映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

もう一つのブログとともに主に映画の感想を書いています。

『スケアクロウ』


ジェリー・シャッツバーグ監督、ジーン・ハックマンアル・パチーノ、ドロシー・トリスタン(マックスの妹・コーリイ)、アン・ジャッジワース(フレンチー)、ペネロープ・アレン(ライオンの妻・アニー)、アイリーン・ブレナン(ダーリーン)、リチャード・リンチほか出演の『スケアクロウ』。1973年作品。

第26回カンヌ映画祭パルム・ドール(最高賞)、国際カトリック映画事務局賞受賞。

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南カリフォルニアの人里離れた路上で出会った短気な男マックス(ジーン・ハックマン)と陽気な青年フランシス・ライオネル“ライオン”(アル・パチーノ)。6年の刑期を終えて出所したばかりのマックスは洗車店を始めるべくピッツバーグへ、5年間の船乗り生活を終えたライオンは一度も会ったことのない我が子に会うためデトロイトを目指していた。正反対な性格の2人は出会ってすぐに意気投合し、一緒に行動することになる。(映画.comより転載)


「午前十時の映画祭13」で鑑賞。

この作品は、僕は今回まったく初めて観ます。

有名なタイトルは知っていたし、ジーン・ハックマンアル・パチーノが共演しているロードムービー、ということで興味を持ちました。

時代的にはアメリカン・ニュー・シネマの終わり頃の作品、ということや、ジョン・シュレシンジャー監督、ジョン・ヴォイトダスティン・ホフマン出演の『真夜中のカーボーイ』(1969) といろいろカブるところのある映画(って、そちらも僕は観たことありませんが)、という知識だけあった。

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スケアクロウ』のテーマ曲に聴き覚えがあったんだけど、どこで聴いたのかな。

アメリカン・ニュー・シネマ」については知識がないし、何しろ僕はそれらをほとんど観ていないので知ったようなことを言えないのだけれど、それまでの古典的な作劇から外れた物語だったりスタジオのセットを使わずにロケで本物を使って撮影が行なわれたりした映画、という大雑把な理解をしています。

もちろん、実際にはセットが組まれる場合もあっただろうし、物語の描き方だって作品ごとにさまざまだったんでしょうが。

なんとなく、アンハッピーな結末だとか、華やかな作り物の世界じゃなくて現実の厳しさや苦さを見据えた、作家性の強い作品群だったんだろうな、と。

一方では、まだあの時代(って、僕はリアルタイムでは知らないですが)には色濃く残っていた男尊女卑や差別的な価値観というものが無批判に描かれているような印象も強い。

…なんか、ずいぶんとボンヤリした文章になっちゃってますが。

一応、自分が観たことがあってこれまでに感想を描いた作品で、Wikipediaで「代表的なアメリカン・ニュー・シネマ」とされているものを挙げてみたんだけど、これってアメリカン・ニュー・シネマか?ってちょっとピンとこないものもあるなぁ。

『明日に向って撃て!』
『ダーティハリー』
『時計じかけのオレンジ』
『ハロルドとモード 少年は虹を渡る』
『ディア・ハンター』
『地獄の黙示録 ファイナル・カット』


この映画では70年代のリアルなアメリカの田舎町が映し出されていて、別にドラマティックでもなんでもないような描写一つ一つが当時の貴重な記録にもなっている。

たまたま出会った二人の男たち、ジーン・ハックマン演じるマックスとアル・パチーノ演じるライオン(彼の“フランシス”という名は女みたいだから、という理由でマックスがミドルネームの“ライオネル”からそう呼ぶことにする)がやがて意気投合して一緒に洗車の商売を始めようとするが、その前にそれぞれの用事を済ませるために無賃乗車やヒッチハイクで旅を続ける、という話。

