映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

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『レインマン』


バリー・レヴィンソン監督、ダスティン・ホフマントム・クルーズヴァレリア・ゴリノ、ジェリー・モーレン、ラルフ・シーモア、マイケル・D・ロバーツ、ジャック・マードックほか出演の『レインマン』。1988年(日本公開89年)作品。

音楽はハンス・ジマー

日本語字幕は戸田奈津子

第61回アカデミー賞作品賞受賞。

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高級輸入車のディーラーをしているチャーリー・バビット(トム・クルーズ)は、商売がうまくいかず逃げるように恋人のスザンナ(ヴァレリア・ゴリノ)と旅行に出かける。しかし、長らく絶縁状態だった父親が亡くなり、300万ドルの遺産の受取人が唯一の家族であるはずの自分以外の人物だということを知る。その人物とは、チャーリーのサヴァン症候群の兄・レイモンド(ダスティン・ホフマン)だった。


「午前十時の映画祭12」で鑑賞。

1989年の劇場公開時に映画館で観ました。

その頃にはすでにトム・クルーズ主演の『トップガン』は観ていたし、ダスティン・ホフマンのことも知っていたけど、彼らの出演した映画を映画館で観たのはこれが初めてでした。

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アカデミー賞を獲って話題になってたから観にいったんだと思いますが。

その後、TV放送で観たかどうかよく覚えていないんですが(BSで観たかも)、劇場で観るのは初公開以来だから33年ぶりか。

兄弟が旅をするロードムービーであることや、空港で無理やり飛行機に乗せられそうになってホフマン演じるレイが金切り声をあげて拒絶する場面とか、ラスヴェガスで大儲けするエピソード(あと、電話ボックスの中での“オナラ”や、キスした感想の「ぬれた」)など、断片的には覚えているんだけど、久しぶりに観てみたら思ってた以上に地味な内容だったので驚いた。


でも、退屈はしませんでしたけどね。

それはやはりダスティン・ホフマンの演技が良かったからだけど、僕は意外にも、と言ったら失礼ですが、レイの弟・チャーリー役のトム・クルーズの演技が印象に残りました。

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今年はトム・クルーズ・イヤーであると同時に、“なっち”イヤーでもあるなw

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レイモンドの人物像は実在のサヴァン症候群の男性、キム・ピークをモデルにしているそうだし、劇中でも「自閉症」とか「サヴァン症候群」という呼び名も使われていて、だから劇場公開当時には障碍や特殊な能力を持つ人を描いた話として語られて僕もそう思っていたわけですが、今回、あらためてこの作品を観てみたら、これは家族だとか人と人とのふれあいについての物語だったんだなぁ、と思いました。

幼少時に母を亡くし、父親とはそりが合わず16歳で家を出たチャーリーは、結局その後も父親と連絡を取らないままただ一人の家族だと思っていた父を亡くすが、実は自分に兄がいたことを知る。

兄レイモンドは施設に入っていて、そこの精神科医でチャーリーの父の遺産管財人であるブルーナー医師(ジェリー・モーレン)に言わせると、レイモンドには「金」という概念がないという。

そんな人物に父が300万もの遺産を託したことに納得できないチャーリーは、遺産の半分150万ドルを手に入れるためにレイモンドを勝手に施設から連れ出して、もといたロサンゼルスに戻ろうとする。

しかし、レイモンドは飛行機に乗ることを拒んだため、兄弟の車での旅が始まる。


チャーリーの恋人スザンナ役のヴァレリア・ゴリノは最近では『燃ゆる女の肖像』に出ていましたが、『レインマン』ではもっと出番が多かったと思っていたのが、意外と出演場面は限られていました。

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でも、スザンナはチャーリーとの車での旅行で口をつぐんで何も喋らない彼に、「まるで一人旅をしているみたい」と言う。この何気ないやりとりは、その後のチャーリーとレイモンドの車の旅に重なり、チャーリーの変化を観客に気づかせていく。

また、スザンナは途中でチャーリーに腹を立てて立ち去るものの、ラスヴェガスで再会するとレイモンドのダンスの相手をしてくれて、それがやがて兄弟のダンスの練習に繋がる。

