映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

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「らんまん」を観終えて


NHK連続テレビ小説「らんまん」が9月29日(金) に最終回を迎えました。

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このドラマは、これまで観てきた朝ドラに比べてお話の展開が大変緩やかという印象があって、毎週毎週次々と事件が起こったり主人公があらたなことに挑戦する、といったストーリーの面白さでグイグイと魅せていくような作劇とは異なる、じっくりと主人公やその周囲を見つめていく物語でした。

激動の時代を生きた主人公の波瀾万丈の人生を描く、みたいな作りにはなっていないし、ある時点以降は主人公の万太郎はひたすら植物図鑑作りに没頭していて、それ以外のことはほとんどやってないんですよね。


ところどころで万太郎の家庭の様子が挟まれて、時代背景が彼らに影響を及ぼしはするけれど、歴史の教科書的な俯瞰的な視点はとられず、今が「何年」なのかたまにしか述べられないので途中まで僕は描かれているのが明治なのか大正なのか、それとも昭和初期なのかもよくわかっていませんでした。

彼と寿恵子が結婚するのは半年間の放送の中盤あたりだし、かなり終盤近くになるまで時代は明治のままで、9月も結構終わり頃になってからようやく関東大震災の模様が描かれる。


関東大震災が起こったのはは9月1日だから、放送のタイミングとしてはよく考えられていたと思いますが。

万太郎のモデルである植物学者・牧野富太郎さんは1950年代の終わり頃までご存命だったのだから戦後の彼のことも描けたはずだけど、このドラマで主に描かれるのは震災後、「スエコザサ」命名の1927年あたりまでで、戦時中や戦後についてはほぼ触れられません。万太郎の死後、彼の末娘の千鶴(演:松坂慶子 万太郎の祖母・タキと二役)が父の遺品である植物の資料を整理する場面で過去が振り返られる。


ドラマのナレーターを務めていた宮崎あおいさんが本篇に登場

妻の名前からとった「スエコザサ」命名をクライマックスに持ってくると自然とそういう構成になるということでしょうが(妻・寿恵子のモデルである牧野壽衛〈スエ〉さんは命名の翌年に亡くなっている)、僕は脚本を担当された長田育恵さんにはそれ以外にも考えがあったんだろうと思います。

「雑草という草はない」という言葉から始まったこのドラマは、今現在のこの国が置かれている状況への疑問や、今一番ないがしろにされている「人の尊厳」をもう一度見つめ直して取り戻すことの大切さを、けっして声高にではないけれど訴えていたから。

幼くして亡くなった長女・園子のこともけっして忘れられることはなく、家族が増えても時代が移り変わっても、ずっと寿恵子と万太郎、まわりの人々、そして視聴者の心の中にその存在がある。


偉い人の立身出世の話でもなければ遠い過去の昔話でもなく、「今」に繋がり「今」と重なる物語として作られていました。

毎朝、安心して観ていられる作品だったんですよね。

途中で話の展開に首を傾げたり、作劇に不安を感じることがなかった。作り手を信頼できるドラマでした。

万太郎が日本占領下の台湾に行くくだりがあまりにも短い、という指摘をされているかたや、関東大震災での朝鮮人虐殺にほとんど触れられていないことに言及されているかたもいらっしゃいましたが、台湾の現地での日本語使用の強要や震災後の自警団の描写でそれをわずかに匂わせていて、一見穏やかで暗く重い展開や描写をあえて入れずに、でもちゃんと観ていれば気づけるように(いろいろめんどくさいのに因縁つけられないように、という配慮もあったのかもしれませんが)大切なことは要所要所に台詞や細かい描写で触れているんですよね。

直接戦争を描かなかったのも意図的だと思うんですよ。

でも、たとえば「おしん」の俊作あんちゃんのエピソードで語られていた日露戦争も「らんまん」の背景にはあるわけだし(万太郎が師のように仰ぎ見ていたロシアのマキシモヴィッチ博士は実在の人物で、牧野富太郎氏は実際に彼に植物の標本を送っている)、「お国のため」に個人の存在が犠牲にされた時代に植物の固有の「名前」にこだわる万太郎の姿は、このドラマを観る者に何よりも大事にしなければならないものについて語りかけていました。

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こんなゆったりとしたペースで半年間飽きることなく観ることができたのは、万太郎や彼の周囲の人々に毎日会うような感覚で、もはや彼らの顔を見るのが日常の一部になっていたから。

毎朝会って顔を見て挨拶するようにこのドラマを観ていました。

「おまん、誰じゃ?」と初めて会う驚きと喜びの笑みでこちらを見つめる万太郎の顔のショットで幕を閉じたこのドラマは、一貫して「植物」=「人」を見つめ続ける、そんな作品でした。

出演者やスタッフの皆さん、本当におつかれさまでした。素敵なドラマをありがとう。


さて、10月2日(月) から趣里さん主演の「ブギウギ」が始まります。

「東京ブギウギ」で有名な笠置シヅ子さんをモデルにした主人公が歌とダンスの世界で活躍する物語。

「らんまん」では寿恵子は鹿鳴館では踊らず、その後もダンスを披露することはありませんでしたが、そちらは「ブギウギ」で、ってことですね(^o^)

「らんまん」の時代から、戦中戦後を舞台にした「ブギウギ」に時代がリレーされていきます。

楽しみです♪



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