映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

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『デューン/砂の惑星』<4Kリマスター版>


デヴィッド・リンチ監督、カイル・マクラクランユルゲン・プロホノフフランチェスカ・アニス、パトリック・スチュワート、エヴェレット・マッギル、ショーン・ヤング、シアン・フィリップス、スティング、フレディ・ジョーンズ、ポール・L・スミス、ディーン・ストックウェル、ケネス・マクミランブラッド・ドゥーリフアリシア・ウィットリンダ・ハント、リチャード・ジョーダン、マックス・フォン・シドー、ジャック・ナンス、シルヴァーナ・マンガーノヴァージニア・マドセンホセ・フェラーほか出演の『デューン/砂の惑星<4Kリマスター版>1984年作品。日本公開1985年。

原作はフランク・ハーバート

テアトル・クラシックス ACT.4にて。

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それにしても、「テアトル・クラシックス」ってACT.1がジュディ・ガーランドの映画で、ACT.2はポール・ニューマンの映画、そんでACT.3がなぜかデヴィッド・クローネンバーグの『ビデオドローム』(感想はこちら)でその次が別のデヴィッドの『デューン/砂の惑星』って、ラインナップに全然統一感ないな(;^_^A どういう基準で選んでるんだろ。いや、あえてこの作品選んでくれてありがたいけど。

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西暦10191 年。砂に覆われ、巨大な虫が支配する“デューン”と呼ばれる荒涼の惑星・アラキス。皇帝シャダム4世の従弟にあたるアトレイデス公爵の息子・ポールを中心に、宇宙を支配する力を持つ「メランジ」と呼ばれるスパイスを巡る、壮大なドラマが幕を開ける。(公式サイトより引用)


いつ頃だったか、この映画が日本では39年ぶりにリヴァイヴァル上映されると知ってめちゃくちゃ楽しみにしていました。この夏絶対に観たい1本だった。

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督による2021年の『DUNE/デューン 砂の惑星』公開時にリンチ版の再公開を期待していたんだけど、その時にはなくて、今年2024年に続篇『デューン 砂の惑星 PART2』が公開されて、ようやく、といった感じ。

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デューン 砂の惑星 PART2』はちょうどリンチ版のラストと同じあたりまで描かれるので、それまで待ってたのかな。

また、デヴィッド・リンチ版は制作から今年でちょうど40年目だから、その記念で、ということもあるんでしょう。

以前感想を書いているので、実のところそれ以上特に記すこともないんだけれど、2000年代の初め頃に80年代当時に映画館でかけられていたとおぼしき古ぼけて傷や汚れだらけのプリントで新宿歌舞伎町の劇場で観て以来だし、もちろんデジタルの4Kリマスター版で観るのはこれが初めてだから、ともかく何はともあれ感激でしたね。

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平日に観にいったんだけど、お盆期間中ということもあってかお客さんは結構入ってました。見事なまでに若者がいないのは予想通りだったけど、思っていた以上に年配の人が多くてちょっと驚いた。どんな映画かわかって観にきてたんだろうか。まぁ、あの当時若者だった人たちも今では白髪の初老だろうから、デヴィッド・リンチの「砂の惑星」というタイトルに反応する人はある一定の世代以上の年齢層ってこと。

この作品は残念ながら世間では評価が芳しくなくて、4Kで再上映されているにもかかわらず、映画紹介サイトなどでの平均的な評価は相変わらずかなり低め。

久しぶりに観て、確かにそれもしかたがないなぁ、とは思いましたが。

ヴィルヌーヴ版が、主人公ポール(ティモシー・シャラメ)を中心に一応丁寧に作品世界の“歴史”を追いつつ、第2部では惑星アラキスの先住民フレメンの娘チャニ(ゼンデイヤ)との関係もしっかりと描きながら正続篇合わせて5時間かけて紡いでいた物語を半分の時間で描こうとしているわけだから、そりゃもう、試験前に歴史の教科書を走り読みするような勢いでお話が進んでいく。

リチャード・ジョーダン演じるダンカンもあっという間に殺されちゃうし、マックス・フォン・シドー演じるカインズ博士も同様。マックス・フォン・シドーさんは同じくディノ・デ・ラウレンティスがプロデュースした『フラッシュ・ゴードン』ではミン皇帝を演じてました。

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ポールとチャニは出会ってすぐに「ふたりの愛が燃える」(笑)


デヴィッド・リンチが最初に編集したヴァージョンは4時間あった、みたいに言われるけれど、ヴィルヌーヴ版観ちゃったあとだと4時間でも足りなさそう。

それこそ「ツイン・ピークス」みたいに連続ドラマでやったらいい題材なんだけど、そうすると制作費のこととかいろいろ課題があるんだろうなぁ。2000年代に作られたTVドラマ版も、物語的には見応えあったけど映像のクオリティについて「残念」という評価を受けているし、難しいですね。だからこそ長年「映像化は不可能」と言われてきたんだろうし。

