映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

もう一つのブログとともに主に映画の感想を書いています。

「おしん」と「なつぞら」

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毎朝、NHK朝の連続テレビ小説の「おしん」(アンコール放送)と「なつぞら」を観ています。

僕は子どもの頃にリアルタイムで何度か「おしん」(本放送は1983~84年)を観たことはあるんですが、当時は朝ドラは8:15からで(確か夜にはやってなかった)通学時間に間に合わないから平日は観られなくて、視聴できたのは土曜日のお昼だけでした(当時は土曜日は午前中だけ授業があった)。全話通して観るのは今回が初めてなので楽しみにしていました。

現在では半年間が基本の朝ドラで、1年間の長きに渡っての放送というのもなかなかない機会だし。

明治生まれのおしんが激動の時代を生き抜いて老齢になった昭和50年代末までを描く一代記。

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このドラマで現在(1983年当時)の80代になった田倉しん=おしん乙羽信子)の場面が時折挟まれるのは、以前再放送された時にちょっとだけ観て知りました。

おしん」といえば両親(伊東四朗泉ピン子)と別れて最上川を筏で下る場面が有名だし、子役だった小林綾子さんの印象が強いのだけれど、彼女が出演しているのは第4話から36話までで1年間(全297話)の放送のわずか1ヵ月半ほど。

大人になってからの田中裕子さんや乙羽信子さんのパートの方がはるかに長いんですよね。

小林綾子さんは「なつぞら」にも出演していて、2本のドラマで36年前と現在の“おしん”を目にすることになるという、なかなかできないタイムトラヴェルな体験(「なつぞら」で小林さんが映るたびに気になっちゃってドラマに集中できませんが^_^;)。

 

これはもうNHKがそういうつもりでキャスティングしたとしか考えられないですが(今回の「おしん」の放送は朝ドラ100作目記念ということだし)、現在では以前出演したことのある俳優さんが別の朝ドラに再出演することも珍しくはないけど、小林さんは朝ドラは「おしん」以来の出演だそうだから本当に長かったし、何か感慨深いものがありますね。

貧しい小作人の家に生まれたおしんは口減らしのためにわずか7歳で米一俵で奉公に出されるが、そこの女中頭の“おつね”さんに毎日のように厳しくあたられて時にひっぱたかれたり、実家の祖母にもらって肌身離さず持っていた50銭銀貨を盗んだと疑われて上半身裸にされて辱められたりする。

幼い少女が暴力的に裸にされる場面は非常にショッキングで現在ならまず許されない描写だけに、この30数年間の倫理観や道徳観の変化を強く意識させられる。だから「なつぞら」で現在の小林綾子さんの姿を見ると、なんだかもうそれだけで涙が出てきそうになる。

おつねさんの「お前のためを思ってやってるんだ」という言葉は児童を虐待する親や教師などの常套句だが、TwitterのTLでも「おつねさんが特別悪いのではなく、あの当時はあれが普通だった」というようなツイートを散見する。老齢のおしん自身がおつねさんを弁護するようなことも言っている。

だが、おつねさんがやっていたようなことが当時は「普通」だとされていたのだとしても、それはけっして正しいことではない。時代が変われば人の意識も変わる。昔は許されていた(または黙認されていた)が今では許されないことはたくさんある。

私たちは、おつねさんを擁護するよりも、ろくに飯も食わせてもらえず大人たちに人としての権利を剥奪されて虐待される子どもたちがいない世界を作ることにこそ力を注ぐべきだろう。理由をつけて子どもへの暴力を容認するような大人に絶対になってはならない。

本放送当時、「おしんを見習うべきだ」と発言した政治家がいたそうだけど、そうじゃないだろう。

彼女が経験したような苛酷な生活を人々が二度と味わわなくて済むようにすべきなんじゃないか。政治家が国民に努力や忍耐を強いるような世の中は最悪だ。

おそらく、くだんの政治家は艱難辛苦を乗り越えて立身出世したおしんを手本にしよう、と言いたかったんだろうけど、「おしん」というドラマはヒロインが人生の黄昏時に「自分の人生はこれでよかったのだろうか」と来し方を省みて自問する物語で、それは一人の女性の人生を通して明治・大正・昭和という近代史を振り返ることでもあって、単に成功したおばあちゃんを称える話じゃない。まだ始まって3週目だけど、そんなことは観ていればわかるじゃないか。

これは、健気な少女が苦難に堪えながら努力する姿に視聴者がハンカチ片手に「可哀想」と涙するドラマ──ではなくて、本当の人と人との労わり合い、繋がりについて今一度よく考えてみる機会なのではないか。

