映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

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『モスラ』4Kデジタルリマスター版

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「午前十時の映画祭11」で本多猪四郎監督、小泉博、フランキー堺香川京子ザ・ピーナッツ伊藤エミ伊藤ユミ)、ジェリー伊藤上原謙中村哲志村喬ほか出演の『モスラ』4Kデジタルリマスター版を鑑賞。オリジナル版は1961年公開。特技監督円谷英二。音楽は古関裕而

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貨物船の座礁から生き残った船員たちの証言でわかった原住民の存在を確かめるためロリシカ国の核実験地域であるインファント島を調査することになった言語学者の中條(小泉博)と新聞記者の福田(フランキー堺)は、現地で身長30cmほどの双子の女性たちを目撃する。調査団は帰還後も沈黙を守るが、彼女たち“小美人”(ザ・ピーナッツ)はロリシカの自称・探検家の悪徳ブローカー、ネルソン(ジェリー伊藤)たちによって捕らえられ、日本で見世物にされる。小美人の唄う歌は遠くインファント島まで届き、現地人たちに崇められる巨大な卵から“モスラ”の幼虫が誕生する。


今年の「午前十時の映画祭」で上映されることを知ってから、映画館で観られることをとても楽しみにしていました。

事前にこの映画の4Kデジタルリマスター化についての動画を観たんですが、すでに上映が決まったあとで、今年の夏頃に修復作業と4K化が終わったんですね。

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モスラ』は劇場初公開から今年でちょうど60年目で、その記念的な年にこうやってクリアな画質で復活したことは怪獣映画ファンの皆さんにとってはほんとに嬉しいだろうと思います。

実をいうと、僕は長らくこの『モスラ』を昔TVで観たことがあると思い込んでいたんですが(確かBSでやってた)、今回鑑賞してみて内容を全然覚えてなくて、どうも『モスラ対ゴジラ』と勘違いしていたことに気づいたのでした。

なのですべてが新鮮でしたね。

余談ですが、この映画は僕の母が子どもの頃に弟(僕の叔父)を連れて観にいったそうで、だから自分の母親が若い頃に映画館で観た作品をこうやって60年後に息子が観るというのもなかなか素敵だなぁ、と(^^♪

もっとも、僕の母は別に怪獣映画とか特撮映画に特に興味はない人なんで、母の影響で僕も怪獣に興味を持つようになったとかいうことはないんですが。

現在72歳の僕の母は当時12歳ぐらいだったはずだから、小学生の高学年か中学生ぐらいの女の子がどうして怪獣映画を観にいこうと思ったのかわからないけど(弟の付き添いだったのかもしれないが)、もしかしたら、ザ・ピーナッツ演じる妖精も出てるしファンタジー映画の一種みたいなつもりだったんだろうか。幼少期にはディズニーアニメの『ピーター・パン』(53年作品。日本公開55年) も観たって言ってたから。

61年当時はまだ「怪獣映画」というのが今ほど子ども向けとか男の子向けみたいにカテゴライズされてなかったのかも。

今年は50~60年代に作られた映画の4Kデジタルリマスター版を何本か劇場で観てますが、本当にあの時代にタイムスリップしているような気分になって、映画そのもの以外の楽しさもあった。

で、映画館ではもちろん、『モスラ』の作品自体をほぼ初めて観たわけだけど*1、顔の大きさだけで大人の身長と変わらないぐらいの巨大なモスラのぬいぐるみとラージスケールのミニチュアによる特撮シーンを期待していると、これが特撮シーンに至るまでが結構長い。

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前半は特撮っぽい場面は座礁する船のシーンぐらいで、あとはインファント島で調査団一行が小美人と遭遇するまでをじっくり時間をかけて描く。

怪獣映画の醍醐味って怪獣が姿を現わすまでの下準備がいかに巧みにされているかどうかなんでしょうが、正直「早くモスラ出てこないかなぁ」と思ってしまった。

でも、大作映画だけあって東宝特撮映画や黒澤明作品でもよく顔を見る俳優たちが総出演で、おなじみの顔ぶれに安心感が。香川京子さんは黒澤監督の『赤ひげ』(1965)(感想はこちら)では“狂女”役だったのが、こちらではフランキー堺とコミカルなやりとりをする新聞記者・ミチを演じていて、彼女の「善ちゃん!」という呼び方がちょっと円谷プロの「ウルトラQ」(1966) に登場する由利ちゃん(桜井浩子)の「淳ちゃ~ん!」っぽかったですね。その“淳ちゃん”役の佐原健二さんも冒頭に救難ヘリの隊員役でワンシーンだけ出てますが。

放射能」とか「原爆症」という言葉が当たり前のように出てきて、核実験の問題とフランキー堺から漂う軽いノリが今の目で見るとすごく違和感がある。

あの当時の「核」に対する認識がどんなものだったのかうかがえますが、でも1961年といえば冷戦真っ只中でもあったわけで、つまり被爆国である日本の人々でさえも核や放射線被曝のことをこの程度にしか考えてなかったってことですよね。

フランキー堺さんは、同じ年に公開された『世界大戦争』ではシリアスなお芝居をしているから、映画の作り手たちが核の恐ろしさを意識していなかったわけじゃなくて、むしろ大いに意識しているからこそ、子どもたちも観るような怪獣映画にもそういう要素を入れ込んだのでしょうが。

