マーティン・スコセッシ監督、ロバート・デ・ニーロ、ジョー・ペシ、シャロン・ストーン、フランク・ヴィンセント、パスクァーレ・カヤーノ、L・Q・ジョーンズ、ドン・リックルズ、アラン・キング、ケヴィン・ポラック、フィリップ・スリアーノ、ヴィニー・ヴェラ、リチャード・リール、ジェームズ・ウッズほか出演の『カジノ』。1995年作品。日本公開1996年。R15+。
原作はニコラス・ピレッジによるノンフィクション「Casino: Love and Honor in Las Vegas」。
1973年、シカゴ・マフィアからラスベガスに派遣されたサム・“エース”・ロススティーン(ロバート・デ・ニーロ)は、カジノ「タンジール」のマネージャーとして辣腕ぶりを発揮し、莫大な利益を上げていた。一目惚れした元娼婦のジンジャー(シャロン・ストーン)と結婚し、私生活も順風満帆に見えたが、サムのボディガードとしてやって来た幼なじみの相棒ニッキー(ジョー・ペシ)が働く悪行の数々が、カジノ経営にも悪影響を及ぼし始めていた。(「午前十時の映画祭14」の作品紹介より)
久しぶりの「午前十時の映画祭14」で鑑賞。
マーティン・スコセッシ監督の映画のファンではないし、苦手な作品も少なくないんですが、ずっと観たことがなかったからこそこの機会に観ておきたい、と思うものもあって、非常に評判のいい『グッドフェローズ』(1990) に比べてこれまではそこまでではなかったのが、実はあちらよりも好きだという人がいたり、近年評価が高まってもいるらしいこの映画を鑑賞。
『アイリッシュマン』に登場したジミー・ホッファが会長を務めた全米トラック運転手組合と『カジノ』のモデルになったカジノには資金的なかかわりがあったことを知って観ると、作品と作品が繋がって興味深いし、脂が乗りきっていたマーティン・スコセッシ&ロバート・デ・ニーロ&ジョー・ペシの作品をまた1本押さえることができた、という達成感はあった。
ただし、178分という上映時間はかなり体力を消耗するので(この次に「午前十時~」で上映されるブライアン・デ・パルマ監督、アル・パチーノ主演の『スカーフェイス』も170分あるので勘弁してほしいんですが^_^;)、正直若干うんざりもしております。なんでこう長い映画ばかり撮るかね。
で、前半はマフィアたちによってラスヴェガスに送り込まれたノミ屋の“エース”ことサム・ロススティーンが任せられた店をどうやって繁盛させていくのか、そして彼の護衛としてやってきたニッキーの暴れっぷりなど、いかにもな暗黒街映画としてそれなりに楽しんで観ていたのだけれど、シャロン・ストーン演じる客からチップをくすねる女・ジンジャーとの結婚後の夫婦生活の破綻、崩壊はこれまでにもよく見てきたようないかにもな顛末で、ヤクザとそのカミさんの仲違いとか財産を巡るいさかいとか、どーでもいいなぁ、とだんだん飽きてきたのだった。やはり178分は僕には長過ぎた。
この映画でのデ・ニーロとペシは『レイジング・ブル』と互いのキャラが逆なのが面白いんだけど、『レイジング・ブル』では主人公のジェイク・ラモッタがペシ演じる弟が自分の妻を寝取ったのではないかという妄想に駆られて彼をボコボコにして愛想を尽かされるのが、今回の『カジノ』では後半でペシ演じるニッキーが主人公・サムの妻とほんとにヤッちゃうという展開で、その辺の節操のなさには笑いました。
…いや、笑い事じゃないんだけど、相手はヤクザ者だからイイ女なら手を出しかねないわけだし、サムの妻・ジンジャーもそういうことにずいぶんとだらしない女性として描かれている。
そもそも、サムのことは「いい人」だとは言いながらも、彼女にとって彼は最初から恋愛の対象外だったわけで、それをサムの方から見初めて、ジンジャーが「愛していない」とハッキリ断わっているにもかかわらず「一緒に暮らせば愛が芽生えるかも」みたいな勝手なことを言って半ば強引に結婚する。
しかしジンジャーにはレスターというろくでなしのヒモがいて、彼女は彼にこそ惚れていたようだし結婚後も夫に金をせびっては貢ぎ続けていた。