途中で二人はデンバーでマックスの妹・コーリイ(ドロシー・トリスタン)の家に立ち寄る。

コーリイは友人のフレンチー(アン・ジャッジワース)と共同で廃品回収業をやっていた。そのわりには彼女たちは力仕事に全然向いてないっぽいんだけど。

フレンチーとマックスはイイ感じになって、さっそくベッドをともにする。

コーリイの家にしばらく滞在する二人だったが、バーでマックスが喧嘩を起こして二人とも警察に捕まる。

送られた更生施設でマックスは「お前のせいだ」とライオンを一方的に責め立てて、彼を無視する。

囚人たちのまとめ役であるジャック(リチャード・リンチ)に気に入られたライオンは楽な娯楽係にされて、逆に反抗的なマックスは豚の世話をさせられる。

しかし、ライオンはジャックに襲われそうになって抵抗し、ボコボコにされてしまう。

友を痛めつけられて激昂したマックスは、仕返しにジャックを叩きのめすのだった。

やがて釈放された二人は、デトロイトのライオンの妻が住む家の前にたどり着く。

しかし、5年間も家を空けて音沙汰もなかったライオンに見切りをつけた妻のアニー(ペネロープ・アレン)は別の男性と再婚していた。

彼女にはライオンとの間に生まれた幼い息子がいたが、アニーは電話口で「流産して子どもは死んだ」と噓をつく。

それを聞いたライオンは、妻や本当は生きていた我が子に再会することなく立ち去る。

やがて、噴水の前でそこにいた見知らぬ子どもたちを相手に芝居がかった余興を見せていたライオンは、突如として乱心、病院に担ぎ込まれる。

「お前がいなきゃダメなんだ」と言うマックスは、一人でピッツバーグに向かおうとする。

いつも自分の靴を枕の下に隠していることを笑われていたマックスだったが、その理由が最後に明らかになる。

ピッツバーグで貯金を下ろしたら、彼は再び病院のライオンのもとへ戻るのだろうか。

──まぁ、こんな感じのお話。

この映画のタイトルである「スケアクロウ(かかし)」とは誰のことか。

マックスは「寒いから」という理由で、いつも何枚もの服を重ね着している。

その姿は「かかし」を思わせもする。

更生施設を出たあとで立ち寄った店で、マックスはまたしても喧嘩をしそうになるが、ライオンがジュークボックスでかけた曲に合わせて1枚ずつ服を脱いでいってストリップの真似事をやる。他の客たちも笑って、その場は丸く収まる。

それは、以前、ライオンが短気なマックスに「人を笑わせればいい」と言ったことの実践だった。ライオンとの出会いでマックスは変わる。ライオンもまた、マックスとの旅路の末に…。

お喋りですぐにおどけるライオンと、むっつりとしていて喧嘩っ早いマックスが、映画の終盤ではそれぞれ逆の状態になる。

「カラスは、かかしを恐れて畑を荒らさないのではなくて、かかしがあまりに無様な格好なので笑って、荒らすのをやめているのだ」というライオンの話を聞いて、マックスは呆れ返る。

でも、あの店で彼がやったストリップダンスは、まさにライオンが語った「かかし」そのものだ。

そして、これまでずっと道化を演じていたはずのライオンは、心の内側にいろいろと溜め込んでいたことがわかる。

だいたい、身重だった妻をほったらかして家を出ていって5年間も放浪(ホーボー。日本語の“方々”が語源)生活を送るとか、どういう神経をしているんだろうか。

流産で子どもが死んだ、と聞かされて錯乱、って…自業自得というか、そもそも彼にはそのことでショックを受ける資格すらないと思うんだが。

アニーが噓を言ったのはとっさのことで深い考えがあってのことではなかったのかもしれないし、それを聞いて驚いて電話を切ってしまった「フランシス」の名を彼女が電話口で呼び続けていたように、彼らにはその後、和解や再会だって可能だったかもしれないのに。アニーが嗚咽を漏らしていたのは、心の底ではまだライオンに未練があったからなのかもしれないのだし。