こういう内容の映画を子どもたちは無邪気に観ていたんだなぁ。

ゴジラ』の1作目 (1954年) はもちろんだけど、モスラもただファンタスティックな存在ではなくて、「核」がかかわっていたんですね。

インファント島の描写には「南洋」に対する憧れというか、南の島は未開の楽園であり、そこには不思議な生き物がいて、それがアメリカによる核実験によって失われつつあるのだという、いずれにしろ日本人にとっての都合のいい楽園幻想みたいなものをしのばせる。

今の時代にこういう「土人たちが棲む南の楽園」というイメージは通用しないでしょう。

インファント島の住民たちを日劇ダンシングチームが演じている。同ダンシングチームは黒澤監督の『隠し砦の三悪人』(1958) (感想はこちら)でも村の祭りで踊る人々を演じていた。

悪役のネルソンがやってくるロリシカ国、というのはロシアとアメリカを合体させて命名したらしいけど、終盤のニューカーク市というのはもろニューヨークだし、そこの人たちは白人ばかりでしかも英語を喋ってる。架空の国にする必要あったのか^_^;

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日本国内でアメリカのMP(憲兵)が日本の警察と一緒に乗り込んでくるのが時代を感じさせますが。モスラに対するロリシカ国の態度も、頼りがいがあるのかないのかよくわからない。いろんなことが含みを持って描かれているようにも感じられる。

ザ・ピーナッツのふたりが出演していて歌も披露しているから歌謡映画の要素もなくはないけど、歌の場面はそれぞれそんなに長くはないので彼女たちの歌声をもうちょっと聴いていたかったな。ミュージカル映画と呼べるほどではなくて、あくまでも怪獣が街を破壊するのを楽しむ映画になっている。

ザ・ピーナッツは64年の『モスラ対ゴジラ』と『三大怪獣 地球最大の決戦』にも同じ小美人役で出ているので、僕にとってはザ・ピーナッツ=小美人、というイメージなんですが(世代的に彼女たちの全盛期を知らないし)、実際、この映画の伊藤エミさんと伊藤ユミさんは妖精っぽいし、ハモりの美しいその歌声はどこか懐かしく、その姿は可憐で(出てくるたびに衣裳が変わっててカワイイ)、ユニゾンで喋る言葉が不思議な存在感を醸し出していて、モスラと同じぐらい彼女たちに惹かれましたね。

人間に掴まれると人形になっちゃうのが微笑ましいというか、笑っちゃいそうになるんですがw

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モスラの歌」を作曲した古関裕而さんはNHKの朝ドラ「エール」の主人公のモデルになったかたですが、あのドラマでは『モスラ』については特に触れられていなかったようなのが残念でしたね。

特大のぬいぐるみとミニチュアによる特撮は、残念ながら期待していたほど大きくは見えず、やっぱり作り物であることは丸わかりなんですが、それでも劇場のスクリーンで観られたことは嬉しかった。ミニチュアの建物が壊れる映像って、なんであんなにワクワクするんだろ。モスラの幼虫の造形はリアルだけど、チョココルネみたいな身体とモキュモキュしたその動きはやっぱりユーモラスで(繭の形もピーナッツの殻っぽいしw)、怖さよりも可愛らしさを強調したキャラクターとして他の怪獣たちとは一線を画す。

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映画の上映前に来年公開の松竹の新作映画『大怪獣のあとしまつ』や「サンダーバード」の最新作の予告篇が流れてました。まるで狙ったようなラインナップ(笑)

非常にレアらしい本篇前の「序曲」を劇場で聴けたのは嬉しかったけど、曲の長さは1分ちょっとほどで、すでに『ベン・ハー』(感想はこちら)とか『アラビアのロレンス』(感想はこちら)『2001年宇宙の旅』(感想はこちら)などで長い長い“overture”を聴いてるから、それらに比べたらあっという間に終わってしまったという感じでした。でも、映画の前に流れる前奏っていいですね。

この映画のあとに続けて『モスラ対ゴジラ』と『三大怪獣 地球最大の決戦』を観たくなったなぁ。ハリウッド版の一連のゴジラ映画はほんとにかつての東宝怪獣映画の現代版でしたね。そのオリジナルをこうやって映画館で観られている喜び。

クリスマスに観たんですが、朝の8:30からの上映(「午前十時の映画祭」は、もうこの名称を返上してはいかがか)にもかかわらず、お客さんは結構入ってました。ほとんどおじさんばかりだったけど、年配のご夫婦もいらっしゃって、下手するとガメラの時よりは女性のお客さんがいたかも。

僕の母のように若い頃に観たことがあるかたたちなのかもしれませんね。

今年は平成ガメラ感想はこちら)と大魔神感想はこちら)に続いてモスラと、往年の特撮怪獣映画づいてました。

TVやブルーレイ、ネット配信などもいいけど、「怪獣映画」はやはり映画館で観るに限る、そのことを実感した1年でした。


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*1:その後、90年代にレンタルヴィデオですでに観ていたことが当時の自分のメモからわかったんですが、まったく覚えていない^_^;