったと思うんだけど、何かすでに爛れた美を感じさせますよね。この雰囲気をずっと保ち続けてるのがスゴい。


年齢は違うけど、ちょっとシャーロット・ランプリングと重なるところがある。

そして、出番自体はそんなに多くないにもかかわらず、終盤での「ベンウェイ!!」ですべてを持っていってしまうロイ・シャイダー(笑)


おばさんの中に入ってる、っていうのも『トータル・リコール』っぽい。

この人の存在自体が全然意味わかんないんだけどwww

言ってみれば、主人公を同性愛の道へと導く役割だろうか。

実際にウィリアム・バロウズは女性を射殺しているそうなんだけど、彼の書いた本や彼にまつわる書籍をまったく読んでいないので、その辺のエピソードについては詳しいことは全然わかりません。

ウィリアム・リーはなぜ妻を撃ち殺したのか。

ラストで、アネクシアというロシアっぽい国に入国しようとした直前で(検問する男性たちは、現実の世界でジョーンを殺したウィリアムを尋問していた刑事たち)、ウィリアムは車内のジョーンにまたしてもガラスのコップを頭の上に乗せさせて、それを撃つ。

案の定、再び銃弾はジョーンの額を撃ち抜いて彼女は死ぬ。

…この繰り返しはなんだろうか。

最初と最後が繋がって、永久にウィリアムは現実に帰ることなくインターゾーンの住人となったのだろうか。彼はこれからも何度も何度もジョーンを撃ち殺し続けるのか。それともこの先、別の何か、別のどこかが彼を待っているのか。

クローネンバーグ監督の最新作『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』が8月18日(金) から公開されますが、僕はちょっと遠慮します(;^_^A

…こういうタイプの映画を楽しむ心と身体のゆとりは今はないからなぁ。

でも、もしも『イグジステンズ』(1999年作品。日本公開2000年)をリヴァイヴァルで上映してくれたら観にいきたい。

多分、僕は今“ノスタルジア”という名のインターゾーンにいるんだと思う。


参考になる考察
france-chebunbun.com


関連記事
『ロボコップ』
『スター・トレック イントゥ・ダークネス』
『ローマでアモーレ』
『天才スピヴェット』
『恐怖の報酬』(1977年版)
『ドリームチャイルド』
『未来世紀ブラジル』
『ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュ』

ブログランキング・にほんブログ村へ にほんブログ村 映画ブログへ にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ

f:id:ei-gataro:20191213033115j:plain
↑もう一つのブログで最新映画の感想を書いています♪