マイク・ホッジス監督、サム・J・ジョーンズ、メロディ・アンダーソン、オルネラ・ムーティ、ティモシー・ダルトン、トポル、ブライアン・ブレスド、ピーター・ウィンガード、マリアンジェラ・メラート、マックス・フォン・シドーほか出演の『フラッシュ・ゴードン 4K』。1980年作品。
原作はアレックス・レイモンドの同名のコミック・ストリップ(新聞連載漫画)。
音楽はクイーン。プロデューサーはディノ・デ・ラウレンティス。
謎のエネルギー光線によって月が軌道から引き離され、地球に急接近する。その原因が地球外生命体にあると確信した科学者ザーコフ(トポル)は、あと10日で月と地球が衝突すると予言。ザーコフは大惨事を阻止するべく、偶然居合わせた人気アメフト選手フラッシュ・ゴードン(サム・J・ジョーンズ)と旅行業者の女性デイル・アーデン(メロディ・アンダーソン)に銃を突きつけて自作のロケット船に乗り込み、無慈悲な皇帝ミン(マックス・フォン・シドー)が支配する惑星モンゴへ向かう。(映画.comより転載)
『テッド』(感想はこちら)でクマのぬいぐるみのテッドが大好きだった映画が4Kになって帰ってくる!ということで(『テッド』には『フラッシュ・ゴードン』の主演のサム・J・ジョーンズもゲスト出演していた)、これは観なければ、と。
「4K」と謳いつつも僕が観た映画館では2Kコンバートによる上映でしたが、まぁいいや。
3月31日(金) から上映が始まってもうあとわずかで終わってしまいますが、劇場がさながらクイーンのライヴ会場のようなんで、まだご覧になっていないかたは観逃すともったいないですよ。
僕は劇場初公開当時には観ていませんが、ずっとあとになってレンタルヴィデオで観たし、確かTVの地上波でも放送されたんじゃなかっただろうか(おそらく僕が観たのは90年代に放送されたもの)。
正直、80~90年代に観たっていろいろと安っぽいなぁと感じたし、実際、ラジー賞にノミネートもされている。
でも、初公開からもうふた廻り以上も経った今観るとその安っぽさも愛らしいし(昔からそういう楽しまれ方をしていた作品ではあるが)、なんといっても『フラッシュ・ゴードン』といえばクイーンの「フラッシュのテーマ」で、あの曲をついに劇場で聴く機会がくるとは(^o^)
だからオープニングだけ(あと、ラストのフラッシュのジャンプねw)でも見られればオッケーということで。
「フラッシュのテーマ」といえば、1999年に作られた日本のアニメ「THE ビッグ・オー」の主題歌があれのもろパクリ(もちろん“あえて”だが、あまりに似過ぎているために物言いがついて、クイーンのブライアン・メイに曲の権利を持っていかれてしまった。なんでこれで大丈夫だと思ったんだろうな^_^; いや、この曲好きですけどね。現在YouTubeで配信されている同作ではオープニングが別の曲に差し替えられている)だったのも今では楽しい思い出。
もはやパロディにもされてる有名な主題歌を持つ映画(「主題歌だけが偉大」などと揶揄されてもいる)として、カルト映画の1本に数えられてもいる本作品はテッドがファンを公言しているように好事家たちに愛されているようだけど、原作ではどうなのか知りませんが、この映画のフラッシュは有名なアメフト選手で胸に「FLASH」というロゴが入ったTシャツを着ていて、見るからにジョックスの筋肉男。
『ロッキー3』をこよなく愛するテッドが好きになるわけだなw
サム・J・ジョーンズ演じるフラッシュはけっして粗暴ではないしデイルに対しては常に献身的だが、基本的にはあまり考え込まずに即行動の男。
この映画が公開された当時、ちょうどスター・ウォーズの最初のシリーズが進行中だったし、クリストファー・リーヴ主演の『スーパーマン』(感想はこちら)もやはりシリーズ化されて作られ続けていたから、その流行に乗じようということだったんだろうけど、まぁ、なんともユルい出来で、あの頃の映画の作り手たちが“アメコミヒーロー映画”をどのように考えていたのかよくわかる。
ジョージ・ルーカスがフラッシュ・ゴードンの映画化を望んでいたけど映画化権が手に入らなくて、代わりにオリジナルでスター・ウォーズを撮った、というのは有名な話だけど、それで出来上がったのがコレだったという、おあとがよろしいようでw
ハッキリ言って最初から思いっきり「キッチュ」さを狙った感があって、映像はディスコちっくで派手派手でバカバカしい内容でもある。
