映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

※2019年の“はてなダイアリー”終了に伴い、2018年9月にブログを移行しました。

『パルプ・フィクション』


クエンティン・タランティーノ監督、ジョン・トラヴォルタサミュエル・L・ジャクソンユマ・サーマンブルース・ウィリス出演の『パルプ・フィクション』。1994年作品。

第47回カンヌ国際映画祭パルム・ドール賞、第67回アカデミー賞脚本賞受賞。

タランティーノの劇場映画第2作目。

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【パルプ】:質の悪い紙に印刷された扇情的な内容の出版物。


劇場ではじめて観たタランティーノ作品。

あまりに面白かったんで1日に何度も繰り返し観た(当時はまだ入替制じゃなかったので、おなじスクリーンで何度観てもオッケーでした)。

上映時間が154分という長さなので、映画館出たら頭がクラクラしたけど。

あの頃は、オープニングの曲“Misirlou”がそこいらで流れてたっけ。

DICK DALE & his DEL TONES - Misirlou
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その後、リュック・ベッソン製作の「TAXi」シリーズのテーマ曲に使われてたけど、なんだか『パルプ〜』の人気に便乗してるみたいな感じがして観る気が失せた。


それにしても、ひさしぶりにこの映画を観て感じたのは、ほんっとに内容がないなぁ、ということだった。

どういうことなのか、あとで説明しますが。

以下、ネタバレあり。

  • マーセルスから八百長試合で負けるように命じられたボクサーのブッチ(ブルース・ウィリス)は、自分に金を賭けて相手を倒す。恋人のファビアン(マリア・デ・メディロス)と逃げる手はずだったが、曽祖父から代々受け継がれてきた大切な金時計をアパートに忘れてきたことに気づく。
  • 裏切り者を始末したジュールスとヴィンセントは、生き残った一人を連れて帰る途中で誤って殺してしまう。あわててジュールスの友人ジミー(クエンティン・タランティーノ)の家に向かい、“掃除屋”のウルフ(ハーヴェイ・カイテル)の指示で後始末をすることに。
  • 後始末がようやく済んでジュールスとヴィンセントは朝食にファミレスに寄るが、そこにいたパンプキン(ティム・ロス)とハニー・バニー(アマンダ・プラマー)の二人組がピストル強盗をはたらき、ジュールスたちのもっていたケースを奪おうとする。


以上のストーリーが章立てになっていて、時系列を微妙に前後させて描かれる。

僕はこの映画を目にするまでこういうタイプの映画をあまり観たことがなかったので(映画のなかでおなじ時間の出来事が視点を替えて描かれるタランティーノの第1作目『レザボア・ドッグス』はその後ヴィデオで観た)、「なんて面白いんだろう」と感激したことをおぼえています。

その後、似たような感じで時系列をシャッフルさせた作品が何本も作られたりしたけど、この映画ほど見事にキマってたものは記憶にない。

もっとも僕が知らなかっただけで、たとえばスタンリー・キューブリックの『現金に体を張れ』のように時系列が前後する作品というのはこれ以前にもあったので、その手法自体は別にタランティーノのオリジナルではない。


さっき「内容がない」と書いたのは、この映画(というか、タランティーノ作品全般にいえることだが)には真剣に考えるようなテーマだの人間ドラマだのといったものは一切なくて、まさに「パルプ・フィクション=安っぽくて低俗な作品」になっているからだ。

ギャングたちがどうなろうと、ボクサーが貞操の危機に陥ろうと、観客であるこちらにはなんの関係もない。だから気軽に観ていられる。


なぜそんな作品が2時間半もあるのかというと、ストーリーを進めていくためにかならずしも必要ではないようなディテールがけっこうな時間を割いて描かれているから。

というより、この映画はほぼそのディテールのみで成り立っているといっていい。

恋人に借りたホンダを降りて自分のアパートまで歩いていくブッチを追う手持ちの移動ショットは、そこをカットしたって話に支障はないはずだ。

それでもタランティーノは、歩くブルース・ウィリスの後ろ姿をしばらく映す。

こういう描写が、この「パルプ・フィクション」の世界にコミックブックのキャラクター以上の存在感をあたえている。


ボスから彼の妻を退屈させないようにお相手を命じられたヴィンセントが、すったもんだの末ミアと別れるまでに映画は1時間近く費やしている。

その間にあった出来事といったら、50年代の有名人のソックリさんたちが給仕やショーをやっているダイナー「ジャック・ラビット・スリム」で食事をして踊り、ヴィンセントのコートのポケットに入っていたヘロインをコカインと間違えたミアがそれを吸引してオーヴァードーズで死にかけることぐらい。

でも誰に対してもふてぶてしい態度だったりヘロインでイイ感じになってるヴィンセントを演じるトラヴォルタのトロ~ンとした眼つき、イヤでも目につくユマ・サーマンのスラリとした体躯と印象的なボブ・ヘアに不敵な顔つき。

