映★画太郎の MOVIE CRADLE 2

もう一つのブログとともに主に映画の感想を書いています。

『第9地区』


※以下は、2010年に書いた感想です。


ニール・ブロンカンプ監督によるSF映画第9地区』。2009年作品(日本公開2010年)。PG12

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南アフリカヨハネスブルグに巨大な宇宙船が現われてから28年後の世界。難民化した大量のエイリアンたちが住む「第9地区」。超国家機関MNUの職員ヴィカス(シャールト・コプリー)はそこをおとずれて、エイリアンたちにさらに隔離された「第10地区」への移住を要請するのだが…。


異星人が大量に地球に移住している世界が舞台の映画、といってまず思い出すのが、25年ほど前に作られた『エイリアン・ネイション』。

『エイリアン・ネイション』(1988) 監督:グラハム・ベイカー 出演:マンディ・パキンティン テレンス・スタンプ
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TVでも放映したり、その後ドラマ化されたりしてました。

異星人に対して差別的な刑事をジェームズ・カーン(※ご冥福をお祈りいたします。22.7.6)が演じてて、この刑事が異星人とコンビを組むことになるという、ようするに有色人種やマイノリティを異星人に見立ててカルチャー・ギャップと異文化コミュニケーションを描いたバディ・コップ・アクション物だったんだけど、今回の『第9地区』は、この「異星人を難民として描く」というアイデアに『クローバーフィールド』のようなドキュメンタリー的手法を取り入れた体裁。

クローバーフィールド』は面白かったけど、あの揺れまくりの手持ちキャメラの映像にはマイッて、しばらくああいう映画は勘弁、と思ってたにもかかわらず、予告篇で観たエビ型エイリアンが映ってる偽ドキュメント・シーンのなんともいえない胡散臭さの魅力には逆らえずに劇場へ。

観る前から「グロい」とか、アパルトヘイト(人種隔離政策)を戯画化したような世界観、というのは知っていたので、おそらく爽快な気分になる作品ではないことは覚悟してたんですが。

ところが“なんちゃってドキュメンタリー”みたいな一発ネタの地味な映画だと思ってたのが、観てるうちにVFXを駆使した映画としては久しぶりに手に汗握ってしまった。

監督は長篇映画はこれが初めてということで、製作を務めているピーター・ジャクソンがどこまで口を出してるのか知らないけど、あの人は元々グログロ・ホラーで頭角を現わした人だし、かつてVFXも使って『コリン・マッケンジー』というニュージーランドの架空の映画監督のフェイク・ドキュメンタリーを撮ったこともあるぐらいだから、その辺の虚と実のバランス配分は的確だなぁ、と。

光と闇の伝説 コリン・マッケンジー』(1996) 出演:ピーター・ジャクソン サム・ニール コスタ・ボーテス ハーヴェイ・ワインスタイン
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この『第9地区』、ところどころグロい描写があるのはたしかだけど(これでPG12というのは最近にしちゃわりと寛容ですな)、予想に反して観終わったあとは妙に感動している自分がいたのでした。

異星人の子どもが可愛かった。

「エビ」という呼び方は、この映画では異星人への差別用語として使われている。

この映画を観て、たしかに現実に存在するさまざまな差別について考えることもできるけど、そのあたりの問題提起はあくまで娯楽映画の範囲内に留めてあって、重すぎることはない。

アカデミー賞にノミネートされた、ってのも忘れてました。

クローバーフィールド』というより、これはむしろポール・ヴァーホーヴェンの『ロボコップ』の手法だよな、と。

ロボコップ』(1987) 出演:ピーター・ウェラー ナンシー・アレン
予告篇に『ターミネーター』の曲が使われてるのでなんか違和感が^_^;


広大なスラムと超国家機関が存在する殺伐とした未来観なんかもよく似てるし。

傭兵やギャングを演じる俳優たちの顔つきが実にいい。いかにも治安が悪いとこに住んでそうなおっかなくてイヤァ~なリアリティがある。

また、シリアスなのにところどころ場違いなギャグを入れてくるところなんかもヴァーホーヴェンっぽかったりして。

ロボコップ』リメイク版もこういうテイストだったらいいなぁ。

個人的に物凄くいたたまれなかったのが、主人公が謎の液体を浴びて腹をくだしてあわてて家に帰ると、彼の昇進のお祝いパーティーのために集まった知人たちに捕まってしまってトイレに行けない、という地獄のような状況。

どう見たって具合悪そうなんだから、ケーキとか切らせてないでみんな察してやれよ^_^;

こんなところも、悲惨なんだけどコメディみたい。

主人公の○○が大変なことになってしまう場面は、ちょっと楳図かずおの漫画版「ウルトラマン」のバルタン星人の回を思い出した(小学生の時に読んで、すげぇ怖かった)。


デヴィッド・クローネンバーグの『ザ・フライ』みたいな肉体破損シーンもあるし。

血みどろ映画が特に好きというわけではないんだけど、これはなかなかの拾い物でした。

しかし、あんなふうに描かれたヨハネスブルグやナイジェリアの人たちはこの映画観てどう思うんだろうなぁ。


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『ロボコップ ディレクターズカット』(1987年版)

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