映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

もう一つのブログとともに主に映画の感想を書いています。

『大統領の陰謀』


アラン・J・パクラ監督、ロバート・レッドフォードダスティン・ホフマンジェイソン・ロバーズジャック・ウォーデンマーティン・バルサムジェーン・アレクサンダーリンゼイ・クローズハル・ホルブルック出演の『大統領の陰謀』。1976年作品。

第49回アカデミー賞助演男優賞(ジェイソン・ロバーズ)、脚色賞、録音賞、美術賞受賞。

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1972年。ウォーターゲート・ビルへの不法侵入で逮捕された男たちの所持品や肩書き、誰が呼んだのか共和党系の弁護士が裁判の傍聴席にいたことなどを不審に思ったワシントン・ポスト紙の記者ボブ・ウッドワードロバート・レッドフォード)は、同じく社会部記者のカール・バーンスタインダスティン・ホフマン)とともに関係者への取材を始める。しかし、ホワイトハウスに貸し出された資料について議会図書館の司書が最初は認めていたことをその5秒後に覆したり、取材した相手が怯えた様子で頑なに証言を拒んだりする姿に二人は何者かによる強い圧力の存在を感じるのだった。


スピルバーグ監督の『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』(感想はこちら)との繋がりでしょうか、BSプレミアムで放映されていたので視聴。

劇場で鑑賞した『ペンタゴン・ペーパーズ』は地味な映像の続く作品ながら現在の日本の状況とも重なるなかなか見応えのある映画でしたが、その時点ではこの『大統領の陰謀』は未見だったので今回観られてピースがさらにハマった感じです。

ペンタゴン・ペーパーズ』のラストは、まさに『大統領の陰謀』の冒頭のウォーターゲート・ビルでの描写を模していた。

時系列的には『大統領の陰謀』は『ペンタゴン・ペーパーズ』のあとの話で、どちらから先に観ても大丈夫だと思いますが、結果的には僕は先に『ペンタゴン〜』を観ておいてよかったですね(字幕では出ないが、『大統領の~』の劇中の台詞の中にもペンタゴン・ペーパーズについての言及がある)。

主人公たちは『ペンタゴン〜』同様にワシントン・ポスト紙の記者で、あちらではトム・ハンクスが演じていた編集主幹のベン・ブラッドリーをこちらではジェイソン・ロバーズが演じている。


ブラッドリーの両足を机の上に乗せる格好はトム・ハンクスが『ペンタゴン・ペーパーズ』で真似てました。


僕はジェイソン・ロバーズってセルジオ・レオーネサム・ペキンパーの西部劇などで髭を生やしたキャラクターとしてしか見たことがなかったので(ポール・トーマス・アンダーソンの『マグノリア』にも出ていたが)、76年の時点ですでに白髪のお爺ちゃんだったんだなぁ、とあらためて思いました(でも当時の彼はまだ50代半ばなのだが)。

劇中でブラッドリーが付き合いのある「ウォーターゲート事件」の関係者らしき人物から電話口で言われたという「俺のことを記事にしたら、お前のところの社主のグラハムのおっぱいを絞ってやる」という罵声に、メリル・ストリープがおっぱいを絞られている姿が頭に浮かんで*1ちょっと笑ってしまった。しかも「揉む」んじゃなくて「絞る」んかい、と^_^; 牛呼ばわりか。

そのあとのブラッドリーの「“おっぱい”の箇所は記事から削る。家族で読む新聞だからな」という台詞も可笑しい。

ジェイソン・ロバーズはこの映画の演技でオスカーの助演男優賞を獲っている。

ウッドワードとバーンスタインを演じるレッドフォードとホフマンが若くて、記者としてまだ経験が浅くブラッドリーから尻を叩かれながらも二人とも内に熱さをたたえていて頼もしい。


彼らの粘りが、最初は誰も注目しておらず、同じ新聞社の身内の者でさえも半信半疑だった大統領と政府の陰謀を暴いていく。

小柄なダスティン・ホフマンの襟まで伸ばした髪形が80年代のジャッキー・チェンみたい。

オフィスでもどこででもひっきりなしに煙草を吸っていて(エレヴェーター内でも吸う)、時代の雰囲気がよく伝わってくるし、あの煙草のくだりは『ペンタゴン・ペーパーズ』でも再現してましたね。