レスターをジェームズ・ウッズが演じていて、デ・ニーロとは『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』でも共演しているけれど、あの作品とは比べ物にならないぐらいチンケな男の役で(でもチンピラ的なキャラクター自体はよく似ている)、サムの財産をジンジャーとともに奪って高跳びしようとする。
ジンジャーとサムとの間の娘に対しても乱暴な扱いをする最低野郎だし、ジンジャーの男を見る目のなさがよくわかる。
まぁ、彼女のように美しい女性にはクズもいっぱい寄ってくるだろうから、もともと金や宝石類に目がないジンジャーみたいな女性は、遅かれ早かれつまんない男に引っかかって身を持ち崩していたかもしれないが。
この映画を観ているだけではどうしてジンジャーがレスターのような男にあそこまで惹かれて、逆にサムのことを最後まで愛さず彼と別れたがったのかよくわからないんですよね。
クズのヒモでも愛して、たとえ金持ってても愛さない。愛とはそういうものなのか。
愛していない男と結婚したことが彼女の破滅の始まりだった。「結婚」という檻に閉じ込められることが彼女にとっては地獄だったのかもしれない。
サムはサムで、プロポーズの直後に子どもを作ることを口にしたり、かなり独りよがりな男なのがわかる。全部自分の思うようにしたいし、それを金やバックについている暴力で獲得しようとする。
しかし、金目のもので気を引いても、結局のところジンジャーの目当てはそちらであって最後までサム本人ではなかったということ。あの結婚は最初からすれ違っていた。
娘の両手をベッドに縛りつけて飲みに出かけたり、ジンジャーはジンジャーで身勝手で子どものことなどちゃんと考えてはいない。
ニッキーが起こすトラブルやカジノ経営のライセンス発給の件などに加えて夫婦関係の危機と、解決しなければならないのにどんどん悪化して山積みになっていく問題が臨界点に達して、ついにカタストロフが、というお話。
繰り返すように、こういう話を3時間見せられても僕は『アイリッシュマン』の時もそうだったように満足感を得られないし、虚しい気分になってしまう。
ある程度予想はしていたから、観たこと自体は後悔していませんが。
コッポラがマフィアを撮ると『ゴッドファーザー』みたいな映画になるのが、スコセッシが撮るとこういう映画になる、というのが面白いし、多分、現実はこちらの方に近いんでしょう。
シャロン・ストーンさんは同じ年に作られたサム・ライミ監督の『クイック&デッド』で主演を務めていて、あの映画はここ最近のアメコミ映画やアクション物などの女性ヒーロー像をかなり先取りしていたと思うし(もっとも、その後悪役として出演した『キャットウーマン』の評価は散々だったが)、ああいうかっこいい役をもっと見たかった。どうしても『氷の微笑』の悪女的なイメージを求められてしまったんだろうか。
そういえば、ジーナ・ローランズ(ご冥福をお祈りいたします。24.8.14)主演の『グロリア』(1980年作品。日本公開1981年)のリメイク版 (1999) の主演もやってたなぁ。僕はあいにく観ていませんが。
『カジノ』ではオスカーの主演女優賞にノミネートもされて(しかし、彼女は“主演”ではなくて“助演”ではなかろうか)この作品での演技は高く評価されたんだけど、そして熱演であったことは間違いないのだけれど、ジンジャーという女性にあまり魅力を感じられないせいもあって、後半はただわめいたり暴れてるだけのようにしか見えず、僕は『クイック~』での凛々しい彼女の方が好きだったなー。
今から30年近く前の作品がこうやってリヴァイヴァル上映されて、ようやく目にする僕のような観客もいる。
『グッドフェローズ』同様に、きっとその後のいろんな監督の作品に影響を与えたんでしょうね。
そういう映画史の1ページに触れられたのはよかったな。
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