相米慎二監督、三上祐一(恭一)、工藤夕貴(理恵)、大西結花(美智子)、紅林茂(健)、松永敏行(明)、会沢朋子(泰子)、天童龍子(由美)、渕崎ゆり子(みどり)、小林かおり(順子)、尾美としのり(小林)、石井富子(順子の母)、佐藤充(順子の叔父)、伊達三郎(用務員)、きたむらあきこ(保健医)、鶴見辰吾(恭一の兄)、寺田農(健の祖父)、三浦友和(教師・梅宮)ほか出演の『台風クラブ 4Kレストア版』。1985年作品。
東京近郊のとある地方都市。木曜日の夜、市立中学校のプールに忍び込んだ5人の女子生徒は、先に泳いでいた同級生の男子をからかった挙句に気絶させてしまう。金曜日の授業中には、担任教師・梅宮の恋人の家族が教室に押しかけてきて生徒たちの前で梅宮を糾弾する。台風が近づいてきた土曜日の朝、1人の女子生徒が梅宮に昨日の件について説明してほしいと迫ったことをきっかけに、教室中が大混乱に陥ってしまう。放課後には激しい風雨が吹き荒れる中、数人の生徒が校内に取り残される。(映画.comより転載)
昔、TVで放送されていたのを観ましたが、劇場で鑑賞するのは今回が初めて。
今ではヴェテランの俳優さんたちの若かりし頃が初々しいですね。
90年代ぐらいにはアメリカ映画にも何本か出ていた工藤夕貴、この映画のあとスケバン化した大西結花(笑)
僕はてっきり主演は鶴見辰吾だとばかり思ってたんだけど、弟さん(三上祐一)だったんですね。似てるわけだ。だからお兄さん役で鶴見さんも出ていたんだな。
寺田農さんとか、ほんとにわずかな出番だけど、おかげで出演者が豪華に見えますね。
三浦友和さんはこれまで優等生的な役が多かったのが、この映画のちょっと乱暴な態度の教師役で新境地を開いたのだそうで。すでに安定の演技力。
パンツ姿でのカニ挟みに笑いましたw
三浦さん演じる梅宮の恋人・順子役の小林かおりさんに見覚えがあるなぁ、と思ったら、『青春デンデケデケデケ』(感想はこちら)の女性教師役など、ひと頃、大林宣彦監督の作品に出てらっしゃったんですね。あと松本俊夫監督の『ドグラ・マグラ』(1988) にも。ちょっと懐かしい。
順子の口うるさい母親役の石井富子さんは、『ガメラ 大怪獣空中決戦』(感想はこちら)でスーパーのおばさん役だった。
ずっと以前に観たきりだったから、クライマックスで生徒たちが服を脱いで踊りまくる場面や主人公の恭一が『犬神家の一族』みたいにぬかるみの中に両足だけ突き出して埋まってる場面ぐらいしか覚えてなかった。あと工藤夕貴のナニのシーン。
久しぶりに観て、なんであそこでいきなり?と思ったけど^_^;
ネットでこの映画の感想を読むと、「意味不明」みたいな評価が多くて、う~ん、要するにこれって思春期の不安定な状態と台風とを重ね合わせて描いた青春映画なわけじゃないですか。
こういうタイプの映画がすごく好きかというと僕はそうでもないんですが、でも「意味がわからない」というほどでもないでしょ(謎の白塗りのオカリナ吹きの男女は意味わかんなかったが…何者?^_^;)。何が描かれてるのかはわかるよ。言葉で説明されなきゃわかんないのか?言葉で説明しづらい感情を描いているんじゃん。
観客の感性の方も、この何十年かの間にずいぶんと退化してしまったよーで。
あの頃の特に若手監督の映画って、従来の映画の枠からはみ出すような作風のものが多くて、だから今観ると確かに戸惑うものも少なくないんだけれど、何周かまわって新鮮な感じもするんですよね。
工藤夕貴繋がりで、石井聰亙(現・石井岳龍)監督の『逆噴射家族』(1984) も観たいなぁ。
この当時の工藤夕貴さんって人気があったようだけど、正直演技が巧いとは僕は思わなくて、まるで「中学生日記」の生徒役のような素の中学生の魅力でもってたとこがあると思うんですが(すごく幼く見える部分と、何かいろいろと心得ているように見えるところもある、その辺のアンバランスさがよかったんだと思うが)、でも彼女に限らず、この映画の生徒役の少年少女たちの演技はみんなどこかぎこちなくて、はっきり言えば全員大根っぽい。
