映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

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『隠し砦の三悪人』4Kデジタル・リマスター版

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「午前十時の映画祭11」で黒澤明監督、三船敏郎上原美佐千秋実藤原釜足、樋口年子、藤田進ほか出演の『隠し砦の三悪人』4Kデジタル・リマスター版を観ました。1958年作品。

第9回ベルリン国際映画祭銀熊賞(最優秀監督賞)、国際映画批評家連盟賞受賞。

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戦国時代。秋月家と山名家の戦に参加したものの敗残兵として落ち延びて行くあてもない二人の百姓、太平(千秋実)と又七(藤原釜足)は山名の捕虜となるが暴動に紛れて逃亡、谷で拾った薪の中から秋月の紋章の入った金の延べ棒をみつける。そこで出会った真壁六郎太と名乗る男(三船敏郎)や物言わぬ若い娘(上原美佐)とともに薪に隠された金二百貫を馬を使って運び、国境の警備が手薄な山名領を通って秋月とは同盟関係にある早川の領地へ渡ることにする。


ネタバレ御免!ってことで。

先月観た『赤ひげ』(感想はこちら)に続いて黒澤明監督の円熟期の冒険活劇映画をスクリーンで初鑑賞。

これまでにBSで放送されたのを観ていますが、やはり劇場での鑑賞、しかも4Kでのクリアな映像は感動が違いますね。

七人の侍』からわずか4年だけど、横長のシネスコ画面になってダイナミズムが増している。

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技術的にも格段の進歩が見られるし、内容はより娯楽的要素が加わっていて、メッセージだとかテーマ性といったものをあれこれ探る必要のない純粋な痛快エンタメ作品になっている。

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冒頭で殺される落武者役の加藤武。このあと倒れているところを馬に頭を蹴られる。

群像劇としても見応えのあった『七人の侍』と、完全に娯楽時代劇の方にシフトした『用心棒』のちょうど中間に位置する作品なのがよくわかる。

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『赤ひげ』は予想外に酷評しちゃいましたが、この『隠し砦~』は最初から好きだったということもあるけれど、映画館のスクリーンで観られたことにまず感激したし、やっぱり面白いなぁ、とつくづく思いましたね。

139分という上映時間は「映画を観た」っていう満足感もちょうどいい具合に感じられる。さすがに三時間を超える作品は集中して観るのに結構な気合いが必要だから。

Twitterで「自分は『隠し砦の三悪人』よりも断然『赤ひげ』が好き」というツイートを見かけたけど、僕はまったくその逆で、自分は黒澤明の「ヒューマニズム」云々よりも彼の“活劇”が好きなんだ、とあらためて感じた。

どちらがいいとか悪いとかいうことじゃなくて、映画の好みの違い。

ちょうど、宮崎駿監督の『カリオストロの城』や『ラピュタ』と『もののけ姫』や『千と千尋』のどちらが好きか、みたいな違い。

隠し砦の三悪人』がジョージ・ルーカス監督の『スター・ウォーズ』のヒントになったのは有名ですが、登場人物やプロットの類似よりも「物語」の面白さという点で『隠し砦の三悪人』と『スター・ウォーズ』はよく似ている。

SWのC-3POR2-D2は太平と又七をモデルにしたと言われてるけど、ノッポとチビの凸凹コンビという見た目は似ていてもキャラクターの性格はそれぞれまったく異なるし、キャリー・フィッシャーが演じたレイア姫上原美佐の雪姫とは別の個性を持っている。『スター・ウォーズ』って古今東西の伝説や神話の型をもとにして作られているので、黒澤作品から強い影響を受けてはいても、ただの真似じゃないんですよね。

ちなみに2008年に樋口真嗣監督によってリメイク的な『隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS』という作品が撮られていて、僕も公開時に観ましたが、そちらはダース・ベイダーのような甲冑姿の椎名桔平ハン・ソロかオビ=ワンみたいな阿部寛、ルークとレイアみたいに竪坑をジャンプする松本潤長澤まさみ、R2のようにロープで縛られる宮川大輔デス・スターみたいに爆発するお城など、無邪気なまでに『スター・ウォーズ』をパクっていて客席で気恥ずかしくなったことを覚えています。「“オマージュ”ですよ~」っていう作り手のヲタクな笑顔が見えるようで。

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スター・ウォーズ』は名作になったけど、『THE LAST PRINCESS』はすでに存在自体を忘れかけられている。「インスパイアされる」のと「パクる」ことの違い。作り手としての志の違い。

椿三十郎』のリメイクの時にも感じたけれど、やはり黒澤明の時代劇映画をリメイクする才能のある監督は現在の日本にはいないと思う。

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さて、冒険活劇、といいつつも、この『隠し砦の三悪人』には登場人物たちが斬り結び合う立ち廻りはそんなになくて、大半は二人の百姓がいがみ合いながら、実は秋月の武将である六郎太とその主君である雪姫(上原美佐)と合流して山名の追っ手から逃れる姿が描かれる。

要所要所で記憶に残る闘いの場面があるから、なんとなく全篇そういう派手なアクションがあったように錯覚する。これも優れた映画の証拠。

まぁ、藤原釜足千秋実が演じる二人のやりとりも愉快なんだけど、やっぱり六郎太役の三船敏郎の発声、その一挙手一投足に惚れぼれするし、雪姫役の上原美佐には萌えまくり(^o^)

キュロットスカートみたいなのを穿いて太ももも露わな雪姫の姿は、舞台となる時代でも、それからこの映画が作られた1958年頃の時代劇としても、なかなか大胆な格好だったんじゃないだろうか。

