テリー・ギリアム監督、マイケル・ペイリン、マックス・ウォール、デボラ・フォレンダー、バーナード・ブレスロウ、アネット・バッドランド、テリー・ジョーンズほか出演の『ジャバーウォッキー 4Kレストア版』を鑑賞。オリジナル版1977年作品。日本公開1980年。
時は中世。王国に出現した怪物ジャバーウォッキーに悩まされていたブルーノ王は、怪物を退治する者を選抜すべく騎士のトーナメント大会を開催する。職を求めて王国にやってきた樽職人の息子デニスもトーナメントに参加することになる。(Wikipediaより転載)
ネタバレがありますのでご注意を。
他のミニシアターでやっていたのを観られずにいたのが、おあつらえ向きに大須シネマで上映されていたので観てきました。
やはりちょっと前に4Kデジタル・リマスター版が公開されていた『未来惑星ザルドス』(1974) も観逃しちゃったので、そちらもやってくれるとさらにありがたいんですが。
90年代頃に初めて“モンティ・パイソン”を知ってから彼らの映画を2本ぐらい観てはいるんだけれど、『ザルドス』同様、この『ジャバーウォッキー』も僕はこれまで観たことがなかった。
この作品はテリー・ギリアム初単独監督作品(これまではテリー・ジョーンズと共同)なのだそうで、モンティ・パイソンのメンバーでは主演でマイケル・ペイリンが、またテリー・ジョーンズ(※あらためてご冥福を。20.1.21)が冒頭で怪獣ジャバーウォックに食われるためだけに出演。その他のメンバーはかかわっていない。
ルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」の中の「ジャバウォックの詩」から着想を得て作られた本作品は、中世を舞台にした怪獣退治にまつわるファンタジー映画、ではあるんだけれど、怪獣が登場するのは最後のわずかなシーンだけでまるで『原始怪獣ドラゴドン』(わかる奴だけわかればいい)。映画のほとんどは主人公がジャバーウォック退治の騎士を選ぶためのトーナメントで賑わう町の中で右往左往しているだけ。
まぁ、テリー・ギリアムの映画ですから(笑) これまでにモンティ・パイソン関連作品を観ていればどんな内容なのかはだいたい想像がつく。
好きな人はハマるが、観る人を選ぶ、というのは、すでにいろんなかたがたの感想から承知していたので(『ザルドス』も同じく)、ともかくギリアムの初期の映画を押さえておくつもりで観ました。
…いやぁ、良くも悪くも70年代だなぁ、と^_^; わかってて観たから別にいいんだけど。
どこのお城でロケしたんだろう、という感じのやけにリアルな美術、まだCG以前のミニチュアや着ぐるみを使った特撮。ほんとに目に心地よかった。
同じことを今CGを使ってやられても興味をそそられないだろうなぁ。
あの当時の特撮の使い方がギリアムは巧いですよね。実際以上に予算がかかってるように見える。
そして、当たり前のように王女様のヌードも出てくる。このあたりのなんとも言えないアンダーグラウンドな雰囲気。同じ劇場で以前観た『ウィッカーマン』によく似たニオイ。
『ウィッカーマン』も『ザルドス』も、この作品もイギリス映画。ヘンタイだなぁ。


血飛沫が撒き散らされまくりなスプラッター風味も実に悪趣味。もちろんギャグとしてやってるんですが。
エンドクレジットにルーカスフィルムだったかILMだったかの名前が出てたけど、レストアする際にかかわったんだろうか。考えてみれば『スター・ウォーズ』と同じ年の映画だもんなぁ。『スター・ウォーズ』は確かに次元の違う作品だった。
この映画、今回の4K版どころか従来のヴァージョンでも日本国内ではDVD化されていなかったんですね。観といてよかった。
どうせ怪獣はまともに登場しないんだろう、とタカをくくってたら、最後の最後になんか出てきたw
まるでネオショッカー大首領のような(わかる奴だけわかればいい)中途半端にデカいドラゴンみたいな奴が。いや、あの大きさだからこその妙な存在感があったけど。
翼はボロボロで全然強そうじゃないんだけど、でも着ぐるみの中には人が正面と背中を逆向きにして入って逆関節のモンスターを演じていて、こういうところが昔の映画を観る醍醐味なんだよなぁ、と。撮影現場でいろいろ工夫した跡が見られる手作り感とギリアムの作品は相性がいい。
コメディとして撮ってはいるんだけど、地味に甲冑を着た騎士たちの馬に乗っての決闘シーンには力が入っていて『最後の決闘裁判』(感想はこちら)ばりの迫力があった。
テリー・ギリアムって鎧が好きなのかな。このあと撮ったのも『バンデットQ』(1981年作品。日本公開83年)で、『未来世紀ブラジル』では主人公の夢の中で彼に鎧を着せていたし、鎧兜姿の巨大なサムライみたいなのを登場させてたし。
先日観たチャップリンの『のらくら』(感想はこちら)でもチャップリン演じる貴族だか金持ちだかが仮装で甲冑を着たらクシャミしたはずみにヘルメットの面頬(バイザー)が閉まって開かなくなり大騒ぎする展開があったけど、鎧兜姿の騎士って着ぐるみっぽくてかっこいいし、一方ではいかにも動きづらそうで(倒れると重くて一人で起き上がれない)その様子がどこか不憫で可愛くもある。
マイケル・ペイリン演じる主人公デニスが従者を務める騎士のライヴァルである角の生えた黒騎士なんて「機動警察パトレイバー」のグリフォンみたいで(わかる奴だけ…)、敵ながら惚れぼれする活躍ぶりだし。
この映画では王侯貴族たちを茶化して下々の者たちの下品さ(出てくる庶民たちの歯が全員揃いもそろっていちいち汚いのも芸コマ)も笑いのめしているけれど、騎士たちはけっして臆病ではなくて正々堂々と戦うし、ジャバーウォックが姿を現わしても勇敢に立ち向かっていく。
テリー・ギリアムは「ドン・キホーテ」が好きだから(紆余曲折の末に映画化もしているし)、たとえ無謀であっても鎧兜を着て強敵に突っ込んでいくような勇者に憧れがあるのか、あるいは自分自身をそういう存在として考えているのかもしれない。
結局、自分が仕えていた騎士は真っ二つにされて、黒騎士もはずみで崖の下へ転落、たまたま身をかがめて突き立てた剣がダメージを食らって倒れ込んできたジャバーウォックの目玉にぶっ刺さってモンスターは自滅、一躍英雄になったデニス(デニス、というとパイソンズの「デニス・ムーア」のコントを思い出すが…)は、ずっと結婚を望んでいた太めの醜女グリゼルダではなく、王女の夫になって国の半分を譲り受ける。
世間的には成功を収めても、最後まで真の望みがかなうことのない主人公。いろいろ皮肉めかしてはいるけれど、ここでもギリアムの厭世観がそこはかとなく漂う。
クライマックスで「ナニコレ珍百景」でおなじみのムソルグスキーの“組曲「展覧会の絵」より~キエフの大門”が流れると、なんだか荘厳な気分になって感動的な物語だったように感じられもしましたが。
現在開催中の「午前十時の映画祭12」では今後ギリアムの『フィッシャー・キング』も上映されるけど、「フィッシャー・キング(漁夫王)」ってのもまた中世の聖杯伝説から取られている。趣味が一貫してるよね。こちらも観られるのを楽しみにしています。