映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

もう一つのブログとともに主に映画の感想を書いています。

『映画は映画だ』『義兄弟 SECRET REUNION』


現在最新作の『タクシー運転手 約束は海を越えて』(感想はこちら)が公開中のチャン・フン監督の過去作2本の感想。

と言っても、どちらも8~9年ほど前の劇場公開時に観たきりなので内容をよく覚えていなくて、当時書いた感想を引き写したものです。

『タクシー運転手 約束は海を越えて』に感じた“違和感”に通じるものがあるので、記録のつもりでまとめてUPしておきます。


まずはソ・ジソブ、カン・ジファン、ホン・スヒョン、コ・チャンソク出演の『映画は映画だ』から。2008年作品(日本公開2009年)。

原案・製作は、最近女優への性暴行容疑で刑事告訴されたキム・ギドク

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映画のアクションシーンでいつも本気になって共演者に怪我を負わせてしまう問題児の映画俳優と、彼と知り合って映画に出演することになった俳優に憧れるヤクザ。そんな二人の本気の映画撮影が始まる。


暴力沙汰の絶えない俳優とヤクザ、男二人の物語。

映画館内は韓流スター目当てらしきオバチャンたちが混じる不思議な客層。別に可笑しくもないとこ(むしろ悲痛な場面)で笑い声をあげるオバチャンたちにビビりながらの鑑賞。

甘い人生』(スイマセン、他にも韓国映画は何本も観てるけど題名が思い出せない)もそうだったけど、韓国のこの手の映画を観るたびに、かの国の俳優の分厚さを感じる。やっぱガタイいいしイイ顔してるし。「ケンカのやり方知ってます」って説得力もある。


こういうの観ると、北野武も言ってるように、軽々しく映画で「暴力を描いた」などと言ってはいかんよな、とつくづく思う。

この映画の中では、「アクション」と「暴力」をしっかり描き分けてます。アクション場面も充分痛そうだけど。

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ところで韓国には北野武をリスペクトする監督や俳優がけっこういるようだけど、ある部分ではすでに彼らは「北野映画」を超えてるんではないか、と勝手に思ってるんですが、どうでしょう。*1

この『映画は〜』もそうだけど、俳優の演技も見事ながら特に感心するのがその脚本の手堅さ。暴力や女性に対するえげつないシーンは描かれるけど、ただ気分で垂れ流してるんではなくて、シナリオにも映像にも無駄や停滞がない。

まぁ、あんなヒドい目に遭わされながら主人公には妙に寛大な女優さんとか、ワキが甘いにもほどがある社長など、ツッコミどころも皆無じゃないけどたいしたことじゃない。

ヤクザ役のソ・ジソブ、顔に見覚えがあるんだけど何に出てたのか思い出せない。*2

泥んこになりながら延々殴り合いを続けるシーンを観た友人の「『ゼイリブ』を思い出した」というコメントに笑った。


…このわずかな寸評だけでは映画の内容がよくわかりませんが、面白い映画だったということは伝わる^_^;

韓国映画を観るたびにそこで描かれる暴力描写や俳優たちの顔のリアリティに日本映画にはないものを感じてきたんだけれど、一方でイケメン韓流スターの恋愛ドラマなどにはまったく興味がなくて、一時期TVのチャンネルを替えるたびに韓国ドラマがやってることを苦々しく思ったりもしました。

韓国のある分野の映画は面白いと感じるけど、TVドラマは好きじゃない、というところが我ながら不思議なんですが、それは日本の映画とTVドラマにも言えることなので、単に僕は連続TVドラマが好きじゃないということかもしれません。



さて、2本目はソン・ガンホカン・ドンウォン、チョン・グックァン出演の『義兄弟 SECRET REUNION』。2010年作品。

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北朝鮮工作員との銃撃事件で犯人を取り逃がして国家情報員をクビになった男が、6年後に工作員の青年と再会、奇妙な共同生活を始めることになる。