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地面にあぐらをかいて、旅の途中でもめっちゃ男らしく大股開きで座る。無防備な姿で眠る彼女の太ももが眩しい。太平でなくてもエロティックなものを感じてしまう。

太平と又七は隙あらば彼女に手を出そうとするし、それをギャグのように描いているのは人によっては不快にも感じるでしょうが、雪姫が助けた百姓娘(樋口年子)が二人から姫を守ろうとするのが可笑しいし、この娘もまた町で金で売り買いされていた。

このくだりは、のちに雪姫が語った「人の美しさと醜さ」の「醜さ」の方。金と“女”に対する欲望。

太平と又七が象徴するように、欲望は醜さを露わにするが、その一方で生身の人間そのものでもある。説教臭さ一歩手前のところで、黒澤監督は男どもの欲望もどこか滑稽な人間の一面として捉える。「正しさ」だけではないものを人は持っている。

一行が立ち寄った木賃宿で男たちが当たり前のように若い娘を金でやりとりしていて、雪姫を見て「上玉だ」と買おうとする者さえいる。演じているのは黒澤映画でおなじみの俳優たちだし、それ以外の場面でもほんのちょっとの台詞と出番があるだけの役で当時活躍していた役者たちが大勢出ていてなかなか贅沢。

城での暴動のシーンや「火祭り」のシーンなど、端役やエキストラの数も物凄い。

そして、そのエキストラたちの動きやそれぞれの表情もいいんですよね。ただかき集められただけのエキストラじゃなくて、一瞬しか写らない群衆シーンでも各自がしっかりと芝居をしている。

火祭りでは『モスラ』の日劇ダンシングチームが踊る。その中でキャンプファイヤーのように一緒に踊る雪姫が可愛い(^o^)

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今、ああいうシーンを撮ろうとしたら合成で人数を増やしたり、あれこれと映像を加工するだろうけど、撮影現場で全部やってるっていうのがスゴいし、先日観た大映大魔神の映画もそうだったように、当時の撮影所の大作映画の迫力をスクリーンで堪能できるのはこたえられない。

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上原美佐さんはこの映画がデビュー作で叩きつけるような台詞廻しが特徴的ですが、雪姫の気性の荒さをよく表現していたと思うし、無言での顔の表情の演技も目ヂカラの強さやふと見せる笑顔など、見事だったと思います。他の女優さんだったら、ああいう演技が果たして様になったかどうか。

ミスター・スポック並みに極端な吊り眉と大きな瞳、全体的にエキゾティックな顔立ちはよく目立つし、「唖(おし)娘」の時とラストで見せる本来の姫君の時との顔や服装のギャップも素敵。

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雪姫はいわゆる「男勝り」な女性キャラだけど、ワガママだったりお転婆ぶりをことさら強調されることはなくて、むしろ誰よりも一本芯の通った本当の強さを体現する人物として描かれている。

馬に乗って駆ける姿は猛々しくて美しい。

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上原さんの俳優としての活動期間はわずか2年で1960年には芸能界を引退されているし、雪姫というキャラクター以上のハマり役にも恵まれなかったようですが、『隠し砦の三悪人』という映画の中で紛れもなく彼女は輝いていたし、「雪姫」とともに「上原美佐」の名前は今後も記憶され続けていくでしょう。

60年以上も前に作られた映画の中のヒロインに恋心のようなものさえ抱く不思議。

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黒澤監督と上原美佐さん。控えめな笑顔がとってもキュート。

三船敏郎が演じる六郎太は『七人の侍』の菊千代に比べるとさらに貫禄が増していて、敵将や下々の者たちからも一目置かれる人物だし、やがて『用心棒』『椿三十郎』の主人公を経て『赤ひげ』の医者へと続いていく、若々しさと強さ溢れるその姿がフィルムに焼き付けられていて、田所兵衛との槍での勝負のあとの「また会おう!」など、本当に清々しい気持ちにさせられる。

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足だけで馬の背にまたがり両手を使って馬上で敵と闘ったり、槍を使った試合、若い女性を肩に乗せて片手で支えながら走ったり、もう三船さんの身体の動きを見てるだけでワクワクする。

七人の侍』と同じく銃の発砲音は何度も聴こえるけど、まだ『用心棒』や『椿三十郎』のような「人を斬る音」は入っていないので、映像だけで迫力を伝えている。

田所兵衛役の藤田進は黒澤監督の『姿三四郎』正・続篇で主人公を演じたり『わが青春に悔なし』『虎の尾を踏む男達』などにも出演してますが、『用心棒』ではヤクザ一家に雇われながらも三十郎と勝負することなく逃げていく浪人を演じてました。

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今ちょうどBSでやってる「ウルトラセブン」の地球防衛軍の長官役や、東宝特撮映画での自衛隊の偉いさん役などでもおなじみですね。本作品では終盤に六郎太たちを窮地から救う「裏切り御免!」のおいしい役どころ。

兵庫県蓬莱峡での石がゴロゴロ落ちてくる急な斜面でのロケ撮影、どこが本物でどこがセットなのか見分けがつかない隠し砦や城の景観、関所のセットなど、チャンバラシーンが多くなくても面白いストーリーと見応えのある撮影、俳優たちの存在感と見事な演技で娯楽時代活劇は立派に成立することがよくわかる。

僕はずっと太平と又七は最後までいがみ合いながら映画が終わるんだと思い込んでいたんだけど、実際には最後に一枚の大判を褒美にもらった二人は仲良く城をあとにするのだった。

30年前にリヴァイヴァル上映された『七人の侍』の面白さに感動して、同作をこの何年かで何度か劇場で観てきましたが、『用心棒』や『椿三十郎』と同様にこの『隠し砦の三悪人』も今後機会があるならまた何度でも観返したい映画です。


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