映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

もう一つのブログとともに主に映画の感想を書いています。

『冬の猿』『華麗なる大泥棒』


引き続き「ジャン=ポール・ベルモンド傑作選3」から2本。

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アンリ・ヴェルヌイユ監督の『冬の猿』(1962年作品。日本公開1996年)と『華麗なる大泥棒』(1971年作品)を鑑賞。いずれもHDリマスター版。

まずは『冬の猿』から。

原作はアントワーヌ・ブロンダンの同名小説(原題:Un singe en hiver)。

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ナチス占領下のノルマンディーの海辺の町。アルベール・カンタン(ジャン・ギャバン)は娼館のバーで、海軍時代の話を肴(さかな)に飲んだくれていた。その夜、空襲で防空壕に避難したアルベールは妻シュザンヌ(シュザンヌ・フロン)に、戦争を無事に切り抜けられたら酒を止めると誓う。終戦から十数年が経ったある日、誓い通りに禁酒したアルベールとシュザンヌが営むホテルに、ガブリエル・フーケ(ジャン=ポール・ベルモンド)という青年が現われる。彼は町外れの寄宿学校にいる娘を引き取りに来たのだが、酒に酔っては先妻のいるスペインに思いを馳せる。アルベールはそんなガブリエルにかつての自分を重ねて親近感を抱くが、シュザンヌは彼の存在によって夫が再び酒に溺れることを危惧する。(映画.comより転載)


ヴェルヌイユ監督の作品は、以前BSでジャン・ギャバンアラン・ドロンが共演した『地下室のメロディー』(1963) を観ています。ハラハラさせられて最後に虚脱感に見舞われる、やはりアラン・ドロン主演の『太陽がいっぱい』を思わせる傑作でした。

今回は、たまたま同監督の作品が続けて2本上映されていたので観たのですが、2本とも全然タイプの異なる映画で、『冬の猿』の方はアクションは一切なし。モノクロの映像で老人(といっても、当時ギャバンは56歳だったそうだが)と若者が“酒”を通じてわかり合い、最後には二人で(さらにもう一人引き込んで)羽目を外し、花火を打ち上げる。

ギャバンとベルモンドの唯一の共演作。日本ではずっと未公開のままで90年代半ばにジャン・ギャバンの没後20年を記念して劇場公開された。

酒飲みには沁みる映画らしいですが、僕はそんなに飲めないこともあって、特に酔って狼藉を働く行為に嫌悪感があるので若干眉をひそめながらの鑑賞になりました。

そういえば、去年の今頃にもマッツ・ミケルセン主演の飲んだくれたちの映画が公開されてましたが。僕はあの映画、わりとお気に入りなんですけどね。

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あの映画では、おじさんたちが旨そうに痛飲する様子が心地よかったんですが、ほんとにお酒が好きな人の中には酒で荒れたり醜く酔い潰れることに抵抗がある人も結構いるようです。『アナザーラウンド』も評価は割れていた。

僕はほとんど飲めませんが、でもお酒を味わうことは嫌いじゃないし(わけあってしばらく控えてますが)、だから、食事と同じで登場人物たちがおいしそうに、そして楽しそうにお酒をたしなんでいる姿はいいなぁ、と思うんですよ。

でも、この『冬の猿』では長らく禁酒していたギャバン演じるアルベールは、妻のシュザンヌに「酔い潰れたいんだ」と言う。

旨い酒を味わうことよりも酔い潰れることが目的。そこに疑問を感じる。

ベルモンド演じるガブリエルも、ポール・フランクール演じるエノーの店でビールで割って飲む「ピコン」は旨そうなんだけど、それを飲み過ぎた彼は店で暴れて立ち上がれないほど酔い潰れる。


…酒は楽しんで飲んでほしいなぁ。憂さ晴らしの飲酒はろくなもんじゃないんで。

アルベールは酒をやめてからは寝る前に飴玉をしゃぶっているし、ガブリエルは別れた元妻に未練がある。寄宿舎にいる娘の前に姿を現わすのをなぜか躊躇している。

娼館でアルベールとガブリエルがいくつものカクテルグラスに注いで飲み干すサケも、味わってるというよりもとにかく飲みまくってる感じで、彼らが酒の味を楽しんでいるようには見えない。

昔、家に遊びにいくといつも日本酒の一升瓶が置いてある酒好きの友人がいて、彼はしょっちゅう家で酒を飲んでいたけど、それで酔っぱらって暴れるようなことはなかった。

飲みながら気持ちよく好きな音楽を聴いたり、好きな映画のヴィデオを観ていた。

当時、僕は酒を飲めなかったのでそちらの相手をすることがなかったから、もしも一緒に飲んでいたらまた違った姿を見られたかもしれませんが。

もともとそんなに量を飲めないからこそ、飲む時にはじっくり味わいたいと思う。

今ではBSが観られなくなってしまったので視聴できませんが、以前はたまに吉田類さんの「酒場放浪記」を観ていました。

類さんはお笑い芸人とかTVタレントたちの下品な食レポなどと違ってお酒や料理について長々と語ったりせずに、いつもシンプルな感想だけで済ませて、ただ旨そうに食べて飲んでいる。そこがいいなぁ、と思う。

