映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

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『ビリーブ 未来への大逆転』

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ミミ・レダー監督、フェリシティ・ジョーンズアーミー・ハマーケイリー・スピーニージャスティン・セローキャシー・ベイツ、ジャック・レイナー、スティーヴン・ルート、サム・ウォータートンほか出演の『ビリーブ 未来への大逆転』。2018年作品。日本公開2019年。

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ルース・ベイダー・ギンズバーグフェリシティ・ジョーンズ)はハーバード・コロンビア両大学の法科大学院で優秀な成績を修めるが、女性であることを理由に法律事務所での仕事を得られない。1970年、ルースは夫で弁護士のマーティン(アーミー・ハマー)が持ち込んだ未婚の男性が母親のために介護士を雇う際の所得控除についての案件で、性差別をめぐる裁判を起こすことにする。自身が所属するアメリカ自由人権協会(ACLU)のメル・ウルフ(ジャスティン・セロー)や公民権運動家のドロシー・ケニヨン(キャシー・ベイツ)らの協力も得て、法律の中の性差別を撤廃するための戦いを始める。


現在劇場公開中の『イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり』の主演フェリシティ・ジョーンズが、実在のアメリカ合衆国最高裁判所の現役判事ルース・ベイダー・ギンズバーグを演じる実話の映像化作品。

劇場で観逃していたので、遅ればせながらDVDで視聴。

ルース・ベイダー・ギンズバーグ氏はドキュメンタリー映画RBG 最強の85才』も公開されて、今多くの人々、とりわけ女性たちから大いにリスペクトされる存在だということで興味を持っていたんですが、タイミングが合わずあいにくこちらも観られず。

ドキュメンタリーでご本人の姿と実際の言動やこれまでの功績を見ていたら、さらにこちらでの理解も深まっただろうに、残念。

※『RBG 最強の85才
BS1にて 2021年1月5日(火) 23:00~ 前編 1月6日(水) 23:00~ 後編 放送

Eテレにて 2021年11月29日(月) 1:15~ 前編  2:00~ 後編 放送


フェリシティ・ジョーンズは僕は『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(感想はこちら)で初めて見た女優さんですが、この映画や『イントゥ・ザ・スカイ』もそうだけど、凛としたまなざしで前を向いて進んでいく行動力のある女性の役が続いてますね。小柄な身体で頑張る等身大の女性の存在感が光っている。 

『ローグ・ワン』で男性たちの先頭に立って戦っていたジョーンズが、ここでは夫と二人三脚で人々の平等のために戦う。

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別に顔や役柄が似てるというわけじゃないけれど、僕は彼女にちょうど今放映中のNHKの朝ドラ「スカーレット」の主演の戸田恵梨香さんと重なるものを感じるんです。ふたりとも強い芯のある女性像が似合う。旬の人だなぁ、と思いますね。

フェリシティ・ジョーンズは現在30代半ばだけど、『ローグ・ワン』では“娘”に見えたのが、この『ビリーブ』では母親に見える。役柄によって自在に雰囲気が変わる。お見事。

ミミ・レダー監督の作品は僕は『ディープ・インパクト』と『ペイ・フォワード 可能の王国』を観てますが、ずいぶんと久しぶりだな。エンタメ系の監督さんなんだと思っていたんだけど、こういうフェミニズム的なテーマを扱った映画もしっかり撮る人なんですね。

劇中で、ルースの女性秘書が「文書の中にあまりに“sex”という単語が多いので、“ジェンダー”に代えてみては」と提案するシーンがある。

この映画の原題は「On the Basis of Sex(性別に基づいて)」。

“性別に基づいて”、つまり男女の違いによって差別を許す法律は憲法の下の平等の精神に反しているのではないか?という問い。

ルース・ベイダー・ギンズバーグ判事は#MeToo運動をはるか昔に先取りしていた人でもあって、ご自身がまわりが男ばかりの環境で女性の社会進出を推し進めていったパイオニアなんですね。とてもユーモアのあるかただということですが。物凄い努力の人なんだけど、どこか余裕があるんですね。

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この映画で取り上げられているのは一見すると非常に小さな案件なんだけど、それが“男性”に対する性差別についてだというところが重要。

しばしば「女性問題」と呼ばれるものは、実は男性たちによる「男性問題」じゃないのか、というのはよく指摘されるところだけど、男性が女性に「女らしさ」を強いるだけでなく(女性が強いる場合もあるが、結局おおもとは男性による支配から発することが多い)、男性自身もまた「男らしさ」に縛られている。これまで法律に携わる者たちのほとんどが男性だったので、法律さえもが「女とは、男とは、こういうもの」という固定観念によって作られている。

たとえば「家族の介護をするのは女性か配偶者を亡くした男性」という決めつけ。だが、必ずしもそれに当てはまらない人だっている。独身男性が介護士のための出費で所得控除を受けられないのはおかしい。このように「平等」から外れる世の中のルールに、ルースは異を唱えていく。

時代に沿って、必要があれば法律を変えていかなければならない。

これもまた「多様性」なんだよなぁ。その多様性を認めない者、「人権」をないがしろにする者たちの言動には警戒しておく必要がある。そういう人物には絶対に問題があるから。

