映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

もう一つのブログとともに主に映画の感想を書いています。

「スカーレット」 意地と誇り

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毎朝NHKの朝ドラ「スカーレット」を、その前にやってる「おしん」と続けて観ています。

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Superflyの主題歌が流れ出すと何か清々しさを感じるんですよね。新しい朝が来たなぁ、っていう。朝ドラの主題歌はどれも聴き心地のよいものが多いけど、この曲はここ最近の朝ドラ主題歌の中でも特に好きです。ヒロインの成長を描いているような粘土のコマ撮りアニメも素敵。

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放送が開始されてひと月経ちますが、可愛らしかった子役たちが大人の俳優さんたちに交代して主演の戸田恵梨香さんが登場するようになってからも面白さは続いていて、これはずっと観続けていけそうだという手応えも感じています。

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滋賀の信楽町に一家で引っ越してきた川原喜美子は、新しい環境で同級生の照子や信作らと友だちになったり、父・常治が連れてきた引揚者の草間宗一郎に柔道を習ったりしながら母・マツを助けて家事を頑張っている。やがて中学校を卒業した喜美子は家計を助けるために大阪の下着デザイナー・荒木さだが営む荒木荘で女中として働き始める。そこで長らく女中を務めてきた大久保のぶ子にいろいろと教わりながら、住人で新聞記者の庵堂ちや子や医学生の酒田圭介、元・市役所勤めの田中雄太郎らの世話をする喜美子。そして荒木荘での生活も3年になる頃、喜美子は貯めていたお金で目標だった美術学校に通うことにする。


タイトルの“スカーレット”とは緋色のことで、信楽焼の表面の色や炎を表わしているんでしょうか。主人公・喜美子のテーマカラーでもあるんですね。

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喜美子のモデルは陶芸家の神山清子さんだそうですが、物語はフィクションで喜美子の出身も大阪になっている(神山さんは長崎出身)。神山さんは2005年に高橋伴明監督が彼女の人生を基に『火火』という作品で映画化していて、神山さんを演じていたのは奇しくも現在再放送中の「おしん」で主人公を演じている田中裕子さん(以上、Wikipedia情報)。

僕は映画の方は観ていないし、「スカーレット」が神山清子さんの実人生をどのくらい反映させたドラマになるのかは今の時点ではまだわかりません。内容はほぼドラマのオリジナルということだそうですが。

興味深いのが、朝ドラの前作「なつぞら」もまた実在の女性アニメーター・奥山玲子さんの人生を基にかなり脚色を加えてフィクションの物語にしていたこと。

しかも、「なつぞら」の主人公の“なつ”は東京生まれだったのが幼い時に北海道に移り住んで、やがて成長してから再び東京で就職するんだけど、「スカーレット」の喜美子ももともと大阪生まれだったのが家族と信楽町に引っ越して、やがて大阪で就職するという、外枠だけ見るとほとんど同じような展開なんですよね(喜美子の信楽での友人、照子と信作との関係はちょっと「ひよっこ」の仲良し三人組を連想させもする)。

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30代の戸田さんが15歳と18歳を演じるアクロバティックな設定もカワイイからアリだw


なつも喜美子も子どもの頃に戦争を経験していて歳も比較的近く(モデルになったお二人は同じ年の生まれ)、だからおそらく今後描かれる時代も近いのでしょう。

さらに喜美子はなつと同様に絵が上手、という設定。

モデルはそれぞれ別の人たちなのに、偶然とはいえこの類似は面白い。

今週末に登場した、喜美子が通うことを希望する美術学校*1の特別講師・ジョージ富士川のモデルは岡本太郎だそうで、だからジョージ富士川の口癖「自由は、不自由やで」は岡本氏の「芸術はバクハツだ」をもじったものなのだろうし、「不自由」という単語もたまたまなんだろうけど、どうしたって先月閉幕したあいちトリエンナーレの「表現の不自由展」の一件を連想してしまう。

このドラマが「表現の自由」というものにまで踏み込むかどうかはわからないけれど、喜美子が今後たずさわっていく信楽焼だって「表現」なわけだし、ジョージ富士川現代アートの作家のようで、彼が作ったオブジェのタイトル「半分だけ神」も、これまた脚本家先生が「神回」とか自画自賛していた某朝ドラをパロってるようでw

なつぞら」とカブるヒロインの設定や物語展開といい、これはBK(NHK大阪放送局)のAK(NHK放送センター)制作ドラマに対する挑戦だろうか^_^;

作り手のかたがたにはそんなつもりはないかもしれないけど、朝ドラの視聴者の一人としてはまるで「似たような題材を私たちならこう作る」と宣言しているような頼もしさを感じるんですよね。

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説明台詞やくどいぐらいの繰り返し描写、わざとらしい演技の連発などで「ながら観」の視聴者にもわかりやすいように──という、視聴者への配慮のようでありながら実のところバカにしている雑な作劇ではなくて、ちゃんと観ていないと見逃してしまいそうなほどの繊細な演技(大久保さんの顔の表情の変化や、草間さんと妻とのやりとりでの言葉にせずに登場人物の心情を表現したりするような)をちゃんと撮って「芝居」で見せている。

この「役者の芝居をちゃんと見せる」というのは「おしん」とも通じるんだけど、一方では喜美子が空想するシーンでは漫画的な誇張された描写もあって、笑いの要素も「おしん」に比べてはるかに多いのでシリアス過ぎず重くならない。このあたりのバランスも「朝ドラ」としては理想的なのではないかと。

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どこか「めぞん一刻」の四谷さんを思わせる謎多き男、雄太郎さん


食べ物がとてもおいしそうだけど(いつも出来たてが用意されているそうです)、これも見せるのはピンポイントで、何度もしつこく出したりしない。だからかえって印象に残る。

このドラマはBKやAKとかに限らず、ここ最近の朝ドラが取りこぼしてきたこと、やり損ねていたことを一つずつ丁寧に拾っている気がする。ジョージ富士川の「基本が大事」という喜美子へのアドヴァイスは、ドラマの作り手の所信表明とも言えるんじゃないだろうか。奇を衒う前に基本を、ということ。

父・常治が子ども時代の喜美子に「男の意地と誇り」について語ったことを受けて、のちに喜美子が「女にも、意地と誇りはあるんじゃあ!」と宣言する場面がこのドラマのテーマを象徴している気がする。「女」を低く見るような発言をしばしばする父を見返すこと、それが喜美子だけでなくすべての女性たちの可能性をドラマを通して証明していくことに繋がる試みのように感じられて、これもまた女性の脚本家による朝ドラで「女性を描くこと」への大いなる挑戦に思えるのです。 

主人公やまわりの登場人物たちを丁寧に描いていこうという意気込みがさりげなく、でもとても力強く感じられる。ちょうどSuperflyが唄う主題歌「フレア」が心地よいメロディと歌声でありながら、その歌詞にはとても強い意志が込められているように。 

圭介への淡い恋も実を結ぶことはなく、草間さんの妻との再会に助力したのもつかの間、信楽の実家から連絡が来て…。来週も続きが気になります。 


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*1:その後、実家の事情から喜美子は学校への進学を断念して3年ぶりに信楽に帰ることになる。