ペンタゴン〜』にも登場していたニューヨーク・タイムズ紙のことをワシントン・ポストの人間たちがやたらとライヴァル視してるのが面白い。

この映画のあとにマーヴェルのアメコミヒーロー映画『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(感想はこちら)を観ると、“ウォーターゲート事件”や“ロバート・レッドフォード”などでニヤリとできます。

しかしこの映画はほんとに画ヅラが地味なうえに登場人物たちが会話してる場面が延々続くために睡魔との戦いで、途中で何度もうつらうつらして台詞をいくつも聞き逃して(字幕を読み落として)しまった。

ペンタゴン・ペーパーズ』もたいがい地味な映像が続く作品だったけど、この映画はあれを上回る。

ウォーターゲート事件」というものにそれなりに強い関心を持って観ていないとかなりキツい。いや、関心があってもしんどかったです。最後に逮捕者やニクソン大統領の辞任などについて字幕で説明されるだけなので、映像的なカタルシスもないし。

この映画を観ていて強く感じるのは、つくづく「ウォーターゲート事件」というのはアメリカのイノセンスの終焉というか、アメリカ国民の「正義」や政府への信頼感を破壊した事件だったんだな、ということ。

『ウィンター・ソルジャー』が描いていたのもそういうことだったし。

そして、ここで言及されている大統領をはじめ政府やその関係者たちの行なった犯罪は今の日本のそれにオーヴァーラップするだけでなく、もう私たちの国はあの当時のアメリカよりもさらに深刻な状況なのではないか、という暗澹たる気持ちにさせられる。

劇中で何度も「否定できない否定」という言葉が繰り返される。ハッキリと否定しないがゆえに(嘘をついたことがあとでわかれば偽証罪に問われるから)それは事実なのではないか?ということ。

ところが、今の日本では政府関係者たちは国民の前でハッキリと嘘をついておいて、あとでいとも簡単に正反対のことを言って平然としている。

マスコミや野党に矛盾を指摘、追及されても無視してそのまま政権に居座る者たちが大勢いる。法でも裁かれない。

ペンタゴン・ペーパーズ』は『大統領の陰謀』に敬意を表しながら現在のトランプ政権下のアメリカのマスメディアに向かってスピルバーグが放った「しっかりしろ」という叱咤だったが、同様に、いやそれ以上に日本のマスメディアは『大統領の陰謀』で描かれた新聞社のように権力からの監視や圧力に立ち向かうべきだろう。真の「国民の敵」は誰なのか、しっかりと報じるべきだ。そして私たち一般市民もそれを支持していかなくては。

“敵の急所を握れば心もなびく”。

この『大統領の陰謀』には「ディープ・スロート」と呼ばれる政府に近い筋の情報提供者が登場してもったいぶって時にウッドワードに説教じみたことも言うが、ハル・ホルブルックが不気味に演じるディープ・スロートの姿にはオリヴァー・ストーン監督の『JFK』でドナルド・サザーランドが演じた「自称・X大佐」をちょっと思い出した。

2005年には本人による公表やウッドワードの証言などによってディープ・スロートの正体が判明している。

真実はやがて人々の知るところになる。

大統領の陰謀』が作られたのはウォーターゲート事件のわずか四年後(ニクソンの辞任から二年)。原題の“All the President's Men”とは映画にもなった『オール・ザ・キングスメン』のもじり。

自らの権力を揺るぎないものにするためにライヴァルや批判者たちを貶めようと画策した者は、おのれの臆病さと卑劣さによって自滅していく。

それは確かな観察眼と判断力、根気と勇気を持った者たちによって始められた戦いのおかげだった。

僕たちは国民を欺き人権を踏みにじる為政者たちと、この映画の若き記者たちのように戦えるだろうか。それとも統治者の監視と圧力に怯えながら何も知らないふりをして生きていくのか。

すべては僕たち自身の選択にかかっている。


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*1:ペンタゴン・ペーパーズ』でストリープはワシントン・ポストの社主キャサリン・グラハムを演じている。