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ただヴィルヌーヴ版の感想にも書いたけど、登場人物は多いものの本筋はそんな複雑な話でもないので、だから長ければいいかというとそういうわけでもない気はする。

それでも、ヴィルヌーヴ版のあのテンポを知ったあとであらためてリンチ版を観ると、さすがに駆け足というか全力疾走してる感は否めなくて、困ったことに観終わったあとヴィルヌーヴ版のPART1とPART2が観たくてしょうがなくなってしまった。

で、きっとそのあとにはまたリンチ版を観たくなる無限ループにハマるんだよな^_^;

あちらのヴァージョンではああ描かれていたのが、こちらではこういうふうに処理されている、といった違いを楽しめるんですよね。

4Kリマスターと言いつつも、鮮明、というほどクリアでもなかったけど、それでも劇場で公開された当時と同程度の、あるいはそれ以上の画質で映画館で観られたのは本当に嬉しい。

TOTOブライアン・イーノによる音楽もしっかり聴けたし。

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は、70年代にアレハンドロ・ホドロフスキー監督がやろうとして果たせなかった、そして80年代にリンチが挑戦したものの、やはり技術的な限界や長尺な物語をどう「映画」という形に落とし込むか、というノウハウがまだ確立されていなかった時代だったがゆえに苦戦を強いられて惨敗していった歴史を経て、ついに観客がその映像に物足りなさやショボさを感じずに済むところまで到達した、ということでは彼が成し遂げたことは偉大だと思います。

ヴィルヌーヴ版の物語がこうして一つ区切りを迎えたことで、デヴィッド・リンチ監督による本作品は面白さが増したことは間違いないから。なので、ヴィルヌーヴ版がお好きなかたにはぜひこちらもご覧いただきたいんですよね。いやまぁ、不満を持たれるかたが多いだろうことはわかってますが。

これまでに織田信長やナポレオンをさまざまなクリエイターたちがそれぞれの視点で映画化してきたように、「砂の惑星」という題材を才能ある映画監督たちが独自の美学も効かせて描いた作品には、忘れ去ってしまうのはもったいない魅力がある。

そして、このデヴィッド・リンチによる『デューン/砂の惑星』には80年代のSFファンタジー系映画の香りが濃厚に漂っているんですよね。

必ずしも傑作とか名作と言うわけではない(むしろ「つまらない」と言われてしまいがち)けれど、ちょっとがっかりなところも含めてなんとも言えない愛おしさを感じる。

僕自身が過ごした少年時代のノスタルジーもあるけれど、デジタルやCG以前の時代の作品だから、というのは確実にある。映像に「手作り感」があるから。


ミニチュア特撮がいいなぁ(^o^)

ヴィルヌーヴ版を観ちゃうと、それと比べて視覚効果の面では実際かなり苦しい部分があるんだけど、その「至らなさ」も憎めない。


ナヴィゲイター(航宙士)の造形とか、あれが宙に浮いて「空間を折り曲げて」宇宙船をワープさせる場面の映像の珍妙さとか、癖になるんですよ。


映像的には見るべきところがありつつも、以前の感想にも書いたようにやはりストーリー面でいろいろ引っかかるところはある。

今回映画館でじっくり観て、ヘレン・モヒアム教母の言う「女には到達できぬ境地があるのです」という台詞がとても気になった。

ポールの母ジェシカがもといた、教母が束ねる道女たちの組織“ベネ・ゲセリット”は超人「クウィザッツ・ハデラック」を生み出そうと画策するが、アラキスの砂虫<サンドワーム>の吐き出した「命の水」を飲むという、これまで男では誰も耐えることができなかった試練に打ち勝ってポールが銀河の救世主となるこの物語を通して、原作者のフランク・ハーバートは一体何を描こうとしたのか。

TVドラマ版でも続きが描かれたように、皇帝となったポールのその後はけっして穏やかなものではなかったし、もともと原作が『アラビアのロレンス』(ホセ・フェラーも出ていた)をもとにしているんだから、主人公が救世主になってめでたしめでたし、みたいな話なわけがないんですよね。

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リンチ版『デューン/砂の惑星』では、ラストには雨が降るはずがない惑星アラキスに雨が降って、「奇跡」が起きた、というところで映画は終わる。

そこのところは原作にはない改変なのだそうだけど(すみません、原作小説は読んでいないので)、わかりやすい救世主誕生譚にまとめ上げたために1本の映画としては完結しているんだけど、ある意味非常に安易な結末になっていて、じゃあ、フレメンたちがアラキスの地表を変えるために地下に貯めていた大量の水は意味なくなっちゃうじゃんか、と思うし、「女性が到達できない境地」に選ばれし男性がたどり着く、というお話は何やら性差別的な臭いも濃厚。

そのあたりはヴィルヌーヴ版ではポールが本当にフレメンたちの信じる「救世主」なのかどうか、チャニの表情から疑問を投げかけてはいる。

正直なところ、今回観直して、たとえば香料<スパイス>を現実の世界での“石油”のことだと考えると、「アラキスが宇宙の中心になる」という台詞はひどくきな臭いものに思えてくるし、劇中でここぞという場面で「核兵器」が使われるのも(パトリック・スチュワートが「アトミック!」と号令を出している)、あまりいい気がしない。リンチは「ツイン・ピークス」でも核爆発(トリニティ実験)を描いてますが。

