映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

もう一つのブログとともに主に映画の感想を書いています。

『イングロリアス・バスターズ』


※以下は、2009年に書いた感想に一部加筆したものです。


クエンティン・タランティーノ監督、ブラッド・ピットクリストフ・ヴァルツメラニー・ロランダイアン・クルーガー、ドゥニ・メノーシェ、ミヒャエル・ファスベンダー出演の『イングロリアス・バスターズ』。
R15+

第82回アカデミー賞助演男優賞クリストフ・ヴァルツ)受賞。

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ナチスに家族を殺された女性ショシャナ(メラニー・ロラン)と「イングロリアス・バスターズ」と呼ばれるアメリカの特殊部隊(ブラッド・ピットほか)やヒトラー暗殺を企てる連合国側のスパイ(ミヒャエル・ファスベンダーほか)たち、それぞれが計画を進めていくうちにやがて一堂に会することになる。


悪ふざけが過ぎる、といつも批判されるタランティーノのブラックなユーモアと戦争のバカバカしさへの皮肉が奇跡的に融合した作品。

観終わってよくわかったのは、ナチはウザい、ってことだった。観た人は同意してくれると思うけど。

結論からいうと、好きですこの映画。タランティーノの作品では『パルプ・フィクション』(感想はこちら)の次ぐらいに。


映画館で僕の右隣の席に座ったのは、杖をついた品の良さそうなおばあさんだった。若い女性が付き添っている。

家族なのか介護の人なのかわからないけど、オイオイ、正気か?と思った。ちゃんと選んであげてよ作品を。

いや、別におばあちゃんがタラちゃんの映画観たって文句いう筋合いはないんだけど。

でも、もしもブラピが出てるからとか(でもこの人が出てる映画で誰もが愉しめるような作品ってあまりない気がするんだが)、あるいは真面目な反戦映画みたいなのを想像して観に来たんだったら…と、上映前に連れの若い女性と楽しげに会話してるおばあちゃんが気の毒になってきた。

途中、ショックでぶっ倒れたり怒りだしたりしないだろうか。

余計なサスペンスを抱えてしまった^_^;

左隣に座った別のお姉さんは、さっそく靴脱いでシートの上で膝を抱えている。きっと普段家ではソファやベッドの上とかでそうやってTVやDVD観てるんだろな。う~ん、フリーダム。なんか家族で映画観てるような気分に。

以下、ネタバレあり。


タランティーノといえば「暴力の描き方が不真面目」みたいに言われることもあるし、その指摘は間違ってはいないと思うけど、それのどこが悪い?とも思う。

たしかに『キル・ビル』のヴァイオレンスはマンガだけど、この『イングロリアス~』はもうちょっと巧妙。

この人の映画では、暴力そのものよりもそれが行使される直前の役者の芝居が見どころ。俳優としてはやりがいがあると思う。


今回は舞台が第二次世界大戦末期、ドイツ占領下のフランス。

米英仏独の実力派俳優たちが繰り広げる腹の探り合いは見応え十分で、延々会話が続く場面や細かい仕草ひとつひとつに見入ってしまう。

前作『デス・プルーフ』ではいつ終わるとも知れないガールズ・トークに少々疲れもしたけど、今回は命のやり取りに関わる会話だから緊張感が途切れない。


どうも人の感想読むと「居酒屋の場面が長過ぎる」という意見が多いようだけど、あそこは冒頭に述べたようにナチ将校のウザさを実感させる場面なんで、観てて「しつっけぇな、こいつ!」と腹が立ったんならそれは連合国側のスパイたちと気持ちを共有できた証拠なわけで。

ミヒャエル・ファスベンダーの最期のキメ台詞「タマにお別れしろ」がイカしてます。


しかしタイトルの“ナチス・バスターズ”たちは、常にシャクレ顎で『ゴッドファーザー』のマーロン・ブランドの顔マネしてるみたいなブラッド・ピットをはじめ、『ホステル』の映画監督イーライ・ロスが演じるフルスイング軍曹“ユダヤの熊”(芸達者だなぁ)、『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』以来ハリウッド映画でも時折見かけるドイツ人俳優ティル・シュヴァイガーなど、ほとんど「トムとジェリー」の世界から抜け出してきたような(観ればわかる)、ナチスより狂暴な連中なのであった。


