映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

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『ルナ・パパ』4Kレストア版


バフティヤル・フドイナザーロフ監督、チュルパン・ハマートヴァモーリッツ・ブライプトロイ(ナスレディン)、 アト・ムハメドシャノフ(マムラカットの父・サファール)、ポリーナ・ライキナ(マムラカットの子ども・カビブラの声)、ローラ・ミルゾラヒーモヴァ(マムラカットの友人・スベー)、Dinmukhamet Akhimov(産婦人科医)、メラーブ・ニニッゼ(アリク)、ニコライ・フォーメンコ(操縦士)ほか出演の『ルナ・パパ4Kレストア版。1999年作品。日本公開2000年。

原作と脚本はイラクリ・クヴィリカーゼ。音楽はダーレル・ナザーロフ。

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美しい湖畔の村。女優を夢見る17歳の少女マムラカット(チュルパン・ハマートヴァ)は、戦争の後遺症を抱える兄ナスレディン(モーリッツ・ブライプトロイ)や厳格な父サファール(アト・ムハメドシャノフ)とともに暮らしている。ある満月の夜、マムラカットは暗闇の中から声をかけてきた見知らぬ男に誘惑されて彼の子を身ごもるが、男はこつ然と姿を消してしまう。古い慣習にとらわれた村で冷たい仕打ちを受ける中、父や兄と一緒に男を捜す旅に出るマムラカットだったが──。(映画.comより転載)


再発見!バフティヤル・フドイナザーロフのゆかいで切ない夢の旅」と題して、2015年に49歳で亡くなったタジキスタンの映画監督バフティヤル・フドイナザーロフの映画が特集上映されていて、その中の1本『ルナ・パパ』を観てきました。

khudojnazarov.com


ほんとは某アメコミヒーロー映画の新作を観るつもりだったんだけど、急に思い立って予定を変更したのでした。

バフティヤル・フドイナザーロフ監督の名前は記憶していないし、彼の作品をこれまでに1本も観ていませんでしたが、『ルナ・パパ』という映画のタイトルや、他の監督作品『少年、機関車に乗る』(1991年作品。日本公開93年)『コシュ・バ・コシュ 恋はロープウェイに乗って』(1993年作品。日本公開94年)という題名には覚えがあった。

ちょうど90年代に映画を意識して観始めた頃の作品だから、きっとミニシアターなどでポスターかチラシを目にしたんだと思う。

この『ルナ・パパ』はドイツ・オーストリア・日本・ロシア・フランス・スイス・タジキスタンウズベキスタンの8ヵ国の合作で、舞台となるのはタジキスタン

タジキスタンは監督の母国だそうだけど、タジキスタンという国がどこにあるかさえも僕はわかっていないし、やはり共同で製作しているウズベキスタンも同様。ごめんなさい、失礼ながら両国の違いもちゃんと理解はしていない。

ソヴィエト連邦の一部だったのが、解体後に独立した、ということだけはわかりますが。映画を観ていると遊牧民の国なのかな、と。

ちょっと『不思議惑星キン・ザ・ザ』を思い出したりしましたが。

いや、あちらはソ連SF映画だったけど、こちらは現代劇だし、作品紹介ではよく「ファンタジー」と表現されているけれど、それは最後の最後に現実を飛び越えたような展開があるからで、お話自体はけっして空想的ないわゆる「おとぎ話」ではない。

妊娠した17歳の娘が相手が誰だかわからないまま、赤ちゃんの父親であるその人物を捜し続ける、という、ちょっと寓話めいたお話、といったところでしょうか。

ただし、僕はこの映画に登場するあの不思議な町は実在するものを撮ったんだと思っていたんですが、どうやらあれは全部セットで、この映画のために作ったものだそうだから、そうするとやはりこれは「ファンタジー映画」ということになるのかな。架空の町を舞台にしてるわけだから。

劇中で台詞の中に出てくるサマルカンドウズベキスタンの古都)という地名は昔歴史の授業で習って覚えがあったし、あの町、というか村の建物はいろんな土地や国々、さまざまな時代の文化を持ち寄ったものらしい。

ちなみに、主人公の女性の名前“マムラカット”は「国家」「大地」を意味する言葉なのだそうで。

マムラカット役のチュルパン・ハマートヴァは、僕は以前DVDで彼女がドニ・ラヴァンとともに出演した『ツバル』を観ましたが、この『ルナ・パパ』はあの映画と同じ年に作られたんですね。