クイーンによるエレキ版「結婚行進曲」も流れるし(笑)
90年代にこの映画をヴィデオで観た時には、同じくディノ・デ・ラウレンティスがプロデュースした『バーバレラ』も併せて観ました。
あの映画はロジェ・バディム監督が当時彼の妻だったジェーン・フォンダをお人形さんのように映画の中で弄んでみた作品でしたが、1980年に作られた『フラッシュ・ゴードン』は1968年の作品である『バーバレラ』からほとんど中身が進歩していなくて、特にエロティックな描写を入れるところなんかソックリだし、特撮はむしろよりチャチくなっている印象すらある。
また、美術もやたらと金ピカで、衣裳も宇宙船や城のデザインも大げさかつ安っぽい。
大層な予算をかけてるはずなのに、特撮技術も含めてこの安さ爆発感はどうしたことだろう。まるで「とんねるずのみなさんのおかげです。」でやってたコント並みの質感の衣裳やミニチュア。大予算はどこに消えたんだ^_^;
今となっては、そのチャチさ、安っぽさこそが愛されてもいるんですが。
1980年といえば『スター・ウォーズ 帝国の逆襲』(感想はこちら)が公開された年。あの映画との特撮技術の差が凄まじい。
1974年にポルノ版の『フレッシュ・ゴードン』が作られてるけど、特撮はあちらの方が凝っててよくできている。
そういえば、やはりラウレンティスが製作したデヴィッド・リンチ監督の『デューン/砂の惑星』(感想はこちら)も(エロな要素は薄かったし、けっして安っぽくはなかったが)やっぱり金ピカでどこか似たものを感じさせる。
あれらは監督じゃなくてプロデューサーの意向だったんだろうか。
『砂の惑星』では音楽をTOTOが担当していて『フラッシュ・ゴードン』に通じるものがあるし、実際シンセサイザーを使ったその音色はどこか似通ってもいる(『フラッシュ・ゴードン』の方がより80年代センス抜群だが)。
クイーンは「バイシクル・レース」では「スター・ウォーズも好きじゃない」と唄ってたのに、どういう風の吹き回しでしょうかw
主題歌も挿入曲も、クイーンによるノリノリな音楽が最高に気持ちいい。
マックス・フォン・シドーは『砂の惑星』にも出てたけど(そういえば、この人は『スター・ウォーズ エピソード7 フォースの覚醒』にも出てたな)、こういうタイプの映画、好きなんでしょうか。それとも仕事を選ばなかっただけなのか。
まだジェームズ・ボンドになる前のティモシー・ダルトンがロビン・フッドみたいな格好したバリン王子を演じていて、ブライアン・ブレスド演じるホークマンのヴァルタン王子は背中に羽が生えてて鎧を着ている。
他にも『シャイニング』(感想はこちら)などキューブリック作品の常連だったフィリップ・ストーンや『レイダース/失われたアーク』(感想はこちら)でカタンガ船長役だったジョージ・ハリスなども脇役で出ていた。*1
奇抜なコスチュームのアメコミヒーローが出てくる映画が当たり前に作られるようになった今でこそそのバカバカしさはかなり緩和されてるけど、80年代当時は真面目に観る映画ではなかったし、この映画に関してはそれは今でも変わらない(笑)
全体的にアホっぽい映画ですが、でも1930~40年代に作られた連続物の短篇映画(バスター・クラブ主演)を観ると、この80年版は意外とお話もヴィジュアルもあちらに忠実なんですよね。ところどころオマージュもある。もちろん、あっちは大真面目に作られているんですが。特撮技術が戦前からほとんど進歩していないw
80年版はもうあからさまにエロが増していて、皇帝ミンの娘オーラ(オルネラ・ムーティ)は必要以上に露出度が高い服を着ているし、奴隷の女性たちも同様。オーラの拷問シーンもある。まぁ、すでに『フレッシュ・ゴードン』でそういうのやってるから、本家であるはずの大作映画で同じようなことやってるんですね。なかなか破壊的w
現在のようにDCやマーヴェルのコミックヒーローの実写化映画がわんさか作られて市民権を得るようになるずっと以前の作品だから、原作コミックへの敬意とか微塵もない。
所詮は漫画映画だから幼稚でいいんだ、という発想。
でも、そういう感覚ってむしろ現在はちょっと必要かも、とも思うんですよね。
今はオタクの監督がこういう映画を大威張りで作ってるからやたらと理屈っぽくやろうとするんだけど、クリストファー・リーヴ版スーパーマンやマイケル・キートン版バットマンにはまだあった「漫画映画の実写版を“あえて”やっている」という恥じらいというか、奥ゆかしさ、どこかにまだ「いい大人がこんなことやってる」うしろめたさ感みたいなものがちょっと懐かしくもある。