英国将軍役のマイク・マイヤーズは胡散臭過ぎてオースティン・パワーズが扮装してるようにしか見えない。

『トロイ』の時はさほど印象に残らなかったダイアン・クルーガーが貫禄を増して登場。やっぱ美人だなぁ。

ドイツの女優さんというと、マレーネ・ディートリッヒのように特徴的な顔立ちだったり退廃的なムードの人を勝手にイメージしてしまうんで(ディートリッヒやレニ・リーフェンシュタールとともに劇中にフリッツ・ラング監督『メトロポリス』(感想はこちら)のマリア役ブリギッテ・ヘルムの名前も出ていた)、この映画でD・クルーガーがドイツ人だと知って、へぇ~、って思った。顔がちょっとジェシカ・ラングっぽいな。

まぁ、ナスターシャ・キンスキーだってドイツ出身だし、ドイツ出身で国際的に活躍してる女優は特別珍しくはないんだけど。そーいえば『ラン・ローラ・ラン』や「ジェイソン・ボーン」シリーズのフランカ・ポテンテもドイツ人だっけ。


そして「国際的」といえば(?)、タラお気に入りのジュリー・ドレフュス。今回もまたオモチャみたいに弄ばれてる。忠実だなぁ。監督と女優のこの不思議な関係。

ただこの人がまだ日本で活動してた頃、一時期リサ・ステッグマイヤーヒロコ・グレースと頭ん中で一緒くたになってて誰が誰やら区別がつかなかった。


どことなくティム・ロスに似てる敵役のランダ大佐(クリストフ・ヴァルツ)の長い長いゴタクは観てて最高にイラつくが、こういうものの考え方や喋り方の人ってどこの世界にも確実に実在するので、ムカつきながらも目が離せない。

しかし、肝心なところでこの人も詰めが甘いのだが。

ブラピ演じるアルド中尉は誰がどう見たって気がふれてるので、いかなる理由があろうとナチとの約束など守るわけがないのは火を見るより明らかなのに。


お話はようするにタランティーノ版『ワルキューレ』。

毎度お馴染み『スターウォーズ ジェダイの復讐(帰還)』での銀河皇帝のデス・スター視察みたいに、総統がプロパガンダ映画のプレミア上映会にやってくるという情報が入って極秘作戦が展開。

人種差別はイカン、とシリアスに正論を吐くんではなくて、そういう奴らは頭の皮剥いじまえ!という単細胞なB級アクション的ノリ。

これは反戦を訴える映画ではないし(観る側がどう受け取るかは自由だが)、下手すりゃ戦争映画ですらない。何度もギャグみたいに出てくる頭の皮剥ぎの場面では、パゾリーニの『ソドムの市』やマカロニウエスタンの『情無用のジャンゴ』を思い出した。


カッパ頭はタラさんも『キル・ビル』でやってるけど、さらに今回は剥いだ頭皮をヅラ飛ばすみたいにポーンって放り投げてた…これとカギ十字マークの場面で、隣の席で観てたおばあちゃんが呆れて引きつったような声で「…すごい」と呟いてました。

ごもっともな反応だと思います。最後のあたりなんか軽く笑ってたし。

いつもの時間の入れ換えも「細かすぎて伝わらないネタ」もなくて『パルプ~』や『キル・ビル』に比べれば格段に映画として観やすい作品なので、あとは例の皮剥ぎなどの残酷描写(R15+程度)や余韻を排したそっけないシーン運びに抵抗がなければ愉しめるんではないかと。


まさに「映画」が重要な小道具として使われてるけど、『ニュー・シネマ・パラダイス』とはその扱いがまるで違う。まぁどっちも燃えるんですが。

紙より燃えやすいって、どんだけ危険なんだ可燃性フィルム。


ヒューマニズムがどうとかいう類いの映画じゃないし、人を食ったようなエンディングにも呆然とさせられる。

でもなんだろう、妙に清々しい気分になって勇気を与えられたような不思議な感じがした。


結局、おばあちゃんは最後までちゃんと観てました。隣の席のお姉さんもおばあちゃんも落ち着いて観てるのに、僕一人が銃声のたびにビクついていた。感想は聴けなかったけど、果たしてどう思ったのか興味深いところではある。


タランティーノが史実をおもいっきり捻じ曲げてまで描いてみせた「ナチス退治とヒトラー暗殺計画」。

差別と偏見、力による暴虐。それらに対する怒りは最新作『ジャンゴ 繋がれざる者』(感想はこちら)に引き継がれる。

タランティーノの快進撃は止まらない。


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