だから、僕はこの映画を観ていてライオンに同情は全然できなかったし、この辺の浅はかさ、その浅はかで愚かな男を悲劇的に退場させるところなんかがいかにもアメリカン・ニュー・シネマだなぁ、と思いました。

今では「ニュー」ですらないと思うけど。むしろ古臭い。

そもそも、アル・パチーノって明るくてお喋りなイメージがないから、この映画では最初から彼が無理してそのように演技しているようにしか見えないんですよね。

たとえば、これをもしもロビン・ウィリアムズが演じていたら(時代的にはちょっと早いけど)、彼のあの躁病的なお喋りが活かされただろうし、そのあとで彼が抱える問題が浮き彫りになるとそのギャップに観客もより心動かされたんじゃないかと。

フィッシャー・キング』(感想はこちら)なんて、そういう話だったもんね。

いや、パチーノさんは好演してたし、『ゴッドファーザー』のマイケル役とは違う役柄を演じようとしたんだろうから、それはそれで意義深い作品になっていたと思いますよ。

ei-gataro.hatenablog.jp


僕がこの映画に興味を持ったのも、ジーン・ハックマンアル・パチーノという組み合わせに惹かれたからだし。

この映画が公開された前後って、パチーノは有名な作品に出まくってるし、ハックマンもフィルモグラフィを確認すると物凄い売れっ子ぶりで。

僕がアル・パチーノをどの映画で初めて見たのかはもうよく覚えていないんですが、ジーン・ハックマンを知ったのはクリストファー・リーヴ主演の「スーパーマン」シリーズだったんですよね。確か、初めて見たのは『スーパーマンII』(感想はこちら)だったと思う。

だから僕の中ではずっと「個性的な脇役俳優」というイメージだったんだけど、彼は『フレンチ・コネクション』(1971年作品。日本公開72年)や『ポセイドン・アドベンチャー』(1972年作品。日本公開73年)では堂々主役を張っていたんだし、それだけの存在感のある俳優でしたよね(ハックマンは2004年に俳優を引退している)。

スケアクロウ』はハックマンとパチーノの、それぞれ異なるキャラクターのケミストリーこそが見どころなんだし、だから物語の内容自体はなんかしょぼくれた話ではあっても、二人の名優のコンビネーションがしっかりとこの映画を名作たらしめている。

エンタメ系の映画でそれぞれ主役を務められる二人が、これまでの彼らにあったタフガイ刑事や冷酷な若きマフィアのボスなどのイメージとは異なる、生身のそこら辺にいそうな人物をあえて演じる面白さ。


ハックマンがペチャペチャ音を立てて頬張るフライドチキンが旨そうなんだよな(^o^)

なぜか放射線防護服みたいなコスプレをして炎の中で踊るパチーノが可愛い。

アル・パチーノは今ではブチギレ芸が得意のおじいちゃんになってるけど、若い頃は顔がシュッとしてて可愛かったんだよね。リチャード・リンチ演じる男が彼に興味を示すのもわからなくはない(襲ってはダメです^_^;)。

出てくる女性たちが妙にリアリティがあるというか、ライオンの妻・アニー役のペネロープ・アレンなんて下の歯がガタガタで汚れてるし、マックスとねんごろになるフレンチー役のアン・ジャッジワースにしても、あるいは妹のコーリイ役のドロシー・トリスタンだってけっして若い娘ではない。

マックスといがみ合いながらもそのあとで打ち解けてヤッちゃう店の客・ダーリーン役のアイリーン・ブレナン(天を衝くようなおっぱい)も、お世辞にも美人とは言えない。

こういう人いそう、って人ばかり出てくる。そこがいい。

僕が繰り返し観たいのは『フレンチ・コネクション』や「ゴッドファーザー」シリーズのような映画たちだし、だからこの『スケアクロウ』は大好きなタイプの映画ではないですが、それでもたまにこういう現実の世界を切り取ったような、砂埃や突風、いつもどこでも葉巻を吸ってるマックスのような男を描いた映画を観るのも悪くはないものですね。


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