彼女が病院の診察台で両足を広げて寝そべるべきところを、まるで飛行機の真似をするように両手を広げて身体を反らせる場面には見覚えがあった。

きっと初公開時に、あの場面の映像が宣伝で使われていたんでしょうね。


とにかくこのチュルパン・ハマートヴァさんがめちゃくちゃキュートで、彼女のくるくる変わる顔の表情を見ているだけで楽しかった。

素晴らしい演技力だと思いましたね。泣いたり笑ったり踊ったり。まるで天使のようで。

兄のナスレディン役は『ラン・ローラ・ラン』や『ミケランジェロの暗号』などのモーリッツ・ブライプトロイ


『ルナ・パパ』も『ツバル』も20年以上前の映画だし、『ミケランジェロの暗号』からもすでに10年以上経っていて、僕はお二人とも最近の出演作を観ていませんが、映画には出続けてらっしゃるようですね。

チュルパン・ハマートヴァさんはロシア出身だし、モーリッツ・ブライプトロイさんはドイツの俳優。

マムラカットの父親役のアト・ムハメドシャノフさんはタジキスタンの俳優さんのようだし、劇中でシロップ入りのソーダを飲みながら流れ弾に当たって死んでしまう産婦人科医役のDinmukhamet Akhimovさんはカザフスタンの俳優さん。


『ツバル』の時と同様に国際色豊かなキャスティングだし、ハマートヴァさんは当時からそういう作品を意識的に選んでいたんだろうか。その後もロシア国内の活動だけではなくて、いろんな国の映画に出演されてるようだし。

彼女は去年、ロシアのウクライナ侵攻が始まった時にラトビアにいて、戦争に反対する請願に署名もしたけれど、その後亡命。

ネットの記事で彼女の名前を見た時、あぁ、あの映画の女優さん、と思った。

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映画の中での可愛らしい笑顔からは想像できないほど強い決意を持って信念を貫いた人なのだな、と思いますが、『ルナ・パパ』のラストを観ると、その後の彼女の行動を暗示させるようで胸が痛む。

ヒロインが最後におなかの赤ちゃんとともに空に飛んで去っていく、というのは、いろんな意味を見出せると思うけれど、赤ちゃんの父親が誰なのかわからないと母親の方が周囲から責められる、というのは、あぁ、他所の国でもあることなのだな、と。

自分たちは無関係なくせに彼女のことを「アバズレ」と呼んで蔑み、意地悪をする村人たちの醜さ。

責められるべきは、女性を置いて無責任に姿を消した赤ちゃんの父親の方にこそあるだろうに。

20年前の映画だけど、そういう部分はちっとも改善されていない。

これが日本だったら、責め立てられることもあるだろうけれど、誰からも関心を持たれずに、誰にも助けを求められず病院にさえも行けずに赤ちゃんを死なせてしまって母親が逮捕される、というパターンがたくさんありますよね。

マムラカットには自分に味方してくれる父や兄がいただけ、まだ救いがあったかもしれない。今の日本の方がよっぽど救いがないね。

友人のスベー(ローラ・ミルゾラヒーモヴァ)や赤の他人でマムラカットとは献血の車で会っただけの男性・アリク(メラーブ・ニニッゼ)など、彼女によくしてくれる人もいたが、マムラカットの夫となったアリクはマムラカットの父・サファールとともに突然空から降ってきた“牛”の下敷きになって死んでしまう。


人を食ったような展開だけど、これだってたとえば空爆だとかテロなどの犠牲になった、と解釈すれば、なんとなくそこに込められた寓意を受け取ることはできる。

マムラカットの赤ちゃんの父親だった操縦士(ニコライ・フォーメンコ)は、自分たちは劇団だと言っているけれど、実際には飛行機で舞い降りる村々で略奪を繰り返している。牛を落としてマムラカットの父やアリクを殺したのも、これだってたとえばロシアのような国への当てつけにしか思えませんよね。

まぁ、特定の国を皮肉ってるわけじゃないかもしれませんが、タジキスタンは長らくロシアに支配されてきたんだし、マムラカットという名前の意味を思えば、彼女の存在にこれまでの歴史で蹂躙されてきた国そのものを象徴させているのは明らかだろう。

おそらく、マムラカットはあの操縦士にレイプされたわけで、それをあのようになんとなく曖昧に描いたんだろう。

だからか、赤ちゃんの父親が誰なのか判明するとマムラカットは銃で彼を殺そうとするし、あの操縦士に対しては最後まで心を許すこともなく、彼が恐怖のあまり植物状態になっても「こんな父親はいらない」と言う。

そして、いつも飛行機の真似をしていた兄・ナスレディンによって、彼女は家の屋根ごと空を飛んで雲の向こうへ消えていく。

彼女を受け入れず、手を差し伸べもせずにヒドい仕打ちをした村人たちを置いて。


人は時に飛び立たなければならないこともある。

僕は今後、チュルパン・ハマートヴァさんが出演する映画を観られるだろうか。

彼女のこれからのさらなる活躍を応援しています。


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