救世主が核兵器使っちゃいかんだろ。

この部分も、ヴィルヌーヴ版では現在の核をめぐる世界情勢や、権力抗争のメタファーのようにして描いていた。

ヴィルヌーヴ版は内容に関してはリンチ版から確実にアップデートされていた。

一方で、これはこじつけだし原作や映画が意図していたかどうかわからないけれど、「目覚めるべき」なのは男なのではないか、というのは、そりゃその通りだよな、と思うんですね。

女性の方が男性に比べて物事の深い部分でいろいろと気づいたり、すでに「目覚めている」人は多いんじゃないか(あくまでも平均的に、ですが。無論、個人差があります)。目覚めるためには新しい挑戦や変化が必要なんだ、とポールの父のレト公爵(ユルゲン・プロホノフ)も語ってるけど、この映画は男たちに向かって「目覚めろ」と言ってるんだ、と思えばなんとなく納得できなくはない(笑) 「女には到達できない境地」ってのがなんなのかちっともわかりませんが。

ユルゲン・プロホノフってウォルフガング・ペーターゼン監督のドイツ映画『U・ボート』の艦長役で有名だけど、ハリウッド映画では悪役で見かけることもあったし、それはフレメンのリーダー、スティルガー役のエヴェレット・マッギルもそう(彼はスティーヴン・セガールの映画で悪役を演じてて、セガールにぶちのめされていた)。


ブルーベルベット』にも出ていたディーン・ストックウェルや『エレファント・マン』(感想はこちら)や『ワイルド・アット・ハート』(感想はこちら)に出ていたフレディ・ジョーンズ、のちにピカード艦長やプロフェッサーXになるパトリック・スチュワート、『アマデウス』にも出演していたのに、初公開版では出番を全部カットされてしまったハルコネン男爵役のケネス・マクミラン

ジェシカ役のフランチェスカ・アニスがほんとに綺麗。

ショーン・ヤングも綺麗なんだけど、いかんせん出番が少な過ぎてもったいない。

昔、友人にこの映画のDVDを貸したら、悪役でスティングが出てたので驚いていたっけ。ご本人はフェイドとは全然違うタイプの人なのにね。僕は音楽のことには疎いけど、『レオン』(感想はこちら)で彼が唄ってた主題歌は好きで今でもたまに聴きます。

主演のカイル・マクラクランは、最近ではピクサーアニメの「インサイド・ヘッド」シリーズで主人公の少女ライリーの気のいいお父さん(サッカー好き)の声を演じてますね。かつて救世主だったのに今ではめっちゃ庶民的w

砂の惑星」は中世ヨーロッパのような家父長制の世界を描いているのだから、どうしたって女性の登場人物たちはその中で男たちに寄り添うような役割をあてがわれがちだし、そうでなければよからぬことを企んでいる、みたいに描かれてしまうんだけど、ヴィルヌーヴ版ではポールの妹のアリアを“フュリオサ”ことアニャ・テイラー=ジョイが演じているというのも、とても興味深い。「砂の惑星」の女性たちも描かれ方が変化していってるようで。

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ちなみに、ヴィルヌーヴ版の『PART2』のラストでポールは皇帝の娘イルーラン姫(フローレンス・ピュー)を自分の妻にしようとするんだけど、実はリンチ版でもそのくだりは撮影されていたのがカットされたんですね。

ポールが皇帝の退位と自分とイルーラン姫(ヴァージニア・マドセン)との政略結婚を要求するのは6:30あたりから
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フェイドとの決闘の前に、ハルコネン側に捕らえられていたメンタット(人間電算機)のハワトがフェイドからナイフを手渡されてポールを殺すよう命じられるが、ポールがあえて背を向けて彼に刺すように命じると、ハワトは自分の胸に取りつけられていた心臓弁を抜いて死ぬ。


劇場公開版だとハワトが途中でいなくなっちゃうんだけど、ほんとは彼の最期も描かれていたんですね。そこは残しておいてもよかったんじゃないかと思うんだけど。テンポが悪くなると判断したんだろうか。

…なんかとりとめがなくなってきてしまったのでそろそろお開きにしようと思いますが、「砂の惑星」ってその後の多くのSFファンタジー映画に影響を与えたように、舞台となる世界や登場人物たちについていろんなアプローチが可能だし、想像力を掻き立ててくれるんですよね。多くのクリエイターが魅了される理由がよくわかる。

そして、映像化されたものがその時代その時代をどこか反映してもいる。

おそらくデヴィッド・リンチが4時間ヴァージョンを完成させることは今後もないと思いますが(実現したら当然観たいが)、こうして形として残った作品の端々にさらに新しい時代の作品を生み出す種(たね)の存在を感じる。

さて、次にこの映画を劇場で観ることができるのはいつだろうか。


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