けっして大昔のお話じゃなくて、僕らが生きる今現在に通じる物語なんですよね。

昭和の終わり頃に作られたこのドラマを、平成が終わり新たな元号が始まる今このタイミングで観返してみることには大きな意味があるでしょう。

可笑しかったのが、TwitterのTLで「貧乏なのに、なんで子どもを次々と作るんだよ」というツッコミが大量にあったこと。口減らしでおしんを奉公にやるのに母親は妊娠してんだもんなぁ。確かにそれは以前からずっと不思議だった。

昔は兄弟が多い家庭がいっぱいあったけど、「家族計画」なんて考えもしなかったのか。国を挙げて「産めよ増やせよ」の時代だったから、というのもあるんでしょうが。少子化による将来の不安が叫ばれる現在との違いが際立ってますよね。

かつて国家が国民に強いて「産んで増やした」子どもたちは、その後多くが国家が起こした戦争で死んでいったのだが。それはこの「おしん」でも今後描かれていく。

これもTwitterで呟いたことですが、憎まれ役のおつねさんを演じる丸山裕子さんは僕が子どもだった1970~80年代のアニメ(「はじめ人間ギャートルズ」のゴン、おじゃまんが山田くん」のみのる、「ヤットデタマン」のコマロ王子など)でよくその声を聴いていたので、その声優さんご本人が意地悪おばさんを演じていらっしゃる姿を見て、不思議な心持ちがしたんですよね。

ちなみに丸山裕子さんは石ノ森章太郎原作の実写特撮番組「ペットントン」で主人公ペットントンの声を担当されていたんだけど、 小林綾子さんはこの番組でエンディングテーマを唄っていたし、最終回の翌週に放映されたスペシャル番組には彼女も顔出しで出演していた。おしんとおつねさん、こんなところで共演していたんですね。

さて、おしんは奉公先を逃げだして中村雅俊演じる脱走兵に助けられるが、これからも彼女の苦難は続くのでしょう。もう毎朝おしんのことが気になってしょうがない。

それにしても、女優(ピン子)を真冬の川の中に入れたり、子役に素足や薄着で雪原を延々と歩かせたり、昔の映画やTVドラマはほんとに俳優を酷使してたよな。 

 

そんなわけでなんとなく「おしん」の方に意識が集中してしまっているせいで、新作の「なつぞら」の方が若干うわの空気味なんですが。

でもこちらもヒロインの“なつ”の子ども時代を演じていたのは「おしん」の前にアンコール放送されていた「べっぴんさん」でヒロインの娘“さくら”の少女期を演じていた粟野咲莉ちゃんだったので、これも偶然にしては出来過ぎてるからNHKはアンコール放送のラインナップや本放送のドラマの配役などのバランスを事前にかなり綿密に計算しているということでしょうか。

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東京で両親を戦災で亡くして兄や妹たちと離ればなれになった主人公が、北海道の酪農家に引き取られて娘同然に育てられて成長していく様子が描かれる。

やがて再び東京に戻ってアニメーターになるようなんだけど、なつのモデルになったアニメーターの奥山玲子さんは戦災孤児ではないし北海道に住んでもいなかったので(宮城県出身)、これは実在の人物の人生と別の物語を組み合わせたフィクションなのでしょう。

ただ、「酪農」と「アニメ」に今のところ共通点を見出せないから、どういう心境の変化でなつがアニメの世界に飛び込んでいくのかはまだわからない。東京へ行くのはきっと兄妹と再会するためだろうけど。

動物の誕生の瞬間に立ち合い、出産の手助けをして「命」の尊さを学んでいるなつが、やがて紙やセル画の上に「命」を宿らせる“アニメ”を自らの天職としていく、ということなのかしら。

奥山玲子さんの経歴って凄く興味深くて、なつが今後就職するのは奥山さんが勤めていた東映動画をモデルにしたアニメスタジオなんだけど、東映動画での労働組合の活動などは今の雇用問題に繋がるエピソードだし、奥山さんは高畑勲さんや宮崎駿さんとも接点があるので、もしかしたらその後のアニメ界の2大巨頭をモデルにした登場人物が出てきたりするんだろうか、などと想像が膨らむ。*1

これの前の「べっぴんさん」と「まんぷく」の2本の組み合わせは、それぞれ関西が舞台で劇中の時代がほぼ同時進行だったのが面白かったけど、今回の2本も子役の扱いやヒロインの境遇のあまりの違いだったり35年という年月を隔てた物理的な時代の変化がとても面白い。

おしん」の笑いの要素が一切ない容赦ない厳しさのあとの、「なつぞら」のほんわかした癒やしのような時間。このバランスは絶妙ではないかと。

今後の両作品の展開から目が離せません。 

 

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NHK連続テレビ小説 なつぞら 上

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*1:なつの北海道での生活は高畑監督の「アルプスの少女ハイジ」の世界と重ねられているのかも。奥山さんは「ハイジ」には参加していないが、東映動画退社後に同じ高畑監督の「母をたずねて三千里」で作画監督補佐を担当している。