あらすじだけ読むと南北の統一を目指して現在韓国と北朝鮮の間で行なわれている会談や交渉のことが思い浮かんで実にタイムリーにも思えるのだけれど、よく考えるまでもなく南北問題の解決(もちろん、今後も課題は多いのだろうけれど)は朝鮮半島の人々にとってはずっと悲願であったわけで、常に現在進行形の問題だったんですよね。

今、時代が大きく動いているのだなぁ、と実感しますが。

ただし映画の方は、“義兄弟”という題名から想像するような男泣き映画、ではなかった。


ソン・ガンホ主演の映画にハズレなし、というのが僕の持論だったんだけど、ここ最近(※2009~2010年の劇場公開当時)観た韓国映画がどれも粒よりだったせいもあるんだろうか、“残念感”漂う作品でした。

年上だから偉い、という儒教的発想(「目上に対して…」「兄貴と呼んでみろ」など)からか、自分で相手をスカウトしておきながら社長と社員の関係になった途端に態度が横柄になるソン・ガンホはいかにも韓国の兄貴、といった感じでそれはいいんだけど、彼と北朝鮮工作員である青年のバディ・ムーヴィーを狙ったような展開は妙にもったりとしていて、上映時間の116分がずいぶんと長く感じられたのだった。

まず、ソン・ガンホが演じる元国家情報員のキャラクターと行動にいまひとつ一貫性が感じられないんである。

この人には責任感や倫理観があるのかないのか。

相手が北朝鮮工作員と気づいたから同じ部屋に寝泊りさせたんだろうに、あらためて急に警戒しだすくだりなどギャグのつもりだったのかもしれないけど、あまりうまくいっていない。

それはカン・ドンウォン演じる北の工作員の青年ジウォンも同じ。

前半では大勢の男たちを颯爽と撃退しておきながら、ほんとに強いのかそうじゃないのかどうもハッキリしない。なぜ1対1ではソン・ガンホにかなわない?社長だから手加減してるのか?

また、彼が決定的に人を殺める場面がないのはエンディングへの免罪符みたいでスッキリしない。北に残してきた家族のエピソードもとってつけたような感じで。

とにかく、キャラクターたちの心の内と行動とがチグハグな印象を受けるんである。

なんだかユルい殴り合い(『映画は映画だ』の“アクション”と“暴力”の描き分けなど、よかったのになぁ)や変に音楽で盛り上げようとするとことか、ムリヤリ大団円なラストなど、ハリウッドのダメな真似っこ映画みたいな作りだし。

そもそも彼らが何のために人殺しをするのかもよくわからないので、裏切り者の男の「生きたい」という叫びも心に響かず、北の工作員たちの苦悩も伝わってこない。

普通に就職して働いてハンバーガー食ったりしてるのが祖国を裏切ったことになるのだろうか。

ソン・ガンホ北の工作員のことをアカアカ言ってるけど、これもいまいちピンとこなくて。だってあの国は共産主義とか以前の問題で、今さらアカもクソもないでしょうに。

僕が両国の関係やそれぞれの事情に疎いからってのもあるけど、それだけじゃないと思う。パク・チャヌク監督でやはりソン・ガンホ主演の『JSA』は国境での韓国と北朝鮮の兵士の話だったけど、よかったもの。

ようするに、いつも韓国映画に感じていた人間を深く掘り下げた描写も見られず、シナリオの完成度の高さもこの映画からは感じられなかった。

もちろんこの作品より困った映画は他にいっぱいありますよ、邦画にだって。

いきなり例にあげて大変申し訳ないけど、ちょっと前、みんな大好きシーモンキー、『○猿』*3さんの1と2をTVでやるのを知って、それ観て3作目を劇場に観に行こうと思ってたんだけど、どちらも途中でどうしても耐えられなくなってチャンネル替えてしまった。2本ともそうだということは、つまり俺には縁がない映画なんだと解釈した。映画館でじゃないからこれ以上どーこーいえませんが。

好きな人ゴメンナサイね。

ゴメンナサイついでに、これまた映画館やTVで岡田准一が壁歩きしてる予告篇を何度も目にした『S○』*4さんについても、同じように「観たい!」っていう気持ちよりもイラッとすんのはなんでだろう。

