映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

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『未来世紀ブラジル』

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テリー・ギリアム監督、ジョナサン・プライス、キム・グライスト、ロバート・デ・ニーロマイケル・ペイリン、キャサリン・ヘルモンド、ボブ・ホスキンスジム・ブロードベントイアン・ホルムほか出演の『未来世紀ブラジル』。1985年作品。日本公開1986年。

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20世紀のどこかの国。情報省の情報剝奪局がもぐりのダクト修理屋A・タトル(ロバート・デ・ニーロ)と間違えて別人のA・バトル氏を逮捕してしまい、拷問の末にバトル氏は死亡。その誤認逮捕の現場を目撃していたトラック運転手のジル・レイトン(キム・グライスト)も追われることに。記録局に勤めるサム・ラウリー(ジョナサン・プライス)は有力者だった亡き父の遺産とコネで悠々自適の生活をしていたが、金持ちの母(キャサリン・ヘルモンド)の口利きで情報剝奪局へ昇進することになる。野心がなく競争も嫌いなサムは一度は拒否するが、いつも夢で見ていた女性とそっくりのジルに一目惚れして、彼女の情報を得てその命を救うために情報剝奪局に行くことにする。


「午前十時の映画祭11」で鑑賞。朝の8時45分上映開始と相変わらず早過ぎ。

テリー・ギリアムの監督作品としてはおそらくもっとも有名な作品であるこの映画は90年代初めぐらいにTV放映されていたものを観たのが最初で劇場公開時には観ていないので、今回はぜひ映画館でと思っていました。

僕が彼の監督作品を劇場で初めて観たのは日本では92年公開の『フィッシャー・キング』ですが、その時にはすでに『ブラジル』は視聴済みで、だから内容が似てるなぁ、と思ったのを覚えています。

ちょうど似た時期にギリアムがメンバーの一人であるイギリスのコメディ集団「モンティ・パイソン」のヴィデオも観て、ちょっとハマっていた。

その次に観た96年公開の『12モンキーズ』を大好きになって、今でもお気に入りの1本です。

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12モンキーズ』の方もぜひリヴァイヴァル上映やってくれないかなぁ。

さて、久々に観た『未来世紀ブラジル』ですが、その後作られたさまざまな映画を思い浮かべました。

レトロフューチャー(『12モンキーズ』の未来の場面でも踏襲されている)なところはリドリー・スコットの『ブレードランナー』、帽子やコート、建物の様式などがティム・バートンの『バットマン』。

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階段でエイゼンシュテインの『戦艦ポチョムキン』の“オデッサの階段”の場面のパロディをやるのは87年のデ・パルマの『アンタッチャブル』(あの映画にもデ・ニーロが出てましたが)など。

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あるいはアレックス・プロヤス監督の『ダークシティ』(98) を挙げてもいいかもしれない。

ディストピア映画の代表作ですね。

この映画にはいくつかのヴァージョンがあるようですが、今回上映されているのは143分のオリジナル版。

僕は観たことないけど、サムとジルが田舎で暮らすところで終わるハッピーエンド版もあるんだそうで、そんなところも『ブレードランナー』に似ていたり。

また、ラストで主人公がヒロインと車に乗って去っていく、というのはブレランの最初の公開版を思わせる。

僕は、この映画の手作りの特撮が好きなんですよね。

ミニチュア撮影された映像とロケ撮影と実物大のセットのショットが巧みに組み合わされていて、見事な異世界を作り上げている。

のちにギリアムは『Dr.パルナサスの鏡』(2009年作品。日本公開2010年)ではCGを使って似たような映像を見せていたけれど、『ブラジル』のような楽しさはあまり感じなかった。

巨大なサムライ(「Sam, You Are I」をもじったシャレ)や不気味な仮面、地面から生えてきて夢の中のサムの足を掴む手。

こういうファンタスティックで悪夢的な描写は実際に撮影されているからこそ目に楽しい。

この映画はジョージ・オーウェルの「1984」にインスピレーションを得て作られていて、ギリアム自身が全体主義的な官僚政治を批判していたりもするので、そういう映画として見られているし、また一方では、現実に存在するジル・レイトンという女性に自分の「夢の女」を重ねてそのイメージを勝手に彼女に押しつける男の末路を描いたもの、という解釈もある。

ジル役のキム・グライストは、僕はのちに『刑事グラハム/凍りついた欲望』(1986年作品。日本公開88年)をヴィデオで観ているんだけど彼女のことは覚えていないし、その後は日本未公開の作品ばかりで2001年以降は女優としての活動はしていないようだけど、なんとなく印象に残る女優さんですよね。モデルだったそうだから綺麗だし。

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ふてぶてしい態度のジルと宙に浮く金髪の天使みたいな夢の中の女性を演じ分けていて、素敵なお尻も見せてくれてるし。

この1作で、彼女は世界中のサム・ラウリーの「夢の女」になったんだな。

サムの「夢の中の女」は彼に助けを求めて最後は檻から脱出してサムに抱かれて空を飛翔するし、ジルも終盤にはサムとセックスしてふたりで田舎へ逃げるが、果たしてどこからがサムの「夢」なのだろうか。どこまでが「現実」なのか。

あれほどサムを警戒していたジルがあのタイミングで急に彼のことを受け入れるのがとても唐突に思えたし、田舎への逃避行は情報剥奪局に囚われて現実から完全に乖離したサムが見た夢であることがやがてわかる。

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書類が大嫌いなタトルが身体中に紙くずが張り付いてそのまま消えてしまうシュールな場面といい、映画全体を覆うパイソンズっぽい不条理で荒唐無稽な世界は幾分グロテスクな夢のような効果があって、だからこれがディストピア映画の金字塔として映画史に記憶されているのもよくわかる。

この映画が公開されたり僕が観た当時のことなどを思い出しながら、ちょっと懐かしい気分になっていました。

サムの友人で最後には彼に拷問を施すジャック役のマイケル・ペイリンは、パイソンズのコントでもトレードマークの笑顔が逆に不気味に感じられてくるナイスな俳優さんだけど、この『ブラジル』でもあの笑顔に隠された陰鬱さを感じさせる演技でよかったですね。この人が吃音症の愛犬家を演じた『ワンダとダイヤと優しい奴ら』(1988年作品。日本公開89年。パイソンズのジョン・クリーズが主演と脚本を担当している)が好きなんですよねー(^o^)

テリー・ギリアムは『12モンキーズ』もそうだったように、世界に対して悲観的な見方をする人なのかもしれないし、「夢の中の女」を追い続ける時代遅れのドン・キホーテなのかもしれない。

そんな彼に共感を覚えた頃もあった。

『Dr.パルナサス』以降、僕は彼の映画を観ていませんが、いつかまた『未来世紀ブラジル』や『12モンキーズ』のような新作を撮ってほしいです。


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