これは80~90年代ぐらいまでの子役の演技全般に言えることで、おとなの俳優たちの演技は気にならないし、この映画でも皆さんごく自然なのに、子どもたちの喋る台詞の言葉や口調がいちいち気になるんですよね(3年後の『ぼくらの七日間戦争』の生徒役たちも同様だった。ちなみに工藤夕貴の弟、工藤正貴は『ぼくらの七日間戦争』に生徒役の一人で出演している)。
まぁ、観てるうちにだんだん気にならなくはなっていくし、ところどころ不自然ではない巧みな台詞廻しもあるんだけれど。
面白いのが、TVなどでこの当時(80~90年代頃)の若者のインタヴュー映像などが流れると、彼ら“しろうと”の少年少女たちは映画の中で描かれていたようにどこか不自然で、もっと言えば少々イラッとくるような口調や声のトーンで喋っていたりする。
だから、あの子役たちの喋り方はもしかしたら案外“リアル”だったのかもしれない。当時を思い返しても、自分じゃどうだったのかわかんないんですが。
それでも、この映画の中で映し出される中学生たちの生態はどこか生々しくもあって、それは実際に同世代のティーンの俳優たちが演じていたから、というのが大きい。10代の女の子たちがスケスケの下着姿で踊ったりするのは、今の映画なら無理でしょう。
また、男子生徒が女子生徒に薬品をかけて大怪我を負わせたり制服をビリビリに破いて襲う場面なんかは完全にレイプ未遂なわけで(「ただいま」「おかえりなさい」の繰り返しがスゲェ怖い)、それを思春期の暴走、などという理由で笑って済ませるわけにはいかないし警察沙汰になってもおかしくはない案件で、そういう部分も「時代」だなぁ、と。
ああいう行為が「しょうがない」みたいに見逃されていたんだな。健(紅林茂)は逮捕(補導)されるべきだと思うが。
尾美としのり演じる若者が工藤夕貴演じる理恵を自分のアパートに連れ込む場面なんかも、あれを「親切」みたいに言ってるのもヤバいし。
あの頃こういうことを野放しにしてたから、今のオヤジどもは勘違いしまくってるんだな。
まぁ、そういう時代ゆえに不快な場面もなくはなかったけれども、台風が迫ってくる不穏な状態を80年代当時の社会の空気に重ねて見ることもできるだろうし、だからこの映画が80年代を代表する映画の1本に数えられているのには納得する。
三上祐一演じる恭一の、しっかりカノジョもいるんだけど、何か他の男子生徒たちとは微妙に距離を置いていて引いた目でものを見ているような主人公、ってあの頃いろんな作品で見たような気がする。ああいう態度、スタンスがかっこいいと思われていたんだな。でも、実際にモテてたのは健のようなスポーツマンタイプの奴らだったけど。
バービーボーイズに、わらべの「もしも明日が」。赤いダブルデッキのラジカセ(僕んちにもあった)。
明るくて軽~いノリが良しとされた時代に、でもその空虚さにほんとは多くの若者たちが耐えていたのではないか。
会ったばかりの小林に「閉じ込められるのがイヤなんです」と言う理恵。
思春期の少年少女たちは閉塞感を打ち破るために時に羽目を外す。それがまったく許されない社会は怖い。だけど、越えてはならない一線というものもある。
木造の校舎がイイ味出していたなぁ。田舎、という設定だから街なかの様子はあまり映し出されていなかったけど、台風の描写が凝ってましたね。土砂降りの演出が迫力あった。外の木々も激しく揺れていて、ほんとの台風を撮っているような臨場感があって、それが生徒たちのあの狂乱を呼ぶ。まさに“台風”こそが真の主役だった。
相米慎二監督が亡くなって、はや22年。
『台風クラブ』以外の相米作品は僕はこれまでに『セーラー服と機関銃』『ションベン・ライダー』『東京上空いらっしゃいませ』『お引越し』あたりをTVでやってたのを(もしくはレンタルヴィデオで)なんとなく観たことがあるぐらいで強い思い入れもないし、この監督の映画の素晴らしさをちゃんと理解してるわけでもないんですが、あの当時「若者」だった人たちが今じゃ初老や50代ぐらいになっていて、そんな彼らが若かった時代にタイムスリップする楽しさを味わえるし、今の価値観でかつての映画を観ることでいろいろ気づくこともあるだろうし、最近80~90年代の映画がレストアされて再上映されることが多くなってきたので、自分にとって良さがよくわからなかったこの時代の映画を「再発見」する機会でもあるから、できればこれからもこういうリヴァイヴァル上映には足を運びたいと思っています。