『ガメラ3 邪神〈イリス〉覚醒』をドルビーシネマで鑑賞。1999年作品。
5年前の東京での巨大怪獣ガメラとギャオスの闘いで両親を亡くした比良坂綾奈(前田愛)は弟の悟(伊藤隆大)とともに奈良の親戚の家に身を寄せていたが、学校でイジメに遭い、度胸試しを強要されて村の洞窟の中で同級生の守部龍成(小山優)の実家が代々守る「柳星張(りゅうせいちょう)」の封印を解いてしまう。そして、そこから生まれた謎の生き物をかつて飼っていた猫の名前から“イリス”と呼んで育て始める。同じ頃、大量発生し始めたギャオスを追うガメラは戦いのたびに日本各地に甚大な被害をもたらすため、自衛隊に攻撃命令が下されていた。
もらったフィルムしおり、ブレ過ぎてて何が写ってるのかわからない。ギャオス?
去年の11月から1作ずつ上映されてきたドルビーシネマ版を観てきましたが、20年以上経ってからあらためて映画館のスクリーンで観るとやはりその迫力と楽しさは格別で、画質、音質ともに大幅に向上させたヴァージョンでこういう劇場鑑賞の機会を作ってくれたことに感謝です。
ちょうどハリウッド版ゴジラの最新作と公開のタイミングがピッタリで、大人の事情から1本の映画の中での共演が難しいガメラとゴジラが同時期にいっぺんに観られることに興奮を覚えていたところ、あちらの『ゴジラvsコング』はコロナ禍のため公開延期になってまだいつ観られるのかそのめども立っていない状態(※追記:その後、公開日は7月2日に決定した模様)。う~ん、残念。
ともかく、こうして遠退いてしまったゴジラ映画への渇きを癒やす役割もガメラが担ってくれたのでした。
これまでの感想で述べてきたように、僕は「平成ガメラ」シリーズは王道の怪獣映画だった1作目の『大怪獣空中決戦』が大好きで、その一方で2作目と3作目に対してはあまり思い入れがなく、今回久しぶりに観るまでストーリーの細かい内容を忘れていたほど。
2作目『レギオン襲来』は非常時の自衛隊のシミュレーション映画として人気が高いものの、僕はその内容についてはどちらかといえば批判的な感想を持ったし、少女の成長譚と怪獣の存在を重ねた一種のジュヴナイル物でもある3作目には、映画館で初めて観た当時は「これじゃない」感を大いに抱いたのでした。
だから、懐かしさは覚えつつも今回も物語そのものにはさほど興味がなかった。
手塚とおる演じる奇矯なコンピュータプログラマーの倉田なんてあまりにアニメちっくなキャラクターだったから、今見たら絶対受けつけないだろうなぁ、と思ってたし。
昔観た作品が今では堪えられない、ということはたまにあって、僕の場合はそれは少年時代に観ていたアニメ作品などに多いんですが、たとえば去年観た『クラッシャージョウ』なんてまさにそうだったし、先日深夜にTVでやっていた『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』などは初公開時には友だちと一緒に観にいって楽しかった思い出があるにもかかわらず、今回は途中で堪え切れずに観るのをやめたのでした。
堪えられない理由は作品によってさまざまだけど、登場人物たちの間で妙に青臭い問答が続くような内容はつまんないな、と感じるところに共通点がある。
ただ、意外とこの『邪神〈イリス〉覚醒』を今回の鑑賞では僕はさらっと抵抗なく観られたんですよね。手塚さんの演技も、心の中で「お前誰やねん^_^;」とツッコミを入れながら、まぁ楽しみましたよ。*1
子どもや若者が延々と屁理屈こねて大声でわめきながら暴れる映画じゃなかったのがよかったな。
怪獣イリスにジャイアントスイング食らってミイラになっちゃう仲間由紀恵さんとか「きたきた~」って感じで笑ってしまったし。生瀬勝久さんがめっちゃ若くて驚いた。「TRICK」のお二人やその他にも皆さん、いろんなお仕事されてますねw
これまでの2作と同様に100分ちょっとという尺に収められているので停滞している暇もなかったからというのもあるし、やはりそこはミニチュア特撮のおかげだったかな、と。
1999年が舞台だけど、映画館では97年の『タイタニック』や『ジャッキー・ブラウン』がやってる模様(実際の映像ではもっと暗くてよく見えませんが)。
同じ内容で中途半端なCGを使って描かれたら、途中で退屈していたかもしれない(だから“中途半端なCG”を多用していたミレニアム・ゴジラは全然楽しめなかった)。
撮影現場で実際に撮られた特殊撮影の映像が完成作品の中でそのまま映し出されることは現在のハリウッド映画ではまずないので、そういうところでこのシリーズは差別化されているし、今の日本の映画からもほぼ失われてしまった技術・手法だから、それだけでも「平成ガメラ」は貴重な作品たちなんですよね。
小中学生向けだった「平成ゴジラ」は僕は人間同士のドラマ部分が稚拙に感じられて(だから、逆に怪獣映画ファンの間ではあまり評価が高くない“84ゴジラ”が好き)不満だったので、それに比べると「平成ガメラ」の方は3本ともはるかに抵抗なく観られたのでした。
それは、監督の金子修介さん、特技監督の樋口真嗣さん、そして金子監督と共同脚本の伊藤和典さんたちがけっして「ジャリ向け映画」と思ってこの三部作を作っていなかったから。
好みの問題はあるけど、2作目以降も作品のクオリティが著しく落ちることはなかった。今でもこの三部作がファンの間で「名作」と言われる所以でしょう。