この映画を観ると思い出すのが2012年に公開されたディズニー映画『ジョン・カーター』(監督:アンドリュー・スタントン 主演:テイラー・キッチュ)なんですが、スペースオペラの元祖みたいなエドガー・ライス・バローズのSF小説「火星のプリンセス」を実写化したあの映画は「『フラッシュ・ゴードン』を今再映画化したら」というような意識で真剣に作られたんだけど、残念ながらディズニーが期待したほどヒットしなくて今では半ばその存在自体を忘れられている。
僕はわりと好きだったんですが。
ちょうどマーヴェル映画が大ヒットするようになってきた頃の映画だから(同じ年に『アベンジャーズ』→感想はこちら が公開されている)、うまくいけばスペオペの決定版みたいな作品として記憶されもしただろうに。
個人的にはけっして無謀な試みだったとは思わなくて、2023年の今こそ『フラッシュ・ゴードン』や『ジョン・カーター』のような映画をしっかり現代的にアップデートしたうえでヴィジュアル的には原作コミックに忠実に作ったらいいんじゃないかと思うんだけどなぁ。それが可能なVFXの技術はあるわけだから。
80年代版『フラッシュ・ゴードン』でクイーンのテーマ曲が流れて原作コミックの絵が次々と映し出されるオープニングは感動的だったもの。
そういう意味では逆に80年版『フラッシュ・ゴードン』は今作ることはできない作品(クイーン並みのテーマ曲を作れない限り)で、あのチープさ、空虚さ、ノーテンキさはあの時代だからこそだし、貴重な1本といえるのかもしれない。
全体的に非常に軽薄というか、たとえばヒロインのデイルは出会ってそんなに長くはないフラッシュやザーコフに何かと抱きついて怯えるのに、いざという時には軽い身のこなしで側転してレーザー銃で敵のガードたちを撃ちまくるし、同じようにフラッシュも敵を殺すのに一切躊躇がない。
ミンの配下でどうやらオーラ姫に色目を使ってもいるらしいクライタス将軍なんて、偉そうにしてるわりにはフラッシュにヒョイっと担がれてトゲトゲの上に落とされたら目玉や舌を出してあっけなく死んじゃうし、同様にカーラ将軍もレーザー銃で撃たれて黒い体液を流して『オズの魔法使』(感想はこちら)の悪い魔女みたいに溶けて萎んでしまう。
この映画自体が現代の『オズの魔法使』のような作品なんだよな。
デイルにあっけなく撃ち殺されまくる赤いローブのような制服のガードたちの動きがいちいち鈍臭くて可愛い。
皇帝ミンが持ってる指輪なんてどういう原理で一体どんなことまでできるのか、皆目不明。
人も消せるし天変地異も起こせるし、あんななんでもできちゃう万能な道具を持ってたら無敵なんじゃないかと思うんだけど、宇宙船に乗って城に突っ込んできたフラッシュによってミンは串刺しになってあっちゃり退治される。
最期は自分の姿を消滅させるミン。
だが、ラストでは落ちている指輪を拾うミンの手と彼の笑い声に「THE END?」とクエスチョンマークがついておしまい。素晴らしいC級映画の匂い。
なんか似たようなラストをドルフ・ラングレン主演の『マスターズ/超空の覇者』(1987年作品。日本公開89年)だったか、アルバート・ピュン監督の『キャプテン・アメリカ 帝国の野望』(1992) だったかで観た記憶が。全部レンタルヴィデオで観たんだよなぁ。いずれも見事に続篇は作られませんでしたが。
今、80年代がブームだそうだけど、でも今回この映画のリヴァイヴァル上映を観にきてたのはほとんどがおっさんばっかだから、若者たちの流行とは全然絡めていないですね。
まぁ、脱力系のユルい映画ではあるけれど、でもクイーンの音楽にはやっぱりアガったし、愛すべきポンコツ映画でした。
『フラッシュ・ゴードン』、クイーンの主題歌を劇場で聴けただけで満足。デイルもオーラも良いが、ワシはカーラ派じゃ。ホワット・ドゥー・ユー・ミーン・フラッシュ・ゴードン・アプローチ!
— ei-gataro (@chubow_deppoo) 2023年4月4日
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*1:フィリップ・ストーンは『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』→感想はこちら では英国軍大尉を演じていた。