

NHKの連続テレビ小説「スカーレット」がとうとう昨日の28日(土)をもって、またその一週間前には去年の4月から1年間放送されてきた「おしん」が終了しましたね。
伝説的な朝ドラとして多くの人たちに記憶され今なお高く評価されている「おしん」を最初から最終回まで通して観るのは僕は初めてだったからとても貴重な経験だったし、毎朝「おしんチャレンジャー」の皆さんのTwitterでの呟きを拝見しながらの視聴は本当に楽しかったです。そのあとの「スカーレット」と併せて、こんなに毎日朝っぱらからドラマの中身に入り込んで集中力を要することはこれまでなかったので、なかなか疲れましたけど^_^;
「おしん」が、僕が観る前になんとなくイメージしていようなただひたすら耐え忍ぶヒロインを称揚するような作品ではなかったことがよくわかったし、実力派の俳優さんたちの演技を堪能できたことも嬉しかった。最近の朝ドラとも対比して、おかげで後者の問題点もいろいろ見えてきましたし。
「おしん」は出演者の皆さんは全員素晴らしくて(一部、棒演技の子役たちや若手もいたけれど、それもまた今となっては愛おしい)、台詞のクセが強い「橋田壽賀子節」もなかなか耳に心地よくて、だから終わってしまったことは大変名残り惜しくもあるんですが、正直なところ後半はちょっと息切れしているようにも感じられたし、40年近く前のドラマということもあって時代的にも主人公の価値観に疑問を感じることが多々ありました。
特に田中裕子さんが演じた戦前から戦後までのおしんと、そのあとを引き継いで現代篇を演じられた乙羽信子さん(乙羽さんは第1話から出演されていますが)のおしんの間にキャラクター的なブレ、外見的な特徴の違いを越えてほとんど別人のような違和感が。


「おしん」が見応えがあって多くの人々に愛される優れた作品であることはもちろん疑いの余地はないんですが、脚本の橋田壽賀子さん(※ご冥福をお祈りいたします。21.4.4)ご自身が実際に戦争を体験されていて1983年の初放映時には戦時中の苦労を知らない戦後生まれの若者たちへの苦言やバブル前夜でモノが溢れる時代への警鐘が含まれていたこともあって、乙羽さん演じる老おしんがしょっちゅう「最近の若い人たち」(特に息子・仁の“嫁”道子)の“贅沢”や“ワガママ”についてボヤく、という展開の多さには(放送当時の戦中派のかたがたへの共感もあったのでしょうが)、その「最近の若い人たち」の目から見た世界を描けない作り手の限界も感じたのでした。世代間の断絶は「おしん」の中では、どうしようもないもの、と諦めの溜め息とともに描写されていた。
それが奇しくも最新作であった「スカーレット」では、そのように「おしん」が描けなかった、捉え損ねていたものを見事にドラマの中に取り入れていました。
男女、仕事、家庭、友人関係etc.
#おしん では農業も髪結いも魚屋もおしんにとって「生きていくため」=金儲けのため、だったから仕事そのものに対するこだわりはそこまで深くなかったけれど、 #スカーレット での「陶芸」は喜美子とは切っても切り離せない。その点ではスカーレットは、おしんを超えたと思う。
— ei-gataro (@chubow_deppoo) March 24, 2020
田中裕子さんが演じた若きおしんは昔ながらの価値観に疑問を持ち、それらとは別の道を選ぶこともしばしばあったのだけれど、老いていくにしたがって、かつては否定していたはずの母や祖母の生き方をどこかで肯定していくようになる。そこに観ていて納得しがたいものがあった(田中裕子さんが現在は「おしん」関連の取材や番組出演に一切応じない理由も気になる)。
実は「スカーレット」でも主人公の喜美子は表立って両親の人生やその価値観を否定はしないのだけれど、彼女はあくまでも彼女の信じる道を進むし、それを他の者たち、夫や息子に押しつけもしない。
ここには「スカーレット」の作り手からの「おしん」へのアンサー(アンチテーゼではない)があると思う。「スカーレット」は「おしん」の世界をさらに現代的にアップデートしたドラマともいえるのではないか。あのドラマでは「断絶」ではなく、「共生」が描かれていた。
ことあるごとに男尊女卑的な物言いをする父に「女にも意地と誇りがあるんじゃ」と言っていた少女は、いつしかそんな男女の差なども越えていく。
「スカーレット」は、これまでの“朝ドラ”がやらなかったことをやったり、逆にお約束や定番のようだったものをあえて外したりと実は結構ラディカルな作りだったんだけど(スピンオフのドラマが本篇に組み込まれたりしてたし)、「あざとさ」を極力避けるストイックな作劇が「地味」だと言われることもあって、観る人によってずいぶん評価が分かれてもいるようで。
僕は、この一見「地味」な展開がずっと続く話でよく半年間をもたせられたな、と感心するんですが。
それは「おしん」がそうだったように、登場人物一人ひとりに対する丁寧な描き込み、単なる物語の伏線回収を超えたキャラクターたちへの作り手の愛情が感じられるからでしょう。






「おしん」から「スカーレット」へ。このふたつのドラマの組み合わせは、ここ最近の旧作と新作の並びとしては本当に最高のものだったんじゃないでしょうか。今後、これほど見応えのある30分間を過ごすことができるかどうか、ちょっと不安を感じているほど。
スタッフと出演者の皆さん、お疲れ様でした。そして、素敵なドラマを作ってくれてありがとうございました。
来週からはもうあのお馴染みの主題歌はTVから流れてはこないのだ、と思うと寂しい。
すでに「おしん」のあとには斉藤由貴さん主演の「はね駒」(1986)が始まってますし、明日30日(月)からは早速、窪田正孝さんと二階堂ふみさん主演の最新ドラマ「エール」が放送開始。
僕はここしばらくAK(NHK放送センター)制作の作品とは相性がよくない(2回連続で途中離脱)ので不安もあるんですが、ともかく春から心機一転、楽しみにしています。