それらはじつに魅力的である。

この映画では麻薬がカッコ良く描かれ過ぎている、という批判もあったらしいけど、たしかにとても気持ちよさそうだ。

もっともその後大変な事態になるミアの描写は、ユマ・サーマンの迫真の演技で「とてもリアル」といわれたりもする。


出てくる食い物や飲み物がやけにおいしそう、というのもある。

ハーヴェイ・カイテルが演じるミスター・ウルフのすするコーヒーはじつに旨そうだ。

サミュエル・L・ジャクソン演じるジュールスが食べる「ビッグ・カフナ・バーガー」というのは架空のハンバーガーショップだが、知らないとアメリカにはほんとにそういう店があるのかと思ってしまう。

先ほどの「ジャック・ラビット・スリム」も同様に実際には存在しない。

こんな店があったらいいな、というタランティーノの願望から映画用に作られた店とのこと。

登場人物たちがメシを食ったりダベったり、タバコ吸ったりクスリきめたりする、そのときの俳優たちの仕草、表情、口調、そういったものをじっくりと映し、しかも観客を飽きさせない。

この『パルプ・フィクション』では特にそれが巧くいっているように思う(おなじように長尺で時系列が交錯する『ジャッキー・ブラウン』には、僕はこの映画のような“魅力”を感じなかった)。


この映画で結果的に一番いい思いをするのは、ブルース・ウィリス演じるブッチだろうか。

カノジョのことを「シュガー」だの「レモン・パイ」だの、気持ち悪いことこの上ないが(「ハニー・バニー」とか「パンプキン」などと呼び合うティム・ロスたちもそうだが、なんとなくタランティーノって恋人と普段こんな感じなんだろうか、と思ってしまう)、彼はじつはこの映画のなかで3人殺している。

1人はボクシングの相手選手、そしてもう1人は網に獲物がかかるのを待っていた男色店主。もう1人は…。

まぁ、殺されても仕方ない奴らがほとんどではあるが、これだけ殺しておいて彼は鼻歌交じりに「いいぞ、ブッチ」とほくそ笑むのだ。


一方、主役級のひとりであるヴィンセントは映画の途中で思いがけない理由で退場することになる。

あとの章でまた復活するが。

サミュエル・L・ジャクソン演じるジュールスは、映画で見てる分には面白いんだけど、もし身近にこんな奴がいたらこれはかなり面倒臭い。

ピストルの弾が自分に当たらなかったことを「神の奇跡だ」と言い張って、反論するヴィンセントに「お前はなにもわかってない」と講釈を垂れる。

そして「重要なのは、俺が神の存在を感じたってことだ」とこれまたどーだっていいようなことをさも一大事かのように語る。

すげぇ面倒臭いオッサンである。


ジュールスとヴィンセントのどーでもいいような無駄話には、別にそれ以上の意味はない。

なにしろジュールスがもったいぶって暗唱してみせる「エゼキエル書25章17節」とされる文句は、前半の「復讐がどーたら」という部分はじつは千葉真一主演の『ボディガード牙』(73)のアメリカ公開のときに付けられた序文からの引用で、つまりなにか意味ありげに語ってる内容そのものがデタラメなのだ。

それでも観客は彼らのチンピラ・トークに付き合ってしまう。

ジュールスがパンプキンにカマす説教というかゴタクは、これまた独りよがりな「オレ様節」でしかないのだが、しかしよくよく聞いてみると彼が語る美学とは、つまり「パルプ・フィクション」というこの映画のもつ悪徳への誘惑や安っぽさへの愛だったり、こだわりそのものではないか。

みずからを「悪」と自覚しつつ、それでも「努力はしている」といってティム・ロスをにらみつけるサミュエル・L・ジャクソンの言葉にはヘンな説得力がある。


ジュールスのあの特徴的な髪型はサミュエル・L・ジャクソンの頭とヅラの大きさが合っていなかったのだが、「面白い」ということで採用になったんだとか。

かようにタランティーノ作品には映画というものをオモチャのようにして遊ぶ楽しさが満ちているし、その後の「キル・ビル」シリーズなどジャンク・ムーヴィーの面白さをあらためて思い出させてくれたものの、正直この『パルプ~』ほどには夢中になることはなかった。

イングロリアス・バスターズ』(感想はこちら)の冒頭や酒場の場面などの緊迫した登場人物たちのやりとりはなかなか見ごたえがあったけれど。


2013年2月25日、第85回アカデミー賞タランティーノは、最新作『ジャンゴ 繋がれざる者』(感想はこちら)でこの『パルプ・フィクション』につづいて2度目の脚本賞を受賞(『イングロリアス・バスターズ』でも助演男優賞にかがやいたクリストフ・ヴァルツが2度目の同賞を受賞)。

さらに『キル・ビル3』の企画もあるそうで、彼の映画がまた「映画を観る」という行為の喜びを呼び覚ましてくれることを願っています。


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