映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

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『わんぱく戦争 デジタルリマスター版』

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イヴ・ロベール監督、アンドレ・トレトン、ミシェル・イセラ、アントワーヌ・ラルチーグ、ジャン=ポール・ケレット、フランソワ・ラルチーグ、クリストフ・ブルセイエ、マリー=キャサリン・ファブレル、ピエール・トラボーほか出演の『わんぱく戦争 デジタルリマスター版』。1962年作品。日本公開1963年。

原作はルイ・ペルゴーの小説「ボタン戦争」。

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ロンジュヴェルヌ村のジビュス兄弟がラズテックが率いるヴェルラン村の少年たちに「フニャチン」と悪口を言われたことをきっかけに、二つの村の少年たちの間で争いが起こり、やがて敵の村の子を捕虜にして服のボタンを奪い合う展開に。 


イヴ・ロベール監督の1990年の作品「プロヴァンス物語」二部作が大好きで、何年か前にリヴァイヴァル上映された時に劇場で観ました。

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そのロベール監督が62年に撮った『わんぱく戦争』と翌年の『わんぱく旋風』は昔BSで観たんだけど、内容はもう覚えてなくて、今回『わんぱく戦争』が公開60周年記念でリヴァイヴァル上映されるということなので観てきました。

いやぁ、さすがデジタルリマスター版とあって、まず画質の良さに感動。

そしてあらためて、あぁ、こういうお話だったんだ、と。

テーマ曲の「わんぱく戦争のマーチ」も、その後いろんなところで使われていておなじみの曲ですね。そっか、この映画のために作曲されたんだ。

この映画で人気が出たという“ジビュス兄弟”の弟の方、「ちびジビュス」が可愛くて、でもその小さくて可愛らしい彼から針でまぶたを縫うだとか、おチンチンを切り落とすだとかいった物騒な言葉が放たれるとなおさら可笑しい。

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彼はしょっちゅう「嫌んなっちゃう、来なきゃよかったよ」とボヤく狂言回しで、実は主人公として描かれるのはロンジュヴェルヌ村の少年たちのリーダー、ルブラック(アンドレ・トレトン)。

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多分そうだろうなぁ、と思っていたけど、この映画に出演している子どもたちはそれまで演技の経験のない子ばかりだったそうで。「プロヴァンス物語」の子どもたちもそうでした。 

アントワーヌ(マルタン)・ラルチーグや兄のフランソワ・ラルチーグなど、その後俳優になった人もいるようだけど、映画出演はこの作品限り、という子どもたちも結構いるのでしょう。

でも、みんな見事な演技なんだよね。ほんとにどうやって演出したんだろう、ととても不思議。

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どうしてこの映画が「PG12」(12歳未満は保護者の助言、指導が必要)なのかというと、これも予想通り劇中で子どもたちが飲酒や喫煙を思いっきりしてるから。

大人が幼い子どもに酒注いで飲ませてる。60年前はそういう時代だったんですね。

男の子は下品で暴力的で、裁縫は全部女の子の役目。

ハムのCMでも「わんぱくでもいい、たくましく育ってほしい」と言ってたもんな。「わんぱく」の名の下に、数々の問題行動が許されていた。

父親が大声で怒鳴って息子に暴力を振るう。それで親がとがめられることはない。

教師は学校で子どもたちに当たり前のように切手のシートを売らせてるし、ルブラックは軽々と馬に乗り、ライヴァルのラズテックは父親のトラクターを運転する。

子どもたちは平気で毒蛇を手掴みするし、野生の狐を追いつめて殺す。

自分たちで金を稼ぎ、“基地”を建てる。

たくましくて野蛮。おおらかといえばそうなのかもしれないが、親たちの教育の仕方はルブラックやラズテックの父親たちを見ればわかるように実に大雑把で、聞き分けがない子どもは寄宿舎に送られる。

もともとの原作では舞台になっている時代は第一次大戦前のようだけど、この映画では電動のノコギリも使ってるし、「第一次大戦で祖父が使った手榴弾」が出てくることからも映画が作られた1960年代当時に時代が変えられているんだろうか。

それでもどこの家にもテレビなんて置いてないようだし(僕は気づかなかったけど、ラズテックの家にはテレビが置いてあったらしい)、父親が薪を割ってたりして一体いつの時代なのかよくわからないんですよね。都会ではないからなおさら。

