ベルナルド・ベルトルッチ監督、ジョン・ローン、ジョアン・チェン、ピーター・オトゥール、イン・ルオチェン、坂本龍一、ヴィクター・ウォン、マギー・ハン、ヴィヴィアン・ウーほか出演の『ラストエンペラー 劇場公開版 4K』。1987年作品。日本公開1988年。PG12。
中国最後の皇帝、愛新覚羅溥儀の伝記映画。
1908年に幼くして清朝の皇帝に即位した溥儀は、実母や乳母と離れて紫禁城にほとんど軟禁された状態で暮らすことになる。
やがてその城からも追われ、満洲国建国、日中戦争を経て、1950年、溥儀は戦時中に日本軍に協力した戦犯として収監される。
「12ヶ月のシネマリレー」で鑑賞。
同じ催しで、これの前には『クライング・ゲーム』を観ています。
『ラストエンペラー』は東京の方ではすでに1月に上映されていたようですが、全国順次公開なので僕が住んでいるところでは今やっています。
どうも「12ヶ月のシネマリレー」は上映が予定されていた作品(デヴィッド・クローネンバーグ監督の『裸のランチ』)の4K化が遅れていて、当初の上映スケジュールが変わって作品がいろいろと入れ替わっているようで、どの作品がいつ上映されるのかイマイチわかりづらく、しかも「午前十時の映画祭」のように各作品とも隙間なくびっしりとスケジュールが立てられておらず、ちょっと目を離してる隙に急に始まってたりするので油断ならない。劇場の予定を見てもあまり先のタイムテーブルは決まっていないし。
古い映画をリヴァイヴァル上映してくれるのはとてもありがたいし、だからお目当ての作品を観逃さないように気をつけてはいるんですが、正直わかりづらいです。
『ラストエンペラー』は7年ほど前に「午前十時の映画祭」で観ていて、そのちょっと前にすでに作品の感想も書いているので短めに済ませます。
「劇場公開版」とあるように今回上映されたものも1988年の初公開当時に観た163分のヴァージョンで、結局、僕は219分ある「オリジナル全長版」は1989年に地上波で放送された時以来ずっと観ていません。DVDも買ってない。
できればそちらの方をぜひ上映していただきたいんですが、4K化されたのは「劇場公開版」のみなんでしょうかね。
今度2月18日(土) にBS10スターチャンネルで89年に放送された「オリジナル全長版」が34年ぶりに1度きり放送される(しかも吹き替えで)そうですが、残念ながら僕は観られないので、いつかまた再鑑賞できたら嬉しいなぁ。
前回「午前十時の映画祭」で観たものが今回と同じ4K版だったのかどうかわかりませんが、久しぶりに観てやっぱりとてもよかった。
現在、同じ劇場でこれも坂本龍一さんが出ている大島渚監督の『戦場のメリークリスマス』も上映されているので、さながら“教授祭り”ですが。
先日、同じYMOのメンバーである高橋幸宏さんが惜しくも亡くなられましたが(ご冥福をお祈りいたします。23.1.11)、坂本さんも癌を患っていて長時間の演奏ができないために少しずつ録音したものを放送したNHKの番組を観ました。
氏が作曲されたおなじみの映画音楽など、とても美しいメロディをピアノで奏でられていました。どうぞ、また健康を取り戻されますようお祈りしております。*
坂本龍一さんといえば、90年代に「ダウンタウンのごっつええ感じ」に“アホアホマン”のコスチューム姿で登場して松本人志とカラみ合ってたっけ。「なんて気持ちがいいんだ」ってあの声でw セカイのサカモトが何やってんだ^_^;
それから、ぬいぐるみの中に入って浜田雅功に思いっきりシバかれてたっけ。
懐かしいな。
さて、『ラストエンペラー』ですが、7年前に観た時以上に「今」の時代を意識させられたのでした。
今ちょうどインドのスペクタクル映画『RRR』が大ヒット中ですが、『ラストエンペラー』の中で坂本龍一演じる甘粕大尉がイギリスはインドを植民地化している、ということを話すシーンがある。
甘粕は、「満洲国」は独立国であり、日本が海外に“進出”することには正当性があると主張する。欧米列強からアジアやその他の国々を守るのだ、と。