冬の猿』は、飲んで酔っ払いまわりの人々に迷惑をかけまくって、でもそんなに反省もせず、なんだったら酔って暴れるぐらいはなんてことないような感覚で描かれている。

アル中の人間が身近にいたり、酔っ払いに不快な思いをさせられた経験のある人にとっては我慢ならない映画かもしれないですね。


シラフの時に酔ってご機嫌になってる人を見るといい気分はしませんが、でも自分がそちらの立場だったら、たまにはそういうのも許してくれよ、という気はしてしまう。

僕は今じゃ外で飲み歩くことはないし、だから飲んで他人様にご迷惑をおかけすることなんてないですけどね、念のため。だからこそ、「映画」の中でぐらいは羽目を外してもいいんじゃないか、とはちょっと思う。

アクションはない、と言ったけど、酒場でフラメンコを踊るベルモンドの激しい足使い、走ってくる車を牛に見立てて上着闘牛士のようにさばいてみせるところなど、若さ溢れる、力を持て余したような彼の様子はなかなか憎めない。

ジャン・ギャバンの方も、普段は落ち着いてて渋いおじさまなのに、飲み出すとギョロ目をひん剥いて大声で唄い踊り出すのが可笑しくてしょうがない。可愛過ぎか。超迷惑だけどw


もう、あの演技を見られるだけでも、この映画を観る価値がある。

老人と若者が飲んで大虎ならぬ大猿になって騒ぐ。

若い頃のベルモンドって顔がほっそりしていて、誰かに似てるなぁ、と思うんだけど、誰だか思い出せない。

ジャン・ギャバンは、チェッキー・カリョとか、英国人だけどケネス・ブラナーみたいな系統の顔ですね。

戦時中でもあんなにコロコロと太ったおじさんいたんだろうか^_^;

ドイツ軍の兵士たちがいる中でアルベールとエノーがウロウロしてても、まるで彼らなどいないかのように無視されてるのが不思議でしたが。

劇中で詳しく語られるわけじゃないけれど、アルベールが「酔い潰れたい」のは、かつて中国の駐屯地で経験した戦闘の記憶が原因のようだし(「冬の猿」というタイトルも中国の故事から取られている)、だから彼は揚子江の話を何度も繰り返す。


人が酔いたくなる理由はさまざまで、そこに「正しさ」とか「間違い」を越えた痛みや疼きを感じる。


…では、お次は『華麗なる大泥棒』。

原作はデイヴィッド・グーディスの同名小説(英題:The Burgler)。

 

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アテネに集結した3人の男と1人の女。とある豪邸に押し入った彼らは、鮮やかな手際で金庫を開けると大粒のエメラルド36個を取り出す。4人は港へ向かうが逃亡用の船は修理中で、5日間別行動で身を潜めることに。そんな彼らを地元のヴェテラン警視ザカリアが追うが、ザカリアの真の狙いは4人の逮捕ではなく、彼らが奪ったエメラルドだった。(映画.comより転載)



実写版「ルパン三世」とも言われている、ということで興味があった。

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確かに時代的にも近いし、オマー・シャリフ演じる悪徳警視ザカリアの服装なんかまるで銭形警部みたい。

もっとも、ザカリアは悪役なので銭形のとっつぁんとはキャラがまったく違いますが。

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その後続々と作られるアクションのつるべ打ちみたいな映画とは違って、007映画的な「観光映画」っぽさもあって、だからかエンニオ・モリコーネによるテーマ曲もどこか優雅でお洒落なんですよね。

ザカリアがベルモンド演じる主人公アザドの前で、いちいち料理のレシピについて語ったりする。アザドは凝った料理よりもステーキ派。


で、時々ベルモンド本人による「お~っ」っていうスタントシーンがある。

物凄い高さの砂利山を転げ落ちるスタントなんて、打ちどころが悪かったら首の骨折って死ぬよ^_^; そうでなくても全身打撲しそう。

市電の天井に乗ってのアクションなんか、この前観た『レイマン』(感想はこちら)でもライアン・ゴズリングが似たようなことやってたけど、こちらは合成も命綱もないスタントだもんね。

派手なカーアクションはさすがにプロのスタントマンによるものだけど、担当したのは007映画や「いすゞジェミニ」のCMも手掛けたレミー・ジュリアンだそうで、ベルモンドとも何本もの作品で組んでいたそうな。

何度も言ってるけど、僕はベルモンドがアクション映画で活躍していた時代をリアルタイムで知らないので、新鮮な感じとどこかレトロでノスタルジックな気分にさせてくれるところ(ダイアン・キャノン演じるレナの部屋の60~70年代っぽいインテリアとか)があって、「スゴく面白い!」っていうんじゃないんだけど、でも目に心地よかったです。あの時代に時間旅行してるような気がした。

金庫を開ける機械もデジタルじゃなくて、なんかボタンがいっぱいついてて昔のジュークボックスみたいで(笑)

最後に鶏の飼料のサイロでザカリアが埋まっちゃうところも、ほんとにやってる!と。

冬の猿』はささやかな人間ドラマだったけど、『華麗なる大泥棒』の方はいかにもB級エンタメ映画、って感じで、ストリップ・ショーの場面とかレナのヌード写真とか、あぁ、あの時代の映画の中にしれっと入れ込まれてたエロ・テイストや、裏切られたからとはいえそのレナを往復ビンタするベルモンドなど、70年代ぐらいの映画を今観てる!って思った。


劇場に来ていたのはほぼ年配の人たちだけで、若い人の姿はなかった。

リアルタイムでベルモンドの映画に親しんでいた人たちや、遅れて彼のファンになった人たちでしょうか。お客さんは結構入ってましたね。

ベルモンドの映画は今ではフランスでも劇場で観られる機会はそんなにないそうで、だから貴重な体験なんですよね。

素敵な企画をありがとうございます。


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