3作すべてが異なるタイプの怪獣映画になっていて、そこもユニークだし、だからヴァラエティに富んでいて続けて観ても飽きない。
もっとも、この3作目は初登場の前田愛演じる綾奈のガメラへの復讐譚とガメラと人類の関係をあらためて定義し直して三部作の完結篇としてシリーズを〆るという、この二つのプロットを同時進行させたうえで交差させなければならなくて、そのためにかなり駆け足になっているし、これは前作でも気になったことだけど、前作以上に台詞のみで説明されていることが多いために、たとえば山吹千里演じる宗教的背景を持っているらしい女性キャラクターや彼女と行動をともにするプログラマーの描写が明らかに不足している。
なんか謎めいた雰囲気だけ出しておきながら、最後まで何者なんだかよくわかんないまま二人まとめて退場する。
彼らの背景を描き込む時間的な余裕がなかったんだろうけど、思わせぶりなだけであまりにもとってつけたようなキャラたちだった。後半では長峰(中山忍)や浅黄(藤谷文子)たちにぞろぞろとくっついてきて、ずっと喋ってるだけだったし。もうちょっと描きようがあったんじゃなかろうか。
また、綾奈の物語の方も「比良坂、逃げんな」とか言ってやたらとしつこく姉弟を苛める同級生の女子生徒たちはイリスが怪獣化してからは出てこなくて、なんとなくそのあたりの話もモヤモヤさせたまま放置されている。
螢雪次朗演じる大迫も、綾奈に好意を持つ龍成を励ますところまではよかったけれど、そのあと彼が京都でどうなったのかわかんなくなってたし。龍成が綾奈のために勇気を振り絞ってイリスに戦いを挑むところも、その結果がわかりづらかったし。
龍成と綾奈のその後や大迫の安否など、その辺はちゃんとフォローしといてほしかった。なんか物語がすべて尻切れトンボのまま終わっちゃうんだよね。
イリスの成長の過程も、あともう少し幼体のイリスと綾奈のふれあいを描き込んでいたら彼女のイリスへの思い入れにも共感できたかもしれないが、イリスはわりとあっさり成長してあっという間に巨大な怪獣になる。
「柳星張」をめぐる設定も、ギャオスの謎もガメラの正体についてもほとんど登場人物たちの説明的な台詞で語られるだけで、だったらそんな「理屈付け」よりも怪獣バトルの方を増やしてくれないかなぁ、と思った。
この映画では、序盤のガメラとギャオスの渋谷での闘い、そしてイリスと自衛隊の小競り合い(戦闘機がイリスと交戦するVFXはよくできていたけど、やはり自衛隊の機体が破壊されて墜落することはない)、それからクライマックスの京都での闘い、と大きく分けて3つの特撮の見せ場があってそれぞれ見応えがあるんだけど、僕はそれ以外の場面に前作以上の退屈さも覚えてしまって。
ただダラダラと怪獣同士が闘ってるだけよりもメリハリがあっていいかもしれないけど、怪獣の「設定」を説明するだけの場面は僕には不要に感じられる。どうせ絵空事なんだから、怪獣が暴れまくって街中を破壊するところがもっと観たい。
──そういった不満もあるにはあるんですが、最初に述べたように、それでも僕はこの映画を思ってた以上に抵抗なく楽しめたんですよね。
それは、初公開から22年という歳月が経ったことも大いに関係していると思う。この22年の間に起こったさまざまな変化を思い浮かべながら観てもいた。
出演者の中には亡くなられたかたもいるし、綾奈役の前田愛さんはその後、現在の6代目中村勘九郎さんと結婚されて梨園の世界で頑張ってる。
前田愛さんの出演作品で僕が観たのは、この映画以外ではビートたけしさんの娘を演じた『バトル・ロワイアルII』だけなんですが、あの作品でも前田さんは強いまなざしで「怒り」を抱えた少女を演じていました。
彼女の世界に向けて「いらだち」や「怒り」を発しているようなあの演技と存在感が、『イリス覚醒』を喪失感や心の傷、思春期の不安定さを抱えながらやがて社会へ踏み出していく若者を描いた青春映画にしていた。
自分の両親、そして飼い猫のイリスが建物の倒壊で命を失ったのはガメラのせいだと思っている綾奈の復讐心によって怪獣は成長してガメラを殺そうとするが、彼女は長峰と浅黄の説得、そしてガメラの奮戦によって救い出される。
綾奈のガメラへの怒りは、抗いようのない運命への怒りだろうか。綾奈はまるで世界と一人きりで対峙しているようだ。その姿はガメラと重なるように描かれている。
傷つけてくる者たちだけではなく、自分を守ろうと奮闘してくれる人たちがいる。世界にはまだ信頼するに値するものが残っている、と思えること。それが「希望」と呼ばれるものなんだろう。
この映画を愛する人たちは、きっと前田さんの姿に今の自分やかつての自分を重ねているんじゃないだろうか。
今後、前田愛さんが俳優の世界に戻ってきてくれることがあるかどうかはわかりませんが、いつかガメラが復活する時があれば、ぜひ中山さんや藤谷さんと一緒に出演してほしいです。
妹の前田亜季さんは回想シーンでの5年前の綾奈を演じていたし、前作『レギオン襲来』ではガメラの復活を願う幼い少女を演じていました。彼女は現在も映画やTVドラマ、演劇など幅広い分野で活躍中ですね。
彼女たちは金子監督の『GMK 大怪獣総攻撃』に姉妹でカメオ出演してますが、亜季さんにはガメラの新作ではがっつり主要キャラクターを演じてもらいたいな。
これはやっぱり金子監督に撮ってもらうしかないな、『ガメラ対ゴジラ』を!(^^)!
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