また、ルースの夫マーティンが言う「国民への税のかけ方で国の価値が表われる」という言葉は、まさに僕らが住むこの日本の現在の情況のことを言っているようだ。

法律は国民のためにある。弱い立場の者が割を食わない社会にしていかなければ。

尊い理念としたたかさの両方をもって、ルース・ベイダー・ギンズバーグはこれまで戦ってきたのでしょう。そして今も戦っている。

ルースと対立する大学の学長や教授たちを演じる男優たちの演技がいいんだよなぁ。いかにもこういう親父どもはいそうだ、といった感じの老獪な男性優位主義者たち。

女は男に養われて家事をしておればよい、という旧弊極まりない考えの者たち。だから、彼らからすればルースのように社会で活躍して自己主張する女性が邪魔でしょうがないのだ。

日本でもそうやって女性の社会進出を邪魔しようと躍起になってる政治家たちがいますが。夫婦別姓を頑ななまでに阻もうとしたり、昔ながらの「家制度」にこだわり、そこから脱しようとしている人々を抑えつけようとする。一体いつの時代の奴らなんだろうな。そいつらだけでタイムマシンでとっとと戦前にでも帰りゃいいのに。

今、日本の医学部入試の女性差別問題が報じられていますが、能力があって学力だって男性と同等かそれ以上にもかかわらず「女性だから」という理由で点数を引かれて試験で落とされてしまうって、本当に今は2020年なのか?この国の大学のレヴェルを疑いますが、これは大学だけじゃなくて、国民全体の意識の問題でしょう。

日本という国は果たして本当に「先進国」なのか?と問われているのだ。

痴漢という性犯罪が多発しているにもかかわらず女性専用車を叩いたり、男どもの劣化がほんとに酷過ぎる。時代の変化、進歩にまったくついていけてない。僕も男ですが、そんなバカたちと一緒にされたくないよ。映画『ビリーブ』で描かれているのはちっとも昔のことなんかじゃなくて、「今」のことなんだと痛感しますね。

ルースは女性であることで「微笑め」と言われるが、職場やプライヴェートでやたらと“愛嬌”を求められるのは日本の女性も同じでしょう。だが、なんで人前で微笑まなきゃならないのか。愛嬌だけじゃなくて、無償の奉仕を半ば強制されもする。飲みの席で女性がお酌をさせられることは今でもよくあるだろう。なんでそんなことをしなきゃならないのか。それは「当たり前のこと」でもなければ「女性のたしなみ」でもない。そんな義務はない。

ルースが望むのは女性と男性がともに手を携え合って平等に生きていく世界。彼女は夫のマーティンとそれを実践してきた。

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夫婦の身長差がカワイイ


雨の中で工事現場の男たちに卑猥な言葉を投げかけられたルースの娘のジェーンは、彼らに怒りの言葉を投げ返す。そして母に「黙っていては駄目」と言う。娘のその姿を見て、ルースは時代は確実に進歩しているのだと知る。

僕たちもジェーンのように「ダメなことはダメだ」と声を上げていかなければ。そして声を上げている人々の足を引っ張るな、ということ。

先人たちの努力と多くの犠牲の上に今の自分たちがある。自分たちの努力で未来の人々がより理想に近づける。私たちのやっていることはけっして無駄ではない。

ジェーンを演じている女優さん(ケイリー・スピーニー)の顔に見覚えがあったんだけど、『パシフィック・リム:アップライジング』(感想はこちら)で自作のイェーガー(ロボット)を操縦する女の子を演じてた人だった。同じ年に作られた映画だったんだな。

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公民権運動家のドロシー・ケニヨンを演じているキャシー・ベイツは、先日映画館で観た『リチャード・ジュエル』(感想はこちら)にも主人公の母親役で出演してました。素晴らしいバイプレイヤーですね。

ACLUのメル・ウルフを演じているジャスティン・セローって、僕はデヴィッド・リンチの『マルホランド・ドライブ』の若い映画監督役が記憶に残ってるけど、なんかイイ感じの歳の取り方してるなぁ。

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マーティン役のアーミー・ハマーは理想的な男性像を嫌味なく表現してみせているけれど、ここでルースとマーティンが示している夫婦の互いを尊重し合う姿こそが男女のこうあれたらいい理想の姿でもあるのでしょう。マーティンが病気で倒れたら、妻が支える。ルースは料理が得意ではないが、そこは夫がカヴァーする。それぞれ弱点や苦手なところを補い合えばよい。

大切なのは、誰が偉いとか強いとかいうことではない。みんな平等。

ルースとマーティンが残したものはジェーンが受け継いでいく。

国は勝手に変わる。変わっていく自由を抑えつけるな。

ルースの訴えに男性の判事たちが耳を傾けたように、私たちもまた彼女の声と行動を支持することができる。それが未来に繋がっていく。

彼女が残す言葉は、今、ますます重要になってきている。 


※ルース・ベイダー・ギンズバーグさんのご冥福をお祈りいたします。20.9.18


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