そういえば、韓国映画でもVFX満載の『TSUNAMI』は観てないんだよね。*5

これまた予告篇だけで充分、って感じだったので。

邦画や韓国映画が無理してハリウッドの真似しなくていいぞ、と(『ヤ○ト』さん*6も危険なニオイがしますが)。

僕が好きな韓国映画はそういうタイプの作品じゃない、ってことだけはよくわかった。

そんなわけで『義兄弟』に関しては、「娯楽映画」としての面白さと人間ドラマ、どちらの面でも突出するものがなかったので残念、という感想をもったのです。

ガンホ兄貴の跳び蹴りもなかったし。

いや、あいかわらず出演者のみなさんはイイ顔してるんだが。

殺し屋役のオジサン(チョン・グックァン)は怖かった。シャレも冗談も通じなさそうな顔つきと躊躇ない銃さばきが妙にリアルで、この人が出てくるシーンは見ごたえあり。あちらの男性は軍隊で銃の扱い方とか実地で習ってるから様になるのかな、なんて思ったりして。

主演の2人も演技はけっして悪くない。だからこそもっと面白く、切ない物語に出来たんじゃないかと思う。

次回作はお願いしますよ、兄貴!


…だそうです、兄貴w

映画の内容はほとんど忘れてるけど不満を感じたことは覚えているし、過去に書いたこの感想を読んで、チャン・フン監督の最新作『タクシー運転手』に感じた違和感、不満と重なったんですよね。

またあらためて『タクシー運転手』の感想で書くつもりですが、どうやらチャン監督はハリウッド的なアクション映画の要素を作品に持ち込みがちな人らしくて、『映画は映画だ』のような完全なフィクションならそれが純粋に映画の面白さに繋がるんだけど、南北問題を扱ったり光州事件のような史実を基にした作品の場合、そういうサーヴィス精神はかえって邪魔になる。映画から信憑性が失われてしまう。

真面目に作られているのに作り物っぽく感じられちゃうんですよね。

残念ながらチャン・フン監督はこの『義兄弟』の問題点を解消するどころか、その点においては10年近く経って撮った『タクシー運転手』でもまったく変わってなかったってことだな。

2016年に観たリュ・スンワン監督による『ベテラン』(感想はこちら)は、大財閥のボンボンが行なった犯罪を会社ぐるみで揉み消そうとするのをはみ出し刑事が追う話で、ナッツ・リターン事件や水かけ姫に見られるような現在の韓国の一族経営による大企業の問題を反映させつつエンターテインメント作品に昇華していて非常に面白かったので、もしもハリウッド映画のようなノリのアクションをやりたいのなら、チャン・フン監督は題材をもっと身近なところから持ってきた方がいいんじゃないだろうか。

今のままでは題材と描き方がマッチしていないと思う。

あと、時々展開がもったりとして停滞する、というのも『タクシー運転手』は『義兄弟』から欠点をそのまま受け継いでしまっている。

ハリウッド映画のシナリオ作法なら失格でしょう。

韓国映画には圧倒的なリアリティと迫力があるのだから、光州事件のような「人」と「暴力」についていくらでも深く掘り下げられる題材はハリウッドの真似事ではなく、ぜひその韓国映画の“宝”で勝負していただきたいです。


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*1:その後の北野映画を観ても、やはりすでに韓国映画は暴力描写や俳優の演出力において多くの日本映画を超えていると思う。もちろん優れた邦画もありますが。

*2:NHKかどこかでやってたTVドラマではないかと思うんだけど、番組名はわかりませんでした。

*3:言うまでもないが『海猿』のこと。

*4:言うまでもないが『SP』のこと。

*5:2011年の東日本大震災以前なので、津波の災害を描いたディザスター・ムーヴィーが普通に公開されていた。中国映画の『超強台風』もこの頃。

*6:言うまでもないが『SPACE BATTLESHIP ヤマト』のこと。