要所要所で彼女はとても重要な役割を果たすんですね。


チャーリーが人に対してぶっきらぼうだったり相手を脅し問い詰めるような物言いをするのは借金までして用意した大金を失うかもしれない瀬戸際で焦っているからということもあるけど、もともと彼はそういう性格で、チャーリーの短気なところは彼が嫌っていた父親に似ているのかもしれない。

やり手のビジネスマンを目指していても、実は彼は他者とのコミュニケーションに難がある。

それが幼い頃に別れたまま、その存在を覚えていなかった兄レイとのふれあいの中で露わになっていく。レイが問題を抱えているのではなくて、チャーリーこそが生きづらさを抱えている。

だから、これは「障碍者」とその家族を描いた話というよりも、コミュニケーションや人との距離感、相手への思いやりなど、そういうとても基本的なことについての話だったんじゃないだろうか。

チャーリーがレイモンドに固執したのは、最初は遺産が目当てだったが、やがて彼の意識は変化していく。

チャーリーは兄の中に亡き父を見ていた。そして、明らかにチャーリーの中にも父が残した「遺産」がある。チャーリーがそのことに気づいたかどうかはわからないが、観客にはそれがわかる。父とチャーリーは似た者同士だったからこそ、チャーリーは父に反発した。また、父は息子への愛情表現が下手くそだった。

レイモンドとのふれあいは、父とできなかったそれを兄弟で取り戻す行為だ。

亡き父の「遺産」とはレイモンドの存在でもあるし、チャーリーが自分自身の中から見出したものでもある。

この兄弟がこの世に存在すること。それこそが父が遺したかけがえのないもの。

ただ一人残された家族である兄を自分のもとへ連れていこうとしていたチャーリーは、医師たちや自分の前で希望を聞かれたレイモンドが「施設に帰りたい」「チャーリーと暮らしたい」という相反する答えをすると、どこか吹っ切れたようにレイモンドの施設への帰還を承知する。

チャーリーが冗談を言ったことを嬉しそうに笑ったレイモンド。その時、心が通じ合った。

そして、大切な存在だと思えたからこそ、本人の意思を尊重したり、レイモンドのことを熟知していてずっと見守ってきた専門家の意見を受け入れ、彼らに兄を託すことにする。

愛していることを確信できたからこそ、相手にとって最良の「距離」を保つ。「また会いにいくよ」と言って。

チャーリーとレイモンドが一緒に暮らす、というような結末でなくてよかった。

ほんとにささやかな、涙や去りゆく列車に追いすがるような劇的なものがない、あっさりしたラストシーンなんですよね。

レイモンドを見送ったチャーリーがふと微笑む、いいエンディングでした。


レイモンド役のダスティン・ホフマンは、2017年にある女性から80年代頃の性的な嫌がらせを告発されて、それに対する返答もあいまいで何やらグレーなまま今に至っていてモヤモヤが残っているし、『レインマン』を皮切りに90年代頃は彼が出演した映画を結構観ていた記憶があるんだけど(バリー・レヴィンソン監督の映画も1986年に日本で公開された『ヤング・シャーロック』をTV放送で観て以来、90年代は劇場で何本か観た)最近では出演作を目にすることが僕はほとんどなくて(出演作自体は2017年までわりとあったのだが)、2015年に観た『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』が今のところ最後に観た作品。

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その前は2005年公開の『ネバーランド』だし、さらにその前は1999年の『ジャンヌ・ダルク』。めったに映画でお目にかかることがなくなってしまった。

だから、もともとここ20年ほどは出演作をほとんど観ていないんだけど、こういう形で姿を消すのは残念極まりない。

性加害はけっして許されないし、「かつて」と「現在」でも人々の意識は大きく変わってきていますが、ある時代に慣れ親しんでいた俳優がかつての罪を咎められて消えていくのは時代の趨勢とはいえ、なかなか寂しいものがある。

僕たちが映画を観て楽しんだ、その思い出までもが封印されるべきなのだろうか。

誰も昔のままではいられない。

この映画を観ている一瞬一瞬もまた、貴重なひとときなのでしょう。


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