『RRR』は舞台となる時代が『ラストエンペラー』とカブるし、あの映画では英国の国王の肖像画にインドの民衆がモノを投げつけるシーンもあって、イギリスの侵略に対して闘ったインドの活動家たちが描かれていた。
『ラストエンペラー』ってとても評価が高いし人気もある作品だけど、一方では今回の上映のあとにTwitterで同作品のタグを検索してみると、またぞろ「反日」という単語を目にした。
そういう単細胞的な反応をする人間を僕は軽蔑していますが、『RRR』の感想でも「イギリスのことが嫌いになった」と述べている人もいて、映画1本観てある国を好きになったり嫌いになったりするってちょっとあまりにも単純過ぎやしないかと呆れてしまう。
『RRR』はヒーローが活躍する単純明快な勧善懲悪のお話だったけど、『ラストエンペラー』では蔣介石の国民党も、毛沢東の共産党も、それから日本軍も、いずれもが主人公・溥儀の人生に介入してきて彼を翻弄する。
その溥儀でさえも、恩師である英国人のジョンストン(ピーター・オトゥール)に「溥儀が“日本軍に誘拐された”と言っているのは嘘だ」と批判されてしまう。
妻の婉容(ジョアン・チェン)が「日本はあなたを利用しようとしているのよ」と言うと、溥儀(ジョン・ローン)は「私の方が日本を利用してやる」と言い返す。
しかし、彼の考えは甘かった。
満洲国と日本は対等で、自分と日本の天皇もまた同じく対等な立場だ、と主張する溥儀の前から甘粕や日本軍の将校たちは退席する。たった一人その場に残された溥儀は、自分が実権を持たないただの空疎な神輿であり、皇帝として再び権力の座に就く望みが潰えたことを悟る。
この映画は“西洋人”であるベルトルッチの目で描かれているから、英国をはじめ欧米列強の侵略行為については描かれてもいないし語られもしない。登場するイギリス人はピーター・オトゥール演じるレジナルド・ジョンストンのみ。
彼は溥儀から「あなたは紳士?」と尋ねられて、「そうありたいと努めております」と答える。
僕は彼が著わした「紫禁城の黄昏」はいまだに読んでいませんが、おそらくジョンストン氏は真面目で誠実な人物だったんでしょう。だからこそ、家庭教師を務めた溥儀の嘘に対しても正直に反論した。
でも、ジョンストンを演じたピーター・オトゥール主演の『アラビアのロレンス』を観ればイギリスの卑劣さがわかるし、果たしてそれは「紳士の国」と呼べるような所業だっただろうか。
だから、一方では『RRR』のような映画で描かれたような面もあるんだ、ということは知っておくとよりあの時代がくっきりと見えてくる。イギリスという国が歴史上でこれまでやってきたことも記憶にとどめておいた方がいい。
国民党の軍属に先祖の墓が暴かれたり、“東洋の宝石”こと川島芳子(マギー・ハン)が蒋介石は入れ歯だ、という笑い話をしたり、戦後に戦犯収容所で世話になった所長(イン・ルオチェン)が60年代になると文化大革命で吊るし上げられたりと、この映画はどこかの誰かに一方的に肩入れして描いてはおらず、だから「反日」などというしょーもない表現がいかに的外れかよくわかるというものだ。
久々に観て、あらためて主演のジョン・ローンの美しさに見惚れましたね。
英語の映画ではあるけれど、全篇これほどまでにアジア系の俳優で埋め尽くされたアメリカ映画(というか、複数の国の合作ですが)って当時はとても珍しかったですよね。




そういえば、15歳の溥儀(ウー・タオ)が「門を開けろ!」と言ってハツカネズミを殺してしまう場面で、髭ヅラの近衛兵隊長をチェン・カイコー(陳凱歌)監督が演じていたんですね。
時が経つと色褪せていく映画もある中で、この『ラストエンペラー』は観るたびに新しく感じ取れるものがあるし、中国という国が世界にその影響力を持ち続ける限り、これからもさまざまな問題とともに語られ続けていくのでしょう。
※坂本龍一さんのご冥福をお祈りいたします。23.3.28