この映画の中の子どもたちの普段の言動や彼らの「戦争」は、牧歌的というよりも大人たちのカリカチュアとして描かれている。

ロンジュヴェルヌ村の父親たちは、ヴェルラン村の村人の男性たちと言い争いを始めて手榴弾まで爆発させながら、そのあとは一緒になってワインを飲んで酔っ払いご機嫌で肩を組んで歌を唄いながら帰ってくる。いなくなった少年を捜しにいっていたのに、そんなことも忘れて。

子どもたちはそういう大人たちを見て真似ているんだよね。

喧嘩も戦争も、女性に対する偉そうな態度も全部大人たちが子どもたちの悪い手本になっている。

だから、ただ子どもたちの狼藉を笑って観ていることはできなくて(もちろんユーモラスに描かれているから微笑ましい場面も多いが)、ルブラックたちが彼らを裏切ったバカイエに拷問を加える場面と、そのあとで傷だらけのバカイエが泣きながら家に帰ってくる様子にはもはや「子どもだから」などとは言っていられなくなる。

この子どもたちの暴走、暴力が限度を超えてしまう怖さは妙にリアルだ。

でも、これだって大人たちが本当の戦争でやってることなんだよね。

バカイエやラズテックの父親たちを見ていると、あの子どもたちもやがてはこの父親たちのようになっていくのだろうか、となんとなく残念な気持ちに。

いや、あの父親たちだって気のいいところや優しいところだってあるのだろう。

彼らがただ単に暴力的で無教養な存在としてだけ描かれているわけではないことはわかる。ラズテックの父親はちびジビュスには優しかったし。

それでも、何か「昭和の大人」を見ているようなジェネレーションギャップがあった。

ああいう時代に僕は生まれなくてよかったと思う。あの時代に憧れもしない。

ただ、映画の中で映し出される「やんちゃ」な子どもたちの姿に、痛快さを感じていたのも確かで。もうこんな作品は今では作れないでしょうが。

バカイエへの度を越した暴力のせいで寄宿舎に入れられることを恐れて森に逃げたルブラックを村人たちが総出で捜しまわり、学校の先生とちびジビュスら子どもたちの前で彼が登っていた大木が切り倒されてようやく見つかる。

あれほど嫌っていた寄宿舎に入れられることになったルブラックに先生が「すぐに出られるように手を打ってやる」と約束する。

両親への伝言を尋ねられて「父さんに来てほしかった」と答えるルブラック。

あんな父親でもやっぱり息子は求めている。

しんみりしていたルブラックだったが、なんと父親のトラクターを壊してしまったラズテックも同じく寄宿舎に入れられることになり、二人は部屋で鉢合わせする。

今度は寄宿舎で戦争か、と思って観ていると、彼らは抱き合って再会を喜ぶ。

良きライヴァルにして親友。彼らにとって喧嘩とか「戦争」は、じゃれ合いのようなものなのだ。まぁ、この程度の「わんぱく」ならのどかなものだな。

「大人たちってバカだよな」と笑う彼らは、世界に楯突く反逆児だ。

これは共同体についての物語だ、と劇場パンフレットの中で現在のフランソワ・ラルチーグ(兄ジビュス役)が語っているけれど、その通りだよね。

60年前の映画がどこかで今と繋がる。本当に面白いなぁ、と思いますね。

先ほど述べたように、この映画では舞台となる時代が原作から変えられているのだけれど、原作では19世紀の終わり頃か20世紀の初め頃が舞台のようだから、「戦争ごっこ」に興じていたあの村の子どもたちの多くはやがて第一次大戦に従軍しているんですね。そして帰ってこない者もたくさんいた(原作者のルイ・ペルゴーも原作小説を出版した3年後に戦地で亡くなっている)。

それを知ると、一見のどかな少年たちの「戦争ごっこ」がふいに悲劇性を帯びてくる。

プロヴァンス物語」でも、戦争について最後に少しだけ語られていた。

映画『わんぱく戦争』は原作小説が書かれた50年後に作られたんだけど、それからさらに長い年月が経った。

幸い、三度目の世界大戦は起こっていないが、今、コロナ禍の中で子どもたちは『わんぱく戦争』の少年たちのように大勢で集まって遊ぶことも困難になっている。

僕が『わんぱく戦争』を観て抱く感傷は、そこに刻み込まれた失われてしまった生活と風景から来ているのかもしれない。


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